『朝顔』はレミオロメンの類稀なる
センスが詰まった破格のデビュー作

隣人に気持ちを伝えるような歌詞

歌詞では極めてミニマムな世界観を綴っているのもレミオロメンの興味深いところだと思う。M8「フェスタ」やM11「追いかけっこ」のように一見汎用性の高いと思われるような歌詞もあるが、多くは私小説的というか、作者の半径5メートル以内の話を綴っているように見える。

 《僕は急いで コンビニまで駆けるから/君も急いでご飯を作ってくれよ/お腹も空いたし ビールも飲みたいなんて/わがままな僕を許してよ》《僕らはいつまでも 僕らはいつまでも/笑いあっていたいと 願うけれど/旅立つ日が来るならば せめてこの時間よ/止まれとは言わないよ ゆっくり進め》(M4「ビールとプリン」)。

《受話器越しになると照れるけど/そりゃ一緒がいい 当たり前さ/思うほど上手くいかないけど》《遠く遠く 離れ離れ/電話切れない夜もある》《闇深く心細く それでも光射し/泣いたり笑ったりさ/別の街に暮らす君よ/寄り添ってやれないが 僕はここにいる》(M9「電話」)。

この辺の内容からすると、M8「フェスタ」やM11「追いかけっこ」も具体的な描写が少ないだけで、おそらく作者個人の感情、感慨がベースとなっているのだろう。のちに大ブレイクを果たし、アリーナツアーを行なうことになるレミオロメンではあるが、決して大衆を扇動するようなロックバンドなどではなく、隣に居る人に気持ちを伝えることを第一義とするようなアーティストであったことは想像するに難くない。何しろアルバム1曲目のM1「まめ電球」で次のように歌っているのだ。

《アー まめ電球ほどの灯りがあればいい/日々そこに照らされるものだけあれば》《僕はここ 照らせ まめ電球》《あなたまで あなたまで 届く灯りならば それだけでかまわない/結局はさ 1人じゃさ 寂しくなってしまう/さぁ 手を握ろう》(M1「まめ電球」)。

結成10周年を迎え、さらなる飛躍が期待された2012年2月、彼らは活動休止を発表。そこに至るまでにどんな葛藤があったか、今もネット上に残る “レミオロメンより今後の活動に関するお知らせ”から読み解くしかないが、藤巻のコメントの中にある“活動が続くほどに様々な糸が頭の中で絡まってゆき それを解くことにエネルギーを費やす日々です。”の言葉と、『朝顔』の歌詞とを合わせて考えると、なかなか感慨深いものはある。

ただ、活動休止にいかなる思いがあったにせよ、彼らがレミオロメンそのものを否定していないことはその後のソロ活動を見ていればよく分かる。活動休止を発表してから5年後、2017年9月、藤巻の3rdソロアルバム『北極星』に前田と神宮司が参加したのは3人の関係に何か亀裂が入っているわけではない証左だろう。また、冒頭で触れたように藤巻は4月3日にレミオロメンの曲をアコースティックアレンジでセルフカバーしたアルバム『RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010』をリリース予定だ。収録曲はファンからのリクエストの中からチョイスしたものであり、これもまた彼がレミオロメンを如何にも大切に思っているかを示す作品に仕上がっていると思われる。再始動が実現するのか今はまったく分からないが、これからもファンをないがしろにすることはないと確信する。

TEXT:帆苅智之

アルバム『朝顔』2003年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.まめ電球
    • 2.雨上がり
    • 3.日めくりカレンダー
    • 4.ビールとプリン
    • 5.朝顔
    • 6.昭和
    • 7.すきま風
    • 8.フェスタ
    • 9.電話
    • 10.タクシードライバー
    • 11.追いかけっこ

OKMusic編集部

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