鈴木杏×ブルゾンちえみが密室劇の傑
作出演に「刺激的」「いい痺れを感じ
る」 KERA CROSS第一弾『フローズン
・ビーチ』

演劇界での名だたる賞を立て続けに受賞し、その勢いが留まることを知らない、劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)。KERAが手掛けた数々の戯曲の中から、選りすぐりの名作を、才気溢れる演出家たちが異なる味わいで新たに創り上げる、シアタークリエ連続上演シリーズ「KERA CROSS」が2019年から始まる。
その第一弾として『フローズン・ビーチ』が、鈴木裕美演出で上演されることとなった。女優4人で紡ぐミステリー・コメディーであり、世相を鋭く映し出しながら、16年にわたる女性同士の心の機微を描く密室劇の傑作でありナイロン100℃初期の代表作だ。この作品に新たな命を吹き込むキャストの中から、演劇界を牽引する女優・鈴木杏とこれが初舞台となるブルゾンちえみに話を聞いた。
ーーまずは『フローズン・ビーチ』に出演を、という話が来た時のお気持ちから聞かせてください。
鈴木:お話をいただいた時は、「お、おおー!」って思わず声がでました(笑)。まさか自分がこの作品をやる日が来るとは! と思って。本当に面白い作品なんです。KERAさんの脚本で(鈴木)裕美さんと久しぶりにご一緒できる、しかも4人芝居で。すごく刺激的でありがたいチャンスをいただいたと思います。
でも改めて戯曲を読んでみるとハードルの高さを感じます。以前出演した『修道女たち』はKERAさんが私たちを見ながら書いてくださったので、大変でしたが流れに身を委ねることが出来ました。訳もわからずやってたら初日だった、という。でもこの『フローズン・ビーチ』はすでに出来上がっている作品ですし、オリジナルキャストの方々の印象がすごく強くてこれをやるのは大変だと(笑)。だから「(以前のキャストと)比べないでください」と先に言っておきたいです。本当に比べないでください(笑)
鈴木杏
ーー大事な事なので2度言いましたね(笑)。一方、これが初舞台となるブルゾンさんはいかがでしたか?
ブルゾン:舞台を観るのは好きなんです。「生」「生きている感」役者さんのマンパワーが伝わってきてなんとも言えない気分になるのが好きで。客として舞台を観るのも好きなんですが、一方で「これ、出る側はもっと気持ちいいやろなぁ」と思っていたんです。大変なことは承知の上で。その大変なことがあるからこそ、本番の達成感がすごいんだろなぁって。
今回出演が決まった時、その気持ちを経験できるんだろうなと嬉しく思ったんですが、一方で、以前の映像や脚本を読めば読むほど「大丈夫か、自分?」、さらに「自分でいいんですか?」という気持ちでいっぱいです(笑)。それでも初めての舞台でこんなに整った環境に飛び込ませていただけるのが嬉しくて頑張らなきゃなと。いい痺れを感じています。
ーーナイロン100℃ 42nd SESSION『社長吸血記』、KERA·MAP #008『修道女たち』に続いてKERA作品は3作目となる鈴木さんですが、今回の作品ではどんなことになりそうですか?
鈴木:どうなるのか予想がつかなくて魔境に足を踏み入れる気分でもあり、生きて帰ってこれるのかなと(笑)。稽古をして、裕美さんのアイディアやアドバイスを伺えば向かう場所がわかってくると思うのですが、今はハードルの高さに「どうするんだろう?」って。台詞の量もそうですが、各々がやらなければならないことが多いなあという印象です。
ーーブルゾンさんはKERAさんの作品をご覧になった事はありますか?
ブルゾン:先日杏さんが出ていた『修道女たち』を拝見させていただいたんですが、現実ぽいのに凄くファンタジーなところもあって、共感できるところもあれば、「何じゃっこりゃ!」となる事もあって。この「違和感」がKERAさん作品が持つ特徴なんだろうなあ。舞台が終わってからいい意味の疲れ、本を読破したあとの「はぁ~」って抜けていく達成感に近い感覚でした。

ブルゾンちえみ

ーー先ほどから名前が出ている、(鈴木)裕美さんの演出も気になるところですね。
鈴木:私の初舞台『奇跡の人』が裕美さんの演出で、私に舞台のおもしろさをすべて教えてくださり、演劇の世界に引きずり込んでくださいました。今回一緒にお仕事出来るのが『トップ・ガールズ』以来。すごく久しぶりなので楽しみです。
ーー裕美さんとのお仕事も当然初めてとなるブルゾンさんに説明するとしたら?
鈴木:裕美さんは一つひとつ、一緒に乗り越えてくださる人で、役者のことを絶対見放さない人。演者とすごく近い距離で作品を作ってくださる信頼があります。エベレスト級のこの作品に一緒に登り、滑落しないようにしたいです。誰よりも楽しんで稽古をご覧になる方で、役の気持ちのように裕美さんの表情も変わるんです。あと、お酒が大好きです(笑)。
ーー今回は誰がどの役を演じるか、裕美さんは皆さんの適性を見てから決めるそうですが、俳優としてはこういう作り方はどう感じているんですか?
鈴木:今の段階で台詞を覚えなくていいという楽さがありますね(笑)。この役をやるとわかるとどうしてもその役目線で脚本を読み込んでしまいますが、そうではないならすべての役の視点から作品に接する事ができるので、逆に貴重な時間かも。
(左から)ブルゾンちえみ、鈴木杏
ーーブルゾンさんもお笑いの時は自分でネタを考え役割を決めて……という段取りを踏むと思うので、こういう形のスタートには戸惑いもあるのでは?
ブルゾン:先日初めて裕美さんとご挨拶したんです。きっと裕美さんも私がどんな人間か知りたかったんじゃないかな。たくさんお話しましたね。で、まだ考えているようでした。
ーー今だからこそ聴ける質問ですが、もし自分で役を選べるならどうします?
鈴木:……役を取り合って殴り合いになったら面白いですよね? 「私、これは外せない!」とか(笑)。
ブルゾン:「私はこっちがいいー!」とか(笑)
鈴木:大喧嘩から始まる最悪の状態になるとかね(笑)。
ブルゾン:逆に「この役になったら、大変そうだー!」って言うのもありますしね。
鈴木:そう言っていると大体そういう役が回ってくるんですよ(笑)!
ブルゾン:本当ですか(笑)?
鈴木:誰があの冒頭からの長台詞を言う事になるんだろうか……(笑)。
鈴木杏
ブルゾン:裕美さんにお会いした時に(裕美さんの真似をしながら)「杏はね、コレだと思うの。コレではないと思ってるの」っておっしゃっていましたよ。何かプランがあるようでした。
鈴木:なんて話しているのか気になる(笑)!
ブルゾン:その口調からお二人の信頼感を感じましたね。何でも分かり合ってらっしゃるんだろうなあって。
鈴木:10代の頃から見られてますし。さやいんげんの「豆」レベルからだから(笑)。でもあのナイロン100℃の最強メンバーの当て書きで書かれた作品ですから、かなり大変だろなと……。だから本当に比べないでください(3度目)。でもあの最強オリジナルメンバーのレベルを目指すのも違うと思うので、今回のメンバーだからこそできる事を探していきたいですね。
ーー作品自体の面白さをどのように感じていますか?
鈴木:どんどん巻き込まれていくところ。KERAさんの作品って全部を説明しないですが、なかでも『フローズン・ビーチ』はその色が強い作品だと思うんです。何故あれはこうなったのか、そこにはどんな策略があったのかとか一切語らない。「見えないものへの求心力」が魅力。作る側もここは説明して目立たせるが、ここはあえて説明しないという風に作っていくんでしょうね。書かれていない事を埋めていく作業が重要であり、それをやった上での手放し方も大事。これを限られた稽古時間の中で二重三重にやっていくのが大変かもしれません。
ブルゾン:観る側も、男性は難しいかもしれませんが、私はあのキャラクターに共感できる。でも完全にその人だけでなくこっちのキャラのこの感情はわかるというのもありそうです。あるキャラに共感してきて、心が寄り添ってきたなあと思ったその瞬間、なんでそんな事を! という展開もあるし。その違和感が楽しいんだろうと思いますね。
ブルゾンちえみ
鈴木:KERAさんの作品って先日の『修道女たち』でも感じたんですが「薄い氷の上を全力疾走で走りぬくような感覚」があるんです。少しでもバランスを崩したり、一つ強すぎる事があると一気に世界観が崩壊する、すごくスレッスレの感覚がありました。
ーーちなみにお二人のお互いの印象は?
ブルゾン:杏さんは今お話を伺っていて「モノの例えが上手やなあ」って思ってます。いろいろな表現を吸収されている方ってめっちゃ話が分かりやすい! 杏さんと過ごす数か月で「例え方」を勉強し、盗みたいなと。
鈴木:……そこ(笑)?
ブルゾン:いや、芝居ももちろん勉強させていただきます(笑)。
鈴木 :(笑)。私はブルゾンさんに頼り甲斐を感じるんです。裕美さんに怒られそうになったらちえみさんの後ろに隠れたい。それこそ一人で舞台に立つ方ですから……一緒にwith Bがいるとしても(笑)。自分でネタを持っていて人を笑わせる仕事ってすごい事だと思っていていつも感動しているんです。演劇としては初めてであっても一人で舞台に立てる人ってすごく頼りになるんじゃないかな。
(左から)ブルゾンちえみ、鈴木杏
取材・文=こむらさき 撮影=鈴木久美子

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