【観劇レポート】多彩なキャストで慶
長の「芸能戦国時代」を描く『ミュー
ジカル ふたり阿国』

皆川博子の小説『二人阿国』を新たに舞台化した、『ミュージカル ふたり阿国』(演出・脚本:田尾下哲、脚本:中屋敷法仁)が、明治座にて4月15日まで上演されている。公演二日目の舞台を観た(3月30日12時の部)。
――時は慶長五年。両親と共に芸を見せながら旅して回るお丹(峯岸みなみ)は、ふと見た女性の能楽師の姿に魅せられる。そのころ、京の都では、出雲の阿国(北翔海莉)のやや子踊りが民衆を熱狂させていた。戦乱の世にあって、己の信じる芸、能を追求し続けようとするお丹は、阿国一座に加わり、佐渡国へと旅に出る。そこで、かつてその地に流された世阿弥について聞かされるお丹。ある出来事により、阿国との決別を決意したお丹は、京に戻って「佐渡島おくに」と名乗り、遊女踊りの一座を率いて人気を博す。そして、阿国とお丹は、「おくに」の名を賭けて、北野天満宮で雌雄を決することとなる――。

そんな物語を彩るのは、ゴスペル、ムード歌謡、アイドル・ポップス風等々、バリエーション豊富な楽曲の数々(作曲・音楽監督:玉麻尚一)。例えば、能の真髄を知ったお丹が、「佐渡島おくに」の名のもと、人々を従えて歌い踊るはアイドル・ポップス。バテレン大名の城で阿国が主に祈りを捧げる曲はゴスペルといった案配である。北翔海莉、峯岸みなみ、玉城裕規、坂元健児、コング桑田、モト冬樹と、キャストには、多彩な芸のバックグラウンドをもつ人々が揃っており、それぞれのもつ芸を生かそうとする制作意図が感じられる。脚本の中屋敷法仁が公演プログラムで述べていることとも重なるが、慶長の「芸能戦国時代」を、現代日本の芸能界のさまざまなジャンルから集った人々によって描こうという試みなのだろう。
『ミュージカル ふたり阿国』峯岸みなみ
阿国に憧れ、そして憎み、芸で天下を取ろうとするお丹。演じる峯岸みなみは、舞台に、芸に、ひたむきに向き合う自らの姿勢を、お丹に自然に重ね合わせている。外部舞台初出演となる『三文オペラ』(2018)のルーシー役でもキュートさが光っていたが、今回の舞台でも無垢な魅力が好感度大。遊女踊りの一座を率いる場面では、さすがAKB48の一期生という華やかさを発揮している。今後、舞台作品でのますますの活躍を期待したい人である。
対する阿国を演じる北翔海莉は、宝塚歌劇団の実力派トップスターとして鳴らしただけあるパフォーマンスを展開。キレのある殺陣を披露するシーンもあり、男役時代からの彼女のファンにとってはたまらない作品だろう。宝塚の舞台になじみのある観客にとっては、娘役出身の桜一花が変わらぬ芸達者ぶりを発揮、男役出身の鳳翔大がきりっとした女性らしさを見せていることもうれしいところ。阿国とお丹がさまざまなしがらみから解き放たれ、桜吹雪の下、橋の上で二人歌うシーンには美しさがある。
『ミュージカル ふたり阿国』北翔海莉
出演者が客席降りするにぎやかなシーンも盛り込まれ、休憩中には、モト冬樹が客席に登場し、歩きながらあちこちの観客をいじる楽しい趣向も。食堂には「おくに」対決をもじった「ふたりお肉御膳」が用意されている他、弁当、オフィシャルグッズと、この公演ならではの企画がてんこ盛り。春の明治座での一日を最大限に楽しみたい。
文=藤本真由(舞台評論家)写真=オフィシャル提供

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