インドア・フェス『Q』が神戸にて初
開催ーーGODIEGO、Cornelius、ハナレ
グミら6組が魅せた、音楽がもたらす
温かなパワーを知る場に

『Q』2019.3.31(SUN)神戸ワールド記念ホール
福岡で人気のフェス『CIRCLE』の主催者が新たに立ち上げたインドア・フェス『Q』。タイトルに込められたのは“CUE”(素晴らしい音楽に触れる「きっかけ」に)、“休”(最高の休日に)という何ともまっすぐなメッセージだ。その思いに大きく頷きたくなる、先だって行われた神戸場所の模様をたっぷりお届けしよう。
まず開幕の狼煙を上げたのは、ラインアップ最年少の人気者・never young beachだ。この日はneco眠るの森雄大(Gt)をサポートに迎えて臨んだ彼ら。「ペーぺー中のペーペーなので、みんな来てくれるか不安だったんです」なんてフロントマン・安部勇磨(Vo&Gt)の心配をよそに、会場にはホーム感満載のハートウォームな空気が充満! 神戸出身のメンバー・巽啓伍(Ba)なんて「ここでライブ観たこともあるからね!」と感慨深げに語ってくれる。
never young beach
そんな気合い十分な彼らに、オーディエンスも両手を掲げて応戦。刹那のきらめきを閉じ込めたようなまばゆい言葉たち。その歌世界は、まるで遠き時間軸から眺めているような錯覚すらあり、そんなノスタルジーにときめかずにはいられない。トップバッターの大役を見事果たした彼らに、早くも次のステージが待ち遠しい思いとなった。
サウンドチェックでの試奏から既に盛り上がりを見せたのは2番手・ペトロールズだ。長岡亮介(Vo&Gt)、三浦淳悟(Ba&Cho)、河村俊秀(Dr&Cho)から成るトリオは、それぞれにバンド外での活動も盛んな巧者たちだけあって、最早彼らの音を聴けばオートマティックにノらざるを得ない! そんな本能に訴えかける極太グルーヴの応酬はただテクニカルなだけでなく、哀愁やどこか血の流れも伴った人間臭さを感じさせるのだから、何と魅力的な3人だろう。
ペトロールズ
押し引きの妙もまた特色で、泣きのギターで魅せたかと思いきや、ふっと音を止めコーラスで繋ぐことを多用。歌声も楽器のように配するクレバーさにも惚れ惚れするほどだ。スリリングなジャム感あるプレイはもちろん、こんな心地よさをもたらすサウンドメイクも見せつけ、トリオの限界値などないことを鮮やかに提示してくれた。
「天然のディレイだね」と響きの良いこのホールに、とても満足そうな表情を浮かべるは原田郁子(Vo&Key)。今年デビュー20周年を迎えたクラムボンのステージは、客席一人ひとりの体中を駆け巡る、生命力滾る時間となった。アニバーサリーのタイミングとあって、初期作も含むセットリストに会場の歓喜は抑制不能! 好き好きにプレイしているような自由さとセッション感、かと思えばぴったり呼応するこのトリオの阿吽の呼吸ぶりには、しみじみ驚かされるばかりだ。
クラムボン
清廉な原田の歌声と縦横無尽なる鍵盤は時に軽やかに、また時にオーディエンスの意識を深淵まで深く深く、ダイブさせていく。かと思えば、ミト(Ba&Vo)が紡ぐスリリングなリズムは鮮烈なインパクトで私たちの眼前まで音塊を放ち、伊藤大助(Dr)が鳴らす雷のようなドラミングは足元まで衝撃がビリビリ伝播するよう! センチメンタルなアンサンブルに合わせゆらゆら揺れるオーディエンスの姿も、全員でクリエイトしているような、そんな美しい光景が生まれていく。ラスト、神々しさすら感じさせる圧倒的なプレイも飛び出すなど、終始マジカルな音空間をもたらしてくれた。
ハイライトだらけの『Q』において、間違いなく大きなクライマックスのひとつとなったのはGODIEGOのステージだろう。70~80年代をバンドと共に駆け抜けた同世代組や、子ども時代のヒーローだったアラフォー、さらに初体験だろう若き面々まで…。ワールド記念ホールに集う全ての人々を釘付けにし、悠久のサウンドジャーニーへと連れ出してくれるひとときは、誰しもがキラキラ、少年少女の表情を浮かべているのが実に印象的だ。ホーン隊も伴った大所帯編成をまとめるのは、もちろんタケカワユキヒデ(Vo)。どこまでも懐の深い歌声と、ステージの端から端まで煽り続けるフレッシュな姿が何とも心憎い。それにしても彼らが提示する永遠不滅の躍動は、何とポピュラリティにあふれているのだろう。
GODIEGO
惜しみない代表曲の洪水にポップスの極点を見るような……そんな素敵なパーティを締め括るラストソングは、この地への思いを込めた「ポートピア」だ。ムーディーなバラードからの加速に、まるでタケカワはコンダクターのように場を操り、パノラマ感いっぱいのエンドマークへ! 大団円という言葉がここまでふさわしいステージはきっと今を置いてはない、そんな圧巻たる時間となった。
「春だねぇ、桜咲いてるよ」とニコニコしながらも瞬時に場を掌握。続いてはギターを手にした吟遊詩人・ハナレグミのお出ましだ。伊藤大地(Dr)、伊賀航(Ba)、YOSSY(Key)、石井マサユキ(Gt)と名うてのプレイヤーらと描くサウンドは底抜けにリラクシン。なんてったって、ハナレグミ=永積タカシが誰よりも楽しそうにふるまうのだから、こちらも笑顔にならずにはいられないのだ。そんなサニーな空気ですっかり満タンのなか、神戸らしい洒落たシティポップスでも魅了。
ハナレグミ
艶やかなメロディラインをなぞるボーカルは、その吐息にすらドラマを感じさせてくれる。前半の軽快さとは裏腹に、悲しみも苦みもないまぜに、人肌の温かみある彼の歌声は穴ぼこだらけの心へやさしく流れ込んでいくよう。そんな雲間から射すハナレグミの“うたごころ”という光を受けて、いよいよ“本日の結びの一番”へ!
ハナレグミの余韻をたっぷり全身に残しつつも、これまでとは違った転換作業に思わず目を奪われた人も多いはず。すっかり紗幕に覆われたステージはこれから始まる“事件”ごと内包するようで心地よい緊張が走る。と暗転するや、『Q』神戸場所の“結びの大一番”=Corneliusが登壇する! 紗幕に浮かぶ横一列に並んだ4人のシルエットに大歓声が湧き上がった。ドラマティックに幕が落ちるや揃いの白の衣装に身を包んだ大野由美子(Ba&Key)、あらきゆうこ(Dr)、堀江博久(Key&Gt&)、そして小山田圭吾(Vo&Gt)が姿を現わす。無表情・無感情を装った彼らは、正確無比なマシーンのように次々音を撃つ。それは一瞬を切り貼りするエディット作業のようでありながら、生々しさを隠した実に巧妙なアンサンブルだ。
Cornelius
次々に移ろうムービーとシンクロするサウンドメイクに視覚・聴覚を刺激され、果ては脳内をじわじわ侵食されていく感覚には快感すら覚えるほど。かといってサイケデリックなわけではない。小山田圭吾の少年性を投影したようなピュアネスが音のそこかしこに覗き、果てない宇宙にたゆたうような純然たるトリップ感をもたらしていく。終わってみればあっという間の全11曲、すこぶる特異的ながらも音を奏でる根源的な歓びが詰まったステージングとなった。
新感覚のインドア・フェス『Q』の開幕となった神戸場所。6組の取組はどれもこれもユニークで、でも共通して音楽がもたらす多様なパワーを再確認させてくれた。歌い踊る、演者だけでなくオーディエンス全体で共に作り上げた音空間は、親密なインドアフェスならではのことじゃないだろうか。
そんな至福のひとときが幕を閉じようとするなか、イベンターの清水音泉・清水氏による終演を告げるアナウンスに「来年度も続けたいと思っています」という嬉しい言葉があったことは、ぜひとも書き残しておきたい。続く東京場所でも、極上の“休”日が待っているはず、お楽しみに!
取材・文=後藤愛 

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