世界でも稀なソプラニスタ岡本知高 
スペシャルコンサートで渡したい「名
刺代わりの歌」

ソプラニスタとは女性ソプラノの音域の声を持つ男性歌手のことで、生まれながらにして、そして変声期を経てもその音域を持つ者は、世界でもほんのわずかしかいないという。岡本知高はその、希少な歌手の一人だ。そしてそんな岡本の歌声は柔らかく繊細で、ふわっと包み込むような、それでいてどこか力強さも感じられる。そこに岡本自身が「コントラバスにヴァイオリンの弦が張られている」と例える彼ならではの大きな体躯に、そこからあふれ出る人懐っこい笑顔が加わると、その歌は一層温もりを増してくる。たとえて言うなら、岡本の歌が透明なボールのようなオーラの玉のようになって、こちらの身体にじんわりと染み込むような、とでもいうのだろうか。

歌声だけならCDでも楽しめるのだが、岡本のキャラクターとともに醸される魅力や雰囲気が加わると、その歌声は一層の魅力を放つ。そして来たる4月、岡本のライブを存分に堪能するスペシャルコンサートが各地で開かれる。(文章中敬称略)
この日の衣装の名は「ファラオ」。左右非対称、どこか鎧、がデザインのこだわり 撮影:西原朋未
■「とにかくステージにたつのが大好き」
ソプラニスタという声質が大活躍したのは17世紀、バロック音楽全盛のイタリアだ。この時代、ソプラニスタといわれるカストラートが教会音楽を歌い、彼らがいたからこそミュージカルのご先祖様であるオペラという芸術が生まれたのである。そして現在のミュージカルスター同様、ソプラニスタもまた当時のスーパースターであった。
現代のソプラニスタ・岡本もまたバロック音楽を学びにパリに留学する。そしてそこで学んだことでとくに大きかったもののひとつが、ステージに立つことの楽しさだったとか。
「とにかくステージに立ちたくてコンクールに出たんです。コンクールの結果は二の次で――でももちろん入賞すればもう一度ステージで歌えるのですが(笑)、とにかくステージで歌えるということが楽しかった」と振り返る。「でもステージに立った時、あまりに “自分を見て”という思いが強いと、お客様の気持ちってついてこないんですよ。だから歌う時にはあまり“自分”を詰め込まないことが大事だということも学びました」
スペシャルコンサートで用意している曲目はオペラ『トゥーランドット』より「誰も寝てはならぬ」やカッチーニ『アヴェ・マリア』のほか、坂本九『心の瞳』、中島みゆき『糸』など、オペラやバロック音楽、クラシック、歌謡曲のほか、さらに童謡、唱歌まで幅広いが、共通しているのは「その歌、歌詞に心をこめられるか」ということで、むしろ「歌詞に心をこめられる曲を選んでいる」という。だからこそ、「家で練習をしているとき、歌詞にやられちゃう――感極まって泣いてしまう」のだが、感極まるほどに心と身体に歌を染み込ませることで、曲と自身が一体化する。だからこそ、岡本の歌はより自然に、すっと聴くものの心に染み入ってくるのかもしれない。「バロックを勉強しましたが、自分の音楽の原点はやっぱり昔聞いた童謡や唱歌、歌謡曲なんですよ。ジャンルが広くて、いろいろ散らかっているように見えるけれど、結局それを全部合わせて僕なんです」
はたして岡本にとって「歌」とは何なのか。その質問を投げかけてみると「名刺代わり。“名刺代わりにこの歌を~”って歌詞がありますよね。まさにそれ」と笑いながら答えてくれた。そして「目指すのは誰もが自由に、気軽に楽しんでもらえるステージ。地元のおじいちゃんやおばあちゃんが普段着で来て、よかったねーって言って帰っていただけるのが一番うれしい」という。
撮影:西原朋未

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