【インタビュー】シキドロップ、日本
のポップ・シーンに残る新たな1ペー
ジを刻むデビュー・ミニ・アルバム『
シキハメグル』

その物語は、二人の男が体験したそれぞれの「挫折」から始まった。期待の若手俳優として「トッキュウジャー」「テニスの王子様」などに出演しながら、音楽家として活動してきた平牧仁。片や、YouTubeにJ-POPの投稿を続け、カバー曲の年間再生動画ランキング1位を獲るほど、美しく澄んだ歌声で人気を集めた宇野悠人。音楽を続けるかどうかの瀬戸際で出会った二人は、やがて「シキドロップ」と名乗って共に音楽を作り始める――。結成からデビュー・ミニ・アルバム『シキハメグル』のリリースまで、およそ2年に及ぶシキドロップの物語。日本のポップ・シーンに残る新たな1ページを刻むかもしれない、その序章を二人が語る。

■僕が中身を作ると悠人が今っぽく外側を作ってくれる
■言葉やアレンジの案も出すけど悠人のジャッジのほうが正しかったりする

――なぜこの二人が出会ったのか。その話から始めましょう。

平牧仁(以下、平牧):2017年の4月くらいに出会ってるんですけど、すぐに結成したわけではなく、2、3か月やりとりする時間がありました。「おぼろ桜」という曲がその期間に生まれるんですけど、それを悠人に歌ってもらったのがきっかけで「じゃあユニット組もうか」ということになったのが、7月くらいだよね?

宇野悠人(以下、宇野):うん。僕は社会人の1年目で、サラリーマンをやっていました。一回音楽に踏ん切りをつけて、就職したんで。その後もいろんな人からメールが来て、全部スルーしてたんですけど、これはちょっと面白そうだなと思って飲みに行った。そこからの仲です。

――「この人は何か違うぞ」と?

宇野:というか、単純に、トッキュウジャーを僕のいとこが知っていて、僕も一回見たことがあるから。会ってみようと思ったんですよ。興味本位で。

平牧:出てて良かった(笑)。

宇野:いろいろ調べたら、「ボーカルを探してるんだな」ということはわかった。でも僕はそんなつもりないから、その話が出たらきっぱり断ろうと思ったんですけど、一切出てこなかったから。しかもその時、僕はスーツ姿で、「この人やる気ないんだ」と悟っただろうなって、僕は思っていました。

平牧:悠人は夢に踏ん切りをつけた時期でしたし、僕は人生の大きな挫折に当たって、人に対して一歩踏み込めないような時期だったので。精神的に憶病になっていたし、もう一回音楽をやりたいか?という確信が持てなかったんですよ。そんな時期に悠人と出会って、この縁をどうにかしたいと思って、とりあえずご飯を食べに行ったんですけど。生産性のある会話は一切せず、普通に飲み食いしただけです。

宇野:予定していたライブが何本かあったんだよね。

平牧:そう。それは他のボーカルを立てて、なんとかクリアするんだけど。それとは別に、僕が音楽を担当した「昆虫戦士コンチュウジャー」という音楽舞台があって、その主題歌を作るために、ボーカリストが必要だったんですよ。単発の企画だったらどうかな?と思って、悠人に話を投げて、それが初めて一緒に作る曲になるわけですけど。それが5月、6月くらいかな。

宇野:当時、ライブが大嫌いだったんですよ。だから動画投稿していたようなものなんですけど、こっちは完成されたものじゃないと嫌なのに、みんなはライブの未完成なところを面白がる、そのギャップがすごく嫌だったから。ただその話は、僕が舞台に立つわけじゃないから、いいなと思って引き受けたんですね。それで一回やったら、意外と面白くなって、久々に歌う楽しみを思い出しちゃった。さらに何回か飲みに行くようになった頃、「おぼろ桜」を聴かせてもらったんですよ。これはいい曲だね、じゃあコラボという形で動画を出そうということになって、そこからですね。だから最初に動画投稿した時は、シキドロップという名前もないし、組もうとも思っていない時だったんですよ。
――面白いなあ。そもそも仁さんが悠人くんをYouTubeで見て気に入ったのって、声が良かったからですか。

平牧:そうです。悠人みたいな声、好きなんですよ。少年性がある声で、こういう人と組みたいなと思ったので。

――悠人くん、何でも歌っちゃうでしょ。RADWIMPSいきものがかりも、スピッツもユーミンも。

宇野:いろいろ聴いていただいて(笑)。僕はジャンルが幅広い人で、歌を歌うのが好きなだけなんですよ。好きじゃないものもありますけど、YouTubeでは好きな歌しか歌ってないです。

――そのあたりのJ-POPが、音楽のルーツなのかな。

宇野:いや、全然違います。最初は親の影響でマイケル・ジャクソンが好きになって、そこからたどって、久保田利伸さんがすごく好きだったんですよ。ただ、久保田利伸を僕は歌えないなと思って、好きな音楽よりも合ってる音楽をやって、みんなに評価されるほうが面白いということですね。ああいう歌はもちろん好きなんですけど、基本的にはみんなが求めているものをYouTubeにアップするという感じでした。

――片や、仁さんの音楽的ルーツというと。

平牧:3歳からエレクトーンをやっていて、月刊エレクトーンという雑誌に載っていた、当時のトップ10ヒットの楽譜をひたすら毎日弾いてました。ルーツと言うと、誰というよりもそういうポップスですね。今でも、たいていのJ-POPは一回聴いたら弾けたりするのも、そういう経験があったからだと思います。それ以外にルーツになったものというと、鬼束ちひろさんを聴いた時に、初めて歌詞を読みながら音楽を聴くことに目覚めたんですね。それまでは歌詞を気にしてなかったんですけど、鬼束さんを聴いてすごい感動して、価値観が変わりました。言葉を届けたいという思いが強くなって、BUMP OF CHICKENとかロック系を好きになって、ブルーハーツ、尾崎豊を通ったり、聴くものが全然変わりました。

――この二人、ちょっと年齢差があるけれど。

宇野:ちょっとどころじゃないかもしれない。

平牧:小学校、かぶってないから(笑)。

――年齢や聴いてるものは違うけど、どこかに共通点があった。

宇野:というよりは、全然違うものだから面白いんですね。その観点で言うと、僕は歌詞よりも雰囲気で聴く、曲で聴く人間なので。いいとこ取りというか、僕にないものを持っているという。

平牧:だから、ぶつからないんですよ。僕が中身を作ると、悠人が今っぽく外側を作ってくれる。僕は言葉のチョイスとか、アレンジの案も出しますけど、最終的には悠人のジャッジのほうが正しかったりするので。そこは助かりますね。

――作詞作曲とピアノが平牧仁、歌が宇野悠人という分業スタイルですか。

宇野:今のところ、そうです。

平牧:決めてやったわけじゃないんですけど、そうなっちゃった。

宇野:作って来る曲が良いんですよ。だけど百発百中じゃないというか、自分で言うのも何ですけど、僕はそこを見極めるのが得意なんですよ。だから一回僕のフィルターを通して、僕らに合ってるものをチョイスして。

平牧:この年齢差が、幅になればいいと思うんですね。僕の世界観が刺さる層もいれば、悠人の感覚が加わって、もっと若い層にも刺さるサウンドになっていると思うし、それがほかにはない特徴や武器になっていくんだなって、これ(アルバム)を作って思いました。

――そして去年の11月のワンマン・ライブ。渋谷duoがソールド・アウトになって、CDも出していないのに、すごいなと。

宇野:あれはすごかったです。CDも出てないのに、あんなにお客さんが来てくれて、いい曲だなって思いながら聴いてくれるなんて。でもそれも、お互いがソロでやっていた時の…。

平牧:ファースト・ライブという、ご祝儀的なものもあったでしょうけど、一番はドラマ性が勝ったのかなと思っています。悠人のストーリーと、僕のストーリーと、二人が組んだ面白さがああいう動員に結びついたと思うので、本番はこのあとだと思っています。そもそもあの時は、先のことを全く考えずに、「ユニット結成発表と同時にワンマン発表って面白くない?」とか言って、ガワだけ決めて発表しちゃった。

宇野:その時は普通に働いていたし、事務所に入る気もなかったし、お遊びで考えた話なので。計画性があったわけではないです。

平牧:僕ら、後付けのプロだと思っているんですけど(笑)。ワンマンのタイトルを決める時も、シキドロップをもじって「シキハメグル」にしようかって、思い付きで決めちゃったんですよ。それがまさかアルバムのタイトルになるとは思わずに。当時は、四季の歌を作るとは決めてなかったし。僕にしても、前の相方と一緒にやった最後のライブがduoだったので、そこから再出発するという意味が「シキハメグル」というタイトルに繋がっていたり、自分でもすごく面白いです。後付けのプロですね。

――そもそも、ユニット名が何でシキドロップに?

宇野:それも言っちゃえば後付けのプロなんですけど(笑)。候補が二つあって、そのうち一つが「シキ」だったんですけど、「シキなんとか」のほうがいいと思ったんですよね。ただ日本の文化を強調するんじゃなくて、違うものの中に日本の要素がちょっと入ることがかっこいいと思うので。何かいい名前ないかなって、風呂に入って考えてたら、シキ、シキ…シキドロップって出てきた。

平牧:そこからも後付けのプロで(笑)。僕はずっと「さよなら」をテーマに曲を作ってきたんですけど、四季は巡るもので、終わることが永遠にないじゃないですか。たとえば桜は咲いて散ってしまうけれど、来年また違う桜として蘇る。だから四季=シキがいいと思ったんですけど、そこに悠人がドロップをつけてくれたことで、四季折々のものを混ぜて一粒にするという意味合いになった。

宇野:でもそれは、元々彼の中にあったものだから。かっこよく言えば、僕はそれを汲み取っただけで。そういうことがすごく多いんだよね。

平牧:僕は頭でっかちというか、いろいろ考えながら日々を暮らしているので。そこに何かの拍子で穴が開いた時に出て来る言葉があって。「シキハメグル」という言葉も、たぶん元々内在していて、たまたま繋がったということかな?と思います。

宇野:たまたまなんだけど、たまたまじゃなさそう、みたいな。
■僕の歌詞は怨念がすごくて情緒豊かに歌ったら演歌の世界になっちゃう
■それが悠人というフィルターを通して歌うことで聴きやすくなっている

――そしてついにファースト・ミニ・アルバム『シキハメグル』が世に出ました。オープニングのインスト「キミへ」があって、春夏秋冬を表す4曲があって、「シキハメグル」で総括して、アンコールのように「PS」がある。コンセプチュアルに、すごく良くできていますよ。

平牧:今できる最高のものは作れたと思います。ミニ・アルバムにして正解だったね。

宇野:正解だった。名刺代わりのものを作りたいと思っていたので、曲数が少ないと、より濃くなるじゃないですか。今の僕らはこれだぞ、という証明になったと思います。

――一貫してあるのは、「さよなら」というテーマ、和を感じる音階やアレンジ、花鳥風月に思いを乗せる歌詞。どういう作り方をするんですか。

平牧:言葉にならないから音楽を作ると僕は思っていて、全て言葉にできるような器用な人間だったら音楽はやっていないので。不器用なものをあえて溜めるようにして、それがこぼれた瞬間に曲になるので、作り方と言われても説明するのが難しいんですけど。今回のテーマは、「どうしてこんなさようなら」(*「おぼろ桜」の歌詞)になったのかという思いを、全部ふくらませただけの曲だったりするんですよ。それを春夏秋冬にしたのは、月日が経つと、その人との楽しい思い出を急に思い出したり、逆に怒りがこみ上げたり、いろいろあるじゃないですか。それって四季の移ろいと一緒で、感情も移ろっていくということで。それと、春夏秋冬の4曲「おぼろ桜」「ホタル花火」「さくら紅葉」「なごり霙」は全部、上から下に落ちていくものをテーマにしてるんです。それこそドロップ=落ちる、ですよね。それで「どうしてこんなさようなら」をひたすら歌っている、呪いのような歌です(笑)。細かいメッセージとか、いらないと思ってるんですよ。本当に伝えたいことは、「好きだ」「憎い」とか、「愛してる」「また会いたい」とか、最上級の気持ちってとても簡略化されると思うんです。だから、サビには絶対そういう言葉を入れています。

宇野:自分の人生に当てはめて、四季を感じ取ってほしい。僕も、自分の経験に当てはめて歌っているので、みんなも好きに感じ取っていいよということです。

平牧:人の気持ちは、みんな同じだと思うんですよ。友達にしろ家族にしろ恋人にしろ、誰かのことを「愛したい」と思った時に、その気持ちは一個しかないという、そういう歌なので。シチュエーションは違えど、人を思う心は一緒だなと思えば、これはなくした友達の歌かもしれないし、恋人なのかもしれないし。

宇野:好きなように聴いてくださいということですね。
――言語感覚が面白い。「さくら紅葉」「なごり霙」とか。歌詞で誰かに影響を受けたとかは?

平牧:最近だとamazarashi竹原ピストルさんとか、すごく好きです。僕のルーツで言ったら鬼束ちひろさん、一青窈さん、ユーミンさん、山下達郎さんとか、大御所の方もすごく好きです。ブルーハーツや椎名林檎さんも。斜に構えないで、物事に正面から向き合う歌詞が好きですね。不器用だけど、傷つきながらもこうありたいみたいな歌のほうが得意というか、僕が書いて面白いのはこういう歌詞なんだろうなと思います。

――悠人くんが歌う時は、歌詞を意識する?

宇野:いや、何もないです。僕はさっきも言ったように、歌詞で歌をほとんど聴かないので。これは前に仁ちゃんが言ったと思うんですけど、「歌が乗るから歌詞なんだ」って。詩じゃないんだって。僕はその考えが強く出ちゃうタイプで、歌詞は歌って初めて歌になるから、感じ取るものだと思うので、特に何も考えずに、出て来るものを出しています。

平牧:それが悠人のいいところだと思っています。僕の歌詞は情緒的というか、怨念がすごくこもっている歌詞なので、これを本当に情緒豊かに歌ったら、演歌の世界になっちゃうと思うんですよ。それが悠人というフィルターを通して歌うことで成立して、すごく聴きやすくなっている。あくまで僕はJ-POPの枠の中でやりたいので、悠人が歌うことで、10代にも聴きやすい曲になるでしょうし。

――どんな人に届いてほしいというイメージがありますか。

宇野:最初に戻るんですけど、シキドロップの名刺代わりの作品なので、いろんな人に聴いてもらいたいです。年齢層を絞って作ったわけでもないし、自分の人生に当てはめて聴いてほしいです。

平牧:欲を言えば、僕が10代の頃に鬼束ちひろさんとか、センセーショナルな出会いがあったので。たとえばこのアルバムを、17歳の不登校の子が聴いて、価値観が変わるような、そのぐらい僕は命を削って作ったアルバムなので。大きい出会いになるようなアルバムになってほしいなと思います。

――最後に、今後の話をしましょう。何かのインタビューで、東京ドームを目指すと言ってたのを見たけれど。目標はそこですか。

宇野:もちろん目指します。僕は、ライブは好きじゃないけど、ライブに挑戦するのは好きなので。それは、大きなところへ行けば変わるのかな?という思いもあるし、大きなところへ行けば、自分のやりたいことがもっとできるようになるだろうし、そういった意味も含めて、一番は多くの人に聴いてもらいたいので。僕みたいに、動画サイトにシキドロップのカバーをどんどん投稿して、シキドロップのCDが全然売れないぐらいカバーしてくれれば嬉しいです。

――おっと。それ、書いちゃっていいのかな。

宇野:いいです。売れるための音楽は、好きじゃないんですよ。そもそも僕が最初に動画投稿した理由は、ただ歌うのが好きだったからで、音楽業界なんてぶっつぶれないかなって思って、動画投稿を続けていたので。それが今度は、自分たちが反対側になるわけじゃないですか。だから自分たちも、売れるための音楽はしたくないし、みんなも、売れるための音楽をどんどんぶっつぶして、自分の好きな音楽だけでやっていってほしい。僕らが東京ドームに行けば、一つの結果になるから。みんなも頑張りましょうという感じです。

取材・文●宮本英夫
リリース情報

1st.ミニアルバム『シキハメグル』
2019.3.21 リリース
1.キミへ
2.おぼろ桜
3.ホタル花火
4.さくら紅葉
5.なごり霙
6.シキハメグル
7.P.S.

ライブ・イベント情報

<シキドロップ「宴 ~夏の夜半~」>
6月29日(土) 青山 月見ル君想フ

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