水曜日のカンパネラ コムアイ「イマ
ジネーションへの信頼」

4月3日19時、水曜日のカンパネラの新作EP『YAKUSHIMA TREASURE』のリリースとドキュメンタリー作品『Re:SET』の公開記念トークイベントがYouTube Space Tokyoで行われた。コムアイがMV監督の鎌谷聡次郎やEPのプロデュースを行ったオオルタイチらを迎えて行った1時間半のトークイベントは、屋久島で制作された同作の魅力や裏話に留まらず、コムアイのこれからやクリエイションにおける立ち位置などが垣間見える、示唆に富んだ時間となった。その様子をレポートする。

Photography_Youtube
Text_Osamu Onuma


「なんとなく」を大切にすることはとて
も大事

「都会ちょっとしんどくないですか?」

イベントの終盤で、コムアイはそう呟いた。ここは六本木ヒルズの中にあるYouTube Space Tokyo。窓の外には東京の夜景が広がっている。都会の象徴とも言えるこの場所で投げかけられたコムアイからの問いは、一見アンビバレントだが、そこから今の彼女の心情の機微がうかがえる。

新作EP『YAKUSHIMA TREASURE』は、コムアイが屋久島に何度も足を運ぶ中で生まれた作品だ。まずYouTube Originalsから「何かとコラボして、新しい楽曲とMVを作ってほしい」という依頼があり、そこからコラボ対象に屋久島が浮上。もともとは1曲だけの制作の予定だったが、同行したプロデューサー・オオルタイチ氏のフィールドレコーディングの収穫が予想以上に大きく、1曲ではなくEPとして発表することになったという。

『Re:SET』はその制作の過程を追ったドキュメンタリー。屋久島の大自然に触れ、現地の住民とコミュニケーションするコムアイの姿が、2017年3月の日本武道館公演以降の葛藤とともに描かれている。
トークイベントはYouTube Originals クリエイティブ・プロデューサーの杉塚崇氏が進行役を務め、コムアイがドキュメンタリー、MV、EPとそれぞれに関わったクリエイターを交えてトークを展開した。

まず最初はドキュメンタリー作品『Re:SET』について。同作のプロデューサー、ROBOTの松原史和氏とともにステージに現れたコムアイは、襟にカラフルな紐をあしらったモスグリーンのブルゾンを羽織り、肌と同化するベージュのドレスに裸足という出で立ち。右手には「優しいメリケンサック」と称する金色のアクセサリーを嵌めたその姿は、何らかの生態系を彷彿とさせる。
杉塚氏が屋久島をコラボレーションの対象に選んだ理由を聞くと、コムアイは「なんとなく」だったと、明確な動機というよりインスピレーションに導かれた結果であることを話す。続いて杉塚氏は松原氏に『Re:SET』というドキュメンタリーの核に「武道館公演を終えてから、『本当に良いと思えることをやっているか』『どう見られるかを気にしている』と葛藤するコムアイ」を据えた理由を聞くと、「自然に身を置きたいとコムアイが思っているのはどうしてなのか」を考えながら過去の発言を調べていったと話し、コムアイのことを「考えるのが好きな子」と評した。
そんな風に「なんとなく」候補として挙がった屋久島だったが、それが大きな資本が動く企画として通るかはまた別の問題。実現するまでの大変さを語り、そのために動いてくれた杉塚氏や松原氏の苦労をねぎらいつつ、コムアイは「その“なんとなく”を大切にすることはとても大事」と強調する。

実際、具体的な方向性を定めないことで感性を解き放てることもある。屋久島で印象に残ったものを聞かれたコムアイは、その解放された感性で、聞くものの想像力を喚起する言葉をいくつも発していた。大川の滝のふもとに近づいたら「ステンドグラス越しの教会の光に祝福されているみたいだった」、顕微鏡で苔を観察したら「森に見えたり、惑星に見えたり」、期間中に雨天が続いたことを「屋久島を雨の印象で覚えていられるのが幸せ」……その言葉たちは、屋久島に行ったことがない人にも、圧倒的で美しい景色を想起させてくれた。

「宇宙人」の先輩たちとのクリエイショ

そんな屋久島での体験を結晶化させた「屋久の日月節(やくのじつげつぶし)」のMVが流れる。屋久島の森の中で生まれたコムアイが、たくさんの生命とともに形を変えながら朽ちては生まれを繰り返すMVで、コムアイは映像を見ながらオリエンタルなメロディを口ずさんでいた。

MVを観終えると、本作の監督を務めた鎌谷聡次郎監督とCG制作の早井亨氏が登場。コムアイは隣に座った鎌谷監督に、興奮気味に「全世界で今年一番だと思う!」と話しかけていた。
コムアイによれば、「鎌谷さんも(オオル)タイチさんも宇宙人」。「私も宇宙人だと思っているけどレベルが低くてまだまだだから、二人は先輩」とリスペクトを示した。

鎌谷監督が水曜日のカンパネラのMVを手がけるのは、フルアニメーションだった「バク」に続いて2作目。水曜日のカンパネラとの制作はいつも「良い感じのキーワードやプレッシャーを漂わせた発注」と、作り手のクリエイティビティを尊重してくれるものであることを話した。
CG制作の早井亨氏からは、屋久島の自然の中に溶け込むCGの苦労話も。コムアイはその出来を絶賛し、「木が溶けていくところは脳の無駄なものも一緒にさーって溶ける感じがする」と笑顔でコメントしていた。

場を活性化させる、「土いじりをする人
」としてのコムアイ

続いて、プロデュースを務めたオオルタイチが加わり、EP『YAKUSHIMA TREASURE』の話へ。オオルタイチはこれまでに「ユタ」「愛しいものたちへ」といった曲を提供しているが、1枚まるごと関わるのは今作が初となる。オオルタイチは「音楽家として鍛えられた」と屋久島での創作が手応えのあるものだったことを話し、コムアイは「タイチさんがやりたいようにやってくれるのが一番良い」と信頼を言葉にした。
それからコムアイは「作家の横で見ているのが好きなのかな」「ヒントを言うのが仕事」と、自身のスタンスに言及する。このスタンスは、水曜日のカンパネラのこれまでのクリエイションでも、鎌谷監督とのMV制作でも一貫したもののようだ。先ほどのMVについてのトークでも、鎌谷監督とコムアイの間でこんな話があった。

コムアイが一度インタビューをしたという、人工生命などを研究する池上高志氏のことに話題が及び、鎌谷監督は池上氏の「土いじりは土壌内の微生物のネットワークを複雑化させて、土を肥やす行為」という話を引き合いに出した。そのうえで、「それぞれが好きなことをやっているけど、カルチャーもマクロな視点で見ると相互に関係している。そこまで思考を広げてくれるのがコムアイちゃんとの仕事」と話していた。コムアイからは「無理矢理まとめなくていいよ!(笑)」と突っ込みが入っていたが、場を活性化させる「土いじり」をする人、というのは、制作におけるコムアイの「ヒントを言うのが仕事」という言葉とも一致するように思える。

コムアイとオオルタイチが「屋久の日月節」のビートがカエルの心音であることや、洞窟の中で声を出してみるなど、フィールドレコーディングの裏話を語る一方で、作品そのものに対しては鎌谷監督が一番熱っぽく語っていたことも印象的だった。「3曲目では三途の川を流されていって、4曲目では太陽の熱を感じて、次の『海に消えたあなた』には死んでいく漁師の気持ちみたいな哀愁があって……」と、EPを聴きながらどんなストーリーが感じられたのかを早口で語る姿は、まさにソリッドなクリエイションが相互に影響し合うその熱を伝えている。鎌谷監督が「演出が図太くて悔しかった」と話すと、コムアイは「うれしい。本当に作りながら考えていた景色がそのまま伝わるんだな」と改めて手応えを言葉にしていた。

「生きろ。」と「屋久の日月節」の、対
照的な死生観

早くもイベントは終盤となり、会場やライブ配信を見ている人からの質問コーナーへ。ここでコムアイが口にしたのが、冒頭の「都会ちょっとしんどくないですか?」だ。おばあちゃんたちが農作業をしながら口ずさむ歌を「生活の歌」「歌の原点」と形容しながら、素朴な声色でつぶやいたのだった。

3月にMVが公開された水曜日のカンパネラとyahyelのコラボ曲「生きろ。」には、こんな歌詞がある。

“あの日新宿駅で朝の光が血の海を照らした
澄んだ空気が 人がひとり飛び込んだ
命が蒸発する様”
コムアイが以前新宿駅で見た人身事故、都会における閉塞的で行き場のない死。その光景が綴られている。こうしたしんどさから身を守るように、コムアイは屋久島という場所を選んだのかもしれない。「屋久の日月節」のMVでは、コムアイが自然の中で生まれては朽ちていく姿が描かれているが、同じ「死」だとしてもそこには生命の循環が描かれており、「生きろ。」とは対照的だ。

そして、コムアイは今作にはアイヌの影響があること、最近は南インドにも行っていて、色んな場所を旅していることを明かす。そのうえで、「今回のプロジェクトを他のところでもやりたい」と思いを口にした。

土着の風土が顕現する場所をめぐっているコムアイの経験は、今後また別の作品にも現れてくるのだろうか。それはまだわからないが、この感覚がコムアイの世界観に少なからず影響を与えているのはたしかだろう。

イメージから浮かび上がるヒントを受け
取ること

そうして様々な場所へ足を運んでいるコムアイだが、観客からの「屋久島のここを知ってほしいというところは?」という質問には、「大川の滝に行ってほしい」と答えつつ、「行かなくても受け取る努力も大事じゃないかと思っていて」と続ける。

「屋久島に行っていなくても、脳の中で屋久島のイメージってあるじゃないですか。その印象にもヒントはいっぱいあって、それを受け取ることのほうが重要な気がする」

そこに行かなくても、イメージから浮かび上がるヒントを受け取ること。今回のコムアイの体験とは相反するようだが、ある意味でYouTube的とも言えるのではないか。そして、その発言の真意はやはり、人間が持つインスピレーション、イマジネーションへの信頼なのだ。だからコムアイは鎌谷監督やオオルタイチとの制作の中でも、統制ではなく「土いじり」をする。そうして活性化したフィールドで、刺激的な作品がまた一つ芽吹く。

イベントの最後にコムアイは、『YAKUSHIMA TREASURE』『Re:SET』という二つの作品についてこうコメントした。

「(『Re:SET』では)良いことは言えていないと思うけど、一人の人間が悩んでいる姿にもヒントがあると思う。気に入らなかったらそれで大丈夫。音楽は、作品とはそういうものなので、素直な感想が聞きたいです」

その表情は清々しく穏やかだった。そこには、自分が良いと思うものを追求できた自負と、作品に触れる人たちへの信頼が感じられる。この作品からどんなイメージを受け取るのか。その種子は、コムアイから私たちへと手渡された。
水曜日のカンパネラ コムアイ「イマジネーションへの信頼」はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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