【リミックスコンテスト審査員対談】
実はお題が難しい「応募した人はすご
いなと思います」

『モンスターストライク』のメインテーマ曲を課題とした「【XFLAG公式】リミックスコンテスト」の応募が締め切られ、現在12名の審査員によって審査が進行中となっている。応募総数は170通に及んでおり、審査を経て選出された楽曲は『B.B.Q. with SOUND CREATORS vol.1』という名のコンピレーション・アルバムに収録され、日本コロムビアからリリースされることが決定している。

「【XFLAG公式】リミックスコンテスト」は、「ドラム」と「サックス」のパラデータ(演奏音源)を使用してリミックスすることが唯一のルールとして掲げられ、ドラムサウンドは五十嵐公太(ATOMIC POODLE/元JUDY AND MARY)から、サックスは武田真治から提供されていた。

このコンテストは、様々な視点から作品を讃えクリエイター支援を実現することを目標のひとつとしているため 、応募作品の各魅力をあらゆる角度で吸い上げることができるように、審査員も多様な顔ぶれを見せている。12名の審査員には、音源素材を提供した五十嵐公太や武田真治をはじめ、本企画の志に賛同を示したアーティストやクリエイターから、音楽関係企業や団体/メディアが名を連ねており、様々な価値観と多角度から今まさに審査をしている最中だ。

2月21日に生配信されたvol.1に続き、3月11日には<【XFLAG公式】リミックスコンテスト vol.2 審査員によるトーク番組>も生配信される予定となっているが、ここでは、本コンテストの審査員を務める『サウンド&レコーディング・マガジン』副編集長の松本伊織とBARKS編集長の烏丸哲也との対談の様子をお届けしよう。
──まずは、各メディアをご紹介いただけますか?

烏丸哲也(BARKS編集長):BARKSは音楽情報サイトです。音楽とミュージシャン/アーティストの魅力をお伝えするウェブメディアです。雑誌で言うと音楽一般誌ですね。私にとって『ギター・マガジン』『サウンド&レコーディング・マガジン』は、学生の頃から毎月読んできた大好きな雑誌なんですよ。音に関わるプロであれば必ず手にする雑誌のひとつですよね。

松本伊織(『サウンド&レコーディング・マガジン』副編集長):『サウンド&レコーディング・マガジン』(以下、サンレコ)は、音楽制作はもちろん設備/PAなども含めた音響に関して特化した月刊誌です。読者のほとんどは自身で制作をしているクリエイターですから、BARKSの間口の広さに対して専門的になりますね。誌面では、烏丸さんに“音に関わるプロ”というキーワードをいただきましたが、プロはもちろんアマチュアの方にも有益な情報提供ができたらなと思っています。例えばアーティストの新作の記事でも、その作品のサウンド自体を掘り下げると同時に、読者の制作の参考にもなる内容を心がけています。

烏丸:BARKSは、音楽一般メディアとして常に新陳代謝をしていかなくてはいけませんが、サンレコのような専門誌は、読者とともに育っていくような、ある情報に特化していく要素もありますよね。

松本:そうですね。もちろん機材や音楽の流行も変わっていきますし、初心者の方向けの記事も必要ですが、BARKSとは、メディアとしてのターゲットや思想が根本的に違うかもしれません。
▲烏丸哲也(BARKS編集長)
▲松本伊織(『サウンド&レコーディング・マガジン』副編集長)

──そんなメディア特性の違いを考えると、「【XFLAG公式】リミックスコンテスト」における評価基準にも違いがでてきそうですね。

烏丸:BARKSの場合は「素敵な音楽や素晴らしいアーティスト、その才能を伝えたい」という点に尽きます。今や音楽は、音源リリースだけでなくSNSや動画配信など、あらゆるところから発信される時代ですから、それぞれのアーティストに合った発信が可能です。こういったコンテストこそ、貴重な発信の場のひとつになると思っているので、ここからどんな作品が誕生しどんなクリエイターが生まれるのか、音楽メディアとして無視できないと思っているんです。

松本:サンレコでも独自にさまざまなコンテストを開催していますが、「昔、サンレコさんのコンテストで賞をもらったんですよ。だから僕はサンレコ出身なんです」と言ってくださるプロの方もいたりしますし、こういうコンテストがモチベーションを次の一歩につなげる場になっていくんだな…というのが実感としてあるんです。「【XFLAG公式】リミックスコンテスト」もそうした機会のひとつになるのが単純にうれしいですね。

烏丸:サンレコが審査に入っていること自体が、クリエイターにとって重要なポイントですよ。なにしろコンテスト参加者であれば、必ず読んでいる雑誌ですからね。

──実際の応募曲を聴いてみて、いかがでしたか?

松本:まず最初に感じていたのは「お題の設定が難しい」という点です。「五十嵐公太さんと武田真治さんの音素材を使うのが唯一のルール」というシンプルなお題ですが、とにかくお二人とも音が個性的で、その個性をどう料理していくかがすごく難しいなと。

烏丸:DÉ DÉ MOUSEのインタビュー時に「ドラムとサックスの音は、いわば玉ねぎと豚肉。生姜焼きを作るのか牛丼を作るのか?あるいはカレーか?」みたいな話をしたんですが、よくよく聴くと武田真治のサックス音源は、そんな優しい素材じゃなかった。例えるなら塩辛くらい癖が強くて、料理のアレンジが難しかったみたい(笑)。
松本:武田さんのサックスってものすごくロックで、こういうプレイをする方って日本にはあまりいないんですよね。メロディの印象も強いし、曲になじませるだけで大変で、僕なら途方にくれます(笑)。学芸会に「主演で武田真治が来たらどうしよう」ってなるでしょ? そんな感じですよ(笑)。そんな主役を迎えながら、自分の作品にしなくてはいけない。そういう意味でも、曲として完成させて応募した人はすごいなと思います。応募していない人より確実に一歩先を行っていて、その差はすごく大きい。まずそこだけで自信を持っていいと思いますよ。

烏丸:170通の応募がありましたが、驚くほどレベルが高かったですよね。

──審査の基準として、どこに着目しますか?

松本:総合力ですかね。明確な基準はないのですが、サンレコを読んでいたらある程度のスキルは身に付くのではないかと期待している部分はありました。そして、あくまでも『モンスターストライク』の楽曲のリミックスなので、その趣旨に見合っているかも重要かなと思っています。お題の音源を加工して、自分のフィールドにちりばめるという手法もありますけど、それはリミックスと呼ぶにはふさわしくないかもしれない。「自分の音楽はこれです」というプレゼンでなく、今回はモンストのコンピレーション・アルバムに入る作品ですからね。

烏丸:BARKSの場合は、一般的なリスナー視点で感覚的に選びたいと思っています。例えば「ここのギタープレイが絶品だ」とか「Aメロのベースプレイが超絶かっこいい」みたいな一点突破もアリかなと。「エディ・ヴァン・ヘイレンのブラウンサウンドまんまじゃん」とか「このスネア、ビル・ブラフォードだ」みたいな、理屈抜きに琴線に触れる感覚を大事にしたいので、「さっきハンバーグ食べたからこんな気分」くらいのその時その時の感覚を大切にしたいです。

──やはりメディア特性の違いによって、審査の視点も変わるようですね。

烏丸:感覚重視とはいえ、応募曲を聴くと2パターンに分類できるんです。素材を「持て余してる人」と「取り込んでる人」です。「持て余しているな」と感じさせてしまう作品は、音楽として素敵に響かないんです。そこに必然性も感じないし、説得力も生まれないので。

──「持て余してる人」と「取り込んでる人」との違いは何ですかね?
松本:それは単純に実力だと思います。たくさん音楽を聴いて、よく制作している人は、やっぱり実力があります。自分の引き出しからしか作れないから、まずその引き出しの量と質ですね。もちろんミックスも重要で、素材や調理が良くても盛り付けが良くなければ台無しになることもあるんですね。

──DTMが普及している今、自分自身でどこまで完成品に近いものまで出せるかが問われる時代でもありますね。

松本:プロの世界にはミックス・エンジニアがいるし、音楽制作とミックス作業は本来別物ですから、全く別のスキルなので、その両方を求めなくてもよいと思うんです。が、DJが作るEDMなどはミックスまで全て自分自身で行うことが多いですし、今回はそのまま応募曲がコンピアルバムとしてリリースされるのですから、総合力が高いものは評価されやすいかもしれないですね。

──気になった作品はどういうものですか?

烏丸:カッコ悪いものもありましたよ(笑)。まるで自分が作ったようなギターまみれの作品とかね。「カッコいいギターソロってこうだよね」「ギタリストならこういうバッキング入れるよね」という判を押したようなプレイに出会うと、鏡を見ているようで「うわ、ダサ」って思っちゃう(笑)。「惜しいなあ」と思ってしまう作品もたくさんあったけど、やっぱり驚きや新鮮さを与えてくれる作品に惹かれますよね。

──具体的にありますか?

烏丸:「モンストリミックス.wav(ねぎおさん)」の和風な音色セレクトは個性豊かで目立っていました。途中からレゲエになるし。「モンスターストライクメインテーマリミックスコンテスト応募音源_新井貫玄.wav(新井 貫玄さん)」は、フェイザーのギターカッティングがちょっとドナルド・フェイゲンを彷彿させたりして「何歳なんだろう」って気になったり(笑)。「MAMIYOSHIDAリミックスコンテスト.wav(MAMI YOSHIDAさん)」を聴いて「世武裕子がリミックスしたらどんな作品を作るんだろう」と妄想が広がったり、「Xflag L3+N2.wav(IRIEWEBさん)」の音源に「アスワドの歌が乗ったら超絶カッコ良さそう」とニヤけたり。

松本:いろんな観点からの審査ができると思うんですけど、たとえば「XFLAG_Remix_1.wav(pixie(ピクシー)さん)は、すでにいろんなスキルを持っていそうなので「XFLAGのサウンドチームに抜擢されたら活躍できそう」と思いました。暴れ馬のような武田さんのサックスをしっかり操れているなって思ったのは「Monster_Strike_Remix_Contest_Blacklolita_and_Avans(Blacklolita &Avansさん)」や「After6_ミヤジマユースケ_140.wav(ミヤジマユースケさん)」かな。あと「ikejiriyoshiko_xflag.wav(池尻喜子さん)」の武田さんに寄り添っていく感じと、打ち込みでここまでのオーケストレーションを鳴らせる技術は素晴らしいです。EDM系の「Monster_Strike_Remix_Toki.wav(Tokiさん)」のボイスサンプルの使い方も良かった。繰り返しが基本であるクラブミュージックは単調になりがちですが 、うまくボイスサンプルでアラートを出しながら展開を示していくセンスはポイントが高いです。個人的には、ジャジー・ヒップホップで攻めた「DJ Shun-U「モンスターストライクメインテーマRemix」.wav(DJ Shun-Uさん)」もかっこいいなって思いました。キックの撚れ方が気持ちいい。

──歌ものもありましたよね。

烏丸:「KUVIZIM&uyuni_msremix.wav(KUVIZM & uyuni)」は、今っぽいラップが乗った好作ですね。サラッと1分半くらいで終わるのもいい。

松本:逆に僕はもっと長い尺で聴きたかったです。ストーリーを感じられる内容だったので、短編読み切りじゃなく単行本で読みたいと贅沢にも思いました。

──音楽メディアを展開する立場から、これからのクリエイターに必要なものは何だと思いますか?

松本:トレンドを読む力やスキルは必要だと思いますが、まずは何か一点突破することが大切だと思います。「とにかく音色の選び方が上手」とか「声がいい」とか「いい曲が作れる」とか。マルチだというのも一つの才能ですが、一点「これが自分」という自信を持って言える武器があると強いですよね。そうしたセンスを前提としつつも、とにかく作れるか作れないか……努力と才能なんだと思います。その点、このコンテストに応募してくださった170人の方は努力をしていますし、自分が何を作りたいか/何を作るか/何ができるかを自己分析する機会になったのではないでしょうか。

烏丸:今は情報が一瞬で世界を駆け巡り、AmPmのようなアーティストが出てくる時代。国内のみならず世界に音楽を知らしめていくチャンスが誰にでもありますし、ましてやインストであれば言葉の壁もない。日本のマーケットだけじゃないという意識だけで作品も変わっていくし、得意分野を活かしたコーライティングもどんどん実践すればいいと思います。新しい価値観を持った人たちが、新たな時代を作り新たなワクワクを作ってくれるのだと思っています。

──ありがとうございました。

インタビュー:島津真太郎
『サウンド&レコーディング・マガジン 2019年4月号』
2月25日発売 980円
「ヘッドフォン特集2019!」を約100ページの大ボリュームで敢行。第一線で活躍するアーティスト/クリエイター/エンジニア総勢30名の愛用モデル紹介をメインに、約100ページに渡ってヘッドフォン/イアフォンの“今”を切り取る大特集を展開。表紙/巻頭では4年ぶりのアルバム『Eye』&『Lip』をリリースしたSEKAI NO OWARIをフィーチャー。
◆【生配信】BARKS Twitterアカウント @barks_news

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