特別対談 / コムアイ × オオルタイ
チ 水曜日のカンパネラ・コムアイ ×
オオルタイチが語る「屋久島と取っ
組み合った」EP制作秘話

SEKAI NO OWARIがマーベル・コミックとのコラボを発表して話題を呼んだ「YouTube Originals」のシリーズ企画『Re:SET』。その第2弾アーティストとなった水曜日のカンパネラがコラボ相手に選んだのは、企業でも個人でもなく「屋久島」だった。
4月3日(水)にリリースしたデジタルEP『YAKUSHIMA TREASURE』には、『Re:SET』に採用された楽曲「屋久の日月節」(やくのじつげつぶし)をはじめとして、屋久島でフィールド・レコーディングした音を素材にして制作された楽曲が6曲収録されている。
そうした特異な経緯から生まれた神秘的で掴みどころのない作品群について、タッグを組んで楽曲を制作したコムアイ・オオルタイチ両人にインタビューを敢行。EP完成までの道のりを語ってもらった。
Interview & Text by Yugo Hiragino
Photo by Shintaro Nakamura
「山や島と取っ組み合ってほしい」
――今回のEPは、YouTubeが主導するミュージシャンと別カテゴリの何かとのコラボ映像を公開するプロジェクト、『YouTube Originals Re:SET』の第2弾としてスタートしたんですよね。
コムアイ:はい。最初に提出したものも私たちの中では手応えがあったというか、これが世に出たらどうなっちゃうんだろうと胸が躍るようなものだったんですが、案の定通らなくて(笑)。実際に採用された『屋久の日月節』は2案目なんです。ただ、そうやって別案を作ったりする過程で自然とやりたいことがどんどん溢れていって、EPにした方がいいんじゃないかってなって。
――その1案目は今回のEPに収録されていますか?
コムアイ:1曲目の『地下の祭儀』がそれなんです。
――『Re:SET』の第1弾はSEKAI NO OWARIとマーベル・コミックスのコラボでした。次はどんな企業か、それとも個人のクリエイターか……といったところで、まさかの屋久島に度肝を抜かれました。なぜ屋久島を選んだんでしょう。
コムアイ:MV制作をお願いした鎌谷(聡次郎)さんの思いつきなんです。誰か/何かとコラボするとなった時に、会社や人ではなく「コムアイちゃんには、山や島と取っ組み合ってほしい」って言ってくれて。それを受けていくつかの候補の中から屋久島を選びました。屋久島だったのはなんとなくですね(笑)。「屋久島に呼ばれた」とかってことではなくて。いつか行ってみたいと思っていた場所でもあったので、そういう縁は自分で手繰り寄せないとなっていう気持ちもありました。
――鎌谷さん、オオルさんという今回の制作メンバーのお2人とは過去にも個々にタッグ組んでいますよね。今回初めて3人揃っての制作になった。
コムアイ:私は元々鎌谷さんとタイチさんのコラボが大好きだったので、その輪に入れてもらおうって感覚でした。それともう1人、フィールド・レコーディングを担当してくれた東くん(東岳志)という人がいて、彼とタイチさんと私でフィールド・レコーディングを進めました。東くんは元々友達だったんですけど、お仕事を一緒にするのは初めてでした。
――オオルさんも東さんと組んだのは今回が初めて?
オオル:僕はありますね。以前にもフィールド・レコーディングを手伝ってもらいました。それより前から僕も普通に友達でもあります。
コムアイ:東くん、カレー屋さんなんですよ。京都で 「山食音」(https://tabelog.com/kyoto/A2601/A260302/26028632/) っていうお店をやっていて。あと、山登りの道具を売る仕事もしています。フィールド・レコーディングもカレー屋さんも山登りの道具屋さんも、全部本業なんです。
オオル:とにかく機材は東くんがめちゃめちゃいいものを用意してくれたんですよ。絶対雨に濡れたらあかん高価なマイクとか。耳が敏感な人なので、彼に自由に録っていってもらいましたね。
フィールド・レコーディングのキーになった“カエルのボイパ”
――音の最終の様子を詳しく伺いたいです。
コムアイ:なんだろう、例えばふたりは濡れた砂利を河原に投げつけてジャッ、ジャッて音を作ってたりしました。浜で石を拾う時、私は見た目がきれいな石を探しちゃうんですけど、東くんは音基準。東くんの石はみんな耳にキンと鳴るいい音がするんです。あと、タイチさんは案内人のようでした。タイチさんは音のいいところに連れて行ってくれるんです。あっちによく響く沢があるよ、とか。島の中には見えない境界みたいなものがあって、自分ひとりでは入っていけないような、無意識に避けて通ってしまうような場所がいくつもあったんですけど、タイチさんと一緒にいると、すっと入っていける。
――雨音のような水滴の音が気になりましたが、あれは?
オオル:どれやろ。
コムアイ:「カリンバ」のことじゃない?
――カリンバ使ってるんですか?
オオル:ああ、僕らがカリンバって呼んでた音があったんです。細い枝に雨の水滴が落ちる音なんですけど、当たる場所によって音が違うんですね。なので、枝のいろんなところにコンタクト・マイクをつけて。
――なるほど! カリンバの要領ですね。
オオル:あれはおもしろい音だったので、東くんもホクホクした顔で楽しんで録ってましたね。
コムアイ:私たちが滞在していた期間は雨が多かったんですけど、私はそれがよかったなと思っていて。カリンバみたいにいい音がたくさん録れたので。雨音はもちろん、水が湧き出る音や、あとカエル! 私カエル好きですぐ触っちゃうんですけど、東くんがそれ見て、カエルの喉にマイクを付けてくれて。
オオル:そのカエルの喉の音が『屋久の日月節』のキック(バスドラム)の音なんですよ。
――そうなんですか! カエルのボイパだ。
コムアイ:その音が録れたのが結構キーになったよね。あそこから全体が拓けていった感じがする。
オオル:カエルのキックはほぼ素材そのまま使ってるんですよ。音色もいじってないし、拍もカエルの呼吸のリズムそのまま。『屋久の日月節』のドットン、ドットンって聴こえてる音がそうですね。一定でなく、不整脈っぽくリズムが崩れるところがあるんですけど、崩れることによって想像できないグルーヴが生まれたと思います。あとは、水中にコンタクト・マイクを入れて水をかき混ぜる音を録ったり。極力ループせずに素材そのまま、3分なら3分そのまま使ってますね。
コムアイ:フィールド・レコーディングする人っていっぱいいるけど、タイチさんはけっこう寿司っぽいというか。素材をよく見て、あんまり変えずに塩だけで食べさせてくれる感じ。
――ここまで伺って、水にまつわる音が多いんだなと改めて感じました。
コムアイ:屋久島は本当に水の島だったんです。行く前は大地の豊かな島だと思っていたけど、実際は地層がすごく薄いんですよ。ガジュマルの根なんかが地面から浮いて見えてるんです。かつて一度火山灰で島全体が覆われて、自然が死にかけたことがあるそうなんです。でも、雨が火山灰を洗い流して、苔を育てて、また生態系が戻っていった。『屋久の日月節』の歌詞にもそのことを書いているんですけど、とにかく水の力の強さを感じる島でした。
ニライカナイ、あるいは上ではなく横にある天国について
――資料によると、今作には現地の民謡である「まつばんだの歌」を取り入れているということですが、詳しく聞かせていただけますか?
オオル:説明が難しいんですけど、現地で聴かせてもらった過去の記録音源では、メロディに高低差があるというか、高音と低音を行き来する複雑なメロディの歌でした。その音源では何人かでパートに分かれて合唱してるんですけど、ちゃんとした主旋律があるようでないというか。それに、各パートにいわゆる琉球音階(レとラ、あるいはラだけを抜いた音階)も、ヨナ抜き(ファとシを抜いた音階)も入っている。
――パートによって音階も違う。
コムアイ:歌詞には、屋久島のいろんな地域の名前が出てきて、屋久島は宝だからおろそかにするなよ、みたいな内容です。今回の作品名に“TREASURE”と付いてるのは別のものからのインスパイアだったと思っていたんですけど、このまつばんだの歌に引き寄せられた面もないわけではないのかもしれないです。
――コムアイさん作詞の「殯舟」(もがりぶね)についてはいかがでしょう。
コムアイ:「殯舟」は実をいうと、沖縄の久高島の「琉球神道」の死生観に惹かれて書いたものです。久高島では、島の東の果てにニライカナイという祖先が眠る島があると考えられていた。天国が上じゃなく横にあるというのがおもしろいなって。島では風葬がおこなわれていて、ニライカナイに死者の魂を届けていたそうなんです。
――東に向けて。
コムアイ:いえ、西なんです。崖に死者の入った木箱を置いて魂を西に飛ばして、それが地中のトンネルを通って、東に渡っていくと考えられていたみたいで。穢れ/ケを表す西の方角で海に沈み、地中のトンネルを通って東の天国へ行く。このトンネルは太陽が穴(てぃだがあな)と呼ばれていて、死者が天国に行くまで、太陽と同じ動きをするわけです。それがなんか納得できて。そのことを考えながら書きました。
オオル:タイトル自体は屋久島の死生観が反映されたものです。屋久島では死者を送り出すとき山の上から舟を出すそうなんです。
コムアイ:雰囲気としては、現地のおばあちゃんたちとの会話がヒントになっていて。会話って言っても、私たちが普段している西洋的な会話とは違うように感じたんです。キャッチボールというより、誰かが何か言って、別の人がかぶせるようにまた喋りだすような。無視しているわけじゃないんだけど、受け止めて答えを返すような言い方でもない。意味が通じていないわけではないんだけど、通じてるわけでもない。そんな不思議なコミュニケーションでした。
オオル:『屋久の日月節』には、そのおばあちゃんたちのコーラスが入っています。コーラスというか合いの手なんですけど。
――合いの手。
コムアイ:屋久島では、十五夜の夜に綱引きをする風習があるんですって。その最中に歌う歌に合いの手を入れる役割を女の人が担うそうで。『屋久の日月節』にはその合いの手が、綱引きの歌の主旋律部分は、集落の区長さんが歌ってくれたものが『島巡り』に入ってます。
行く前に想像していた通りのものができた
――今回のプロジェクトを通してどんなことを実感されましたか?
コムアイ:そうですね……行く前に3人で想像していた通りのものができたような気もするんです。行かなくても作れたというわけではないんですけど、頭の中にあったものを現地で拾っていったような感覚で。私自身、思っていることを形にするのがだんだん上手くなってきているのかもしれません。エスパーですね。
――エスパー……ですか?
コムアイ:曲ができていく時に、おもしろいことを素直にキャッチして喜ぶ感覚というか。そこが研ぎ澄まされてきた気はしてます。
――なるほど。では最後に。そうして研ぎ澄まされてきた感覚をもって次にやりたいことって今具体的に思い描いていたりしますか?
コムアイ:うーん、次また同じように場と対峙して何かやるとするなら、国内でなくてもいいな。自然や伝承が育まれているところがいいな。雲南省、南インドとか。砂漠もいいかもしれない!
オオル:砂漠ええね。
コムアイ:あと、今回のEPの内容をライブでやりたくないですか?
オオル:ライブでやったらどうなるんやろね。
コムアイ:なんか、プラネタリウム使ってやりたいな。映写機使って、椅子倒して観て、眠くなったら眠れる感じで。今はそんな感じです(笑)。
【リリース情報】

水曜日のカンパネラ 『YAKUSHIMA TREASURE』

Release Date:2019.04.03 (Wed.)
Label:WARNER MUSIC JAPAN
Tracklist:
1. 地下の祭儀
2. 島巡り
3. 殯舟
4. 東
5. 海に消えたあなた
6. 屋久の日月節
■ 水曜日のカンパネラ オフィシャル・サイト(http://www.wed-camp.com/)

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