矢野顕子、藤巻亮太からサム・ムーア
まで。<SRP presents EAST MEETS W
EST 2019>国境を超える名演

国境やジャンルを超えたミュージシャン達が集う<SRP presents EAST MEETS WEST 2019>が、東京国際フォーラムにて開催された。以下レポートをお届けしよう。
東洋と西洋の音楽観がぶつかり合う行為が、こんなにも愉快で刺激的なことだとは。日本と米国のミュージシャンがガッチリと手を組み、数々のセッションを積み重ねながら次なる時代に必要とされる新たな音楽の形を探ろうとする意欲的なライヴ・イヴェント<SRP presents EAST MEETS WEST 2019>が4月26日から4月28日にかけて計4公演開催された。
▲ウィル・リー

ミュージック・ディレクターの欄にウィル・リーの名前を発見し、あなたもきっとニヤリとしてしまったに違いない。これまでに30回以上の来日経験があり、山下達郎SMAPなど数々の日本人アーティストとの共演経験を持つこの親日家ベーシスト。長きにわたってさまざまな分野で多彩な活躍を続けてきた彼こそ、ジャズやソウルやJ-POPといったジャンルの壁を超えた音楽の祭典を取り仕切るリーダーとして適任だと言えよう。そんな彼がバンマスを務める一流揃いのハウス・バンドの演奏がとにかく素晴らしかった。ファンキーなアップ・チューンからムーディーなジャズ・ナンバーまでどんなものでもお手のもの、といった感じの柔軟性と自由度の高いプレイは愉快で刺激的な感覚に溢れていて、新しい音楽地図のイメージを喚起する手助けをしてくれたのである。そんな腕利きたちの中心で、66歳とは思えないような若々しくて躍動的なパフォーマンスを披露し、つねに全力で音楽少年だったウィル・リーがまぶしすぎた。いまも目を閉じると、ウィルがベースを抱えて、ステージ上を飛び跳ねる姿が浮かんでくるほどだ。
▲桑原あい

計4回のステージは名場面の連続だったが、なかでも日夜ワールドワイドな活躍を展開する矢野顕子のライヴは華やかさやスペクタクル性において抜きんでたものがあった。有楽町の街がゴジラとモスラの大暴れで恐怖のどん底に!といった驚愕の展開に集まった観客たちは大きな悲鳴をあげたもの。もうひとりの日本代表である藤巻亮太も彼史上もっともゴージャスといえるバッキングを得て、大いに躍動。いつも以上に骨太なパフォーマンスを披露していたのが印象深い。そしてハウス・バンドの一員として八面六臂の活躍を繰り広げた、ジャズ・ピアニストの桑原あい。今回のプロジェクトに参加できたことに感謝の言葉を述べながら感極まってコンタクトが外れるというアクシデントにもめげず、爆発的なパワーを発揮した彼女に大きな拍手が送られた。
▲ランディ・ブレッカー
▲マイク・スターン
▲臼井ミトン

本イヴェントは出演者のラインナップからジャズ・ファンに大いにアピールする内容でもあったのだが、そんな彼らにとってたまらない回となったのが2日目のセカンド・ステージだろう。ここには、ランディ・ブレッカーやマイク・スターン、日野皓正に渡辺香津美といったそうそうたるジャズ・ジャイアンツが集結。火花が散るようなセッションを繰り広げ、血沸き肉躍るようなフリーダム・ジャズ・ダンスをみせてくれたわけだが、いずれの名人たちもジャズと共にいまもなお進化をし続ける姿を見せてくれたことに何よりも感動をおぼえたのである(そんななかアーシーかつブルージーなサウンドを武器に熱いライヴを披露したシンガー・ソングライター臼井ミトンのことも忘れられない)。
▲サム・ムーア

というような名演続きのなか、オーディエンスの心をすべてかっさらっていったのが、ソウル・レジェンド、サム・ムーアだ。かつてソウル・デュオ、サム&デイヴで一世を風靡した彼も御年84歳。椅子に腰かけてのパフォーマンスとなったが年齢なんてなんのその。そんじょそこらの歌手が束になってかかっても敵わないであろう圧倒的な声量で会場を包み込み、熱い煽りでもって全員を総立ちにさせてみせた。特にエモーショナルなパフォーマンスだったのは、ジョン・レノンのカヴァー“Imagine”。まるでゴスペル・ソングのような荘厳な雰囲気を醸すこの曲は、新時代への静かなファンファーレのように響いた。

最後に、最終公演開始前の会場でサム・ムーアに少しだけ話を聞けたので、ここに掲載したい。
▲サム・ムーア

■サム・ムーア インタビュー

──“I Thank You”から“Soul Man”に続くメドレーにはもう心躍りまくりでした。イヴェント全公演を観ていますが、クライマックスといえるような盛り上がりをみせていました。

「ほんとかい?それは嬉しいね」

──歌声のとてつもないパワーはいったいどこから湧いてくるのでしょうか。

「この歌声は神からの贈り物さ。持って生まれたものだから、大事にしているよ」

──東西の文化の融合をめざし、アメリカをはじめとする海外のミュージシャンと日本のミュージシャンがジャム・セッションを行うこのイヴェントの趣旨について、どう感じていますか?

「こういう形のイヴェントに参加するのは初めてだが、素晴らしいと思うよ。1回目にしては上出来の内容じゃないかな。もっと早く実現していたら、レイ・チャールズやジェイムス・ブラウンなども参加したがっただろうに。もうみんなが亡くなってしまったからなぁ……。私がサム&デイヴとしてはじめて日本に来たのは1969年。あの頃と比べると、日本もだいぶ様変りしたものだよ」

──いまはもういなくなってしまったあなたの大切な人のひとりに、忌野清志郎がいますね。彼はあなたと日本を結ぶ架け橋の役割を担っていたように思います。彼がこの世を去ってからもうすぐ10年。あなたがステージで歌う“That Lucky Old Sun”を聴きながら、在りし日の彼の姿をぼんやり思い浮かべていました。清志郎さんはサム&デイヴのヴァージョンによる“That Lucky Old Sun”をレパートリーにされていましたから。

「そうだな……初めて会ったのは清志郎がまだ少年だった頃さ。サム&デイヴのコンサートのときに彼が訪ねてきて、〈サムさ~ん、いっしょについていっていいかい?〉って言うんだ。〈なんだって?ムリだよムリ!〉って追い払おうとしたんだが、ズカズカとバスに乗り込んできちゃってね。それからコンサートが終わってからもホテルの部屋までついて来て、ソファーでスヤスヤ寝ちゃってさ、ハハハ。その後、再会したのは彼がRCサクセションをやっていた頃だ。私とチャック・ベリーとRCサクセションの3組がいっしょにコンサートをやったんだが、ショーのあとで〈サムさ~ん!〉と手を振りながら私を呼ぶ男がいる。RCサクセションのヴォーカルだった清志郎さ。彼は日本語で必死に何かを伝えようとしているんだが、誰なのか一向に思い出せない。〈どこで会ったっけ?〉って尋ねると、〈僕のことおぼえてないの?〉って言うんだ。よ~く顔を見てやっと思い出したよ、〈あゝあのときの少年か!〉って。ビックリしたね。あの子があんな素晴らしいバンドを率いるまでに成長していたなんて。その後は日本に来るたび会うようになるんだが、あるとき彼は病気になってしまい、入院して言葉も喋れないほどの状態になっていたにも関わらず、私のライヴに飛び入りしてくれて……あのときのことを思い出すと、いまでも感情が高ぶってしまうよ(と言いながら、手で涙を拭う)。彼のことは血を分けたわが子だと思っている」

──セットリストは誰が決めたのですか?

「妻だよ。実をいうと、私は来日少し前に腰を悪くしてね。治療をしていたものだから行けないかもしれないと思ってたんだが、どうしても行くべきだと妻が尻を叩いてくれてね。〈あなたは何としても日本に行って、“That Lucky Old Sun”だけでも歌わなきゃいけない。あなたの息子のためにも〉と説得されたんだよ」

──そうだったんですか。ところでミュージック・ディレクターとしてのウィル・リーの仕事ぶりはどうですか?

「素晴らしいね。『デヴィッド・レターマン・ショー』でベースを弾いている彼を知っていたからプレイヤーとして一流だってことはもちろんわかっていたけれども、こんなに才能豊かなミュージシャンだったとはね。個性豊かなミュージシャンをきちっとオーガナイズし、最高のショウを作り上げてくれたよ」

──これからも長く歌い続けていかれると思いますが、これからやりたいことなどを教えてください。

「すぐにでもゴスペル・アルバムを作りたいと思っている。それから帰ったらすぐにロスに向かい、グラミー賞の特別功労賞を受け取ることになっているんだ。たくさんの素晴らしいミュージシャンに与えられている名誉ある賞だからね。大変光栄なことなのですごく喜んでいるよ」

取材・文◎桑原シロー
写真:(c)Ryo Higuchi

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