男肉 du Soleil『薄い書を捨てよ、町
へでよう』池浦さだ夢×高阪勝之×す
みだにインタビュー~「コミケの知識
を啓蒙する教育劇です」

最近はライブハウスやイベントでの単発パフォーマンスが続いていた、京都のダンスカンパニー「男肉 du Soleil(おにくどそれいゆ)」。「男肉団員が実は○○だった」という体で、メタフィクショナルかつ茶番感満載の舞台をお届けする大長編公演が、約1年ぶりに上演される。しかし今まで、伝説のスパイだとか地球を救う勇者だとか、無駄に壮大な設定をしつらえていたけど、今回の『薄い書を捨てよ、町へでよう』は、身近な人には大変身近な「コミックマーケット」(コミケ)がテーマ! ということで、どんな世界が繰り広げられるのかを「団長」こと池浦さだ夢と、今回の主役の一人・すみだ、さらに取材当日「間違って一時間早く稽古場に来て暇だろうから」という理由で、「K」こと高阪勝之にも飛び入り参加してもらい、話を聞いてきた。

■「三人の主人公は、10年間男肉をやっていても見たことがない」(高阪)
──今回コミケをテーマにしようと思ったのは。
池浦 まず、童貞の話をやりたいっていうのがあったんですよ。何か童貞って、独特の可愛さとダサさがあるじゃないですか? 童貞であることにしょうもない意義を持ってるけど、やっぱり捨てたいとか。その上で、好きなゲームやアニメを劇中劇でやってみたいというのがあって、だったらコミケとか同人誌に特化してみようと。僕らの「大長編」って二次創作の気配があるんですけど、同人誌も基本的には二次創作なんで、親和性をビンビン感じますし。あとはやっぱり……僕は10年前に一回行ったきりやけど、コミケのエナジーってすごいんですよね。その力は、我々のダンスに通じる所があるんじゃないかと思いました。
池浦さだ夢(団長)。 [撮影]吉永美和子
すみだ 最初に「三十路で童貞のオタクが主役」って話になった時に、誰に恋をするだろう? と団員同士で考えた時に、オタクだったら早い話、ゲームやアニメのキャラが好きなんじゃないか。じゃあコスプレをしてる女性を好きになるんじゃないか、つまりコミケで出会うんじゃないか? というので、コミケを舞台にしようって話になったんですよね。
池浦 そこから、J(城之内コゴロー)と吉田(みるく)とすみだという童貞三人組が主役というか、彼ら中心で進んでいく話になりました。男肉って、一人の主役がずーっとストレートに走っていくだけの話ばっかりだったんですけど、今回は全員がいじめられていた、悲しいバックボーンしかない三人が頑張るって内容ですね。
高阪 本当にすごく辛い感じです、冒頭とか。僕はこいちゃん(小石直輝)と二人組で、超売れっ子同人サークルの作家という、まあまあ敵役みたいな感じです。
池浦 そういう意味では、久方ぶりに団内で敵を作るという。僕らだいたい「見えない敵」と戦うんですけど、今回は主人公に立ちはだかるライバルサークルという存在を作りました。「彼らよりも売れっ子になったら、あの子に会えて結ばれる」と思ってる、ちょっとサイコパスな童貞ニートが同人サークルを作って、コミケでのし上がっていくという。
──男肉の団員って、みんなコミケに親しんでるようなイメージがあったのですが。
高阪 いや、行ったことがあるのは団長だけです。僕もまったくの未知の世界でしたけど、何か独自の文化として発展してんねやろなあというのは、今回調べて何となくわかってきました。でも自分の中ではまだファンタジーなんで、妄想が膨らむ一方というか。
すみだ でも同人サークルって、僕らのような劇団と、意外と苦労してる部分が一緒なんですよね。悲しい話やけど、ほぼほぼ赤字だとか(笑)。でも自分が「面白い」と信じたことを作品にして、楽しんでもらうという所に関しても、すごく似てるよなあと思います。
池浦 そう。手打ちでやってるって意味でも、自分の好き勝手なことができる点でも、ホンマ小劇場と一緒。商業に呼ばれても、かたくなにアマチュアでい続けるオッサンなんかも、何か(小劇場でも)似たような人がいてそうやし。そういうインディーズな表現の世界が、グッと濃厚に凝縮されてるジャンルなのかなあと思います。
高阪勝之(K)。 [撮影]吉永美和子
──今は稽古の真最中ですが、いつもと違う感触は何かありますか?
高阪 もう10年ぐらい男肉やってますけど、メインで三人が並んでるっていうのが、はたから見てて新鮮です。この並びでワチャワチャやってるのは、今まで見たことがない。あと今回は、割とじっくりキャラクター作ってますよね?
池浦 主役の三人を、どうしたら『行け! 稲中卓球部』みたいな、愛しい三人組にできるかなあ……と。女性から見ても「かわいい奴らめ」って思ってもらえるようにしたいんですよ。というのを探る作業に時間かけすぎて、まだ(取材時点で)肝心の恋ができてない(笑)。
すみだ 三人が仲良くなっていくのを見せるだけで終わりますよね、今のままやったら。
池浦 前半をむちゃくちゃ丁寧にやった分、後半は紙芝居で進むかもしれへん(一同笑)。
高阪 一気にすっ飛ばして。
池浦 だから(本番で)紙芝居になったら、時間がなかったんやと思ってください(笑)。でもその分、三人のやり取りの仕上がりは高いですよ。いくら周りがファンタジーだろうが、踊ってようがラップしようが、オタク童貞ニートがちゃんとそこで生きてないと、やっぱダメやと思うから。リアリティがあった上でねえ、ファンタジーが乗っかる方がいい。
──でもやっぱり、最後は地球を救うために戦うという、いつもの流れになるんですよね?
池浦 サークル同士の売り上げ対決なんかもありますけど、三人にとって一番の敵は「世間の目」なんで、おそらく最終戦っていくのはそういう所です。モラルとか社会性とか。
高阪 今回の「見えない敵」ですね。
池浦 その中でコミケ自体を、身体表現で描きたいんですよね。うちはいつも自己紹介とか、時間を飛ばすのに利用するみたいなことばかりで、ダンスを使ってきましたから(笑)。今回ダンスはゴリゴリありますよ。ただ、僕らはダンスのつもりでも、お客さんにはそう見えないのか「ダンスが少なくなった」と、最近ずっと言われてて。だから今回は、みんなが「ダンスだ」って思うダンスって何だろう? というのを、考えながら作ってます。
すみだ。 [撮影]吉永美和子
■「男肉はほかの舞台より、家に帰ってから考えることが多いです」(すみだ)
──前回のインタビューで、江坂(一平)さんとJさんに出ていただいた時、男肉に入ったいきさつをうかがったんですけど、高阪さんとすみださんにもお聞きしたいです。
池浦 僕ら大学時代はまだ、公演のつど人を呼ぶ形だったんです。それで学内の面白い奴をいつもリサーチしてたんですけど、どうやらアディダスの帽子をかぶった、目付きの悪い奴がおるらしいとの噂を聞きつけて。
高阪 評判悪かったんで(笑)。でも初めて誘われた時は、僕は安部公房の『友達』を上演する企画を立ててたんで、断ったんですよ。でもそれがポシャって「暇やなあ」と思ってた時に、大学で団長とすれ違って「稽古あるから」って、フッと言われたんです。
池浦 自衛隊的な勧誘ですよね。「君、一緒に国を守らないかい?」みたいな(笑)。
高阪 それで出演したんですけど、一回きりやと思ってたんです。で、次の公演があると聞いて「ああ、そっか。観に行こうかなあ」と思ってたら「稽古この日やから」って連絡が来て「あれ? これはどうやら出るみたいだぞ」ってなって(笑)、それで今に至るという。
池浦 そうそう。「付き合おう」って言わずに、もう付き合った感じになる奴(笑)。「あれ? 俺らもう付き合ってるっしょ?」「そうなの?」みたいな。
前回の大長編『団長の96時間』(2018年)。団長が元CIAという設定で、世界を股にかけたスパイものを上演。 [撮影]吉永美和子
──男肉名物のラップを強化するために、ラップが上手い高阪さんを呼んだというわけではなかったんですね。
池浦 ラップ好きなのは知ってたけど、(高阪が)入った時はラップしてなかったからね。
高阪 僕らが大学卒業してからですよね。
池浦 ちょうどプロデュースじゃなく、みんなで一緒に団体としてやっていきたいから、よかったら「男肉 du Soleil」と名乗ってくれへん? ってなった時期やった。2008年ぐらいかな? まあ「よかったら」って言ってるけど、大学の先輩の力技で頼んだわけだから、今ならパワハラで訴えられかねない(一同笑)。それで言うとすみだは、自分から「入りたい」と志願してきた、稀有な例ですね。
すみだ 大学一回生の時に『銀河鉄道肉肉肉』(2007年)を観て「出てみたいなあ」と思って。それでKさんを大学で見かけて「稽古を見せてください」って話しかけたんです。
池浦 Kにそう言われたから「どんな奴?」って聞いたら「生意気そうな奴です」で「じゃあ、嫌」って(一同笑)。男肉って最初は一回生が面白がって入ってくるんですけど、すぐにパーっといなくなることが多くて、当時は自分から近づいてくる奴には懐疑的になってたんです。
すみだ それでシカトされて、これは人づてではどうにもならんと思って、直接さだ夢さんに言って入らせてもらいました。
池浦 (大学の)同期が映画を撮ることになって、僕は役者で、すみだは助監督で入ってたんですよ。で、車で出番を待ってる時に、こいつが「男肉の団長っすよね? 舞台面白かったんで入れてください」って話しかけてきて「帰れ!」と(一同笑)。でも結局、ちょうどもう一人「出してくれ」と言ってる奴がおったんで、その年の文化祭で一緒に出てもらいました。そいつは一回で「しんどい」って言って出なくなったけど、すみだは残った。ある意味、セレクションで残った勇者みたいなもんです。
──高阪さんは役者として「MONO」などの舞台にも呼ばれますし、すみださんは映像作家としても活動していますが、男肉ならではの面白さってどこにあるんでしょう?
すみだが加入した直後の舞台『肉乃聖舟~Go to Niku~ノアのハコブネ~ぶっちぎるぜ』『蜂蜜♥肉肉~スウィートハートメモリー~』(2008年)。当時すみだ(右から二番目)は女装での登場がお約束だった。 [撮影]吉永美和子
高阪 ほかの現場行ってから、ここに来るたびに思うんですけど、すごく自由なんですよね。さだ夢さんの口立てで作るんですけど、言われたものをどう出力するかは、ほぼ自分に任されてるし、どんなやり方をしてもある程度許容してもらえる。だから他所ではビビってできないような……信じられへんぐらいデカい声出すとか、大きな身振りをするとか。そういうのがあえてやれる現場なので、自分の振り切れる幅が増えている気はします。ただ男肉で「ワーッ!!」ってやった身体の後で、細かい芝居が求められる現場に行くと、なかなかそっちにフィットできなくて困ったりするんですけど(笑)。
池浦 映画とか、細かい芝居せなあかん所に行ったら、大変な思いするやろうね。
すみだ でも生のモノを一番感じ取れるんですよね、男肉は。稽古だけでなく本番中でも「明日これ試してみようかなあ」と考えてやってみて、お客さんの反応を見て。それで良い反応が帰ってきたり、その逆もしかりだったりして、また新しく考える。そういう意味では、家に帰ってからやることが、ほかの現場よりもいっぱいありますね。
池浦 男肉は「再現性のドラマ」やと思ってるんやけど、俺は(一同笑)。
すみだ いやいやいや、一番遠い(笑)。それこそが、同じ物しか流せない映画では、絶対できないことなんです。その時々で違ってくるお客さんの反応を、その場で毎回得られるというのは、本当に大きな収穫があると思います。
池浦 まあ結局、どんだけ一緒のことをしようとしたって、やっぱ完全再現は無理やなって思うしねえ。それでも空間が固まってきたなあと思ったら、僕が本番で突然違うことをやったりするんですよ。クレイジーな所業やなあと思いつつ、喝を入れたいというか。
高阪 喝やったんですか(笑)。
池浦 そうそう。時空に歪(ひず)みをバン! と入れる、そのハプニング性が。でも最初から、それが許される舞台を作ってるんですよ。日々変化していくことがありというか、その変化があって完成するみたいな舞台を、僕は一から十まで作ってるつもりです。
実際の「薄い本」を前にして語り合う男肉たち。 [撮影]吉永美和子
■「しっかり作り込んで、神の手でズラしに行くのが面白いんです」(池浦)
──そのハプニング性の話で言うと、男肉のお客さんもそうやって決まりごとがゆるむ瞬間を、楽しんでるフシがありますよね。
池浦 そうそうそう。しっかり作り込んでる劇団って、そんなのは負けと思ってたりするじゃないですか? 全然うちは、そこを掘りに行きたい。でも決してアドリブで好き勝手していい舞台じゃなくて、基本的には決まったことをやるけど、そこに急に何かを放り込まれた時に起こる反応を見るぐらいが、僕は心地いいと思ってます。
すみだ 無法地帯ではないと。
池浦 絶対的なルールはちゃんとあって、それを神の手でちょっとズラしに行く(笑)。ただそれでミスったら……僕は別にいいけど、役者が傷ついたりするから難しいですよね。
高阪 僕はそれで一回、シーンを取り間違えたことがあるんですよ。僕きっかけで始まる所で、全然違うことをやってしまって。
すみだ その直前に、さだ夢さんがちょっとおかしなことをやった後だったから、多分それで頭がいっぱいになったんでしょうね。全然違うシーンを一人でやり始めたんで、みんながパニックになりました(笑)。
──でもお客さんは、シーンが飛んだことにはほぼ気づかなかったのでは。
高阪 僕もハケるまで気づかなかったです(一同笑)。終わった後に舞台裏で「おい、違うぞ」って言われて「え?」って。
池浦 まあこういう失敗って役者は傷つくけど、僕としてはさもありなんっていうか「これぞリアル!」ってとらえちゃうんです、変な話(笑)。そのハプニング性は、男肉では大事にしたいなあって思います。
すみだ 緊張感は生まれますよね、やっぱり。いつ何が起こるかわからんという。
──あと池浦さんが脚本を担当したドラマ『10神スパイ大作戦-コード・バリカタ-』が放映中ですが、「福岡のエンターテインメント集団“10神ACTOR(てんじんあくたー)”は、実はスパイ集団」という設定って、まんま男肉ですよね。
池浦 脚本をケズるとか変えるとかはほとんどなくて、ほぼ男肉でやってるような感じで書かせてもらえましたね。10神のみんなも頑張ってくれてるし、おもろいもん書いたって手応えはあるんですけど、そのバズってなさたるや山の如しで(笑)。
『10神スパイ大作戦~コード・バリカタ~』第1話トレーラー

──ただああいうグループって、なかなか個々の顔と名前が覚えられないものなんですけど、この男肉方式でドラマを作ったら、一人ひとりの個性がわかりやすくなるという利点があるので、すべてのエンタメ集団はああいうドラマを作ればいいと思いました。
池浦 それはねえ……非常にいいこと言ってる(一同笑)。花マルです、それは。グループでドラマを作るなら、そこは大事にしたいんでね。ただ男肉(のやり方)に近づけば近づくほど、売れへんくなるんちゃうかっていうのが。
すみだ でもドラマに出てた(ヨーロッパ企画の)土佐(和成)さんと永野(宗典)さんからは、「団長はクドカン(宮藤官九郎)になれるよ!」って言われました。
池浦 結構マジなトーンで言ってくれてましたね。永野さんからはLINEが来て「台詞が踊ってる」と(一同笑)。まあ自分でも、ブチ切れた台詞書けたなあって思いますし、たとえ30分のドラマでも、11話を全部書くことができたというのは、それだけで大きな自信になりました、単純に。
──まあそれを受けての今回の公演となりますが、コミケになじみがないと理解できないのでは……と恐れてる人もいるかと思いますが。
池浦 それはもう、愚問(笑)。知らないと面白くないとか、知らなくても面白い、知ってたらもっと面白いとかっていうんじゃなく、そんなん関係なく、見たらコミケに詳しくなって帰れるという教育劇です。だからコミケや同人誌のことを知ってようが知らなかろうが、舞台の面白さには一切影響がないと思います。
──あとこのタイトルからするに、寺山修司の『書を捨てよ、町へ出よう』も何か絡んでくるんでしょうか?
池浦 語感がいいっていうだけで、このタイトルにしたんですけど、寺山要素で言うならば………………あ、まったくないですね(一同笑)。
すみだ むちゃくちゃ考えたのに。
池浦 僕寺山が好きで、大学時代ずっと勉強してたから、その要素は意図しなくても入るだろうと思ってたんですよ、知識として。でも今のところ、寺山っぽい所は一ミリもない(笑)。
高阪 ない……かなあ?
池浦 まああえて言うなら、さっき言ったハプニング性ですかね。天井桟敷の『ノック』的な。やっぱりそこを大事にしてた人ではあるから、この部分はもしかしたらかすってるかもしれんけど、おそらくかすったように見えてかすってない。でも公演のチラシはね、『田園に死す』なんで(笑)。
これが寺山修司の映画『田園に死す』を意識した『薄い書を捨てよ、町へでよう』公演チラシ。
すみだ 寺山まみれなんですよねえ、チラシは。
池浦 字体も若干、天井桟敷っぽくして。でも内容的には、全然かすってないです。まあ今回は寺山というより、松田正隆のつもりで作ってますからね、気持ち的には(笑)。
大長編男肉 du Soleil『薄い書を捨てよ、町へでよう』PRラップ動画
取材・文=吉永美和子

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