ベルギー王立リエージュ・フィルハー
モニー管弦楽団を率いて来日する音楽
監督クリスティアン・アルミンクに聞

2003年から2013年まで新日本フィルで音楽監督を務め、2017年から現在も広島交響楽団で首席客演指揮者を務めるクリスティアン・アルミンクが、手兵ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団を引き連れて来日を果たす。新日本フィルの音楽監督時代、意欲的かつ周到に考え抜かれたプログラムでファンを楽しませて来たアルミンクが率いるオーケストラからはどんなサウンドが響くのか。どんなプログラムで来日するのか。小澤征爾音楽塾のオペラ・プロジェクト「カルメン」のリハーサルに明け暮れていたアルミンクを京都まで訪ね、あんなコトやこんなコトを聞いてみた。
取材時、記者をコンサートホールでにこやかにお出迎え。 (c)H.isojima
―― 「カルメン」のリハーサルでは、小澤征爾さんとずっと一緒ですね。
はい。昔からたいへんお世話になっている先生です。今回、3年振りにお会いしたのですが、とてもお元気で、エネルギーに満ち溢れた指揮を隣で拝見出来て嬉しいですね。一緒にやらせて頂けて光栄ですし、大変感謝しています。
小澤征爾先生にはたいへん感謝しています。 (c)H.isojima
―― アルミンクさんは6月から7月にかけて、現在音楽監督をされているベルギー王立リエージュ・フィルを伴って日本ツアーをされますね。ベルギーという国、リエージュという都市、そしてリエージュ・フィルの特徴を教えて頂けますでしょうか。
ベルギーは西ヨーロッパに位置する国で、北側にオランダ、南側にはフランス、東側はドイツ、海を渡って西側にはイギリスに隣接する国で、首都はブリュッセル。EUの本部がある事で知られています。ベルギーと言えば、フライドポテトを連想されるのではありませんか(笑)? 他にもチョコレートやビールも有名です。ビールは600種類以上あって、それらすべてに専用のグラスがあり、地元の人はそれで楽しんでいます。リエージュはフランス語圏である南部ワロン地方の中心都市です。フランクやイザイが生まれた事で知られ、芸術・文化が盛んな都市です。1960年に創設されたリエージュ・フィルは、来年が60周年。ドイツにもフランスにも近い事から、オーケストラのサウンド的にはドイツ特有の仄暗いサウンドと、フランス特有の豊かで華やかな響きを併せ持ったオーケストラです。
リエージュ・フィルはフランスとドイツのオーケストラサウンドの特徴を併せ持っています! (c)Jan Lisiecki
―― エリザベート王妃国際コンクールの開催地は確かベルギーでしたね。ファイナルや受賞記念演奏会はリエージュ・フィルが演奏されるのですか。
はい、演奏します。しかし、ベルギーはオーケストラもたいへん盛んな国です。ファイナリストや受賞者の数によって、複数のオーケストラで割り振るケースもあります。
―― アルミンクさんは、リエージュ・フィルと並行して、2017年からは広島交響楽団の首席客演指揮者もされています。音楽監督ではなく、ゲストコンダクターとして関わる広島交響楽団はどのように映りますか。
私の首席客演指揮者就任と、下野竜也さんの音楽総監督就任の年が同じだったのですが、その年から始まった下野さんが指揮されるシリーズ「新ディスカバリー・シリーズ」のラインナップを見て度肝を抜かれました。“黄昏の維納”というサブタイトルが付いた2年8回に渡るシリーズ企画ですが、スッペの序曲に、シューベルトのシンフォニーがメイン、間に新ウィーン学派のシェーンベルク、ベルク、ヴェーベルンの曲を挟むというもので、大変ビジョンを感じるプログラムに衝撃を受けました。こういうプログラムを見ると、刺激になって嬉しいです。アバドがベルリン・フィルのシェフに就任した頃を思い出しました。
―― そういう意味では、アルミンクさんの新日本フィル時代のプログラムもとても意欲的で、刺激的だったと思いますよ。シリーズ通してのテーマ設定や、新旧、硬軟、組み合わせたプログラミングは、関西から見ていて東京が羨ましかったです。オネゲルの「火刑台上のジャンヌ・ダルク」やシュミットの「七つの封印を有する書」は東京まで聴きに行きました。
ありがとうございます(笑)。プログラム作りは難しいです。新しい作品を紹介する事も大切ですが、確固たるコンセプト、アイデアを持って臨む事が大切だと思います。
アルミンクの意欲的で個性的なプログラム作りには定評がある。 (c)Dominique Houcmant Goldo
―― プログラムに一家言お持ちのアルミンクさんのことですから、今回の日本ツアーのプログラムは大変楽しみです。チラシを見て、お国もののルクーの名前がまず目に飛び込んできました。そしてブラームス、サン=サーンス、モーツァルトに並んでタン・ドゥンの名前が有るのも興味をそそりますね。今回のプログラムを紹介して頂けますか。
ルクーはリエージュの作曲家です。それほど演奏される曲ではありませんが、ぜひ皆さまにお聴き頂きたいと思い、1曲目に演奏させていただきます。「弦楽のためのアダージョ」は、小さな編成でやるケースもありますが、今回は大きな編成で演奏いたします。非常に繊細な音楽で、ロマンチックな部分、メランコリックな部分を持ち合わせ、悲劇性と同時に希望も感じられる曲だと思います。そして最後は「何だ、これは?」とクエスチョンマークで終わる曲。この曲を皆さまにお聴き頂けるのはたいへん嬉しいです。
私がシェフを務めるリエージュ・フィルを、日本の皆さまに紹介出来て光栄です! (c)大杉隼平
―― 2曲目は京都コンサートホールとすみだトリフォニーホールはタン・ドゥンのギター協奏曲。サントリーホールはモーツァルトのピアノ協奏曲第20番ですね。
タン・ドゥンのギター協奏曲「Yi2」は、東洋と西洋の架け橋と云うのでしょうか、一つにするような音楽だと思います。私にはベートーヴェンの第九交響曲のように「すべての人間は、皆兄弟!」と教えてくれているように思えます。私はこの曲をこれまで2回指揮していますが、日本では今回が初演だという話を聞きました。実際のところは分かりませんが、そうだとしたら光栄ですね。鈴木大介さんとは初めて共演します。彼の評判は色々と聞いているだけに、今からご一緒するのが楽しみです。
モーツァルトのピアノ協奏曲第20番は皆さま良くご存じの曲で、もう名曲中の名曲! 第2楽章は天国から降ってくるような音楽で、涙と微笑みが同時に表現されている音楽だと思います。この曲は小林愛実さんのリクエスト。メインのブラームスの交響曲第1番にぴったりだと思います。
リエージュ・フィルのサウンドを知って頂ける作品を並べました! (c)H.isojima
―― メインはブラームスの交響曲第1番とサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」の2曲を用意されています。
このオーケストラを知っていただくために、ベストなシンフォニーを2曲選んで来ました。どちらもリエージュ・フィルにとって、とても大切なレパートリです。
まずブラームスの1番は、私が大好きな曲です。オーケストラからもブラームスをやりたい!という声が上がったので決めました。きちんと構成された、パーフェクトな交響曲です。とても有名な曲なので、皆さま良くご存じのはず。このオーケストラの実力を分かって頂けると思いますし、必ず気に入って頂けると思います。
サン=サーンスの交響曲は、現在オーケストラと順次録音しているところです。音楽的な言語をオーケストラのメンバーが良く判っているだけに、お家芸と言える曲ですね。ソリストのエスケシュは作曲家でもあり、即興の名手としても知られています。新日本フィルでは、彼のヴァイオリン協奏曲をルノー・カプソンの独奏で日本初演しました。この曲の持つドラマ性を表現するにはぴったりのソリストだと思います。この曲、オルガンとオーケストラのコンビネーションはただ事ではありません。フィナーレの爆発的な盛り上がりまで、一気に駆け抜けていきます。どうぞお楽しみください。
皆さまにリエージュ・フィルの魅力が伝わる事を確信しています! (c)Anthony Dehez
―― 最後に、読者の皆さまにメッセージをお願いします。
今回のツアーは東京2か所と京都ですが、私の仲間ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管002弦楽団を、愛する日本の皆さまにお聴き頂けることは大変光栄です。オーケストラの個性が色濃く表れる勝負曲を携えて参ります。どうぞ会場に足をお運びくださいますようお願い申し上げます。皆さまとの出会いを心待ちにしております。
皆さまのお越しをコンサート会場でお待ちしています! (c)H.isojima
取材・文=磯島浩彰

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