魅力的な音を奏でるヴァイオリニスト
・中村太地、デビュー・リサイタルに
先駆けて演奏を披露

2017年、ブラームス国際コンクール・ヴァイオリン部門で日本人として初めて優勝した中村太地が、日本での本格的なデビュー・リサイタルを東京(サントリーホール)、大阪(ザ・シンフォニーホール)、北九州(響ホール)の3都市で開催する。また、中村は、デビュー・アルバム「ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全集」(7月3日発売)を、リサイタルでも共演するピアニストの江口玲とともに録音した。
中村は1990年、北九州市生まれ。3歳でヴァイオリンを始め、9歳で九州交響楽団と共演。2004年には「若い音楽家のためのチャイコフスキー国際音楽コンクール」で最年少ファイナリストに選ばれた。そして、2009年にウィーンへ留学し、ウィーン国立音楽大学にてミヒャエル・フリッシェンシュラガーに師事。2018年からはエリザベス王妃音楽大学でオーギュスタン・デュメイに学んでいる。
そのほかのコンクールでは、2010年にブルガリアのシメオノヴァ国際コンクールに優勝し、その直後、ソフィア・フィルと共演して、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を弾き、ヨーロッパ・デビューを飾った。2012年のハチャトゥリアン国際音楽コンクールで第3位入賞、2014年クライスラー国際コンクールで特別賞を受賞した。ブラームス国際コンクールに直後に参加したリピツァー国際コンクールでも第3位に入賞している。
中村太地 (c)Ai Ueda
4月18日、代官山エナスタジオで、デビュー・リサイタルに先駆けての演奏披露取材会があり、中村太地の演奏を聴くことができた。当日のプログラムは、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第2番、クライスラーの「シンコペーション」と「愛の悲しみ」、そしてイザイの「サン=サーンスの『ワルツ形式の練習曲』によるカプリース」。ピアノ共演は佐藤卓史。
ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第2番では、第1楽章から甘美な音色を披露。音の身が詰まっていて、非常に充実している。ヴィブラートが多彩で、高い技巧に安定感がある。また、音楽のスケールが大きく、スタジオに溢れるような音量。サントリーホールやザ・シンフォニーホールのような大ホールでの演奏が楽しみになる。第2楽章では、たっぷりとしたカンタービレを聴かせてくれた。第3楽章ではボウイングの自在さが印象に残った。弦に吸い付くような弓遣いで、弓圧の加減が素晴らしい。G線での歌い込みも良い。また、楽譜をタブレットPC(足で譜めくり操作をする)で見るところが、若い世代らしい。
クライスラーでは、音が優しい。軽快な演奏であるが、音が上滑りすることはない。「愛の悲しみ」での、甘く柔らかな音に心惹かれる。
最後のイザイは、非常に技巧的で、かなりの難曲だが、中村の超絶技巧は安定感があり、危なげがない。伸びやかな音が魅力的だった。
佐藤卓史のピアノは、蓋を全開していたが、卓越したコントロールで、バランスがよく、中村のヴァイオリンを見事にサポートした。
演奏終了後、中村に話を聞くことができた。まずは、ウィーンでの暮らしについて。
中村太地 (c)Ai Ueda
ウィーンでの先生の最初の教えは、『日本語的なアクセントやイントネーションにならないように』でした。結局はそこなんです。日本語は語尾にアクセントが付くことが多いですが、ヨーロッパの言葉は語頭にアクセントが付くことが多い。抑揚も、日本語はフラットで平坦。ヨーロッパの言葉はどこかにアクセントを付けて山場を作る。そういうことがウィーンで勉強していて、自然に身に付き、判断できるようになりました。
ウィーンでは、美術館の展覧会や、オペラ、バレエを見に行くようにしています。ウィーン国立歌劇場は、フランスから監督(注:マニュエル・ルグリ)を招き、バレエにも力を入れています。プリマに日本人夫妻(注:橋本清香と木本全優)がいたり、日本人のダンサーも活躍しています。
オーストリアのブラームスゆかりのペルチャッハで開催されているブラームス国際コンクールに関してはこう述べた。
ウィーン人にとってブラームスは特に思い入れの深い作曲家ですが、私もブラームスという冠が付いているこのコンクールには思い入れが深いです。でも、今は、コンクールを一つ獲って終わりという時代ではありません。どこのコンクールでも来るメンバーはだいたい決まっていて、友人に会って、近況を聞いて、刺激をもらったりしています。また、コンクールで出会った人と、その後、室内楽をしたりもします。
最後に、近況とデビュー・リサイタルへの抱負を語った。
現在は、ウィーンとベルギーで勉強を続けながら、日本での活動を本格的にスタートさせたいと思っています。作曲家への敬意を忘れずに演奏したい。サントリーホールでのリサイタルは、私自身がとても楽しみにしています。
中村太地 (c)Ai Ueda
サントリーホール及びザ・シンフォニーホール、響ホールでのリサイタルには、バッハのヴァイオリン・ソナタBWV1017、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」、という3大Bの作品が選ばれた。まさに大型新人のデビューにふさわしいプログラムである。
取材・文=山田治生 写真=オフィシャル提供

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