<フランス革命ものエンタメ作品>を
楽しむための人物ガイド-[王妃マリ
ー・アントワネット(3)]~作曲をする
王妃

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『ベルサイユのばら45~45年の軌跡、そして未来へ~』が2019年1月27日~2月9日に東京国際フォーラムCで上演された。2月16日~2月24日には大阪の梅田芸術劇場メインホールでも上演される。
この『ベルサイユのばら45』は、宝塚歌劇『ベルサイユのばら』初演から45周年を迎える今年(2019年)に記念として企画されたスペシャルステージだ。言うまでもなく『ベルサイユのばら』は、池田理代子の同名漫画を舞台化した宝塚歌劇の大ヒット作品である。18世紀後半、激動の革命期フランスを「「愛あればこそ」などの名曲の数々と共に綴っていく。
『ベルサイユのばら45』には、1974年の月組による初演で主役オスカルを演じた榛名由梨やマリー・アントワネットを演じた初風諄をはじめ、歴代の錚々たるレジェンドたちが集結・競演し、往時の名場面や名曲、そしてフィナーレナンバーを振り返り、熱いトークで盛り上がった。まさに夢のような企画だ。
東京ではチケットが即完したが大阪ではまだ購入できる日時も若干あるので(2019年2月9日現在)、よろしければ是非ともご観覧いただきたい。さて、今回の<フランス革命ものエンタメ作品>を楽しむための人物ガイドでも、過去の『ベルサイユのばら』上演など振り返りつつ、王妃マリー・アントワネットについて、別角度から触れていきたい。
『ベルサイユのばら45』ゲネプロより 白羽ゆり演じるマリー・アントワネット (撮影:こむらさき)
■「マリー・アントワネットを描きたかった」
今更ではあるが、原作漫画について簡単におさらいをしておこう。池田理代子の「ベルサイユのばら」は、1972年21号から1973年まで『週刊マーガレット』(集英社)にて連載された。単行本は全10巻。作者が本作を創作した動機は「マリー・アントワネットを描きたかったから」(「MET LIVE VIEWING 2018-19」プログラムより)。フランス革命前の、フランス・ブルボン朝後期(ルイ15世時代の末期)から、ベルサイユでの男装の麗人オスカル(架空の人物)とフランス王妃マリー・アントワネットらの人間模様を描き、最後はフランス革命でのアントワネット処刑までを描いた。前半はオスカルとアントワネットの2人を中心に描き、中盤以降はオスカルを主人公として、フランス革命に至る悲劇に迫る。2014年には新エピソードを収めた新刊(「エピソード編」)11巻を40年ぶりに刊行、2018年に14巻で完結させた。宝塚歌劇の舞台化のほか、テレビアニメ、劇場版アニメも次々と制作されて社会現象となった。
■2006年の「ベルばら」に注目する理由
宝塚歌劇の『ベルサイユのばら』は超人気演目だが、製作サイドには、再演を安易に乱発して名作の価値を貶めたくはない、という強い思いがある。よって再演は「宝塚歌劇75周年&フランス革命200年記念(1989年)」「東西大劇場通年公演記念(2001年)」「マリー・アントワネット生誕250年(2006年)」「宝塚歌劇100周年(2013年)」といった節目節目の大きな記念イヤーでしか行われてこなかった。
このうち、筆者がとくに注目するのは、2006年のマリー・アントワネット生誕250年記念公演である。この年は、星組が「フェルゼンとマリー・アントワネット編」(フェルゼン=湖月わたる、アントワネット=白羽ゆり)、雪組が「オスカル編」(オスカル=朝海ひかる、アンドレ=貴城けい)を上演した。そして、両公演いずれにも、なんとマリー・アントワネット自身が作曲した楽曲が使用されたのである。
星組公演では、第一部第5場宮殿大広間のシーンで「Révélation(出会い)」が劇中で歌われた。一方、雪組公演にはアントワネットが登場しなかったので、フィナーレBのほうで「C'est mon Ami(それは私の恋人)」、フィナーレCで「A MA FILLE(娘に)」「Les Lettres(手紙)」「Valse du Souvenir(思い出のワルツ)」が、それぞれ音楽のみ使われた。アントワネット作曲の音楽が劇中に使われたのは後にも先にもこの年だけである。
今回の『ベルサイユのばら45』には、2006年キャストだった湖月わたる(フェルゼン)、白羽ゆり(アントワネット)、また、朝海ひかる(オスカル)、貴城けい(アンドレ)が出演する日時もあり、往時を懐かしむには最高のショーである。ただし、惜しむらくはアントワネットによる楽曲が演奏されることはない。しかし、いずれの公演もDVD化はされている。それらはもはや中古市場でしか入手はできないものの、アントワネットの楽曲が宝塚の「ベルばら」の中で実際どのように使用されたか気になって仕方ない人は、ぜひDVDで確かめてみて欲しい。
星組「フェルゼンとマリー・アントワネット編」DVD、雪組「オスカル編」DVD
■作曲をする王妃
マリー・アントワネットが作曲をしていたことについて「初耳だ」という人もいるだろう。オーストリアのハプスブルク家の王女だった彼女は、幼少期より幅広く宮廷文化の教養を叩きこまれていたのである。音楽教育においては、『オルフェオとエウリディーチェ』で知られる有名なオペラ作曲家のグルックが彼女の家庭教師をつとめていた。また、6歳の頃にはシェーンブルン宮殿内で少年モーツァルトの演奏も聴いている(その際に彼から「結婚してあげる」と言われたというエピソードもまことしやかに語り継がれている)。さらに彼女は、音楽のリズムを上手に理解したのでダンスも得意だったという。もともと彼女には音楽の素質が十分に備わっていたのであろう。
その話題で思い出したのが、今月(2019年2月)24日に行われる天皇陛下在位30年記念式典である。ここでは天皇陛下作詞・皇后陛下作曲の「歌声の響」という曲が三浦大知によって歌われるという。同式典では声楽家の鮫島有美子も皇后陛下作曲作品を歌うという。皇后陛下もアントワネット同様の音楽的心得を有していたことを知り、ちょっとした感慨を覚えた筆者であった。
さて、マリー・アントワネットが作曲した楽曲は16曲ほどあるとされるが、中には真偽の妖しいものも含まれている。だが、フランス革命の混乱の中で楽譜など重要な資料が散逸してしまったので確かめようがないようだ。それでも、楽曲自体は幾つかのCDで聴くことができる。いずれも、シンプルで耳に馴染みやすい曲ばかりだ。
アントワネット作品のうち現存している全12曲を「ベルばら」作者である池田理代子先生が自ら歌ったアルバムもある(うち9曲は世界初録音)。「ヴェルサイユの調べ」(2005年キングレコード)だ。現在は中古市場でしか入手できないが、「ベルばら」ファンやアントワネット好きには必携アイテムではないだろうか。なお、これも読者諸氏ならご存知であろうが、池田先生は1995年、47歳の時に東京音楽大学声楽科に入学し、現在は本格的な声楽家としても活動している。だから、先述のアルバムは色んな意味で最強なのである。
また、ソプラノ歌手・唐澤まゆ子による「L’ Art de Marie-Antoinette~アート・オブ・マリー・アントワネット~」(2011年フォンテック)には、アントワネット作品2曲と、グルックやモーツァルトなど同時代の楽曲が17曲収められてる。アントワネットがリアルタイムでどのような音楽環境に囲まれていたかを知るにはうってつけのアルバムといえるだろう。
■マリー・アントワネットを巡る音楽
最後に……これは少々余談になるのだが、マリー・アントワネットを扱った音楽も数多く存在する。映画『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットで再び注目を集めているクィーンの初期ヒット作品「キラー・クィーン」に出てくる歌詞はあまりに有名である。「ケーキを食べればいいじゃない、と、まるでマリー・アントワネットみたいに言う」……その言葉は、以前にも述べたとおり、アントワネットではない人物の発言だということが最近になって判明している。しかし、どうしてもアントワネットの言葉として、世の中に流通してしまっている。
【動画】Queen - Killer Queen

その顕著な例が水曜日のカンパネラの歌う「マリー・アントワネット」である。「お菓子を食べればいいじゃない」のフレーズが幾度もリフレインされる。世の中のアントワネットのイメージがこの歌に集約されているようだ。
【動画】水曜日のカンパネラ『マリー・アントワネット』

よりダイレクトかつ劇的にマリー・アントワネットとフランス革命を歌った名曲もある。1970年代プログレシヴロックの女性ヴォーカルバンド、カーヴド・エアの代表的アルバム「Phantasmagoria」に収録された、その名も「マリー・アントワネット」だ。歌うはソーニャ・クリスティーナ。憂愁を帯びたメロディもさることながら、歌詞も素晴らしいので、一聴をお勧めする。
【動画】Curved Air - Marie Antoinette

<フランス革命ものエンタメ作品>を楽しむための人物ガイド-[プロローグ]はこちら
<フランス革命ものエンタメ作品>を楽しむための人物ガイド-[王妃マリー・アントワネット(1)]はこちら
<フランス革命ものエンタメ作品>を楽しむための人物ガイド-[王妃マリー・アントワネット(2)]はこちら
文=清川永里子

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