四星球 インタビュー ライブでの思
考と手法を音源に活かした傑作『SWE
AT 17 BLUES』誕生の背景は

伸びてる! 階段を駆け上がってる! どんどん人気者になっていく! 2018年が始まってから終わるまでの間、ツアーやあちこちのライブハウス、フェスやイベントなどで四星球のライブに遭遇するたびに、そのことがもう目に見えてわかった。集客の多さ、場の熱狂的な温度の高さ、「四星球も好き」から「四星球を好き」にどんどん変わっていくオーディエンスの目の色。「これはいよいよ来るべき時が来たかもしれない」と思わされる、そんな状況で2019年を迎えた四星球が放つのが、バンドとして初めて「今ライブでやっていることを新音源としてパッケージする」ことに取り組んだ、そしてすばらしい成果を出したニュー・アルバム『SWEAT 17 BLUES』である(結成17年で17枚目のアルバムだから17トラック収録でこのタイトル、だそうです)。このタイミングで世に出る四星球のインタビューが何本くらいあるのか知りませんが、以下、かなり決定版なテキストになったという自負ありです。ぜひ最後までお読みください!

■150キャパに満ちてた熱が、今は500キャパ、600キャパにあるみたいな感覚かもしれない(康雄)
──SPICEでは1年ぶりのインタビューになるんですが、この1年間の四星球の活動──特にライブの動員やフェスでのウケ方を見ていると、何もかもがすさまじくうまくいっているような──。
北島康雄:(笑)。そうですか? 2018年ですよね? そうかなあ……。
U太:秋にワンマン・ツアーがあって、その動員で言うと……去年1年やってきたことの結果が出た、ちょっと浸透してきたのかなっていうのが、数字の面では見えましたけど。地方地方であんなに売り切れるようなワンマン・ツアーはしたことなかったんで。
──お客さんの温度も前とは違いません?
U太:あ、待たれてる感みたいなのがあったですね。オープニングのときのお客さんの感じとか。
康雄:150キャパに満ちてた熱が、今は500キャパ、600キャパにあるみたいな感覚かもしれないですね。それ以上のところに持っていくにはどうしたらいいか、っていう難しさが、今後の課題やと思うんですけど。
だからまあ、2018年ってもの自体を考えると、この先何年か後に振り返りやすい年だったかなと思いますね。「あれ2018年だよね」って言えるようなトピックが多かったと思います。
まず『HEY! HEY! NEO』の出演があり(2018年4月9日放送の回に出演。「HEY!HEY!HEY!に出たかった」を演奏した)、それの収録が3月で、4月に放送されると。そこが、春の『鋼鉄の段ボーラーまさゆき』のレコ発ツアーの期間とかぶってるんですけど、そのツアーがね、これから僕たちのワンマンがこうなっていくであろうというツアーになったんですよね。ちゃんとストーリーが組まれていて、伏線と回収があって、っていうライブを打ち出すことができた。
――はい。
康雄:その頃U太は、9月に地元でやった『四星中学校文化祭』の準備で動いてるんです。6月ぐらいから9月までがフェスがほぼ毎週あって、その最後に地元で『四星中学校文化祭』があり、そして10月に入る頃にこのアルバムのレコーディングが開始される、それと同時期にワンマン・ツアーが始まるんですね。
そこで僕、いちばん充実したと思うのは、アルバムの仕上がりにそのワンマン・ツアーがちゃんと反映されたということ。プラス、そこでなんばグランド花月が入ってくるんですよ(11月11日、『久馬責任編集 月刊コント四星球と。号』に出演)。それが2018年後半のおっきいトピックというか。それがあったから、ワンマン期間中に作ったものでありながら、外に向いてるアルバムに仕上がったと思うんです。
──なんばグランド花月という経験が、四星球にとってどんな意味で大きなものだったのか、もうちょっと教えていただけますか。
康雄:ああ、そうか。笑いの殿堂と言われている場所で、芸人さんの中でやらしてもらったんですけど……ザ・プラン9の久馬さん(お~い!久馬)が、毎月やられてるイベントなんですけど、僕たちがバンドマン役でライブをする、しかもコントにも参加さしていただけるという。
昨今のフェス・ブームの中で、芸人さんも出てるフェスってのはいくつかあって、バンドマン畑で芸人さんがフロアを湧かしてるじゃないですか。それを観れば観るほどに、逆をやりたいなとずっと思ってたんですよね。芸人さんの畑でバンドがお客さんを湧かす、っていうのを。それをやれた、しかもしかもなんばグランド花月という場所で。というのがおっきいかなと思いますね。
まさやん:いきなりバンドやったもんね。幕が上がって、僕らが演奏し始めるっていう。あれはすごい体験でしたね。お笑いとバンド、どっちがメインとかがない感じが、すごいうれしいなと思いました。
四星球・北島康雄 撮影=風間大洋
四星球・まさやん 撮影=風間大洋
■作っていく途中で「ワンマンの感じでアルバムの構成を考えてるわ、俺」って気がついた(康雄)
──で、さっき康雄さんがおっしゃった、ニュー・アルバムに2018年後半のワンマン・ツアーが反映されたというのは──。
康雄:ワンマン・ツアーが、けっこうストーリーがあるライブをしてまして。長いときだと3時間半とかいくんですけど。伏線があって、後半でそれを回収したりとかして。そういう「ライブを観終えた!」っていう感覚を、アルバムでも味わってもらいたいなって思っていることに、作っていく途中で気がつきました。「ワンマンの感じでアルバムの構成を考えてるわ、俺」って。
──以前はそうしようとは思わなかった?
康雄:そうですね。ワンマン・ライブを始めて、いろいろやりかたを覚えていって、今のこの形になってから3年ぐらいやと思うんですよね。でも、ライブとCDは今まで離してたんです。ライブを意識した曲作りはしますけど、アルバムまるごとワンマン・ライブを意識して作ることはなかったから。初めてですね、こういうふうに作ったのは。
──ただ、本来、ライブは一回観て終わりだけど、アルバムは何度も聴くものじゃないですか。そこの違いをどう解決するか、というのは──。
康雄:まさにそこも、新しい方法でやりたくて。何回も聴きたくなるようなCDってどんなものか?っていうのを考えると、ただただ曲がいいっていうのもあるし、尺が短いっていうのもあるだろうし、スッと気持ちに入ってくるっていうのもあるでしょうけど。でも、僕らの今回のこれは、「あれ? ひょっとしたら、あの曲で言ってたやつ、この曲のココとかかってるの?」みたいに、もう一回聴いてまうっていう。
──ああ、フリのときはわからなくて、後半で回収されて初めて「あれフリだったのか!」ってわかるっていう。
康雄:それがもう無数に入ってるんですよ、このアルバム。なので何回も聴いてまう、っていうようなんは、今までなかったんじゃないかなと思って。『シックス・センス』的な。パブリック性もありつつ、でもコアな人にも楽しんでもらえるものができたかな、とは思いますね。
あと、ワンマンやって気づいたのは、「これ、ほんまは伏線ちゃうのに伏線になってもうた」ということも起きるんですよね。聴いてて深読みしてしまうというか、「これってもしかしてこういうことなん?」っていうふうに、僕が考えてた以上のことが起きてくる。そんだけの数を伏線として張ってますね。それに気づいた頃には、他のものすらも伏線に見えてきて、もう止まらんくなるっていう。
──「いい歌ができたんだ、この歌じゃないけれど」なんて──。
康雄:ほかに「いい歌」があるからですもんね。その「いい歌」ができたのが朝方で、「ああ、いい歌できたなあ、なんか興奮して眠れんな、このテンションでもう1曲ぐらい作れるな」と思って、「いい歌ができたんだ、この歌じゃないけれど」が生まれて。
──それがどの曲かは、ここでは言わない方がいいですね。
康雄:でも、聴いてもらうとわかるようにはしてあるんですけどね。その「いい歌」のことを暗に言うてるような歌詞があったりして。
四星球 撮影=風間大洋
■できない奴でおりたい、できない奴と見られたい(康雄)
──四星球って、作曲クレジットは「四星球」ですよね。曲はどういうふうに作っているんですか?
康雄:いちばんはじめから言うと、僕が紙一枚に歌詞だけ書いて、それをコピーしてメンバーに渡して、「こういう感じの曲にしたい」っていうことを言って。あとはもうほんまに鼻歌とかで、まさやんがコード拾ってメロディつけて、そっからバンドで音出して――みたいなことをしていくという。だから、バンドとしてはいちばん原始的なやりかたで。
──そこでコードも持っていかないんですか?
康雄:僕、コードわからないんですよ、ギターも弾けないんで。鼻歌すらないときもあるし、むしろ鼻歌があるとじゃまになることも多いと思うんで。よっぽどじゃない限りは、自分から歌う感じじゃないですね。
──その方法で17年ずっと?
まさやん:いや、昔はもっと鼻歌の割合、多かった気がしますね。昔はもっとメロディも持ってきてたんですけど、最近は敢えてそれをしてないのかもしれない。
康雄:あの、はじめはただ音楽を好きな少年っていうだけやったのに、17年やってると……これ、あんまり言いたくないですけど……ちょっと音楽の知識を持ってしまうんですよね。そうするとおもしろくなくなるじゃないですか。今までおもしろかったのって、知識がない奴が鼻歌で作った曲を、みんながバンドでどうにか音楽にしていくことのおもしろさやと思うんで。今は最初にそれっぽい歌を作って持っていけちゃうんですけど、それは絶対的にいらないと思うんですよ、僕にとっては。なので、最近は紙一枚だけで持って行ってますね。
──その、音楽の知識とかノウハウを得たくないという気持ちは、かなり強固なものとしてある?
康雄:おもしろくなくなりますよね。4人全員がミュージシャンになると、僕の存在理由はないな、と思うんですよね。3人に音楽をやってもらって、僕はしょうもないことを出していく担当やないと、ほかのバンドと変わらなくなるなあと思ってて。
──でも、音楽を知った上で、あえてしょうもないことを出していくという方法も──。
康雄:音楽を知ってしまうと、音楽の理論の中で考えてしまうじゃないですか? 音楽の理論の中でやれること/やれないことを、勝手に自分の中で判断してしまったり、「こんなことを言ったらただのわがままになる」ってわかってしまうとか。すごい昔に聞いた話で、たけしさん(北野武)が初めて映画を撮るときに、初心者やからなんでもかんでも言えちゃうっていう──。
──ああ、『その男、凶暴につき』のとき、ベテランのカメラマンに「こんなアングルありえない」とか言われても「うるせえ、いいから撮れ」って突っぱねていたっていう。
康雄:それでおもしろい画が撮れるっていう。それ、子供のときに聞いて、ずっと自分の中にあるんですよね。知らない方がおもしろいものを作れる、そこはずっと大事にしてるかもしれないですね。できない奴でおりたい、できない奴と見られたい、みたいな感覚はありますね。
──メンバーとしては、そういう人がボーカリストであることのメリットとストレス、両方あると思うんですけども。
U太:(笑)。まあねえ、でもそもそも出会ったときから考えたら、ボーカリストにもフロントマンにもなるような人間ではなかったので。
──どんな人間だったんですか?
U太:ただのお調子者(一同笑)。ほんまにただのお調子者で、歌も学年の最下層ぐらいヘタクソやったし。それでも何かがあったから、一緒にやったと思うんですよね。そもそも音楽的な部分は求めてないですし。
──でも、ときにはメンバーに「そんなことできるか、音楽なのに!」って言いたくなるような要求もしてくると思うんですが(笑)。
U太:ああ、それはもう多々ありますけど、そういうときに「なんやねん!」って言ってたのは、数年前までで。今はそういう、ハタから見たら「そんなんようやれてるわ」みたいなことも「ああ、わかったわかった」ってやれるのがこのバンドなのかな、と。で、それに対して、さらにまわりのメンバーからプラスアルファの意見が出るようになったのは、この半年ぐらいからかな。このアルバムのレコーディングに入ったぐらいから、みんなから「もうちょっとおもしろくしよう」感が出てきたと思いますね。
まさやん:康雄がさっき言った、自分が音楽の人になったら存在意義がなくなるっていうの、逆も然りで。康雄が音楽をできるようになったら、「もう僕らいらないやん」てなりますし(笑)。でも、音楽を知ってる人であれば出てこないであろう曲の発想とか……たとえば「いい歌ができたんだ、この歌じゃないけれど」では、「途中でパレードにしたいんだけど」って言い出して。途中でパレードにするっていうのは、曲を作る人間が出すアイデアではないと思いますし、もっと昔で言うと「曲中でUFO呼びます」って、意味がわからないじゃないですか?
──はい(笑)。それが今はライブでいちばん盛り上がる時間になってるという。
まさやん:そんな発想は絶対出てこないから。で、その感覚が研ぎ澄まされてきているなあ、っていう感じもあって。たとえばギター・ソロを僕が持っていったときに、康雄に「そこもっとガシガシ弾く感じの方がいいんじゃないか?」って言われて、やってみたら、「あれ、ほんまや!」とかいうこともあるので。
だからね、康雄に楽器弾けるようになられたら、僕は困りますね(笑)。……めちゃくちゃ昔、スタジオで「ちょっとギター弾いてみたいんやけど」って言うからギター渡して、「いちばん簡単なコード、なんなん?」って聞かれて。「Aがいちばん簡単なんじゃないかな」って押さえ方を教えて、「じゃあ弾くよ」ってジャーン!て弾いたら、そのAが、弾けてないけどめちゃくちゃかっこよくて。なんて言うんでしょうね、「初めてギター持った奴の音や!」っていう。その感じでいた方が絶対にいいんじゃないかなっていうのは、今そうやって質問されて思い返すと、そうですね。
──ああ……ものすごく言いたくないけど、もしかしたら、(甲本)ヒロトさんがよくおっしゃってることに、近いかもしれないですね。
まさやん:(笑)。ああ!
──熟練とか経験とかに価値を見出してない、いかに最初にバンドで音を出した瞬間、初期衝動の瞬間に戻れるかが全てだ、みたいな。ヒロトさんとギターウルフのセイジさん。
まさやん:そこと一緒っていうのはかっこよすぎますけどね(笑)。
四星球・U太 撮影=風間大洋
四星球・モリス 撮影=風間大洋
■もう“大ドヤ”なんですよね、このアルバム(U太)
──完成したこのアルバムを最初に通して聴いたとき、どんなふうに感じました?
モリス:僕は、四国で、自分のクルマでずっと聴いてるんですけど、いい意味でサラッと聴けるというか。今までもボリュームが多い作品をよく出してたんですけど、「もうおなかいっぱいやな」ということもあったんですね。今回は1枚を通して聴いてちょうどいいな、っていう印象ですね。
まさやん:制作の終盤に……さっき康雄が言うてた、前半のフリが後半に回収されていくのがいっぱいあって、具体的に言っちゃうと……(フリ→回収の例をひとつ挙げる)……そういうふうに「これはフリだ、ここにかかってて、それがあとでこういうふうにわかるんだ」っていうのは、康雄はメンバーには言わないんですよね。で、今挙げた曲のときも、「こういうセリフを録りたいから」って言われて、全然深く考えずに録ってたんですけど。
それをあとで……レコーディングの後半でアルバムの各曲、「録り忘れないかな」みたいな確認作業を康雄とエンジニアとディレクターでやっていて、その声がヘッドホンから漏れ聞こえてて。僕は隣の部屋で、段ボール小道具を作りながらその声を聴いてたんですけど、そのときに「あ! あのセリフってこの曲のここにかかってたんか!」ってピースがはまって。すごく興奮して、康雄とかが話してるブースに飛び込んで「康雄、さっき録ったセリフ、こことここにかかってるやん! めっちゃええやん!」って言ったら、すごく冷たくあしらわれたんですよ。「今その話するときじゃないから」みたいな。
──はははは。
まさやん:「あれ? 気づくの遅かったんかな」と思いながら扉を閉めて。あとでモリスに聞いたら、「俺もそのときまで気づいてなかった」って(笑)。
モリス:まさやんが興奮気味に話しとるのを見て「そういうことだったんか!」と思ったんですけど、あまりに冷たい反応をされてたから、「俺は知ってたよ」みたいな顔をして(笑)。
まさやん:しかも、そのフリが入ってる曲が、アルバムのレコーディングが決まる全然前からある曲やったりするんですよ。いつから伏線を張ってたのか、いつからアルバムの構想があったんかがわからないんですよ。それでめちゃ怖くなったんです、「どこまで先を見据えて作ってたんだろう?」って。そういうのを音源で味わったことは、今回が初めてでした。聴いていてこういう感覚になれるCDは、他にないと思います。
U太:17トラック入ってて、CDの収録時間ギリギリっていうのを、取材とかでよく言ってるんですけど、それってマイナスプロモーション面もあるなと僕は思ってるんですよ。でも、聴いてたら早いんですよね、このアルバム。気がついたら17曲分の時間がすぎてた、というような。これまでのアルバムって、1曲1曲の“ドヤ感”がすごかったんですよ。
康雄:(笑)。うん。
U太:でも、“ドヤ”の数はこのアルバムの方が多いんです。もう“大ドヤ”なんですよね。でも、聴くと“大ドヤ”感がないんですよ。全部においてバランスがよくて、スッと聴くモードにしてくれる。通勤とか通学のときに普通に聴けるCDでもあるし、かと言って1曲1曲のおもしろさが減ったわけでもないし、むしろ増えてるし。とにかく、1曲目から17曲目まで聴いて、この時間を経験してほしいなっていうアルバムですね。

取材・文=兵庫慎司 撮影=風間大洋
四星球 撮影=風間大洋

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