THE BACK HORN 20年間の歩みを音と
魂に込め、3度目の武道館に立つ

THE BACK HORN 20th Anniversary「ALL TIME BESTワンマンツアー」~KYO-MEI祭り~

2019.2.8 日本武道館
20年間ずっと傍にいるのが当たり前だと思っていたことが、実は特別なことだったと気づくための特別な場所。THE BACK HORNの日本武道館がそういうものであるならば、僕はその幸運を確かめるためにそこへ行こう。2019年2月8日、結成20周年を祝う『THE BACK HORN 20th Anniversary「ALL TIME BESTワンマンツアー」~KYO-MEI祭り~』のツアー・ファイナル。ほぼ5年置きに周年の節目ごとに開催されてきた武道館公演、これが3度目の晴れ舞台だ。
THE BACK HORN 撮影=AZUSA TAKADA
THE BACK HORN 撮影=AZUSA TAKADA
20年間の歩みを走馬灯の如く駆け足で見せる映像、そして菅波栄純(Gt)が一人会場を盛り上げながら駆け込んで来るその後ろから、ゆっくりと位置に付く3人を包み込む大歓声。すかさず1曲目「その先へ」のイントロと共にぶち上がった炎の柱と、まるでこの記念日の1曲目を想定したかのような<始まりはいつだってここからさ>というフレーズに20年分の思いが滲む劇的なオープニング。3曲目に早くも登場したデビュー曲「サニー」の<今もあの時の気持ちのまま>という歌詞が時を超え胸に沁みる。岡峰光舟(Ba)はどっしり構え、菅波はくるくる回り、松田晋二(Dr)は前のめりビートで煽りたてる、そのど真ん中を突き抜け言魂を届ける山田将司(Vo)の堂々たる歌。気合い十分の幕開けだ。
THE BACK HORN 撮影=AZUSA TAKADA
「たくさんの思いを持ってここに来ました。みなさんもそうだと思います。その思いをここに充満させて、最高の夜にしたいと思います!」
松田のMCが心なしか上ずり気味なのは興奮か緊張か。「罠」から「ジョーカー」へ、あうんの呼吸でテンポを自在に変えうねりながら曲は進み、インディーズ時代からの定番ロック・バラード「ひとり言」では人の優しさを求め、一転して「悪人」では人の闇を断罪する。ステージ左右スクリーンに映る万華鏡のような光の明滅の下、強烈にヘヴィでハードコアな「雷電」のサウンドに、電流に打たれたように茫然と立ち尽くし聴き入る観客。人の脆さ愛しさを思う「コワレモノ」では山田がラップ調のスリリングな歌を聴かせたかと思えば菅波が陽気にコール&レスポンスをリードし、「もっとアゴ出して!」と意味不明のサジェスチョンを山田が笑顔で見守る。大丈夫、バンドは自然体だ。
THE BACK HORN 撮影=AZUSA TAKADA
「THE BACK HORNって、3回も武道館でライブできるバンドなんだね」と人ごとのように感心する岡峰に菅波が突っ込みを入れる。1日違いで明日は雪という予報を受け「俺たち幸運持ってるね」と山田が笑い、「20年間いろんなことがあったけど今ここにいれて良かった」と松田が締める。四者四様の和やかMCを経てライブは中盤へ、強く明るく優しい「初めての呼吸で」から、山田が哀愁の鍵盤ハーモニカを聴かせるレゲエ調の「ヘッドフォンチルドレン」、点描のようなリズムから壮大なミドル・ロック・バラードへ至る「美しい名前」と、ストレートな激情型ロックの枠に収まらないTHE BACK HORNの表現力の豊かさはライブで体感してこそわかる。初期のシングル曲「未来」の、ドラムとベースがバトるように絡み合うリズムはほとんど人力ダンス・ミュージックで、新発見と言っていいほどフレッシュに聴こえてくる。
THE BACK HORN 撮影=AZUSA TAKADA
THE BACK HORN 撮影=AZUSA TAKADA
「自分の人生を考えながら、みんなの気持ちもわかってあげられたらと思いながら、いろんな曲を作り出してきました。みんなの顔を見ると、1曲1曲が届いているからそういう顔をしてくれてるんだと思います」
山田の言う「そういう顔」とはどういう顔か、言葉にはできないが客席をぐるり見渡せばわかる。この20年間のどこかでTHE BACK HORNというギリギリに切実でとことん誠実なロックに出会い「これは私の歌だ」と気づいてしまった数千人の生き生きとした美しい顔だ。最新作『情景泥棒』からの「Running Away」で噴き上がる火柱と共に後半に突入すると、眩い光に包まれたアイリッシュ・パンク調の「グローリア」では山田が1階席のすぐそばまで走り、負けじと「シンフォニア」では岡峰がベースを抱えステージを駆け抜ける。<帰る場所ならここにあるから>を<日本武道館にあるから>と変えて歌った山田の思いが、観客の心の火に油を注ぐ。燃えたぎる空気の中、絶対のキラー・チューン「コバルトブルー」からTHE BACK HORN流の純和風ロック「刃」へ、山田の鬼気迫るシャウトとド派手な紙吹雪で締めくくった濃密すぎる本編18曲。時計を見るとまだ2時間弱、現実より何倍も濃い時間の進み方だ。
THE BACK HORN 撮影=AZUSA TAKADA
「21年目以降も、みんなの心に届く歌を作っていきます。ここが俺たちの出発です」
松田の力強い言葉に続くアンコール1曲目は、常に始まりを繰り返すバンドの象徴とも言えるインディーズ期からの代表曲「冬のミルク」。痛いほど切ない青春の蹉跌を叫ぶ歌と、続けて披露した作家・住野よるとのコラボによる最新曲「ハナレバナレ」の、同じような世界を描きつつ痛みよりたくましさや優しさを強く感じる表現力の違いに、THE BACK HORNの激動の20年間を思う。そして本当のラストはやはりこれを聴かねば終われない、山田の「これからもTHE BACK HORNをよろしく、また生きて会おうぜ!」という雄たけびから始まる「無限の荒野」だった。勇ましいカウ・パンク系の演奏に乗って山田、菅波、岡峰がステージを駆け抜け、全ての灯が点り銀テープが飛ばされる開放感いっぱいの大団円。音が消えたあとに佇む4人のやり切った笑顔と、いつまでも鳴りやまない拍手。およそ2時間15分、「ALL TIME BEST」と銘打った20周年記念ツアー・ファイナルは爽やかで、しかしズシリと重く濃い熱い後味の残るものだった。
21か所21公演、2万人を動員した20周年の祭りは終わり、バンドはすでに21年目に突入している。8月12日新木場STUDIO COASTでの恒例企画『マニアックヘブンVol.12』の開催もこの日発表された。無限の荒野のその先へ、始まりの頃のままの切実で妥協なき音楽を突き詰めながら、あの頃とは見違えるほどの包容力と表現力を身に着け、THE BACK HORNはこれからも道なき道を驀進する。

取材・文=宮本英夫 撮影=AZUSA TAKADA
THE BACK HORN 撮影=AZUSA TAKADA

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