オルタナロック好きを突き刺す新世代
バンド・ニトロデイ、ドミコを迎えた
横浜ツーマンを目撃した

ニトロデイというバンドを知っているだろうか。横浜出身、結成から3年だが未だ平均年齢19歳という若さ。著名バンド・オーディションの優勝歴を持ち、CDリリースはEP2枚、自主制作ミニ・アルバム1枚。いわゆる業界内や先輩バンド、早耳のバンド好きからの評価が非常に高く、レビューには“90年代オルタナティブ・ロックからの影響”という文字が並び、フェイバリットにナンバーガール(再結成!)などを挙げるセンスに、否が応にも引き付けられる。12月に出た1stフルアルバム『マシン・ザ・ヤング』のリリースツアー、初日の横浜B.B.STREETは対バンにライブ巧者・ドミコを迎えたツーマン勝負。バチバチの熱いバトルを期待して、JR関内駅降りてすぐ、ショッピング・ビルの12階へと足を運ぶ。
先陣を切るのはドミコ。19時10分、キング・クリムゾン「イージー・マネー」の出囃子に乗って現れたさかしたひかる(Vo&Gt)と長谷川啓太(Dr)は、フロアを埋めた観客の熱視線をはぐらかすように、ゆらゆらとサイケデリックな酩酊感溢れる「ベッドルームシェイクサマー」をぶつけてきた。思わずにニヤリ、らしさ全開のオープニング。「アルバムが出たばっかなんで、何曲かやっていきます」と一言、3rdフル・アルバム『Nice Body?』からグランジ色満点の「さらわれたい」、ファンキーにループするビートが気持ちいい「裸の王様」など、アッパーな曲を連ねて一気に加速。ドミコのライブの特徴はさかしたの操るルーパー・エフェクターで、ギター1台でアンサンブルを構築する手際は実に鮮やか。ドラムと呼吸を合わせテンポは緩急自在、まるでレーシング・ドライバーの助手席に乗せられているように、カーブを攻めて立ち上がる加速感がたまらない。
中盤はファンキーなうねりに二人のエフェクティブなコーラスが映える「くじらの巣」、踊れるワンコードでぐいぐい押しながら要所に鋭角的ギターが切り込みを入れる「まどろまない」など、ダンス・ミュージック、パワー・ポップ、オルタナティブ、シューゲイズなどが混然一体となったドミコ流ミクスチャー・ロックをノンストップで。「最後まで楽しんでください。ニトロデイありがとう」と、最後の挨拶を終えるとあとはゴールまでアクセルべた踏み。「こんなのおかしくない?」から「バニラクリームベリーサワー」へ高速キラー・チューンを立て続けに、そしてラストは新作アルバムからの「ペーパーロールスター」で、心拍数を上げ切ってジ・エンド。12曲で50分、ライブバンドの先輩として余裕とパワーを見せつけるナイスステージだった。
ニトロデイ 撮影=西槇太一
セットチェンジにたっぷり30分、満を持してニトロデイがステージに上がったのは20時半少し前。出囃子はニュー・オーダー「テンプテーション」だ。見るからに若くおとなしい学生バンド然としたイメージが、1曲目「炭酸状態」の轟音と共に豹変する。凶暴な重低音を響かすベース、荒れ狂うディストーションで武装した2本のギター、親の敵とばかりにスネアをひっぱたくパワー・ドラマー。見た目と音のギャップが凄い。幼い顔立ちを歪ませマイクに絶叫を注ぎ込む小室ぺい(Vo&Gt)は、アディダスのジャージになぜかヘッドホン。一つ年上の岩方ロクロー(Dr)は優しい眼鏡先輩。二人の女子メンバーのうち、松島早紀(B)は金髪メッシュのロング・ヘアーをなびかすクール・ビューティーで、ピクシーズのTシャツを着たやぎひろみ(Gt)は、清楚な佇まいからとんでもない爆音をまき散らす。ナンバーガールが好き? 納得だ。
ニトロデイ 撮影=西槇太一
明るいパワー・ポップ・スタイルの「ボクサー」を経て、アルバムにも入っていない新曲をいきなり2連発。ピクシーズを思わせる「ヘッドセット・キッズ」と、音はオルタナ/グランジ系だがメジャー・コードゆえ凶暴なポップに聴こえる「ジュニアハイ」。我流の節回しで突っ走る小室の歌に添える、松島のコーラスが効いてる。たぶん意識していないだろうが、どことなくデビュー当初のスーパーカーの面影もよぎる。20年目のオルタナ新世代のフレッシュな熱演に、しばらく忘れていたものをふっと思い出したような気持ちになる。
ニトロデイ 撮影=西槇太一
「リリース・ツアーの初日、横浜でやってます。最後までよろしくお願いします」
MCのような独り言のような小室の短い挨拶のあと、アルバム『マシン・ザ・ヤング』からの曲を立て続けにぶっ放す。明るくダンサブルなロックンロール「ヤングマシン」、松島の野太いベースラインがかっこいいミドル・チューン「カリビアン・デイドリーミン」、頭打ちのソウル・ビートがはじける「グミ」。ミドル・テンポの重いビートに歪みきったギターと、明るいメロディとの奇妙なずれが生み出す、ストレートなパンクやオルタナにはくくれない眩惑感。歌詞の深みまでここで論じるわけにはいかないが、十代の終わりゆえの葛藤と焦燥、希望と不安とのせめぎあいをヒリついた実感を持って書きつけた小室の歌詞は、ある年代のある心の形を正確に切り取って嘘がない。ステージ下の壁沿いで音に合わせて激しく体を震わせ続けている男子は、そのリアリティを真っ直ぐに受け取っているのだろう。踊るとか騒ぐではなく、ここにいる全員が一つの波動を受けてゆらめいて見える。
ニトロデイ 撮影=西槇太一
パンキッシュなエイト・ビート「ジェット」から「アルカホリデー」へ。上がり切った熱気を冷ますように一息ついたあと、「アルバムの話をします」と言ってぼそぼそとしゃべりだした小室の話が面白かった。大好きな曲をみんなに聴いてもらえるのがすごくうれしい。感想を教えてください。あそこがいいとあそこがダサイとか。僕はウィーザーのセカンドが好きなんだけど、あの曲を聴きながら作ったの?とか、そういう話がしたい。――微笑ましいほどの、生粋の音楽ファン。この男が作る音楽に嘘はたぶんない。ラスト・チューン「レモンド」の激しいリフを無心に弾きまくる、やぎの表情が可愛い。10曲で40分、パフォーマンスと呼べることは何もしないし、武骨に全力演奏しっぱなし、曲調の幅も今は狭い。だからこそ真っ直ぐに届く、原石だけが持つ輝き。ニトロデイには確かにそれがある。
ニトロデイ 撮影=西槇太一
アンコール1曲目は、またも新曲。ストイックに尖ったビートに癖のあるコード、「アンカー」の記憶に残る歌詞の断片は、少年が大人になる季節の揺れ動きを綴った歌のようだ。そして最後を締めたのは、よりオールド・ロックの香り高い軽快なエイト・ビートの「フライマン」。50分間絶えず攻撃的な爆音を鳴らしながらも、今出来ることを全力でやるだけという、どこか高校生のスポーツにも似た爽やかな後味が嬉しい。音楽的に凄いことをやってやるという意識の前に、今は楽器を持って何か叫ばずにいられないという衝動に導かれた、青く瑞々しい新世代オルタナティブ・ロック。終演後、物販ブースに立つ4人は、やはりどう見ても爽やかでおとなしい学生たちで、やっぱり音とのギャップが凄かった。2019年、これからどんな活躍を見せてくれるのか。ニトロデイの名前を覚えておこう。

取材・文=宮本英夫

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