銀座九劇アカデミア、蓬莱竜太ワーク
ショップを振り返る!

レプロエンタテインメントが運営する劇場、浅草九劇では、昨年に「うずフェス2018」が、今年は劇場オープン2周年を記念して「うずフェス(仮)」が開催された。映画、演劇、音楽などジャンルレスのイベントが繰り広げられ、浅草九劇の存在感はエンターテインメント界に新風を巻き起こしている。浅草九劇とはまた異なるスタンスで、俳優たちの学びの場として機能するのが銀座九劇アカデミアだ。5月にはONEOR8田村孝裕がワークショップ『普段通りの稽古』を開催するなど、意欲的な企画が並ぶ。本稿では、昨年秋におこなわれた蓬莱竜太による『出会うこと、共に創る演劇、いつか劇場で』を振り返る。2019年の銀座九劇アカデミアをウォッチするうえでも、非常に高い成果を感じるワークショップであった。
◆自己紹介という名のワークショップ
昨年敢行されたモダンスイマーズ・蓬莱竜太のワークショップ『出会うこと、共に創る演劇、いつか劇場で』は、予想以上に応募が殺到し、8クラスの編成となった。筆者が訪れたのは、11月3日から25日までの土曜夜のクラス(通称・土2)だった。役者との出会いをメインテーマとした蓬莱は「自分だけの想像の範囲では考えてもみなかったような世界を作れることも、役者との出会いで生まれます。さらにそれを劇団に還元していくこともできる。出会いによって関わった人たちと触れ合っていると、必ず何かが動くんです」と語っていたように、初日では蓬莱による自己紹介、そして参加者全員がひとりずつ自身の経歴やプライベートについて語っていく。約20名の参加者からみっちりと話を聞き、全員が情報を共有する。
「自己紹介という名のワークショップなんです」
と、蓬莱は言う。演技経験の浅い人もいれば、小劇場で活躍する役者もいる。来歴もさまざまだ。「役者たちとの出会い」を主眼とした本企画は、各クラスのグループLINEがつくられ、それぞれワークショップが終わってからも情報交換できるというもの。
「みんな末永い付き合いをしてほしいから、各クラス単位で、LINEでつながってもらうことにしました。もちろん僕も加わります。ワークショップ終了後、彼らが中心となって芝居が出来上がることがあってもいい。なにより他の俳優に関心をもつことが、芝居の現場で求められると思います」(蓬莱)
◆役者がそこにいる根拠
4回にわたっておこわなれたワークショップの後半戦は、エチュードやテキストをもとにした演技の実践だった。4チームに分かれ、グループごとに短いシーンを作り上げる。参加者それぞれが、「自分の人生で印象に残っていること」をホワイドボードに記入していく。「鳥のランチ」「夜逃げ」「言い訳」「運動会の朝」といった言葉が並び、そんなタイトルをもとにそれぞれのチームが芝居をつくる。
各チームに蓬莱がコメントする。それぞれの設定、人間関係において生じた矛盾について指摘する。もちろん、短時間でシーンを作り上げるのだから、設定上の不備があるのは致し方ないことだ。それよりも蓬莱が強調していたのは、「失敗したことや足りていないことが見えてくるのがいいエチュード」だということだった。
「(そこにいるという)根拠があると、役者は舞台上で自由にいられると思います。それは、役の状態でいられるということでもある。逆に、根拠がないままそこにいると、役者は迷う。そういう失敗に気付けるかどうかが、エチュードでは大切です」(蓬莱)
最終日は、『嗚呼いま、だから愛』のテキストを使ってグループごとに演じた。本作は2016年と2018年に上演されたモダンスイマーズの人気作。漫画家の多喜子とその夫のあいだで生じるセックスレスを描き、編集者やアシスタントの存在も色濃く関係する群像劇だ。その一部のシーンを演じ、さながら本番前の稽古場に芝居を作り上げていく。
やはり、ここでも強調されたのが、「役者がそこにいる根拠」だった。参加者に対する蓬莱のこんな言葉が印象的だ。
「『台詞として書いてあるから言う』というのが動機だと、段取り芝居になるんだよね。相手の台詞を聞いている時間、相手の芝居を受けている時間が大事だと思う」
◆本人の気づいていない才能が開花する
ワークショップにはさまざまな人たちが参加していた。過去に蓬莱作品の舞台を手伝ったことがあるという参加者はこう話してくれた。
「高校生のときに蓬莱さんの作品を初めて観て、『いつかこの人の舞台に立ちたい』と思っていました。もともとネガティブな性格だったのもあって、自分を変えたいと思って広島から参加しました。実際にやってみて、本当に活躍している俳優さんも多くて刺激になりました」(参加者の日山彩さん)
終了直後、蓬莱にコメントをもらう時間が取れた。
――本企画を振り返ると?
参加者それぞれから、いろんなものを吸収したいという熱を感じることができました。その熱に見合うものを、僕は彼らに渡せたのかという不安もあります。各々、演劇をやる目的は違うでしょうけど、それに対応するマルチな言葉はなくて、「これさえやっておけば大丈夫」というものがないことを実感しましたね。少しでも持って帰るものがあればうれしいです。
何かをしてあげるというより、僕自身のほうが、得るものが多かったと思います。いろんな才能に出会えたし、彼らがまさにいろんな演劇を見つけようとしている。そういう出会いの収穫がありました。
――LINEでつながることで、参加者たちがカンパニーを立ち上げる可能性もありますね。
それは大いにやってほしいですね。お互いの情報を出し合う時代ですし、演劇をやる場がないと嘆いている若い人には、こういうLINEのようなつながり方も、喜ぶべき流れかもしれません。
――これまでは、あまりエチュードをしないということでしたが。
役者がふわっとした気持ちになる瞬間があって、それを検証するためにエチュードは有効だと思いました。台本があると、役者がふわっとしていても台詞を追うことで問題なく進んでしまって、検証を怠るということが現場では起きるので……。今回、エチュードの意味をすごく感じたし、今後の取り込み方にも影響すると思います。
――他の劇団に所属する参加者も多数いました。自分の居場所とは違う刺激を求めていた人も多かったのでは?
それを与えられたのならうれしいですけどね。ただ、各々の才能が、今回僕と関わったことで、本人の気づいていない部分が開花していけばいいなと思いました。また役者たちとの出会いを得て、新たな才能を探すことが僕の演劇をやるひとつの大きなモチベーションになっています。
撮影・取材・文/田中大介

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