マスドレ×tricot×劇団ドラマティッ
クゆうや 苦渋の振替から4ヶ月、つ
いに実現した共演の行方は

4th Album“No New World”Release Tour 振替公演 2019.1.25 新代田FEVER
昨年9月の台風で延期になっていたMASS OF THE FERMENTING DREGSの全国ツアー『4th Album“No New World”Release Tour』の振替公演が、新代田FEVERで行なわれた。約8年ぶりのオリジナルアルバムとしてリリースされ、彼女らの帰還を待っていた多くの音楽ファンが絶賛した『No New World』を引っ提げた今回のツアー。4ヵ月越しに実現した念願のリベンジライブは、音楽的な親和性も高い後輩バンドtricotと、ふたり劇の新鋭・劇団ドラマティックゆうやという2組をゲストに迎え、世代やジャンルを超えてオルタナティブな感性がぶつかり合う一夜となった。
tricot 撮影=風間大洋
tricot 撮影=風間大洋
フロアには外国人も目立ち、“コアな音楽好き”っぽい雰囲気を漂わせたお客さんが詰めかけた満員の新代田FEVER。トップバッターはtricotだ。ステージ下手(しもて)にキダ モティフォ(Gt)、中央にヒロミ・ヒロヒロ(Ba)、上手(かみて)に中嶋イッキュウ(Vo/Gt)が立つ変則的なフォーメーションでスタンバイ。ライブは「おやすみ」からスタートした。唯一の男性メンバーである吉田雄介(Dr)が叩き出す変拍子にのせて、キレのあるギター&ベースとファルセットを交えた美しくも刹那的なメロディが響き渡る。荒ぶる演奏が不穏なボーカルと交錯した「TOKYO VAMPIRE HOTEL」、激しい緩急でフロアを揺さぶった「アナメイン」、キダがルーパーで音を重ねて気だるいムードを醸し出した「BUTTER」。メンバー同士が集中力を研ぎ澄ませお互いの呼吸を合わせるようにして紡ぎ出す、自由で独創的なアンサンブルには呑み込まれそうな魔力がある。
tricot 撮影=風間大洋
tricot 撮影=風間大洋
MCでは、「年を跨いでリベンジを果たせました。いまはインフルが猛威を振るってますが、このあいだ少し体調を崩して。震えながら検査をしたら、インフルじゃなくて本当によかったです。インフルでまた公演を飛ばしたら、ほんまにすまん!と思ったので」と、中嶋が念願の対バンを実現できた喜びを伝える。そして、3月にリリースされる新作『リピート』から「大発明」を届けたあと、ラストソング「メロンソーダ」で4人のエモーショナルがぶつかり合う幕切れは最高にかっこよかった。何者にも媚びず、ほとばしる衝動と捻くれたポップセンスで我が道をゆくtricotの熱演を目の当たりにすると、なぜマスドレが彼女らを対バン相手に求めたのかがよくわかる。その根底に確かに通じる部分があるのだ。
tricot 撮影=風間大洋
tricot 撮影=風間大洋
劇団ドラマティックゆうや 撮影=風間大洋
劇団ドラマティックゆうや 撮影=風間大洋
続く劇団ドラマティックゆうやは泉田岳と田中佑弥によるお芝居を繰り広げた。その内容は、もしも音楽的なサービスが受けられる特殊な風俗店があったら……というトリッキーな設定だ。バンドのライブに劇団が出るとあって、はじめは様子見といった空気感もあったが、音楽ファンだからこそクスリと笑える「あるあるネタ」や、くるりの「ロックンロール」、チャットモンチーの「ヒラヒラヒラク秘密ノ扉」といった楽曲を交えたフロア参加型の展開もあり、お客さんも次第に心を掴まれていった様子。
劇団ドラマティックゆうや 撮影=風間大洋
劇団ドラマティックゆうや 撮影=風間大洋
かつて宮本菜津子(Vo/Ba)が快速東京の企画で初めて出会い、自分たちのライブで呼びたいと思っていたというのも頷ける。彼らにはライブハウスの熱気がよく似合うのだ。ユーモアに溢れ、どこか感動的ですらあった物語のオチで「マスドレの登場」へとつなぐ流れも秀逸だった。
劇団ドラマティックゆうや 撮影=風間大洋
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=風間大洋
「せーの!」と叫ぶ宮本の掛け声を合図に1曲目「かくいうもの」から、いよいよMASS OF THE FERMENTING DREGSのライブが始まった。2015年の活動再開のタイミングで復帰したドラムの吉野功、ギターの小倉直也、そしてベースボーカルの宮本という盤石のスリーピースが繰り出すのは、繊細でありながら抑えようのない衝動を湛えたアグレッシヴなバンドサウンド。圧倒的なスピードで駆け抜ける「She is inside, He is outside」のあと、ダークで重たい音像に中毒性の高いメロディをのせた「だったらいいのにな」からショートチューン「YAH YAH YAH」へ、最新アルバム『No New World』の曲順を踏襲して畳みかけたところで、ディストーション全開のリフに軽やかなメロディが弾む「RAT」を投下する序盤の流れは最高だった。バンドの過去と現在がナチュラルに溶け合い、「自分たちの鳴らす音はこれなのだ」という確信をもってステージに立つ2019年のMASS OF THE FERMENTING DREGSは、誰にも汚すことのできない孤高の存在感を放っていた。
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=風間大洋
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=風間大洋
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=風間大洋
MCでは、9月にライブを延期させた台風24号の名前が「チャーミー」だったことに触れて、宮本が「“チャーミー”っていう曲書こうかってなるぐらい荒ぶってた。とにかく、やるせなかった」「あの日、いさこん(ドラムの吉野)は泣いちゃって(笑)」と明かす場面も。「引くよね、誰も近寄ってこなかったもん」と言う吉野に、宮本は「私たちもそっとしておく、みたいな感じだった」と当時の心境を語った。ふつう対バンイベントが諸事情で見送られた場合、再び同じメンツ、同じハコでスケジュールを調整することは難しい。残念ながら流れてしまうこともある。だからこそ、いろいろな人の厚意によりこの日のリベンジ公演ができることをメンバーは心から喜んでいた。
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=風間大洋
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=風間大洋
アルバム『No New World』のなかでもバンドの新機軸となった淡くてドリーミーなポップナンバー「Sugar」からライブは中盤戦へと突入した。軽快に刻むビートと清涼感のあるコーラスが春風のように心地好い「New Order」、「さんざめく」や「エンドロール」で美しく幻想的の轟音が吸い込まれるような陶酔感を生んだあとは、“パーパッパッ”と陽気なメロディが弾んだニューアンセム「スローモーション」、小倉がメインボーカルをとった「HuHuHu」や「あさひなぐ」など、ポップな曲を畳みかけていく。
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=風間大洋
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=風間大洋
最後のMCで宮本が「ステージからこうやって見ていると、いろいろな表情があって。伝わるってこういうことなんだなと思いながら演奏していました。本当にうれしいです」と感慨深げに語りかけ、「っしゃ!」と気合いを入れると、<嘆くことは何もない 怖がることはもうない>と凛としたメッセージを投げかける「ワールドイズユアーズ」から、ラストソング「ベアーズ」へ。最後にカスタネットを客席に放り投げた宮本は、激しいバンドの演奏のなかで髪を振り乱し、ドラムスティックでベースの弦を激しく叩き、まさに完全燃焼で本編の幕を閉じた。
MASS OF THE FERMENTING DREGS 撮影=風間大洋
MASS OF THE FERMENTING DREGS / キダ モティフォ / 泉田岳 撮影=風間大洋
劇団ドラマティックゆうやの音頭による「アンコール!アンコール!」の声(劇中にもあったくだり)で、マスドレが再びステージに現れると、tricotのキダも参加したツインギター編成で「ハイライト」が披露された。そこに、途中から劇団ドラマティックゆうやの泉田もギターで乱入すると、客席からはさらに大きな歓声が上がる。「ワンマンにはワンマンの良さがあるけど、対バンには相乗効果がある」。MCでそんなふうに言っていた宮本の言葉どおり。ジャンルや世代は違えども、それぞれの表現にリスペクトを抱き合う3組の想いが積み重なって迎えたフィナーレの瞬間には、素敵な笑顔がフロアのあちこちに溢れていた。
MASS OF THE FERMENTING DREGS / キダ モティフォ 撮影=風間大洋
マスドレが活動停止をしているあいだに、私たちの生活のなかで音楽の価値や在り方は大きく変わった。音楽が消費される傾向は加速している。だが、この日のライブを見て思ったことは、きっとこの先もマスドレはマスドレのまま進み続けるのだろうということだ。自分たちの音楽を信じて、ライブを信じて。変化の大きい時代だからこそ、それがとても尊い。

取材・文=秦理絵 撮影=風間大洋

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