美濃部孝蔵役の森山未來

美濃部孝蔵役の森山未來

「孝蔵のパートは『志ん生が落語を語
っているかのように、ポップに』と監
督たちと話し合いました」森山未來(
美濃部孝蔵)【「いだてん~東京オリ
ムピック噺(ばなし)~」インタビュ
ー】

 ストックホルムオリンピックでの敗北を糧に、金栗四三(中村勘九郎)はマラソンの強化に向けて動き始める。一方、四三と同じ時代を生きる人物として狂言回し的に登場するのが、後の“落語の神様”古今亭志ん生こと美濃部孝蔵だ。酒に酔って初高座に上がり、大失敗した揚げ句、修行に出た旅先で無銭飲食をして警察に捕まるなど、その波瀾(はらん)万丈な生きざまも物語の見どころとなっている。そんな孝蔵を躍動感たっぷりに演じる森山未來が、熱演の裏に込められた思いを語ってくれた。
-第16回で孝蔵は、旅先の牢獄で師匠・橘家円喬の死を知ることになりました。円喬役の松尾スズキさんと共演した感想は?
 正直、緊張しました。松尾さんは素晴らしい作家であり、演出家であり、役者です。一見、高圧的な雰囲気はないものの、近寄りがたさを感じる部分もある。その一方で、愛情ある一面も持っている。円喬と孝蔵の関係性にとっては、それが非常によかったな…と。だから、円喬の死を知るシーンでは、自然に松尾さんのことが思い浮かび、心の中に温かいものがスッと入ってきました。
-後に“落語の神様”古今亭志ん生となる孝蔵を演じるお気持ちは?
 志ん生は、ラジオやレコードの音源、テレビの映像などもある程度残っています。ただ、それは全て60~70代ぐらいに差し掛かった戦後の姿。戦前の様子については、よく分かっていません。自分で語った話もあるにはあるのですが、はなし家なので話が盛られているんです(笑)。例えば、改名の回数はそのときによってまちまちだし、自分の生まれた年もまちまち。「円喬に弟子入りした」というのも、本人が言っているだけで、実は違うのではないか、という話もあるぐらいで…(笑)。そんな状況なので、本人の話と戦前の姿を知る人の言葉から推測するしかない。だから、半分は架空の人物、半分は史実にある人物を演じているような感覚です。
-金栗四三や田畑政治という主人公がいる中で、孝蔵の役割をどのように捉えていますか。
 金栗四三と田畑政治(阿部サダヲ)という2人の主人公がいて、同時代の生き証人として狂言回し的なポジションを与えられているのが孝蔵。全体を俯瞰して見るナレーションの役割もありますが、軸となる物語を背負っているわけではありません。そういう意味では、孝蔵を巡るエピソードの面白さに乗っかっていけばいいのかな…と思いながら演じています。
-孝蔵を巡るハチャメチャなエピソードには、毎回笑ってしまいます。
 ただ、面白いと言っても、それは志ん生の口を通して語られるから面白く聞こえるだけで、実際はものすごく凄惨(せいさん)なひどい人生だったのではないかと思うんです。とはいえ、この物語の中で、孝蔵の存在は一つのアクセントになっています。そういう意味では、孝蔵のパートをリアルにやってしまうと、その役割が果たせません。だから、「志ん生が落語を語っているかのように、ポップにしたほうがいい」ということは、最初に監督たちとも話し合いました。
-志ん生となった後年の孝蔵を演じるビートたけしさんの印象は?
 撮影ではなかなか接点がありませんが、初めてご一緒させてもらったとき、とても気軽に接してくださいました。最初は物静かな印象でしたが、話し始めたら落語が大好きらしく、「古今亭の温かい雰囲気がいいよね」などと話をしてくれました。高座に上がる場面も見学させていただきましたが、客席のエキストラの方たちだけを撮る場合でも、そのためだけに小ばなしを披露するんです。自分は一切映らないのに。それを見て、これこそ本当の芸人だな…と。僕の場合、自分がやらなければいけない部分を覚えるのに精いっぱいで、とてもそんな余裕はありませんから。
-この作品には、演出家として森山さんの主演作「モテキ」(10)の大根仁監督が参加されています。その最初のきっかけは、森山さんが大根さんとチーフディレクターの井上剛さんを引き合わせたことだそうですが…。
 阪神淡路大震災を題材にした「未来は今 ~10years old, 14years after~」(09)や「その街の子ども」(10)を作った井上さんと「モテキ」の大根さん、この2人との出会いは、僕の映像に関わる人生の中でとても大きなものです。いずれも一緒に作ったという手応えのある作品で、2人をとても信頼しています。さらに当時、大根さんがブログで井上さんの作品を高く評価していたので、「この2人なら合うはず」と思って、僕が「3人で食事をしましょう」と誘いました。
-それが年月を経て今回の出演につながったことになりますが、オファーを受けたときの感想は?
 ある日突然、井上さんと大根さんに呼び出されたんです。そこで、大根さんがNHKで大河ドラマのディレクターをやると聞いて驚き、さらにチーフディレクターは井上さんだと。実は、大河ドラマは撮影期間が長いことなどもあり、今まで避けてきたところがありました。でも今回は、この2人から「やらないか」と誘われた以上、断るわけにはいかないな…と。その時点で「やるしかない」と覚悟を決めました(笑)。
-ところで、志ん生といえば、見どころはやはり落語ですが…。
 先ほども言ったように、志ん生の映像は晩年のものが幾つか残っている程度で、戦前の評価は人によってまちまちです。「よかった」と言う人もいれば、「うまいけど、面白くない」と言う人もいる。真逆のカチッとした落語で同時代に人気を集めた桂文楽との対比で「文楽の落語は楷書、志ん生は草書」とも言われていました。でも本来、志ん生が憧れていたのは草書ではなく、文楽や師匠の円喬のような楷書の落語。そういうことまで考え合わせると、これからどう演じていけばいいのか、悩んでいるところです。今演じている若い頃は、下手でもまだ許されますが、年を経るごとにうまくなっていかなければいけませんから(笑)。
(取材・文/井上健一)

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