SHE’Sがアルバム『Now & Then』を引
っさげた初のZeppワンマンに刻んだも

SHE’S TOUR 2019 “Now & Then”  2019.4.20  Zepp Tokyo
結成8年、メジャーデビューから3年。SHE’Sが、彼らにとって初となるZeppワンマンの日を迎えた。この日は2月にリリースしたアルバム『Now & Then』のリリースツアー・ファイナルと位置付けられたライブであり、実際に収録曲は余さず披露されたのだが、そのこと以上に印象付けられたのは、彼らがアルバムタイトルそのままに、“あの頃”から今日へと至る日々の結晶を“今”のモードで鳴らしきった、そういうライブだったなぁということだ。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
SEが流れ出すとメンバーが登場。一旦照明の光量を落としてからSE終わりで一気に明転、次の瞬間に井上竜馬(Vo/Key/Gt)が、アルバムに先駆けてリリースされた現状の最新シングル曲「The Everglow」を歌い出す——というスタート。『Now & Then』収録のポップでリズミカルな「Used To Be」を間に挟み、「Un-science」「Change」といったインディーズ期のナンバーが並ぶなど、過去曲と新曲群を織り交ぜながらライブを加速させていく。変わったこと、変わらないこと、どちらも引っくるめてあの頃からの延長線上に今がある。そんな自覚を形にするかのようだ。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
井上は曲中、アドリブでメッセージを投げかけたりしながら歌声に熱を込め、服部栞汰(Gt)は華も聴き応えも十分なギターソロを何度も繰り出す。広瀬臣吾(Ba)のクールな素振りはこれまで通りながら、以前よりも出音が明らかに太く重くなっている。シュアで堅実なプレイで屋台骨を支えつつ、その表情や笑顔でも盛り上げていくのは木村雅人(Dr)。持ち前の楽曲のスケール感はもちろん、演奏する4人の姿を見ていると、初挑戦にしてZeppを満員にした事実もなんら不思議ではないように思える。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
冒頭のブロックを終えた後は、大胆に打ち込みサウンドを取り入れた「歓びの日」から、リミックス版が配信されたばかりの「Clock」へと間髪を入れずに繋げ、ストップ&ゴーを繰り返すエッジの効いた音とアレンジに照明も加わって、ドラマティックな起伏を生む。「Set a Fire」では背後のドレープを開けて紅蓮に染まったスクリーンに4人のシルエットが映えた。アレンジされたピアノのイントロで始まったライブアンセム「Night Owl」のコーラス部分ではオーディエンスの合唱を呼び込み、ロック色の強いサウンドと乱舞する光線がフィジカルな高揚を誘う「Flare」へ。多面的な魅力を有するSHE’Sサウンドの中から、クールとエモーションという一見相反する両面をひとつに凝縮したここのブロックは実に見事だった。前半のうちに流れをきっちり引き寄せた印象だ。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
MCでは個々のキャラクターが前面に出まくった和やかな空気で楽しませ、一呼吸おいてから3〜4月という季節について思うことを井上が語る。新しい始まりの季節である反面、環境が変わったことでペースを見失ったり焦ったり、言いたいことが言えなかったり、意図せず傷つけてしまったり。そういうことが自分にもあったこと。そんなときに思い出してほしくて書いた——という紹介から披露したのは、「Tonight」だった。SHE’S史上屈指の名バラードであり、ファン人気も高いこの曲には、どこか独白のようなニュアンスを帯びた優しい歌声がよく似合う。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
「ミッドナイトワゴン」では服部がアコギ、木村がマラカスを振ったりマレットを使ってのプレイをみせ、フォーキーなミドル・ナンバーを心地よい手触りに。やるせないメランコリックな感情を、それとは裏腹にダイナミックで壮大なサウンドに乗せる「Ghost」では、後半に連れて激情を露出させるボーカルと、アウトロで繰り出す長尺のギターソロで圧倒。「月は美しく(Album ver.)」で回り出したミラーボールが側壁に影を映すとそれが三日月を象っているなど、細部のディテールも完成度が高く、SHE’Sのサウンドがもつドラマ性と井上のメロディメイカーとしてのセンスを堪能できた中盤であった。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
クライマックスへと進むライブ後半は、特に楽しさが前面に押し出されていた。入りのカウントを客席に委ね、曲中にソロ回しも飛び出した「Sweet Sweet Magic」。MVに登場したレインボーちゃん(ダンサー・えりなっち)が現れて、キレキレのダンスやメンバー・客席をフレームインさせてのセルフィで盛り上げ、カラフルなテープも発射された「Dance With Me」。客席から高いボルテージで迎えられていたこのあたりの楽曲が『Now & Then』以降にレパートリーに加わったことは、ライブ全体の起承転結という観点からみても良い作用をもたらしているようだ。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
そして、初のZeppという、ひとつの節目となるであろうライブを締めくくるべく、「あなた達にとって俺たちの曲が、迷った時に支えられるような大きなバンドになりたい」という決意とともに鳴らされたのは「Stand By Me」だった。
<共に歩みながら  今日まで生きてきた><出逢えて良かったんだ>
ステージの上から下へ、下から上へと互いに想いを通わせあいながら、全14本に及んだ全国ツアーは終着点を迎えた。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
アンコールでは、これまでツアーを回れていない地域を中心にした対バンツアーと、ストリングス&ホーン隊と共に行う彼ら入魂の企画・第2弾『Sinfonia Chronicle #2』の開催を発表。具体的なリリース・スケジュールは明らかとなっていないものの新曲も次々に生まれてきているとのことで、そこから1曲を披露する一幕もあった。打ち込みサウンドを取り入れつつ、骨格となるエバーグリーンなメロディが印象的な新曲は、この先の展開に確かな期待を抱かせるものであった。
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA
最後に演奏されたのは「Curtain Call」。もっともっと小さなハコから歌い続けてきたこの曲で、井上はいつも歌いながら観客の一人一人の顔を見てきたのだという。2000人以上を集めたこの日ではそれが難しくなったかもしれないと言いながら、それでも彼はずっと、煌々と照らされたフロア中に視線を投げかけながら歌っていた。そんなラストナンバーの最後に歌われる<ストーリーはずっと続いてくよ>という一節どおり、アルバムとツアーを通して“あの頃”と“今”、そしてその間の歩みに向き合い体現した彼らは、ここからまた新たな地平を目指す。

取材・文=風間大洋  撮影=MASANORI FUJIKAWA
SHE'S 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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