ホリエアツシのロックン談義 第6回
:天竺鼠・川原克己とのトークショー
に潜入&テキスト化

ウエノコウジさんを迎えた第5回以来、1年以上の御無沙汰になっちゃいました。その間に武藤昭平さんが病気療養から復帰し、武藤ウエノの活動も再開して一安心したところで、第6回を迎えます『ホリエアツシのロックン談義』!!

今回のお相手はお笑い芸人・天竺鼠の川原克己さん。先月、下北沢の本屋B&Bにて、川原さん作の絵本『ららら』の刊行を記念したトークショーにご一緒させていただきました。題して、『笑いなし歌なしスペシャルらららトークショー』。
予てから、ミュージシャン以外の人にもここに登場してほしいと思っていて、川原さんとの談義の機会をずっと探っていたので、ここぞとばかり、当日のトークを文字起こししてもらいました。
もともと僕が天竺鼠の大ファンで、紹介で知り合うことができて、川原さんとはかれこれ6、7年の仲。"笑いなし"と題しながらも、僕は終始笑いっぱなしだったんですが、その雰囲気も伝われば幸いです。 ――ホリエアツシ

■普通は単独ライブやったら、テレビに向けてネタをやるとかあるんですけど。それが僕らは一切ない(川原)
川原:ホリエ氏とはもう何回も飲みに行ってて、ほとんどのライブにも来てくれてるんですよ。
ホリエ:つい最近、Facebook上の「何年前の今日です」っていうあれで、3年ぐらい前に天竺鼠が東京に出てきた初単独ライブに行ったっていうのが上がってきたんですよ。もう3年経つの!?と思って。
川原:3年経ちますよ、ほんまに。で、普段は一緒に飲みに行ってるんですけど、最近はなかったですもんね?
ホリエ:そうですね。バッタリ会ったりとかはありましたけど。三茶の居酒屋で、それぞれ全然違う現場の打ち上げみたいなので、奇跡的にバッタリ会って。
川原:そうそうそうそう。隣の個室で、「うるせえな」と思ってたんですよ。で、トイレ行くときに(ホリエが)おって、「お前かい!」って。お互い思ってましたもんね。
ホリエ:もんのすごくうるさかったですね、お互いね。
川原:普段からお笑いの話とか歌の話とか、ちょいちょいするんですけど、せっかくだから何か違う話をね。2人のときには聞かないけど、こういう場だから逆に聞けることもあるじゃないですか。なんやろな、MCとかでもしゃべらない話題のほうがいい。……(バンドの)ライブって、うるさいですよね?
ホリエ:はははは(笑)。
川原:「音、でけえなぁ」と、慣れてないから。僕らのネタって静かに入ったりするのが多くて、コントとかも「おい、変な奴来たで……」みたいな静かな入りで、どんどん上がっていく感じやけど、バンドのライブは最初から「行くぞー!!」って。
ホリエ:ドドタン、バッシャーン!!みたいなね。僕、お笑いのライブに関しては、天竺鼠のライブばっかり行ってるから、あんまり比較できなくて申し訳ないんですけど、他の、普通の奴がどういうものかあんまりわかってなくて。
川原:誰が普通じゃないねん!(笑)……まぁ確かに普通じゃないですよね。
ホリエ:こないだの単独の一個目のネタが、静かな波音が流れて、桟橋で川原さんが釣りしてて、相方の瀬下(豊)さんが出てきてその先に行こうとしたら「そこから先は釣れないよ」って言うっていう……そこまでは覚えてる。
川原:10分くらいするネタの最初のほうやん、それ。ボケでもないよ、別に(笑)。でも、そういうネタなんですよ。
ホリエ:それを、全く同じ感じで3回やりましたからね。
川原:10分のネタを3回連続でやる、っていうボケなんですよ。だからどんどん、一回目はウケるんですけど、同じネタやから2回目は「あれ?」って。(笑いが)減っていくけど、「どっかで変わるんやろうな」と思ってて、でも「あぁ、終わった……」みたいな。で、3回目に同じネタが始まったときにまず悲鳴から始まって、終わってからも悲鳴。このね、3回目が気持ちいいんですよ! やっぱりそれが、「お前は変だ」って言われるんやけど、自分では変だと思ってなかったんですよ。
ホリエ:ふふっ(笑)。
川原:やけど、あらためて思いました、あれで。普通は単独ライブやったら、テレビに向けて作ったネタをやるとかあるんですけど。それが僕らは一切ない。単独ライブでしか見られないネタをやりたいから。テレビで10分の同じネタを3回やらせてもらえるんだったらやりますけども、無理だから、単独でしかやれないじゃないですか。普通はああいう単独ライブでやったものをテレビに向けて仕上げていくみたいな作業らしいんですよ、他のプロの人たちは。
ホリエ:「他のプロの人たち」(笑)。
川原:やっぱり、プロはすごいなぁと。僕は遊んでるだけなので。それは完全に自分が気持ちいいだけの、オ◯ニーライブですよ、毎回。それを気持ちいいと思うお客さんもたまにいるんですけど、それはもうそっちの方が変態です。僕のオ◯ニー見て気持ちいいっていう人ですから(笑)。そういう方だけを集めたいから、ずっと続けてるだけです。オ◯ニーを。
それで「何だよこれ」「全然こっちに歩み寄らねえじゃねえか」っていう人はどんどん去っていくわけですよ。その削っていく作業ですよね。(去っていく人に対して)「あなたは間違ってないよ!」「だってお金払ってるんだもんね!」っていう(笑)。その作業なんです、僕は今。
ホリエ:最終的な目標はもう、1人とかの前で?
川原:そう! 最終的には、客席に1人残ったその1人にピンスポットを当てて、ステージは真っ暗でコントをやるっていう。それが人生の最終目的。それを「間違ってるよ」っていう人はいるんですけど、僕が気持ちいいんですから、間違ってないでしょ。
ホリエ:うん。
川原:たまにね、「芸人養成所の授業に行ってください」「後輩たちのネタを見て指導してください」とか言われるんですよ。で、行くんですけど、やっぱりみなさんはどうやったら売れるか、どうやったらテレビでネタを披露できるかとか聞くんですよ。いや、知らん知らんと(笑)。
ホリエ:ゴメンですよね。逆に、やってきたことを全部教えて、「これはやるな」って言うしかない。
川原:そう! 僕のライブを見に来い、これは間違ってる!って(笑)。でも、売れたくないとかじゃなくて、売れたらラッキーみたいなね。
ホリエ:面白くないことをやって売れても、しょうがないですもんね。
川原:そう。だからずっとクソガキで。しんどいのが嫌なんですよ。上の人、お偉いさんとしゃべるのもしんどいじゃないですか。
ホリエ:ああー。
川原:だからしゃべらないんですよ。でも、100人に1人くらいいるんです。しゃべらなくても仲良くなれる人が。友達とかでもそうで、ホリエさんとも、しんどくないから一緒にいるわけじゃないですか。
ホリエ:「楽しいから」とかじゃなくて、「しんどくないから」(笑)。
川原:いや、それはイコールですよ。一緒にいて「最近、ホリエさんに合う話題ないかな」とか考えなくてもいい。普通に飲んで、ぺちゃくちゃしゃべらずに、ボーっとしてるだけで。
ホリエ:うん。この日本酒うまいな、とかだけでもいいからね。
天竺鼠・川原克己 / ホリエアツシ 撮影=風間大洋
■「急になんやねん」っていう歌詞を書きたくなる(ホリエ)
川原:本、あんまり見ないでしょ?
ホリエ:あんまり見ないですね。
川原:ね。
ホリエ:……本、出したんじゃなかったでしたっけ(笑)。
川原:そう、絵本。どれが良かったですか?
ホリエ:それぞれなんですけど……僕、一個ツボに入っちゃうとそのまんま次の話も笑い続けてたりするから、結果的にどれが面白かったかな?みたいになって。
川原:ああ。僕の絵本が、17個くらいの話が入ってるんですよ。
ホリエ:表紙を見た感じ、めちゃくちゃ真面目な芸術的なところ、片岡鶴太郎さんみたいなところに行くのかな、この人は?と思って中を見たら、絵と内容が関係ないっていう(笑)。
川原:絵本、面白いですよ。僕は家に絵本が300冊くらいあるんです。1歳とか2歳とかに読み聞かせるような、擬音だけの絵本もいっぱいあるんですけど、本屋さんとかにそれを見に行っちゃうんですよ。この(見た目の)感じで1~2歳児用の絵本を見てニヤニヤしてるから、周りがめちゃくちゃ怖がる(笑)。
ホリエ:以前、一冊プレゼントしてもらいましたよね。『んぐまーま』っていう。
川原:『んぐまーま』、一番好きな絵本。めちゃめちゃ面白いんですよ、谷川俊太郎さんの本で。読んでいくとね、得体の知れないこの世のものでもない生き物が、擬音で「ざるじゃるぼろばら、ぞろろぱ」みたいな――
ホリエ:暗記してるやん(笑)。
川原:いや、適当に言ってるけど(笑)、そんなんが書いてあって、ページをめくったらその得体の知れないやつが歩いてて。その歩いてる音なのか、しゃべってるのか、ずっと擬音が書いてある。それがずっと続くんですよ。川を越えたりとか、たまに似たようなやつに出会ったりして。で、最後のページで山のてっぺんにそいつが登って一言、「んぐまーま!!」って言うんですよ。
ホリエ:(笑)。
川原:いや、ずるいずるい(笑)。その言葉が何か知りたくて読み始めたのに、得体の知れないやつが山登って「んぐまーま!!」って言うだけ。それが好きで、(ホリエと)会ったときにプレゼントして。
ホリエ:ああいう絵本が他にもいっぱいあるってことですか。
川原:いっぱいある。絵本は面白いですよ。
ホリエアツシ 撮影=風間大洋
ホリエ:川原さんのこの本も、なんというかこう、子供が思いつきで書いたノリみたいなの、ありますよね。歌詞もね、こういうのを見ると影響を受けたくなるんですよ。
川原:歌詞から書くの?
ホリエ:曲から書くんですよ。だから、歌詞は曲にはまるようにけっこう綺麗にまとめるほうで、ワケわからなくはならないっていうか。でも、こういうのを読んじゃうと、「急になんやねん」っていう歌詞を書きたくなる。
川原:「シーグラス」の歌詞は「なんやねん!」って思ったところ、ありましたよ?
ホリエ:ないでしょ(笑)。
川原:なんかあの、<破り捨てられた ノートの欠片を 集めて 青空に撒き散らした>……なんで撒き散らすねん、かき集めたのに!って(笑)。あれ、誰も突っ込まないんですか?
ホリエ:いや(笑)、なんか綺麗じゃないですか。紙吹雪みたいにしたっていうことで……この説明すると思ってなかったけど(笑)、なんか型にはまったことをノートに書いて、それを自分らしくない、「どうでもいいや」って破って撒き散らすっていう。
川原:そのあとまたかき集めるんか?って。
ホリエ:最終的にはまた集めるんでしょうね、掃除の係の人が(笑)。
川原:それを2番とか3番とかで歌詞にしてくれたらいいのに(笑)。でも曲から書くのはすごいなあ。
ホリエ:歌詞からも書いてみたいですけどね。たとえば、あいみょんさんの歌詞は、多分歌詞から書いてるのか、AメロBメロCメロみたいな流れを跨ぐんですよ。Bメロからそのままその世界観でサビに行ったりするので、かっこいいなと思う。新しいなって。
川原:それは出来ないものなんですか?
ホリエ:うん。方式的にはちょっとおかしいというか、普通はサビはサビで書くとかするんですけど。歌詞とか書いたりしないんですか。
川原:僕、一個歌を出してるんですよ。
ホリエ:あ、そうだ。
川原:「ポテンヒット」(THE川原&Runny Noize)っていう曲なんですけど、それは僕、歌詞から書きました。でも僕が好きな言葉を並べてるだけですけどね。<ゴリラだけ重力なくなったら 空がゴリラだらけになるのにな><死ぬまでにあと何本 ソーセージを食べなきゃいけないのだろう>とか。それをかっこいい感じ、腹立つ感じにして。
ホリエ:なんか青春の、尖った感じの曲ですよね。
川原:(食い気味に)違います!
ホリエ:はっはっはっは!
天竺鼠・川原克己 撮影=風間大洋
■やっぱり「意味がわかんない」とか反応もありましたけど、そういう人は二度と来ないでくださいって(川原)
川原:ホリエ氏は個展にも来てくれて。
ホリエ:そうそう。あのとき、入り口のところで「もう少しで川原さんが来るので、見ててください」って言われて普通に見てたら、お客さんから「ホリエさんですよね」って声をかけられて。……僕ずっと半笑いで見てたんですよ(笑)。
川原:そういう場所ですからね、別に間違ってないですよ。
ホリエ:でもすごい恥ずかしくて。さらにヘッドホンで聞くやつがあって――
川原:ああ、ボタン押したら声が聞こえてくるやつね。
ホリエ:お客さんから「聞きました?」って言われて……ああいう体験系のやつって一人だと恥ずかしいじゃないですか。それで「どうしようかな」って思ってたんだけど、「やってみてください」って言われて体験したあとに、ニヤニヤしながら「どうでした?」って。
川原:なんやねん(笑)。変なやつばっかりおるんですわ。いい意味でですよ?
ホリエ:みんな、変じゃないことを日常の、仕事とかでたぶんやっているから。
川原:そうそう。
ホリエ:あと、壁があって、そこを覗いたら中に人がいるんですよ。あれは後輩なんですか?
川原:あの人は面接して採用しました。
ホリエ:えー!
川原:でっかい箱があって、その四角に穴があって覗けるようになってるんですよ。その穴は4つともタイトルが違うんですけど、たとえば「元・野茂英雄」って書いてある穴を覗くと知らないおじさんが座ってるんですよ。で、もう一つの穴は「サバ定食アレルギー」とか書いてあるんです。見たら、またおじさんが。もちろん、中は一人のおじさんですから。4つともタイトルは違うけど、中は一人。4つとも覗いた?
ホリエ:4つともじゃないですけど、覗きました。
川原:4つとも覗けや!!(笑)
ホリエ:タイトルは見たけど、中は一緒でしょ?(笑) 僕が見たときはパン食ってました。
川原:そういうのも、非日常がいいなと思ったからで。やっぱり「意味がわかんない」とか反応もありましたけど、そういう人は二度と来ないでくださいって。だからその、削っていく作業ですよ。
ホリエ:今後はそういうのもよかったら。
川原:え! あの中に入ってくれんの!? それはええな、やりたい!
ホリエ:途中でしんどくなるかもしれないですけど、そのときは僕が代わりを用意しておくので(笑)。
天竺鼠・川原克己 / ホリエアツシ 撮影=風間大洋
■ちょっと見た目で得してる(川原)
ホリエ:普段、街中とかで「サインください」とか「写真撮ってください」とか頼まれたとき、どうしてます?
川原:書きますよ、全然。芸人さんって、いじられる芸人さんといじられない芸人さんがいるじゃないですか。千鳥やったらノブさんっていじられるキャラで、大悟さんはいじられない。街中でもそうで、僕はどっちかといえば大悟さんの側。いじられない方やから、ロケとかしてても、「おい、瀬下ぁ!! うえーい」とか言ってた怖そうな兄ちゃんが、僕が通ったら「あ、川原さん。……っす!」って敬語みたいになったり。ちょっと見た目で得してるというか。
ホリエ:瀬下さんも、まぁまぁ怖いですけどね?
川原:怖いんですけど、僕にはどう喋りかけていいかわからないのか――僕、なすび被って「眠たい」って泣くボケをしてるんですけど、それをね、「川原さん、あの……眠たいっすか!?」みたいに変な絡みをしてくる(笑)。
ホリエ:はははは!
川原:だから街中で「サインしろよ」みたいなのは無いんで、僕もしやすいんです。偉そうに言われたら「ごめんね」って断るんですけど、けっこうみんな優しく言ってくれるんで。
ホリエ:僕も「サインしろよ」みたいなのは無いです。写真はね、撮るときと撮らないときがあるんですけど、芸人さんって撮る人は必ず撮ってくれるじゃないですか。一回、ライブ終わって帰るときに、名古屋駅がすっごい人だかりで「なんだろう」と思ったら、女子たちがCOWCOWの善しさんにサインと写真を頼んで、ずっと足止めしてて。僕たちはちょっと早く着いたのでスタバでコーヒーとか買いながらずっと見てたけど、時間が来てもずっとやってるんですよ。「この人、何時の新幹線を取ったんだろう」と。
川原:ホンマやなぁ。
ホリエ:まさか取ってないんじゃないか?と思って(笑)。
川原:いや、新幹線で帰るやろ(笑)。自由席でもないやろうし、どうなんやろなあ。
ホリエ:それを見て「すごいな」と思ったんです。
川原:僕はこんな見た目やから、「あ、あの……サイン……」みたいに震えながら、「こ、怖い」とか言うて。「サインとか、ダメですよね?」みたいな聞き方で、「いや、別に全然いいですよ」って言ったら「うわ!優しい~!」と。
ホリエ:めっちゃ得してる、それ(笑)。たしかに、笑わないとすら思われてますもんね。ネタとか見てたら笑わないから。
川原:ああ、たしかに。当たり前やけど、仲いい人とは普通に笑いますけどね。仲よくない人の前で笑ったら……面倒臭いでしょ。
ホリエ:どういうこと(笑)。
川原:ちょいちょいしゃべってくるでしょ、また。愛想笑いとかしたら調子乗ってしゃべってくるから、しないです。
ホリエ:それが怖いんですよ。「面白くなかったら笑わないんだ、この人」って思ったら、話しかけるのすら怖いと思う。
川原:そんなことないんですけどね、本当は。面倒臭がり屋なだけ。でも、人とバンバンしゃべらないでしょ? けっこうしゃべる?
ホリエ:そうですね。僕、最初から笑ってますもん、だいたい。
川原:それはそれでなんか腹たつなぁ(笑)。
ホリエ:最初から、「そうっすね(笑)、あ、ビールください(笑)」みたいな。
川原:何わろてんねん!!
天竺鼠・川原克己 / ホリエアツシ 撮影=風間大洋
■やっぱり良いバンドは自然と世に広まっていく(ホリエ)
ホリエ:この間、トットっていう芸人さんがいるんですけど――
川原:ああ、後輩のね。
ホリエ:そう、大阪のポストよしもとっていう劇場のトークライブに呼ばれて行って、お互いの昔話を年表で振り返ってたときに、芸人って本当怖いなと思った。バンドももちろん厳しい世界だと思うし、僕らはすごくラッキーな方だと思うんですけど、(芸人は)養成所に入って、それまで高校生とかで人気者でバンバンウケてたのが……
川原:ああ、大概はクラスの人気者が芸人になろうと思いますからね。
ホリエ:自分が一番面白いと思ってた人たちが集まってきてて、そこで他の人のネタを見て笑ったら負け、ぐらいの、地獄みたいなところからのし上がっていくわけでしょ。
川原:それは一緒じゃないの?
ホリエ:さすがにバンド界では、カッコ悪いと思ったら関わらなければいいだけで。
川原:マイナスには見ないんだ。
ホリエ:そうそう。カッコ良かったら素直に褒めるし。バンドはライブができるようになれば、誰でもライブハウスには出られるじゃないですか。芸人はステージに立つまでがまず戦いですよね? まあ、ライブハウスにも格付けはあるから、僕らもオーディションに落ちたりはありましたけど。「どこに出していいかわからない」「アピールするところを見直してこい」みたいな。その時点ですでにめっちゃカッコいいと思ってるから、それはもうかなりショックでしたけどね。
川原:優等生ではなかったっていうことですよね、優等生っぽいけど。そういうオーディションとかで上から好かれそうな感じやけど。だって変な歌は歌ってないじゃないですか。
ホリエ:変な歌は歌ってないですけど、やっぱりヘソ曲がりだったので。
川原:それが音楽に出てたってこと?
ホリエ:音楽にも出てたし、態度にも出てたと思うんですよね。「良い」って言ってくれる人には「嬉しいです」って言うけど、別に一緒に対バンしたからといって、全然違う、関わらなくていいかなってバンドには、取り立てて愛想がいいわけでもなかったし。あと、芸人は偉い人からけちょんけちょんに言われたりもするじゃないですか。
川原:なんで偉そうにするんですかねぇ? 僕はこういう性格なんで、本当に言っちゃうんですよ。オーディションで喧嘩しちゃうんです。だからね、テレビとか全然呼ばれない。ネタをやって、「ここだけちょっとテレビっぽく変えてくれ」って言われるんですよ。そこで「はい」とだけ言えばいいんですけど、「なんでですか」って言っちゃうんですよね。「面白くないですけど、それ」「それだったら(出なくても)大丈夫です」って。
ホリエ:面白くない人から言われても聞けないっていう。
川原:それはね、後輩に悪い見本として僕が教えていかなきゃいけないんです。
ホリエ:バンドだと、否定されるとしたら「お前たちのやってることは分からない」とか言われたり――
川原:え、そんなんあるんですか、音楽で。「なんだ、あの四分音符の使い方は!」とか、「なんで掻き集めたものをまき散らしてんだ」とか?
ホリエ:そこはないですけど(笑)。
川原:音楽に関しては出来上がってる物じゃないですか。大変だと思うのは、作った1年後とかに「やっぱりこっちの歌詞の方が良かったな」って思っても、変えられないじゃないですか。僕らのネタなんかは(形が)決まってないから、1年前のネタやってくださいっていう仕事が来て、自分で見たときに「ここ、なんか嫌やな」と思ったところは変えられるわけで。
ホリエ:作品的には変えられないですけど、ライブで変えたりすることはあります。変えた方が説得力が増すなって思うときは。My Hair Is Badっていう後輩のバンドは、ライブの大事な場面で演る曲で、ほぼフリースタイルみたいな曲があって、その日その時に思いついたことをブワーって吐き出すように歌う。結果めっちゃ良い時もあるし、何言ってんだろ?(笑)って時もある。
川原:そうか、音楽でもあるんですね。養成所にいたときはオーディションみたいなのもあったんですけど、一回も受かったことないです。ピラミッドみたいな、1軍、2軍、3軍があって、その3軍に入るためのオーディション。そこでずっと受からなくて……それ、ネタが終わった後に審査員のダメ出しを聞きに行かなきゃいけなかったんですよ。そこに僕、一回も行かなかったんです。だから次もまた落とされる。「その仕組みなんなん!?」って言ってたんですよ。
ホリエ:面白くなかったからじゃなくてね。
川原:そう。だから、行ったやつが受かってるんですよ。「これが世の中の仕組みや」ぐらいの感じでいたから、それはちょっとおもんないなと。で、落ち続けてたときに、笑い飯さんと千鳥さんに引っ張ってもらったんですよ。「おもろいのに、オーディション受かってないな」って。笑い飯さんも千鳥さんも、そういうところと戦ってたから、「俺らのライブに呼ぶわ」って呼んでくれて、笑いに肥えてるお客さんやからワーッとウケるんですよ。そしたらそこの支配人とかが「じゃあ、はい、あの……上げます」みたいな(笑)。
ホリエ:そうなんですね。音楽はまだ、そうやって言われたとしてもお客さんがいるから、そこでちゃんと見てくれるというか。しかも小っちゃいライブハウスまで観にくるような人たちって相当音楽が好きだから、早いうちから目をつけてやろうっていうのもどこかにあるだろうし。ってなると、やっぱり良いバンドは自然と世に広まっていくので。そういう部分ではお笑いの方が厳しいのかなって。
天竺鼠・川原克己 / ホリエアツシ 撮影=風間大洋
■カッコいいかカッコよくないか、面白いか面白くないかっていうことよりも、「好きか好きじゃないか」なんだ(ホリエ)
川原:思うのが、子供ができたとして、もし子供が「お笑いやる」って言い出したときには、どう言ってあげたら良いのか。……「売れるためにやるのか」っていうことはまず、言いますよね。売れるためだったら、お父さんには何も聞くなよって。面白いことやりたいんなら言うけど。
ホリエ:そういうお父さんの背中をずっと見て学んで育った子供が、本当に売れるためのお笑いをできるとは思えないですよね?
川原:でもね、反面教師っていうか、「お父さんみたいにワケわからないなすびとか被らない!」みたいな。「意味がないとダメです」って子供に説教されたりとか(笑)。
ホリエ:ああ~、今だと結構、意味を求められるかもしれないですね。
川原:そういう意味がないのが面白いんですけどね。今はお客さんとか視聴者とかも、自分が理解できなかったからって「理解できなかった、何なんだアレは!」っていう、苦情としてSNSとかテレビ局に行くから。そうなるとテレビ局も自粛して、みなさんの脳みそが分かるやつをしましょう、みたいな。昔はそんなことじゃなかったじゃないですか。
ホリエ:そうそうそうそう。
川原:昔、(ビート)たけしさんが、24時間テレビだったかな。その中で長い時間かけて東京から北海道かどこかまで行くんですよ。エンディングでやっと中継が繋がったら草原みたいなところにいて、「なんで北海道いんの?」みたいになって、で、落とし穴にバーンて落ちるんですよ。それで終わりなんです。最高じゃないですか? 意味なんて無いんです。俺もう、腹抱えて笑いましたよ、「何にお金かけてんねん」って(笑)。あれに「何の意味があるの」って言い出したら、ね?
ホリエ:そうですよね。たけし軍団とかめちゃくちゃでしたもんね。
川原:熱湯風呂とかね。なんであんなにアッツイのに入らなあかんのかっていう苦情とか、昔はなかったと思うんです。今だったら多分「水の無駄だ」とかなりますよ。だから大変です。それは全部の職業に当てはまるのかもしれないけどね。
天竺鼠・川原克己 / ホリエアツシ 撮影=風間大洋
川原:あとは子供が「やりたい」って、YouTuberとかも多いらしいね。
ホリエ:YouTuberはお笑いにとってはヤバイんじゃないですか、編集とかでなんでもできちゃうから。ミュージシャンも結構ヤバイけど。
川原:うーん……どうなんですかね。でも全然違いますやん。
ホリエ:面白い人は面白いんでしょうけど――
川原:まあ、それは別に好きか嫌いかですから。食べ物と一緒で。たとえばセロリって嫌いな人もいっぱいいるじゃないですか。でも「セロリは美味しくない」「セロリ不味いよね」って言われても、僕は実際好きやから、「いや、不味いとかじゃなくて嫌いなだけやん」って言うんです。それと同じで、「天竺鼠は面白くない」って言われることもあるけど、面白くないとかじゃない。あなたが嫌いなだけ、セロリと一緒で。
ホリエ:そう! それは本当に声を大にして言いたいですね。ストレイテナーの音楽も、カッコいいんですよ。カッコいいんですけど、それを好きか嫌いかっていうのは人それぞれ。ここにいる皆さんも「ストレイテナーってカッコいいんだよ」って友達とかに教えたところで、ピンと来ないっていうこともたくさんあると思うんですよ。それはカッコ良くないんじゃなくて、その人の好みじゃなかっただけ。
川原:いや、声の大きさ普通やん(笑)。だからYouTuberだって、それで笑顔になって幸せになってる人が死ぬほどいるわけですから、いいんですよ。
ホリエ:そこに落ち着いたら、少し気持ちは楽になりますよね。カッコいいかカッコよくないか、面白いか面白くないかっていうことよりも、「好きか好きじゃないか」なんだなって思えば、「ああ、自分はカッコいいと思うことだけをやっていこう」って思うじゃないですか。
川原:ああ、自分がね。「まわりにカッコいいと思われたい人」は、「売れたい人」じゃないですか。そうなるともうやり方が変わってくる。それは全然違う山なんですけど、お笑い芸人っていう一つのジャンル、歌手っていう一つのジャンルで語られてて。でも、結局はその人に刺さるか刺さらないかだから、好きな人は自信を持って「ストレイテナーはカッコいい」って言えば良いし、っていうことですね。
ホリエ:そうですね、「ナイス音楽」って言えばいい。
川原:それ(笑)、一番最初にライブに行かせてもらって楽屋挨拶で初めてお会いするとき、僕はもう率直に「ナイス音楽!」って言ったんですよ。その言い方で(ホリエが)「は?」ってなったら、それはそれで縁が終わったと思うんですけど、「ナイス音楽って(笑)」「一生懸命やったのに(笑)」みたいな感じだったから、そこから「居心地いいな」って仲良くなって。
ホリエ:「ナイス音楽」って……ねえ? 「広っ」っていう(笑)。
川原:細かいことは分からないですから。
ホリエ:でもCD屋さんに行って、「ナイス音楽」っていう棚があったら、やっぱり良いですよね。
川原:ジャンル関係なくね。
ホリエ:ショパンとかと一緒に並びたいですもん。
川原:ああ……いや、その棚からハミ出てる音楽、何やねん!(笑)

取材・文・撮影=風間大洋
取材協力:本屋 B&B ■東京都世田谷区北沢2-5-2 BIG BEN B1F
『笑いなし歌なしスペシャルらららトークショー』 撮影=風間大洋

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