金属恵比須・高木大地の<青少年のた
めのプログレ入門> 第12回「プログ
レ・酒好き、横浜に大集結の巻~ROU
NDABOUT5周年セルフレポ」

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プログレとお酒は相性がいい。
複雑難解で長尺な音楽ジャンル「プログレッシヴ・ロック」。マトモに聴こうとすると精神が疲弊するのだ。
キング・クリムゾン『太陽と戦慄』の40分以上張り詰めた空気は、“夫婦喧嘩の冷戦状態”なみの緊迫感がある。もしくは、同じことを延々と繰り返すような長い曲だと眠気を誘われる。クラフトワーク『アウトバーン』は子供の子守唄によく使っていた。緊迫感と眠気を吹っ飛ばすのがお酒である。
プログレ・ファンが集まり、たとえば「太陽と戦慄パートII」を聴きながらお酒を飲むとする。
A「やっぱスタジオ盤はジェイミー・ミューアの狂気のパーカッションが入っていいねェ」
B「いやいや、やっぱり『USA』のライヴ盤でしょ。ビル・ブラッフォードのタイトなドラムがすばらしい」
C「そうかなァ、ライヴだったら95年10月の中野サンプラザ公演が最高。音が厚くてとにかく威圧感あるなァ」
A,B「僕もそのライヴ行った!」
……(そしてライヴの思い出話が延々と)……
このように緊迫も眠気も吹っ飛ぶのである。話が終わる頃には選曲がクリムゾンからジェネシスなんかに替わっていたりして、気づけば「サパーズ・レディ」の最後の歌部分。
A「やっぱジェネシスはピーター・ガブリエルのこってりした歌がいい!」
B「いやいや、76年のビル・ブラッフォードのドラムが自由奔放でロックっぽいから好きだなァ」
C「当時出張でアメリカいたんだけど、たまたま『インヴィジブル・タッチ』ツアーでこの曲やってて、やっぱ感動したわァ」
A,B「マジですか!?」
……(そして自慢話が延々と)……
そして、後日、またこの面子で集まったとしても、同じ話がまた延々と繰り広げられるだけなのである。なぜなら、お酒が記憶を消してくれるからだ。『アウトバーン』よりもよっぽど延々と繰り返すのが、酒飲みプログレ・ファンの特徴である。ちなみにBの方、ビルブラ・ファンだな。
さて、プログレとお酒。この絶妙なマッチングに気づいたからだろうか、ただただマスターの趣味だったのか、それはわからないけれども、とにもかくにもプログレ・ファンが集う居酒屋が横浜関内にある。その名は「まごころ居酒屋 ROUNDABOUT」。
マスター関田真一氏は決して「ロックバー」だとか「プログレ居酒屋」だとか謳わない。「まごころ居酒屋」という。名前は「ROUNDABOUT」なのに。
2018年10月、ROUNDABOUTが開店5周年を迎えた。そのアニバーサリーとして、マスター関田氏はとんでもない方々をライヴ・ハウスに招聘した。センス・オブ・ワンダーの難波弘之、アウターリミッツの荒牧隆、元プロヴィデンスの塚田円(那由他計画)、若手のホープ「百様箱」――プログレ界に精通する者ならだれもが知っている彼らが一堂に会するイベントを画策したのだ。これでも「プログレ居酒屋」と名乗らないマスターはむしろすがすがしい。
2019年1月26日土曜日。横浜伊勢崎長者町のベイジャングルにて、その歴史的ライヴ「Candytree Garden Vol.2」は開催されることとなった。僭越ながら、我がバンド「金属恵比須」も出演させていただくこととなったので、金属恵比須のセルフ・レポートとして呼んでいただければ幸いである。
金属恵比須
1月26日午前。私は、子供の保育参観で幼稚園に赴く。リハーサル時間が間に合うか心配で、あらかじめマスターに開始時刻を問い合わせたところ、
「リーダー、前回も同じこといってましたよね(笑)」
と返された。実は2年前、同じくマスター主催の3周年記念のライヴにも出演したことがあり、その時も保育参観の相談をしていたらしいのだ。そういう暦合わせなのだろう。それにしても、マスターの記憶力には脱帽だ。
13:10。我が自宅にベースの栗谷秀貴、ローディの栗谷祐貴が到着(2人は兄弟である)。私のハイエースに乗り込もうとするのだが、秀貴が一言。
「エフェクター・ケース忘れた」
たしか前回も忘れなかったけか。
「玄関に置いておくと忘れるみたい」
スタジオでは忘れることはないのに、本番に限って忘れてしまうという強運の持ち主。今から取りに帰ってもリハーサルには間に合わない。とりあえず車の中で考えながら、ヴォーカル稲益宏美の家まで迎えに行こう。そして、稲益邸に到着。私は稲益に、
「とりあえず、家にあるエフェクター全部持ってきて」
と指令を出す。「わかったー」と家に戻り5分ほどたつと、ビニール袋いっぱいのエフェクターを持ってきた。実は稲益は20代の頃はベーシストであり、一通りは持っていたのだ。しかも高級品。
「20代女子は金持ちだからねー」
と涼しい顔。とにもかくにもピンチを脱し横浜に到着。
まずは搬入だ。ギター3本、アンプ持参、キーボード6台という大所帯。加えて戦国のぼり5本もセットするのが最近のトレンド。カメラマン飯盛大も加わり、階段を上り下りして機材を運ぶ。もうこれだけで気分が滅入るのが、うちのバンドのウィーク・ポイント。プログレ・バンドだから仕方あるまい。そして、金属恵比須のカメラマンは、設営だけでなく、設営、物販に至るまですべての業務をこなすという「総合職」採用というのが特徴だ。
リハーサルを開始する頃、物販スタッフの水野も到着。金属恵比須にとっては物販も大きな職務で、陳列から商品構成を緻密に構築していく。なお水野は、稲益と私の高校の同級生であり、お互いのクラスメイト(3人一緒だったことはない)で、20年来の金属恵比須リスナーだ。大手お菓子メーカーに勤務しているだけあって、商品を売ることの執着は強く、ライヴの前の週には必ず「物販会議」が行なわれたりもする徹底ぶり。
17:55、ソールドアウトで満杯のオーディエンスの前にマスター関田氏が壇上に上がる。「今日は一日だけ馬車道一の『チョメチョメ(=プログレ)居酒屋』と呼ばれてもいい」と公言し、会場が一気に沸き立つ。ということで、マスターにとって普段は「プログレ居酒屋」とは呼んでほしくないということが改めて了解された。
「ROUNDABOUT」マスター関田真一氏
その頃金属恵比須は、楽屋で待機。「登場音楽の時、メンバーより遅れて私は出ていくよ」と稲益。準備体操でメッカに拝むような態勢で首のストレッチをする私。「ストレッチは、逆に体に良くない」などとこの緊迫感のあるステージ裏でトリビアを披露するキーボード宮嶋。三種三様のフロントマンたちである。そこにうろつく不審者。トリのバンド「那由他計画」のリーダー塚田円氏。前回のライヴでは「イタコ」で金属恵比須に乱入した功績を持つ(前回記事の写真参照のこと)。塚田氏に乱入するのか問うたところ、「わからないなァ」と。思えば、事前了解で乱入しても、本当の意味で“乱入”にならない。さすが塚田氏、ロックの基本を押さえている。
そしていよいよ金属恵比須登場の音楽が鳴り響く。「真田丸メインテーマ」だ。今回よりこの曲を採用したのは、間違いなく「大河ドラマ」を意識してのこと。今まで、映画『八つ墓村』より「呪われた血の終焉」を長らく使用してきたものの、2017年から伊東潤先生とタッグを組んでからは戦国時代の雰囲気を出したくなってきた。そのため、大河ドラマから選曲をし始める。2017年には『武田信玄』、2018年には『おんな城主 直虎』と、ともに武田家にゆかりがあり、「赤」のイメージを想起させるドラマのものを使用。ということで今回は同じく武田家元家臣で赤備えを率いるイメージの『真田丸』を起用した。ここでお客様には一気に戦国時代へと誘わせる魂胆である。最後のフレーズはバンドでも一緒に弾き、クレッシェンド。
金属恵比須
1曲目は新作『武田家滅亡』から「新府城」。イントロのメロトロン部分はカットしてバンド演奏から始まる。レッド・ツェッペリン「カシミール」に似ていると評判の当曲。そういえば、2014年に原型ができた時の仮タイトルは「八つ墓村の城門は鉛」だった。
金属恵比須
なだれ込むように2曲目は『武田家滅亡』から「武田家滅亡」。近年最高の自信作で、同名小説(角川文庫刊)の作者・伊東潤先生が作詞という豪華な曲。サビ「武田家! 滅亡!」は、稲益がコール&レスポンス方式を採用。稲益が「武田家!」と叫ぶと、オーディエンスが「滅亡!」と返してくる。皆様が「メツボー!」と叫んでくれている姿を舞台上から見ると圧巻だ。すると後ろの席でひときわ拳を大きく上げてノッている方を見つけた。よく見ると――伊東先生だった。
金属恵比須
ここでMC。
伊東先生と金属恵比須を引き合わせていくれたのは、実はROUNDABOUT。伊東先生は個々の常連で、マスターのご厚意で紹介していただいたのだった。お礼を申し上げつつ次の曲に。
金属恵比須
3曲目も『武田家滅亡』から「月澹荘綺譚(げったんそうきたん)」。三島由紀夫の同名短編怪奇小説からインスパイアされた曲。ステージで演奏するのはアルバム制作前の2017年4月の「総選挙」ライヴ以来。レコーディングを経たこともあって、演奏者本人としても世界観を前面に出せた非常に表現力の高い演奏ができたと思っている。個人的には――手前味噌だが――デイヴ・ギルモア・ソロが人生最高のソロ演奏だと思っている。オリジナルだけど。
金属恵比須
MCをはさみ、4曲目は「紅葉狩」。ギタリストでもあるベーシスト栗谷が“高速連射”のアドリブを挟み込み、ほぼベース・ソロとなるアレンジは今回やっといたとなった演奏だった。この曲の聞きどころは間違いなく自由度の高いベースである。
金属恵比須
続いて5曲目は「ハリガネムシ」。時間が遅れないよう、今回はベース・ソロとギター・ソロを抑え、シンプルな構造に。リング・モジュレーターを使用するキーボード宮嶋は、さながらジョン・ロード。
金属恵比須
MCの後は6曲目「みつしり」。この曲を演奏するといった瞬間、喜ぶオーディエンス。選んでよかった。しかし演奏中、ギターにトラブル。調整しながら演奏を試みるもうまくいかず、なんとかその場をしのいだのだった。
金属恵比須
最後の曲はおなじみ「イタコ」。塚田氏が乱入することを想定しての選曲だったのだが、大方の予想を裏切り、出場せず。この裏切り方もロックっぽくて良いではないか。「紫の炎」イントロを挟み、私はギターを回し、宮嶋はリボン・コントローラーでオーディエンスを威嚇。最後は「勝頼」のシーケンス・パートが流れて無事大団円。
金属恵比須
オーディエンスの温かい拍手で幕を閉じた。時間もオーバーせず、むしろ15分も早く終了させて、これにて一件落着――と思いきや、一筋縄でいかないのが金属恵比須。メンバー、スタッフ総出で機材の搬出作業。のぼりを4本畳まなければならないので、また余計に時間がかかる。楽屋に待機していた塚田氏がのぼりの折りたたみに加わってくれた。「イタコ」で乱入がなかった代わりに、搬出の「乱入」だ。非常に助かった。
続いては、プログレ界期待のホープ、若手の「百様箱」。CD『Even if I'd be alone...』が発売の日でもあり、かつ20代のメンバーが中心ゆえ、どんなハジけた演奏をするのかと思いきや、良い意味で期待を裏切られる。非常にシックで洒落た音楽を展開。ギタリストはセミアコを持ち、時折ラリー・カールトンを彷彿とさせたりする場面も。歌が入れば四人囃子の雰囲気もあり、オジサマ方をイチコロにさせる要素満載だ。ライヴ後インタビューを試みたところ、本人たちは別にプログレ・バンドを意識したわけではなく、作る曲がたまたまプログレだっただけ――とのこと。この余裕もまた素晴らしい。今後に期待である。
百様箱
3番手は「難波弘之&荒牧隆」。30分一本勝負のインプロヴィゼイション(即興)対決だ。リハーサルも見ているのだが、その時は、機材を並べて音が出るかをチェックするだけで終了。新鮮味が失われるからだろうか、2人での同時音合わせは全くなし。それゆえか、本番のステージでは鬼気迫る大合戦が繰り広げられた。エレピの音色で和音を紡ぐ難波氏の上に、荒牧氏によるロバート・フリップ風のつややかなロング・トーンが被さる。後半は荒牧氏のピエゾのバッキングに合わせ、難波のミニコルグが炸裂。それにしても音が良すぎる。こうして26分の合戦は終了したのだった。
難波弘之&荒牧隆
トリは、ROUNDABOUT営業貢献ナンバー1の「那由他計画」。塚田氏に加え、元金属恵比須のベーシスト多良氏もメンバー。ジャパン・プログレに相応しいキメの応酬と、ダブル女性ヴォーカルの妙で、ひときわアンサンブルに緊張感を与えていた。塚田氏はきらびやかなシンセ音がトレードマークであるものの、今回はそれが控えめ。代わりに、70年代風骨太オルガン音が支配しており、レイトバックでもしたのかと疑問に思い質問した。すると、「使った機材のオルガン音が良かったからねー(ついつい多用してしまった)」とのこと。塚田氏らしい意見だった。
那由他計画
そして、最後は那由他計画をバックにディープ・パープル「ブラッドサッカー」でセッション大会。ベースの多良氏、そういえば、金属恵比須の前にも一緒にやっていたディープ・パープル精神完全コピー・バンド「大徳」でも、ひたすらこの曲を推していたのを思い出した。まさかこの機会に共演するとは夢にも思わなかった。
「ブラッドサッカー」セッション
まずは、金属恵比須ベーシスト栗谷のギター・ソロから始まる。本職はギター。速弾きの応酬で、この期に及んで憂さ晴らしをしていたようだ。そこからローテーションで各バンド数名駆り出されソロを。印象的だったのは、ギタリスト荒牧氏によるオルガン・ソロと金属恵比須ドラマーのギター・ソロ。二人とも本職ではないのに、ロックたる姿勢で臨んでいた。荒牧氏はひたすらグリッサンドで攻める。人前ではキーボードを弾かないそうだ。超レアな光景となった。後藤マスヒロも同様で、普段ギターでステージに立ったところを見たことがない(『人間椅子倶楽部』、そしてインストア・ライヴを除く)。手を振り上げ、さながらピート・タウンゼントのよう。ちなみに私は、ギターとオルガン2回出演。図々しくて済みません。
「ブラッドサッカー」セッション
「ブラッドサッカー」セッション
かくして21:45に大団円。2年前に続き、プログレ・ファン狂喜乱舞のイベントの幕は閉じた。そして、関係者打ち上げ。プログレに必須のお酒も用意され、盛り上がる。プログレにはやはり酒が必須だ。金属恵比須になじみの深いK書店T氏も合流。プログレ談義に花を咲かせる。ことに「Prog Tokyo」主宰でもある荒牧氏とのプログレ・シーンの話には瞠目すべき意見が多数あり、プログレに“滅私奉公”する姿勢には頭が上がらなかった。5年後、10年後のプログレ・シーンを見据えた行動力。頭が上がらない。ともにプログレの明るい未来を見いだせればと思った次第だ。
「ブラッドサッカー」セッション
さて、酩酊となり、中締め。帰りはローディの栗谷の運転で帰京する。K書店のT氏も一緒だ。ブラック・サバス『ヘヴン&ヘル』をバックにひたすらプログレの未来について語り合っていた――ように思われるのだが、実のところ記憶がない。こうやって、『アウトバーン』よりもはるかに長い周期で、同じ話、同じライヴ、同じイベントが繰り返されるのだろう。そして、2年後、ROUNDABOUT7周年のイベントの帰りも、多分、こうなんだろう。
「ブラッドサッカー」セッション
よく解らないが、プログレ万歳。……お酒飲める限りは。
文=高木大地

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