美しく残忍で神秘的、『ギュスターヴ
・モロー展 サロメと宿命の女たち』
がパナソニック汐留美術館で開幕

ファム・ファタル(宿命の女)をテーマに、画家ギュスターヴ・モローを紹介する展覧会『ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち』が、パナソニック汐留美術館で2019年4月6日(土)〜6月23日(日)まで開催される。5日(金)に行われたプレス内覧会より、本展の見どころをレポートする。
展示作品は、いずれもギュスターヴ・モロー美術館より貸し出されたもの。開幕にあたり、担当学芸員の萩原敦子氏は、パリのギュスターヴ・モロー美術館が「傑作の数々を惜しみなくお貸出しくださった」ことに感謝を述べた。傑作《出現》を含む約70点が、全4章の構成で展示される。
展示風景
ギュスターヴ・モローが実生活で愛した女たち
モローは、1826年にフランス・パリの中産階級の家に生まれ、教養豊かな両親に育てられたそう。72年の生涯を独身で通し、そばには常に、母親の存在があったという。私生活は謎に包まれる部分も多かったが、近年では、モローと30年近く親密な関係を築いていたアレクサンドリーヌ・デュルーという女性がいたことがわかっている。
展示風景
第1章のタイトルは、「モローが愛した女たち」。母ポーリーヌとアレクサンドリーヌがテーマだ。実生活で愛した女性を取り上げる点は、「本展の特徴的なところになる」「『パリの中にとじ込められた画家』と評されたほどミステリアスな存在だったモローの、素顔の一端に迫れるのでは」と、萩原氏は語った。
展示風景展示風景
モローは、年を重ね耳が遠くなったモーリーンとの意思疎通に、筆談を用いていたという。筆談のメモの中には、当時モローが手掛けていた作品の意図や題材を記したものもある。残されたメモは、母と息子の距離感を知ることができ、さらにモロー本人による作品解説を読むことができる、貴重な資料だ。
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傑作《出現》と、多様なサロメ
モローは、聖書や神話など、伝統的な主題にした絵画を描き、官展に応募し、賞を獲り名声を確立していった。伝統的なルートで画家としてのキャリアを重ねていったことになる。しかし「描き出そうとしたのは、まったく新しいものだった」と萩原氏はいう。
伝統的な題材をテーマにしつつも、「神話そのものを絵解きのように語るのではなく、聖書や神話、歴史の物語の人物のイメージを通し、人間に共通する情念や理念、観念といったものを、象徴的に描き出そうとした」のだそう。特に情熱を注いだのが、本展覧会第1章のテーマでもある、サロメだった。
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サロメは、新約聖書のエピソードに基づく少女の名前。ヘロデ王の後妻となったサロメの母親は、洗礼者ヨハネを邪魔に思っていた。そこで娘・サロメをそそのかし、サロメに王の前で舞を披露させ、その褒美にヨハネの首を欲しがるように仕向けた。
モローの代表作のひとつ《出現》は、目を見開いたヨハネの首と、強い表情で挑むように対峙するサロメが描かれている。背景の柱には、細密に描き込まれた装飾を見てとれる。これは後年に書き足されたものなのだそう。
奇妙なのは、サロメ以外の人物が、この光景でも無表情なことだ。その点については、ヨハネの首が幻影であり、サロメ以外には見えていないからだと考えられている。
展示風景
展示室には、制作過程を垣間見れる下絵や習作も多数展示されている。配色やレイアウト、身体の動きなどを、何パターンも作っていたことがわかる。モローの創作プロセスを追うほどに、サロメへの強いこだわりを感じさせられた。
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ファム・ファタル
第3章のタイトルは、「ファム・ファタル」。魔女としてもしられる王女メデイアや、スフィンクス、船乗りを誘惑して遭難させるセイレーンなど、伝説や神話のキャラクターや異形のものが描かれた作品で構成されている。
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《メッサリーナ》は、古代ローマ皇帝の王妃でありながら酒欲に溺れたメッサリーナが、若者を誘惑している場面を描いた水彩画。背後に立つ人物は、ギリシア神話における運命の女神、モイラ3姉妹のアトロポスを想起させることから、「死へと導く不品行」という意味に受け取れる作品なのだそう。
油彩画とは異なった、滲みをも巧みに操う繊細で幻想的な水彩の魅力を楽しみたい。
展示風景
展示室は、ピンク色の壁紙で彩られている。これは、ギュスターヴ・モロー美術館の壁の色に倣った演出なのだそう。その中で目をひくのが、《エウロペの誘惑》だ。
175cm✕130cmのカンバスに描かれるのは、「変身物語」の一場面。王女エウロペが、牡牛に姿を変えたゼウスに連れ去られていくところだ。この場面は、ルーベンスやティツィアーノ、レンブラントも作品にしているが、それらのゼウスは、100%牛の姿だった。モローは、牛の上半身をゼウスの姿に変えて描いている。妖艶なエウロペと雄々しいゼウスの表情が、この場面をよりドラマチックにしているようだ。
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《一角獣》と純潔の乙女
最後の展示室のテーマは、一角獣と純潔の乙女。一角獣(いわゆるユニコーン)は、純潔を象徴する想像上の動物で、穢れなき女性にしか懐かないという。モローの《一角獣》の女性たちも、鮮やかな色味で清らかに描き出されている。そばに寄り添う一角獣は、乙女たちの純潔や、処女性を象徴していることになる。
しかし、その乙女たちは、純潔の意味を問い直したくなるほど、妖艶な魅力を放っている。ギャラリートークの中で荻原氏がその点に言及すると、会場に集まった来場者たちは笑いとともに大きく頷いていた。
展示風景

母親、恋人に始まり、純粋ゆえの残酷さをもつサロメ、さまざまなファム・ファタルに、純潔の乙女。画家モローの心をつかんだ、「悪女」や「魔性の女」といったありきたりの言葉では括りきれない女性たち。そんな彼女たちが息づく幻想的、神秘的な世界観を、ぜひ会場で作品を目の当たりにすることで感じてほしい。『ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女たち』は、パナソニック汐留美術館で4月6日(土)〜6月23日(日)までの開催

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