キラリふじみで“家族劇”2作同時上
演、演出家・田上豊インタビュー~「
家族っていいことばかりじゃない……
でも」

7年前に始まった、劇団田上パルの田上豊による“家族劇”シリーズは、何度も繰り返し上演され愛されてきた。プロデュースをしたのは、埼玉県富士見市に2002年オープンした富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ。独自の取り組みで、レベルの高い演劇やダンスを制作している。また、舞台ファンだけでなく多くの市民が集う場所としても親しまれている。
今回2019年2月の再演では、シリーズ一作目『Mother-river Homing(マザーリバーホーミング)』は4度目、シリーズ二作目『Mother-river Welcome~華麗なる結婚~(マザーリバーウェルカム)』は2度目の上演となる。そして、初めての2作同時公演だ。
また、田上は、2019年4月にキラリ☆ふじみの芸術監督に就任する(「田上パル」主宰/ダンサー・白神ももこと共同芸術監督)。節目となる時期を前に、これまでのキラリ☆ふじみでの活動の集大成ともなる人気シリーズ二作上演に挑戦している。
再演され続けてきたシリーズ、初同時上演
―7年前の初演から何度も再演されてきた人気シリーズ、初の2作同時上演ですね。それぞれどんな話でしょう?
昭和の熊本に住む大家族“板倉家”の話です。一作目の『Mother-river Homing(以下、ホーミング)』は1980年。6人兄弟姉妹のもとに一人の女の子があらわれ「もしかしてもう一人の兄妹!?」という疑惑からおこる家族劇です。二作目『Mother-river Welcome~華麗なる結婚~(以下、ウェルカム)』はその5年後。三女の結婚を巡る騒動が描かれています。他人がひとつのコミュニティに参入してくる時に、前向きに受け入れられる人もいるし、拒否反応が起こる人もいて、新しく家族になるって単純にハッピーなだけじゃないということを描こうと思いました。続編とはいえひとつの独立した物語なので、一作ずつ完結しています。
『Mother-river Homing』(撮影:松本和幸)
―“板倉家”は本当に賑やかで、テレビの大家族スペシャルを観ているような印象の舞台です(笑)自身の実家がモデルになっているとか?
そうなんです。登場するエピソードは、僕の親戚がモデルになっています。たとえば二作目では、三女の結婚について家族それぞれの意見が違って大モメするんですが、それは僕の両親が結婚する時に実家と揉めた話がベースですね。脚本を書くために両親に取材しました。大人になってあらためて両親の話を聞くと、小さい頃に聞いていた印象とはまた違う角度で話が見えてくる。自分も結婚を経験したこともあって、知っていたエピソードがまったく別の輝きを持って僕のなかに入ってきました。「ああ、そういうことだったんだ!」という発見もあり、年代や立場によってひとつのエピソードが違ってみえるという状況を描く参考になりました。
―当時、熊本の震災(2016年)があって、その時のことも作品に反映されているとか。
そう、書いている途中に、僕の地元の熊本で地震がありました。母に連絡したら、「空き巣が入るから避難所に行かずに家にいる」って言うんです。その話に着想を得て、“家族に近づいてくる不審な人物”を登場させ、結婚話と絡み合っていきます。これは、シェイクスピアの『夏の夜の夢』の構造に似ているんですよ。あの話も、若者の恋愛沙汰と職人の芝居づくりという2つの軸が、妖精のいたずらによって複雑に絡み合っていく……。そのイメージもあって時期はお盆に設定しました。
―そういう「地元感」があるせいでしょうか……不思議なことに、“板倉家”は近所にいる家族のような親近感がわくんですよね。
そうですね、7年間上演を重ねてきて、馴染んできた気がします。お客様も、ご近所さんに遊びにくる気持ちで劇場に来てくださると嬉しいです。
『Mother-river Homing』(撮影:松本和幸)
5年の変化が浮かび上がる“家族劇”
― 同じ家族を描いているとはいえ、それぞれ独立した作品。しかも今回は初の試みとして、2作同時上演にしています。その意図は?
次にやるなら同時上演だと決めていたんです。映画のシリーズものはどの作品から見てもいいという楽しみ方がありますけれど、演劇にもそれが可能なんじゃないかという試みです。一作だけでも完結していますが、一作目から時系列で観ると「あの家族がこうなったんだ」と楽しめますし、逆の順番で観ると「この人は5年後にはいなくなるんだ」と切なくなりそうですね。どちらの楽しみ方もできますし、それぞれ独立した話なので、もちろん1作のみでもご覧いただけます。
― 一作目と二作目で、家族にはきっといろんな変化がありますよね。
そうですね。アルバムをめくっているような感じで、1980年の家族エピソードと1985年の家族エピソードを垣間見ていただけると、5年間の変化を楽しんでいただけるんじゃないかなと。同じ“板倉家”を描いているのに、人物写真を前から撮った時と横から撮った時のような違いがあるんです。
5年後の方が、少々酷い状況でしょうか。円満だった夫婦が離婚したり、借金を背負ったり……。一作目を上演した時は「実家の親に電話しようと思いました」とか「楽しかった」という感想をたくさんいただいたのですが、二作目の時は「ほろ苦い」という声もありました。どちらの作品も賑やかでエネルギッシュで、笑える要素も多い作品ではあるんですけれどね。
ただ、家族って単純じゃないし、いいことばかりでもない。5年違うと変化があるのは当然で、現実の人生だってそうですよね。そんな時間の積み重ねのなかで、世代の違う人達がそれぞれの価値観で行動している。板倉家は一番上の母親から孫まで46歳も離れているから、あたりまえですが、考え方がまったく違うんですよ。お互いに「なんでそんなこと言うの?」と理解ができないこともある。善悪は表裏一体で、いろんな価値観があるので、そんな家族の集合体を見ていただきたいです。
『Mother-river Welcome―華麗なる結婚―』(撮影:松本和幸)
―2作同時に演出に取り組んでみて、いかがですか?
脚本を書いた時は意識していなかったのですが、同時に両方を演出してみると、つくり方が違う2作なんだなと改めて発見しました。
一作目『ホーミング』は物語の骨格がキッチリしていて、あまり変える余地がないんです。セリフや登場する順番など変えると成り立たなくなるくらい、話が組み立てられています。そのため、脚本に沿って精度を高めるように稽古しています。一方、二作目『ウェルカム』は、当時はガッチリと構造を組み立てていたつもりだったのに自由度が高い。稽古のなかで新しいことに挑戦してみたりと実験を重ねています。この違いを活かして、あえて2作の演出方法を変えて、差別化をはかっています。
この違いに気づいたのは、実は、僕も俳優たちも前回の上演で決めたことをほとんど覚えていなかったからなんですよ!『ホーミング』は4年ぶり、『ウェルカム』もほぼ3年ぶりですからね。「このシーンはこんなふうにやっていた気がする……」と記憶を辿りながら、再構築しています。ストーリーは同じだけれど、また一から今しか出せない今の空気感を大切にして創っているので、過去にご覧になった方もまた違う印象を受けるでしょうね。忘れると「こんなやり方もあったんだ!」と新しい発見がたくさんあって楽しいです。
『Mother-river Welcome(マザーリバーウェルカム)―華麗なる結婚―』(撮影:松本和幸)
『北の国から』や『寅さん』のようなシリーズに
―一作目『ホーミング』は4度目、二作目『ウェルカム』は2度目の上演。これほど再演を重ねて、変化や特徴はありますか?
大枠は変わりませんが、ずっと出演している俳優は7年分の歳を重ねていますから、今がもっとも脂ののっているピークですね。再演のたびに少しずつキャストが入れ替わって変化を重ねてきましたが、ずっと出演している俳優がいることで繰り返し噛み締めてきた強さがあるなと思います。彼らが新しくキャスティングされた俳優のことをおおらかに受け止めてくれるので、その風通しの良さが作品の雰囲気にも出ています。
でも、次の再演は少し時間を置くことになるでしょうし、その時には、初代の俳優は一新されるはず。今回はオリジナルキャストの出演が観られる最後の舞台になりそうです。
―今シリーズにとって、ひとつの節目にあたる上演なんですね。
はい。しかも、はからずも平成最後の上演です。平成から見ると、昭和の家族を描いた今作は「ひとつ前の世代」の懐かしい風景ですが、今後再演される時には年号も変わって「ふたつ前の世代」の作品になるでしょう。“時代を描く”という意味でも節目の時期なので、少し感慨深いですね。
―このシリーズは、キラリ☆ふじみ(埼玉県富士見市の文化公共施設)のプロデュースです。ひとつの劇場がレパートリー作品として同じ作品を何度も再演することは、日本では珍しいですね。もともと計画していたんですか?
初演の前から、劇場の方とは「再演ができるような作品にしよう」とは話していましたが、まさかこんなに短いスパンで上演が繰り返されるとは思いませんでした。上演のたびに地元の方や、遠くからも観に来てくださるし、初演から7年積み重ねてやっと、キラリ☆ふじみ専属の“家族劇シリーズ”のレパートリー作品として定着してきたのかな。ここに来ると「あの家族に会える」と思ってもらえたら嬉しいです。熊本弁のお芝居だけれど、この作品に登場する“板倉家”が、近くに住んでいるひとつの家族だと感じていただけるような、市民の無形の財産になりたい。富士見市にとっての『北の国から』や『寅さん』のようになれればいいですね。
―“板倉家”の物語が、三作目以降も続いていく可能性があるわけですね。
具体的なことはまだ想像できていません。けれども、もともと三部作のつもりなので、最終章を書きたいですね。“板倉家”の家族がもっと若い時の話や、もっと少人数の家族構成の話、子どもが出るような話など、アイデアはいろいろあります。焦って創っても良いものはうまれないので、「あ、今創るべきだな」と感じたタイミングでみなさんにお披露目できるでしょう。その時には、三部作同時上演もしてみたいですね。
取材・文=河野桃子

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