一杯のワインが被災地復興の支援にな
る『ファインズチャリティ試飲会』が
今年も開催

皆さんは普段いくらぐらいのワインを飲んでいますか? 1,000円台? 2,000円台? ちょっと奮発して5,000円台というところか。でも、奮発して買ったそのワインが口に合わず、がっかりした経験はないだろうか。
ワインショップを訪れて、鍵のかかったセラーケースに並ぶ有名シャトーのワインの価格をみて「高いワインはさぞかし美味しいんだろうなぁ……あー、飲んでみたいぃ!」と思った経験はないだろうか。「自分に合うワインを知りたい」「高いワインを飲んでみたい」。そんな欲張りな気持ちに応えてくれるイベントが、ここで紹介する『ファインズチャリティ試飲会』だ。
始まりは2011年3月11日の東日本大震災がきっかけ。世界のワイン生産者から寄せられた「何か日本のために協力したい」という気持ちと、ファインワインの輸入販売を行っている株式会社ファインズの「何かワインを通じて出来ることで応援したい」という想いがあわさってスタートした。
災害支援のプロフェッショナル・Civic Force(シビック・フォース)とタッグを組み、一杯のワインが被災地復興の支援となるチャリティイベントで、今年で9回目を迎える。
さっそくイベントを覗いてみよう。会場は恵比寿にある「EBiS303 イベントホール」。受付をすると、試飲に使ったワイングラス用の箱と、口の中の味覚余韻をリセットするためのグリッシーニ、ミネラルウォーターが入った手提げ袋と冊子を渡される。続いて会場入口で試飲用のワイングラスを受け取り入場。
会場では「皆様、試飲につきましてご案内いたします。今回は100種類以上のワインのご試飲ができます。全部飲み込まれますとワインボトル2本分に相当いたします。体調に合わせてお水も充分にお飲みください」とアナウンス。ボトル2本分になるとは、これは気をつけなくてはなりませぬ。
冊子に掲載されている、ワインコーナーの会場マップをたよりに試飲のスタートである。ワインによっては、なるべくたくさんの人に試飲してもらうために、一人1回限りのものもある。
貧乏性故か、酒は高いものから飲め(酔ってしまうと味が分からなくなるから)という酒飲みの性か、自然とこの会場で一番高いワインが試飲できるブースへ足が進んでしまう。
それはフランスはブルゴーニュのドメーヌ・AF・グロの「リシュブール2013」である。ファインズの冊子によると生産量は約3,000本と極めて少量。参考価格は89,200円という高級ワインである。ボトルの価格だから、レストランなどでいただくとなると20万円~30万円といったところか。もちろん一人1回限りの試飲。
しずしずというかうやうやしくというか、ワイングラスを差し出すと、美しい赤い液体が注がれる。思ったより多く注いでくれるではないか、という嬉しい思いは顔に出さずスタンディングテーブルに。
冊子やテーブルに置いてあるテイスティングの方法を参考にいただこう。まずは「色を見る」(種類によって、透き通ったルビー色のものあれば、ほんのり濁りが見えるものもある)、次に「香りをかぐ」(ワインの場合の香りはアロマと言うのが通)、そしていよいよ「口に含む」(口の中でワインを転がし味わい、鼻から息を抜くとアロマの余韻がよく分かる)である。で、最後は「ワインを吐き出す」とあるが、もったいないので喉越しも楽しむためにゴクリしてしまう。複雑なアロマなのに鼻から抜ける余韻はとても心地よく、しっとりと滑らかな口当たりである。
「これが美味しいワインなのだなぁ」と感動しながら次のブースへ向かおう。
今回来日している生産者はフランス、イタリア、アメリカ、スペインからで、毎回同じということではない。しかし、ほぼ同じレベルの高品質なワイン生産者が毎年来日しているとのこと。
生産者たちとファインズ・中西卓也社長
ブースを回り試飲をしていると、生産者とファインズの中西卓也社長が登壇し、来場者への挨拶である。
「本日は、弊社のチャリティ試飲会にご来場賜りまして誠にありがとうございます。ワイン生産者と愛好家の皆様とともに、2011年から開催しているこの『ファインズチャリティ試飲会』も今年で9回目を迎えることができました。この試飲会は先の東日本大震災をきっかけスタートし、継続的な支援をしたいという想いでこれまで続けて参りました。皆様から頂きました入場料、有料試飲代などはこれまで同様、公益社団法人Civic Force様に全額寄付いたします。本日、Civic Force様にも会場にお越しいただき、活動をご紹介いただいておりますので、ぜひ足をお運びいただければと思います。それでは、造り手たちの想いがこめられたワインを、ごゆっくりお愉しみください」
Civic Force事務局長・根木佳織氏
チャリティイベントの中でも全額寄付はとても珍しいこと。普段は躊躇してしまうような、高価で美味しいワインを入場料6,000円(前売り)だけで楽しむことができ、それが復興支援になるというウィンウィンウィンのイベントなのである。
挨拶の後も来日した造り手たちが壇上に上がり、個別に挨拶とワイナリーの特徴を紹介。また、参加者からの質疑に答えたり、一緒に写真を撮ったりなどとても充実した時間である。
と、ワイナリーの代表者の中に見たことのある顔があるではないか。元サッカー日本代表監督のフィリップ・トルシエ氏である。ブースには寄せ書きされたサッカーボールが鎮座。氏とともに記念撮影する参加者が絶えず、大いに賑わいをみせていた。もちろんワインも美味しかった。
フィリップ・トルシエ氏
このイベントは各ワイナリーのブースだけでなく、テーマを持ったコーナーも充実している。
・世界各国のスパークリングワインのブース。
・“春を楽しむ”をテーマにロゼだけのブース。
・ワインの専門家たちから高評価を受けた1万円以下のワインのブース。
・ファインズのスタッフのおすすめワインのブース。
・銘柄を隠した状態で試飲して、その銘柄を当てるというブラインドテイスティング体験のブース。
・生産年が同じ地区の違うシャトーを比べる水平試飲と、同じワインで生産年ごとに比べる垂直試飲のブース。
・超高級ワインの有料試飲のブース。
うーん、飲んでも飲んでも、もっともっと飲みたくなってしまう内容だ。
世界各国のスパークリングワイン
ブラインドテイスティング体験
参加している人に話を聞いてみると「6回目の参加です」とか「初回から参加しています」とか「ワインアドバイザーを目指しています」とか「とにかくワインが好きなので」とか、とにかくこの価格でこれだけのワインが試飲できて、チャリティになるイベントは、日本で、いや世界でも珍しいとのこと。参加者の年代も20代から70代ととても幅が広い。共通するのはワインが好きということ。
また、このイベントのもう一つの魅力は、生産者と直接ワインについて話ができることだという。ワイン造りへの思いと苦労、そして地域や歴史など聞くことができる。また、会場内のファインズのスタッフは、全員がワインの専門家なので分からないことがあれば質問してください、とのこと。
『ファインズチャリティ試飲会』は、ワイン初心者から愛好家、そして専門家までたっぷり楽しめる3時間である。来年の開催がとても待ち遠しい素敵なイベントだ。でも、ワインが美味しいからといって、飲み過ぎにはくれぐれも注意が肝心である。
取材・文=ハルマキケンジ 撮影=SPICE編集部

<生産者ブース>
■シャンパーニュ・アンリオ(フランス シャンパーニュ)
アンリオ家は17世紀からワイン造りに携わってきた一族で、1808年にアポリーヌアンリオがメゾンアンリオを設立。この時から今日に至るまでの200年以上、家族経営を行っている老舗のシャンパーニュメゾン。20世紀初頭、フィロキセラの流行や第一次世界大戦により畑は大きな被害を受けたが、1926年にエティエンヌアンリオが経営を継承。畑の回復に尽力、海外市場の拡大とアンリオの成長に貢献し、その後、故ジョゼフアンリオが経営を引き継ぎ、アンリオの名声を確固たるものに築き上げた。現在は、ジルドラルズィエールがアンリオグループの中心となり、さらなる品質の向上を目指している。

■ドメーヌ・ウイリアム・フェーブル(フランス ブルゴーニュ)
1850年に設立され、現在の社名となっているウィリアムフェーブルが相続した際に積極的に畑を買い増し拡張。グランクリュ15.2ha、プルミエクリュ15.9haを所有するシャブリ地区最大のグランクリュ所有ドメーヌ。跡継ぎのいなかった同氏がドメーヌを売却した1998年、すでにブシャール社の改革を成功させていたアンリオ家が獲得し、品質向上のための様々な改革を実施。当時まだ若手だった醸造家ディディエセギエをワインメーカーに抜擢し、果実味あふれるワイン造りに転換。さらに評価を高めた。

■ドメーヌ・ヴィラ・ポンシアゴ(フランス ブルゴーニュ)
949年には既にクリュニー修道院が所有し、高い評価を受けていたドメーヌ。1900年代にブシャール家は当時所有していたクロ・ヴージョの畑を全て売却。その売却益でこのドメーヌを手に入れ所有者となった歴史があり、ブシャールには今でも1929ヴィンテージのワインが現存。1870年に出たボジョレーワインの格付本”Vermorel & Danguy”ではグランクリュのカテゴリーにあり、中でも最高の「プルミエールクラス」に格付けされていた。ブシャール家が一度手放したこのドメーヌを、アンリオ家が2008年に再取得。かつてコートドールに匹敵する評価を得たこの地区のワインを返り咲かせようと2009年ヴィンテージからリリース。

■ドメーヌ・ブシャール・ペール・エ・フィス(フランス ブルゴーニュ)
言葉で語られることは多いが、なかなか体感する機会がないブルゴーニュの村ごとの味わいの違い。今回は、コートドニュイから4種類、コートドボーヌから8種類、全て2016年ヴィンテージのワインを用意。造り手のブシャールペールエフィスは「ひとつひとつの畑のテロワールが忠実に反映されていること」をポリシーとして、それぞれの個性を最大限に表現するワイン造りを行っている。1731年創業。1775年にヴォルネーのカイユレ畑、タイユピエ畑などを取得しワイン造りを開始。1820年に、15世紀の要塞であるシャトードボーヌを取得。現在は瓶熟庫に19世紀のワイン約3,000本が眠っている。1995年、シャンパーニュの老舗アンリオ家の故ジョゼフアンリオがオーナーになり、ワイン造りの全工程において徹底した品質改革を行う。コートドールに約130ha(うちグランクリュ12ha、プルミエクリュ74ha)におよぶ優れた畑を所有するコートドール最大のドメーヌのひとつ。

■ソルベニ フィリップ・トルシエ(フランス ボルドー)
元サッカー日本代表監督、フィリップ・トルシエが2014年、ボルドーのサン・テミリオンで1.1haの畑からのスタート。ワイン名「ソルベニ(SOL BENI)3-4-3」に含まれている「3-4-3」とは、前線に3人の選手、4人、3人と左右中央の横ラインに均等に選手を配置するサッカーの攻撃的なフォーメーションのこと。「人生を楽しく生きる」というトルシエの信条に沿った、心地よい果実味となめらかなテクスチャーをそなえたワイン。

■ボデガス・プロトス(スペイン リベラ・デル・ドゥエロ)
1927年、11のブドウ生産者が集まって高品質なワイン造りを目的に協同組合を設立。1929年のバルセロナ万博で金賞を取ったことで有名になり、この地域を代表するワイナリーとなる。当時は「ボデガスリベラドゥエロ」と名乗っていたが、1982年にDOが設立されるにあたり、DOにリベラデルドゥエロの名称を譲り「プロトス」(ギリシャ語でNo.1の意)に名前を変更。街の観光名所であり、ワイン博物館でもあるペニャフィエル城地下に2kmに渡るセラーを所有しており、現在も街を代表するワイナリーとして地元で愛されている。

■ハイド・ド・ヴィレーヌ(アメリカ カリフォルニア)
「パリスの審判」に審査員として立会い、カリフォルニアワインの可能性をいち早く知ったドメーヌドラロマネコンティの共同経営者であるオベールドヴィレーヌ。そして、「キスラー」「パッツ&ホール」など名だたるワイン生産者へブドウを供給してきた「ハイドヴィンヤード」のラリーハイド。ドヴィレーヌの妻、パメラがハイドの従姉妹にあたることから2000年に二人のパートナーシップが成立。以降、ブルゴーニュの造りとナパヴァレーのテロワールの融合を実現している。

■ドメーヌ・プリューレ・ロック(フランス ブルゴーニュ)
故アンリ・フレデリックロックが1988年に創立したドメーヌ。彼はアンリルロワの長女ポリーヌの次男(ラルービーズルロワの甥)にあたり、ドメーヌドラロマネ・コンティの共同経営者も務めていた。昨年、惜しまれながらこの世を去ったが、アンリは親日家で、このチャリティ試飲会にも8年の間に2度、フランスより参加している。

■ジッラルディ(イタリア ピエモンテ)
ピエモンテ州ドルチェットドリアーニDOCGの生産地域内にあるワイナリー。フランスで生まれたジャコモ(現当主ジャコリーノの祖父)は、コートデュローヌでワイン造りを経験し、1928年にランゲの方言では“クルサレット”と呼ばれる丘陵にある畑に移住し、ブドウ栽培を始めた。1980年にファミリーの三世代目ジャコリーノ氏が自社で瓶詰めを始め、さらに畑を拡張。2011年にはバローロ地区に新しい醸造施設を設け、新たなチャレンジを行っている。ジャコリーノはバローロの名手チェレットのCEOも務め、ランゲ地方全体の成長に寄与している。

■ドメーヌ・AF・グロ(フランス ブルゴーニュ)
ドメーヌA.F.グロはアンヌ・フランソワーズグロが立ち上げたドメーヌ。アンヌ・フランソワーズは、ヴォーヌ・ロマネ村の名門グロ家のジャンとジャニーヌ夫妻の長女として生まれ、ポマールのフランソワパランと結婚。それぞれの所有する畑を合わせてブドウの共同栽培を始め、1988年にドメーヌアンヌ・フランソワーズグロが誕生。現在では息子のマティアスと娘のカロリーヌが二人の後を引き継ぎ、ドメーヌの運営を担っている。

■有料試飲コーナーの内容
シャトー・ラフィット・ロートシルト 1998 30ml 3,000円
Chateau Lafite Rothschild 750ml
ドメーヌ ブシャール・ペール・エ・フィス
ボーヌ・グレーヴ・ヴィーニュ・ド・ランファン・ジェズュ 2003 30ml 1,500円
Domaine Bouchard Pere et Fils Beaune Greves Vigne de l'Enfant Jesus 1,500ml
ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ・エシェゾー 2003 30ml 3,000円
Domaine de la Romanee-Conti Echezeaux 1,500ml
ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ・モンラッシェ 2003 30ml 8,000円
Domaine de la Romanee-Conti Montrachet 750ml
アスー・6プットニョシュ・トカイ・オレムス 2006 30ml 1,000円
Tokaj-Oremus Tokaji Aszu 6 Puttonyos 500ml
<Civic Force(シビックフォース)>
シビックフォース(緊急即応チーム)は、日本で起きる地震などの大規模災害に対応し、NPO、企業、行政、住民組織などの連携によって迅速で効果的な被災者支援を実現するために設立。そのもとになったのは、2004年の新潟県中越地震での経験です。私はNGOの責任者として現地に入り、バルーンシェルターという大型のテントを広げて、400人以上の被災者に寝泊まりの場所を提供しました。
しかし、自治体との連携が不十分だったため、避難所として登録されるまで何日もかかり、その間は市から物資も情報ももらえませんでした。一方、大手スーパーと協力した炊き出しなどのサービスは好評で、支援における企業の力の大きさを再認識しました。
災害支援にかかわるさまざまな組織が日ごろから連携を密にし、支援の想定プランを確認しあっておけば、いざというときにスムーズな対応ができ、より多くの被災者のニーズにこたえることができます。シビックフォースはそのための調整機関であり、情報、人、資金、物資などのリソースを集約したプラットフォーム(土台)の役割を果たそうとしています。
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、まさにこの経験を生かそうと、発災翌日からヘリコプターを投入して被災地の状況を把握し、最大被災地のひとつで最もニーズが高いと判断した気仙沼市において、専門家チームによる緊急支援をスタートしました。
この迅速な展開を可能としたのは、発災後3日目にして市民の皆さまから1億円を超えるご寄付をいただいた他、物資や運搬手段などを迅速にご提供いただいた企業の皆さまのお力添えのおかげだと思っております。現在、東北では、地元行政やNPO、企業などと連携し、被災地のニーズに沿った支援を実施していますが、今後さらに即効性ある機動的な活動につなげていきます。災害時の混乱のなかでも素早く的確な判断をし、それぞれの組織が最大限に力を発揮できるよう、情報交換や訓練を重ねて互いの信頼関係を強めることに努めています。
私たちはまた、地震や風水害が多発する東アジア、東南アジアの国々にもこうした考え方を紹介し、NPO、企業、政府などの連携による災害支援プラットフォームを構築してもらうための働きかけに力を入れています。将来、各国のプラットフォームどうしが手を結べば、国外からの支援が受け入れやすくなり、さらに多くのリソースを被災者支援に注ぎ込むことが可能になります。
近い将来起きるかも知れない大規模災害で被災者の役に立つことは、私たちのような民間公益団体にとって大切な使命だと考えています。一刻も早く、一人でも多く救う。そのためにシビックフォースはこれからも全力を尽くします。

事務局長 根木佳織
Civic Force公式サイトhttps://www.civic-force.org/

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