【前Qの「いいアニメを見にいこう」
】第14回 「臨死!! 江古田ちゃん」
は新たなマイルストーン?

(c)瀧波ユカリ・講談社/臨死‼ 江古田ちゃんアニメ製作委員会 「臨死!! 江古田ちゃん」がアニメ化される――そう耳にした瞬間、「なぜ今?」という言葉が即座に脳裏をかすめた。先だっても「妖怪人間ベム」の新作が発表されたり、現在も「どろろ」がリメイクされていたりと、懐かしいタイトルを元にした企画がいろいろと動く昨今ではあるものの、それにしても不思議だ。ところがこれが、蓋を開けてみれば、なんともおもしろい。「なぜ今?」の答えは、やっぱり出なかったけれども。
 原作は2005年から2014年にかけて「月刊アフタヌーン」で連載された、同名の人気コミック。著者の瀧波ユカリは本作の終了後もマンガ、イラスト、エッセイなどのジャンルで旺盛に活躍中ではあるものの、連載終了から約5年を経て、何がしかのアニバーサリー・イヤー的なこともない中でアニメ化企画が動くことは珍しい。なお、2011年に「ユルアニ?」枠の一作として「元気!!江古田ちゃん」のタイトルで一度アニメ化されているが、今回の企画はそれとは独立しているので、気にせず、いきなりご覧いただいて構わない。また、原作未読でもまったく問題がない作りでもある。なぜなら今作最大のウリは、「監督12人×主演声優12人」による短編オムニバス作品という点だから。
 このコラムの執筆段階では、第7話までを視聴済み。これまで監督を手がけたのは、大地丙太郎、杉井ギサブロー、しぎのあきら、望月智充、米たにヨシトモ、高橋良輔、三沢伸。錚々たるビッグネーム揃いである。このあとにも小島正幸、高橋丈夫、コバヤシオサム、森本晃司、長濵博史が控えている。主演声優も、石田晴香、朴ろ美巽悠衣子千葉千恵巳宍戸留美三森すずこ、土井美加、伊瀬茉莉也小清水亜美、コショージメグミ、たむらぱん、小林愛と、単に話題性だけのセレクトではない、なんらかの明確な演出意図があると推察させるバラエティに富んだ顔ぶれが並ぶ。
 実際、出来上がったフィルムにしても、「ギャグマンガ日和」「浦安鉄筋家族」などショートギャグといえば得意中の得意ジャンルな大地監督による第1話は、テンポよく、オーソドックスに、「臨死!!江古田ちゃん」という原作の「笑い」の魅力をストレートに引き出している。続く杉井ギサブロー監督による第2話は、岡田麿里を脚本に立て、原作のピロートークのシーンのみを活かす形で、しっとりとした情感を湛えた大人のドラマを展開。その後も、3話のしぎのあきらはキャラクターデザインを小動物をモチーフにしたマスコットキャラ風に改変しポップな映像に仕上げ、4話の望月智充は全体のルックは美少女アニメ的ながらも人間のどす黒い「業」を切り取るようなストーリーを描き出す。5話の米たにヨシトモは脚本・絵コンテ・原画・動画・仕上げ・色彩・背景・音響監督・音楽・効果のひとり十役(+声の出演)による驚異の自主制作風アニメ。6話の高橋良輔はロトスコープによって「江古田ちゃん」というひとりの女性のリアリティーをある意味で実写以上に際立たせ、7話の三沢伸は「赤い糸」をモチーフにしたサイケな映像世界を作り上げる。どこをとっても、コンセプトを明確に立てた、尖ったエンターテインメントになっている。映像の質に合わせ、役者陣が普段はあまり開けないような演技の引き出しを開いている点も見逃せない。いつもより弾けた芝居、生っぽい芝居にハッとさせられる瞬間が多々ある。
 そして、そんな監督、役者の、今作に関わったことでのエッジ感をより強く意識させてくれるのが、豊かなメイキングだ。AT-Xでの放送とdアニメストアでの配信では、本編の終了後に、各回の監督と主演声優に、今作の企画のキーパーソンのひとりである片岡義朗を交えての20分強の鼎談映像が付属し、さらにその話数の作画工程の一部も垣間見ることができる(ロトスコープ回での実写からの線の拾い方などは、作画に興味がある人にとってはたまらないのでは)。
 実験性の高い短編アニメのオムニバス企画を商業レベルで実現すること。その夢に、これまでの多くのアニメ業界人が挑み、傑作、名作、秀作、怪作などなど、さまざまな成果を産み落としてきた。たしかなのは、そのどれもが、のちのち日本のアニメの可能性を豊かに押し広げてきたことである。「ロボットカーニバル」だって「迷宮物語」だって「MEMORIES」だって「ジーニアス・パーティ」だって「アニメ(ーター)見本市」だって、今振り返れば、どれもアニメの歴史の重要なマイルストーンである。
 今作はそんな試みの最新の事例のひとつとして、注目すべきタイトルだと言えるだろう。……って、すみません、ちょい大げさなことを言いました。でもさー、作家性の濃厚に出たオムニバスって、やっぱ見てて楽しいじゃん? ワタクシはもっとこういう企画が見たいので、ぜひ読者のみなさまにおかれましても応援していただきたいと思い、こうしてキーボードを叩いた次第なのであります。伝われ〜。念よ届け〜。ってな感じで、また次回。

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