【インタビュー】大野雄大、今できる
全てを詰め込んだ意欲作『この道の先
に』

明るい笑顔と賑やかなパフォーマンスの内側に秘めた、リアルなことしか歌えないボーカリストの素顔がここにある。5人組男性ダンス&ボーカルグループDa-iCEのボーカル・大野雄大の初ソロ・アルバム『この道の先に』は、90年代ポップスや洋楽カバー、川畑 要 (CHEMSTRY)とのデュエット、自らによる作詞作曲など、今できる全てを詰め込んだ意欲作。リリース2日前に30歳の誕生日を迎え、大人のボーカリストへと成長を続ける男の飾らない本音を聞こう。

■歌と酒が好きなんです
■感情を解放することができますし

――グループの取材と一人でしゃべる時とでは、やっぱり気持ちは違いますか。
v大野雄大(以下、大野):あ、そうですね。止めてくれる人がいないので、しゃべりすぎるかもしれないです(笑)。ブレーキがついていないもんで。

――行き過ぎた時は我々が止めます(笑)。今回の初ソロ・アルバム、どういうきっかけで作ることになったのでしょうか。

大野:30歳を目の前にして何かやらないかというお話をいただいて、「じゃ、ソロ・アルバムを出したいです」ということになりました。ずっとやりたいなとは思っていて、自分が歌を始めた原点として、自分だけで届けられる角度があると思っていたので、嬉しかったですね。

――結果的にグループのサウンドとはカラーの違う、スロー~ミディアムのじっくり聴かせる曲が揃っていて。それがコンセプト?

大野:いえ、コンセプトはなかったですね。どういう楽曲がいいかな?と考えた時に、自然にこうなった感じです。

――せっかくの機会なので。ルーツを聞いていいですか。ボーカリスト・大野雄大の原点はどこにあるのか。

大野:Da-iCEに入る前は、アップテンポの曲を歌ったことがなくて、バラードしか歌ったことがなかったんです。スナック育ちなんですよ。若い時から先輩たちに連れて行ってもらったりして。

――なんと。スナックって、お酒が飲めてカラオケがあるような。

大野:そうです。すごくいいと思うんですよね。歌が大好きな人が、ベロベロになりながら気持ち良く歌ってるというのが、歌の味もそうですし、人生観もそうですし、哀愁を帯びた背中がかっこいい。特に一人でカウンターに座っている方とかは。選曲もいいんですよね。竹内まりやさん、高橋真梨子さん、河島英五さんとか、そうやって好きになったアーティストのみなさんです。河島英五さんは「酒と泪と男と女」が定番ですけど、僕は「時代おくれ」のほうが好きなんですよ。“一日二杯の酒を飲み”から始まる歌詞を、“一日二、三十杯の”に変えて歌ったりしてます(笑)。

――古き良き歌謡曲やポップスと言いますか。

大野:そういう楽曲が好きなんです。その時に知った中の1曲が、今回のアルバムでカバーさせていただいている、「あなたに逢いたくて ~Missing You~」(松田聖子)だったりするんですけど。

――なるほど! 合点がいきました。年齢にしては昔の曲を知っているなあと思っていたんで。それ、いくつぐらいの時ですか。

大野:まだお酒の飲めない、16歳ぐらいですね。バイトが終わって、早い時間に行っていました。未だにスナックは大好きです。一昨日も行って、まさに「あなたに逢いたくて」を歌ってきました(笑)。

――公私混同じゃないですか(笑)。プライベートと仕事が一致してる。

大野:歌と酒が好きなんです。感情を解放することができますし、あとは僕がきれいに歌っても仕方ないなと思ったので、この曲のレコーディングの時には缶チューハイを3本ぐらい飲んでから歌わせていただいて、並べて聴いてみた時に一番良い声が録れてるんじゃないかと(笑)。小田和正さんのように透明感のある歌の方は、もちろん違う作り方をされると思うんですけど、僕はそういう声ではなくて、粗さやハスキーな部分が味になってるんじゃないかなと思っているので。ちなみに「Desperado」(イーグルス)も、お昼ぐらいからのレコーディングで気が引けたんですけど、朝からコンビニで缶チューハイ買って、けっこう酔っぱらって歌わせてもらいましたね(笑)。

――いいですねえ(笑)。昔のロックやブルースのシンガーで、そういうふうに歌う人はいましたけど、今は珍しいかも。

大野:そう思うと、作詞している時もお酒を飲んでいますし、楽曲制作もレコーディングも、けっこうお酒が詰まってるかもしれないですね。逆に「僕らの不確か」という楽曲は、3、4日お酒を抜いて歌わせてもらいました。この曲はAメロがすごく好きな部分であり難しい部分でもあって、声の種類的に言うとミックス・ボイスという部分を使うことが多いので、そういう曲はお酒を飲んで歌うと声が涸れやすいというか、喉にストレスがかかりやすいので。そういう曲はできるだけきれいに、という気持ちで準備をします。
▲Solo Album 『この道の先に』

――「Changin’ feat. 川畑 要 (CHEMISTRY)」では、川畑 要さんと一緒に歌っています。これは?

大野:きっかけは数年前に、僕たちDa-iCEと川畑さんが同じイベントに出させていただくことがあって、「うわ、川畑さんだ」って見ているだけで幸せだったんですけど、打ち上げでご一緒させていただいて、いろいろお話しして、人としてすごく素敵な男らしい方で、兄貴肌で、そこからちょくちょく連絡を取らせていただいていたんですよ。なかなかタイミングが合わなかったんですけど、この機会にぜひお願いしたいと思って連絡させていただいたら、快く受けていただきました。僕ら世代からしたらレジェンドなので、幸せでした。

――どうですか。二人の声を並べてみると。

大野:やっぱりすごいなと思いました。声の色もそうですし、強さというか、一瞬聴くだけで「川畑さんだ」とわかる声なので。それは作詞作曲してくださった谷口(尚久)さんもおっしゃっていて、「すぐ曲が川畑色になるから」って。自分も年を重ねて、そうなっていきたいと思いました。

――あらためてカバー曲にコメントを。松田聖子「あなたに逢いたくて ~Missing You~」は女性の歌ですよね。それをどんな気持ちで歌ったのでしょうか。

大野:この曲では女性が失恋した時の切ない気持ちが歌われていると思うんですけど、それって男性も同じ気持ちを持っていると思うし、だったら僕なりのアプローチの仕方があると思って、そこを気にしながら歌わせていただきました。単純に男目線の男の気持ちでもハマるし、別れてしまった女性がこういう気持ちになっているんだろうなという、相手の気持ちになっても歌えるというか、そっちのほうがよりせつないのかな?と。

――ああー。なるほど。

大野:“あれから半年の時間が流れてやっと笑えるのよ”とか、すごいな、せつないなと思います。“毎日忙しくしているわ”とか、男の人も絶対にあると思うんですね。嫌なことがあった時に、仕事に没頭したり、趣味に没頭したり、飲みに行ったり。

――今度ぜひスナックで。イーグルス「Desperado」は?

大野:18歳の時に受けたボイス・トレーニングのトレーナーに、「雄大くんに合ってると思う曲がある」って教えていただいた楽曲です。エイベックス・アーティストアカデミーに通わせていただいている時に発表会でも歌わせていただいて、10年以上の付き合いの楽曲ですね。

――これも切ないバラード。

大野:切ないです。この曲も本当にいろんな方がカバーされていて、それぞれまったく違うというか、人によって味が変わる楽曲だなと思って、かなり悩みましたね。どうアプローチするか。

――持ち歌のようですよ。節回しが自分のものになってる。

大野:ありがとうございます。僕の友達は、「Desperado」をカラオケで入れると、「またそれ?」っていうぐらい、メロディを覚えちゃっている人が多いです。
■それは僕の人生だから周りと比べる必要はまったくない
■自分に対して書いてみようと思ったのがきっかけです

――そして今回、自身で作詞作曲に関わったのが3曲。アルバム・タイトルにもなった「この道の先に」は、どんなイメージで作ったんですか。

大野:これは1年半ぐらい前に、地元の友達や周りを見た時に、みんな結婚して子供も3、4人いて、独立して社長になっていたり、家を買っていたり、そんな周りと自分を比べた時に「ヤバイな」と思ったんです。結婚もまだ考えてないですし、もう30歳になるのに大丈夫かな?って不安を抱えたりして、負の連鎖になっちゃう時があって。でも自分は大好きな歌でお仕事させてもらっていて、ステージに立って歌って踊っている時がすごい幸せだし、それは僕の人生だから周りと比べる必要はまったくないなと思った時に、自分に対して書いてみようと思ったのがきっかけです。こういうふうに悩んだり壁にぶち当たっている人は、きっとたくさんいるだろうなと思ったし、仕事、家族、学校と何でもあてはまるなと思って、そういう方にぜひ届いてほしいなと思って書かせてもらった楽曲ですね。

――すらすら出ました?

大野:“なんか今日はうまくいかないことばかり、日頃の行いが悪いからかって自分を慰める”という、最初と最後のフレーズがあるんですけど、これはメロディと一緒に歌詞が出てきたんですよ。小室哲哉さんが昔、「歌は歌詞とメロディが結婚してないとダメなんだ」というようなことをおっしゃっていたんですが、僕は一緒に出て来ることってなかなかないので、まさに「これに近いことなのかな」って思いました。これもお酒を飲みながら作ったんですけど、疲れてどうしようもない時にさらっと歌えてあたたかい、みたいな曲がいいなと思っていて、楽しかったですね、この曲を作るのは。

――今の自分を象徴する1曲。

大野:そうですね。曲調はまったく違うんですけど、「Changin’」も同じ方向を向いてる楽曲です。僕は、この曲はちょっと明るい気持ちになれる楽曲かなと思っていたんですけど、川畑さんにうかがったら「俺はこの曲、泣けるんだよね」とおっしゃっていて。若い頃、夢を追いかけ始めた頃の葛藤をすごく思い出すとおっしゃって、なるほどと。そこでこの曲との向き合い方が少し変わりました。

――そこが10歳の差かも。そういう人生ソングがあって、片方に恋愛ソングがあって。「いつかまた会えるなら」は切ないロスト・ラブソング、ですかね。

大野:と、いうふうに聴こえるように書いたんですけど、この曲は実は、ずっと飼っていた死んじゃった猫に向けて書いた楽曲です。聴き手によってちゃんと恋愛にとらえられるように書きました。なので本当は「君」は「猫」なんです。猫のアツシです。母の初恋の相手の名前ですね。父は名前の由来を知らないんですけど。

――お父さん、切ない(笑)。それはさておき。

大野:死んだのが7月16日で、幼馴染の親友の誕生日だったんですよ。淋しがりやの性格だったんで、忘れられないように友達の誕生日に逝ったのかなとか思ったりしますね。ノンフィクションで書きましたが、ただ一か所だけ、“失くしたモノはもう戻らないと君は口癖のように言っていたね”というところは、実際には言ってないけど、僕は猫と会話することが多かったので、これはペットを飼ったことのある方ならみんなわかることだと思いますね。初恋の時にも「どうかな?」とか、猫に相談したりしたので。そういった時に、こんなこと言ってるんじゃないかな?って感じたことを書きました。
▲Solo Album 『この道の先に』

――そしてアルバムの最後を飾る「MY DEAREST」。これは家族に向けての歌かな。

大野:そうです。親や祖母に向けて。自分の家族構成や、今までのストーリーや、伝えたい気持ちをバーッと殴り書きしたものを作家さんにお渡しして、書き上げていただいたものをまた自分で書き直す、そういうやり方で書かせていただきました。実家は神奈川なんですけど、東京に行くことが多くなって、家にあまり帰らなくなりはじめたぐらいの時の気持ちですね。「アルバムめくるその笑顔はとても穏やかで」というのは、愛知県のおばあちゃんの家でアルバムを見た時に、親戚が集まっている写真があって、小さい僕を抱っこしているおばあちゃんが写っていたり、そういう経験はきっとみんなあるだろうなと思ったし、すごくあたたかいなと思ったので。この曲で一番リアルなのは“あなたに貰ったこの時間、いまほら感じているから笑い話にしてごまかすけど”というところ。昔さんざん迷惑をかけていた時のことを、親とお酒を飲んだりすると「あの時はほんとに大変だったわよ」みたいな笑い話になるけど、実際は親のことを泣かせてしまっていたし、暴言を吐いたり、家出したりしていたので。でも今は“本当にありがとう”という、その気持ちをリアルに書きたかったんですね。ここが歌っていて一番きつくなるところですね。

――ぐっときますね。これはいろんな世代に届く歌詞。このアルバムが、グループのファンはもちろん、どんな人に届くといいなと思いますか。

大野:そうですね、少なからず…Da-iCE自体が、アーティストなのかアイドルなのか僕にもわからないし、人によって見方が違うと思うんですね。アイドルと思う方はアイドルと思ってくださるし、アーティストと思う方はそう思ってくださるし、と思っているので。うーん、なんだろう? でも、より歌を聴いてほしいと思うのがソロですかね。「この道の先に」のミュージック・ビデオは、ほとんどカメラ目線がないんですよ。カメラを見ながら歌うのが実はあまり得意ではなくて、格好つけるのが性に合わないというか、すごくナチュラルな状態のミュージック・ビデオになっていて、「これが僕です」という感じになってます。人見知りで恥ずかしがり屋の面もあるんで。…あれ、質問何でしたっけ。

――あはは。どんな人に届いてほしいかと。

大野:年齢は問わないです。本当にたくさんの人に聴いてほしいと思いますね。親ぐらいの世代の方も、まさに青春真っ盛りの方々にも、同世代にも聴いてもらいたいです。ソロだと、リアルしか歌えないところがあるので、どの世代の方にも共感していただきやすいかなと思っています。

取材・文●宮本英夫
リリース情報

Solo Album 『この道の先に』
2019.04.03(水)発売
※HMV・Loppi限定盤(CD+DVD)
¥2,800 (税込) PROS-1912
【CD】
1. この道の先に(作詞: 大野雄大 作曲: 大野雄大、TAKAROT 編曲: 清水武仁)
2. Changin’ feat. 川畑要(CHEMISTRY)(作詞作曲: 谷口尚久)
3. 僕らの不確か(作詞・作曲: 坂詰美紗子 編曲: 大久保薫
4. あなたに逢いたくて~Missing You~ (作詞: 松田聖子 作曲: 松田聖子、小倉良 編曲: 堀倉彰)
5. いつかまた会えるなら(作詞: 大野雄大 作曲: YU-KI 編曲:TAKAROT)
6. Desperado (作詞作曲: Glenn Lewis Frey, Don Henley 編曲: Atsushi Naruse)
7. MY DEAREST (作詞: SOU by COZMIC CODE、大野雄大 作曲: YU-KI、大野雄大 編曲: KASUMI by COZMIC CODE)
【DVD】
この道の先にMusic Video & The making of この道の先に

ライブ・イベント情報

<ソロアルバムリリース記念ライブ>
2019年4月5日(金)
神奈川・新江ノ島水族館相模大水槽前特設ステージ
料金:6,800円(1F スタンディング2F 全自由席)

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