葛飾北斎が描いた動物たちを集めた『
北斎アニマルズ』展レポート 森羅万
象すべてに魂を入れて描いた浮世絵師

江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎とその弟子が描いた動物たちを集めた展覧会『北斎アニマルズ』(会期:〜2019年4月7日)が、すみだ北斎美術館にて開催中だ。
会場エントランス
本展は、北斎が描いた写実的な動物やかわいらしい動物、物語に登場する架空の動物などを3つの章に分けて展示。哺乳類や鳥、虫、魚介それぞれの特徴を巧みに捉えた北斎によって、生きとし生けるものすべてが生き生きと描かれている。
葛飾北斎 『富嶽百景』二編 夢の不二 天保6年(1835)すみだ北斎美術館所蔵
動物は、釈迦の涅槃図や鳥獣人物戯画など、古くから絵画に描かれてきた。奈良時代にはすでに犬猫を飼う習慣があり、江戸時代の中頃になると、民衆の間にもペットブームが起こったという。孔雀やニワトリを描いた伊藤若冲や、猫好きとして知られる歌川国芳など、北斎だけでなく多くの絵師たちが動物を題材にしてきた。
そのような中で、「猿、白鼠、うさぎ、鷹など縁起物を描く画家はたくさんいたが、森羅万象のすべてを描くのが北斎の極意」と話すのは、すみだ北斎美術館館長の橋本光明氏。さらに、北斎独自の表現について以下のように語った。
「アニマルの語源は魂や生命を意味する“アニマ”を基にしています。北斎は、単に描写力や観察力によって絵を描いていたのではなく、そこに魂を入れていく。これが、北斎ならではの表現力ではないでしょうか」
今にも動き出しそうなアニマル達が集う会場より、本展の見どころを紹介しよう。
展示風景
虫の羽ばたきをぼかしで表現した肉筆画《南瓜花群虫図》
第1章「生けるがごときアニマル」では、北斎が描いた写実的な動物を紹介。すみだ北斎美術館の所蔵品の中でも状態が良く、色味も鮮やかな《桜に鷹》は、鷹狩りに使われる鷹が凛々しく描かれている。
葛飾北斎 《桜に鷹》 天保5年(1834)頃 すみだ北斎美術館所蔵
『北斎漫画』に描かれた鳥の中には、ひとつの目とひとつの羽を持ち、飛ぶ際には雄雌が一緒になって飛ぶという伝説の鳥、比翼鳥が描かれる。本展担当学芸員の竹村誠氏は、「伝説上の鳥が普通の(実在する)鳥と一緒に描かれているのが、北斎の生きた時代の感覚」であると解説する。
葛飾北斎 『北斎漫画』三編 風鳥 ベラ 鷺 他 文化12年(1815)すみだ北斎美術館所蔵
また、『北斎漫画』に登場する虫は、ジャポニスムが流行した西洋でも人気を博した。
葛飾北斎 『北斎漫画』初編 文化11年(1814)すみだ北斎美術館所蔵
なかでも、右上に描かれたカエルのモチーフは、フランスのガラス工芸家エミール・ガレが手がけた花器のデザインにも取り入れられたそうだ。
さらに、本展の見どころのひとつが、北斎による肉筆画《南瓜花群虫図》だ。一輪のカボチャの花にたくさんの虫たちが群がっている本作には、バッタやキリギリス、チョウ、トンボ、セミ(もしくはアブ)などが描かれている。
葛飾北斎 《南瓜花群虫図》 天保14年(1843) すみだ北斎美術館所蔵
特に注目したいのが、カボチャの花の真上に描かれたセミだ。高速に羽ばたく様子がぼかしで表現され、北斎のするどい観察眼が見て取れる。
葛飾北斎 《南瓜花群虫図》(部分) 天保14年(1843)すみだ北斎美術館所蔵
北斎特有の「目」の表現
竹村氏によると、北斎は動物を描くにあたって、60歳以降から特徴的な目を描くようになったという。大きく2種類に分かれる目の表現について、「ひとつはつぶれたような丸い形の目、もうひとつは“へ”の字に目尻を細くした目」とのこと。北斎が追求した生きているような眼の表現に注目しながら、それぞれの動物の瞳を観察してみよう。
葛飾北斎 『北斎漫画』十四編 水牛 唐犬 嘉永2年(1849)頃 すみだ北斎美術館所蔵
葛飾北斎 『北斎漫画』八編 文政元年(1818)すみだ北斎美術館所蔵

さらに本展では、イラストの教科書として活用されていた『略画早指南(りゃくがはやおしえ)』も紹介されている。ひし形を組み合わせて鳥を描く方法や、コンパスと定規を使ってテナガザルを描く方法など、幾何学的に動物を捉えていた北斎の技法がうかがえる。
葛飾北斎 『略画早指南』初編 さぎ がん おなが 文化9年(1812)すみだ北斎美術館所蔵
葛飾北斎 『略画早指南』初編 文化9年(1812)すみだ北斎美術館所蔵
「猫1匹さえ描けない」と泣いた北斎が描く猫
第2章「かわいらしいアニマル」では、北斎や門人が描いた癒し系の動物達が集う。シャケをくわえたままこちらを振り向く《三十六禽続 子犬》は、北斎の弟子・魚屋北渓(ととやほっけい)による作品。
魚屋北渓 《三十六禽続 子犬》 文政(1813-30)中期〜天保(1830-44)初期頃 すみだ北斎美術館所蔵
ほかにも、目を瞑ったオウムや、ふさふさした毛の感触が伝わりそうなウサギなど、見ててほっこりするような動物たちが並ぶ。
魚屋北渓 『狂歌百花鳥』あふむ 年未詳 すみだ北斎美術館所蔵
葛飾北斎 『画本彩色通』二編 弘化5年(1848)すみだ北斎美術館所蔵

また、親犬の乳を飲んでいる子犬や、子犬が親犬と一緒に吠えている様子、子どもが子犬を抱きかかえている姿など、街中にいる犬が表現豊かに描かれている。
葛飾北斎 『北斎漫画』十一編 鶏 犬 文政6年(1823)〜天保4年(1833)すみだ北斎美術館所蔵
北斎は、80歳を過ぎた頃、娘のお栄に対して「猫1匹さえ描けない」と涙を流して語ったエピソードが残っている。本章では、そんな北斎による愛らしい猫の姿も展示されているので、ぜひチェックしてほしい。
葛飾北斎 『三体画譜』栗鼠 猫 鼠 獅子 年未詳 すみだ北斎美術館所蔵
迫力ある巨大生物から、哀愁漂う河童の姿まで
第3章「絵ならではのアニマル」では、動物園では見られない創造上の生き物や、デザイン化された動物などを紹介。舌切り雀や浦島太郎、孫悟空など、有名な物語に出てくる動物をはじめ、江戸時代の小説の挿絵に描かれた動物も多数展示されている。
葛飾北斎 『絵本魁』初篇 平井の保昌 土蜘蛛退治 天保7年(1836)すみだ北斎美術館所蔵
北越地方の怪異談を集めた随筆集『北越奇談』に書かれた話のひとつ、岩に座って釣りをしていたところ、実はその岩が巨大なカエルだったという一場面を描いた挿絵では、今にも動き出しそうな巨大ガエルの姿が迫力満点に描かれている。
葛飾北斎 『北越奇談』四 怪物 文化9年(1812)すみだ北斎美術館所蔵
本章には、北斎が描いた漠(バク)や人魚、風狸(ふうり)などの未確認動物も集結。なかでも、『北斎漫画』に描かれた河童は、どこか哀愁が漂っていて印象的だ。
葛飾北斎 『北斎漫画』三編 人魚 水獺 他 文化12年(1815)すみだ北斎美術館所蔵
ほかにも、北斎が考案した小紋のデザイン集には、鶴と花を組み合わせたユニークな模様が描かれていたり、弟子の柳川重信は、着物の柄にアメンボの図柄を描いたりと、デザイン化された動物たちの姿も併せて楽しみたい。
葛飾北斎 『新形小紋帳』ふじのまひつる 花たちばなまひつる 他 文政7年(1824)すみだ北斎美術館所蔵
柳川重信 『狂歌百千鳥』上 年未詳 すみだ北斎美術館所蔵

『北斎アニマルズ』は2019年4月7日まで。魂のこもった生き物たちと出会える機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

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