ケニー・オメガの去就騒動から見る「
新時代の活字プロレス」~アスリート
本から学び倒す社会人超サバイバル術
【コラム】

新日本プロレスの危機を救った“ベストバウトマシーン”

実際に会場で生観戦した、2010年代の新日本プロレス名勝負ベスト3は?
先日、誰に頼まれたわけでもないのにプロレス好き同士で水道橋に集まり、台湾料理を食いながらそんな話題になり、自分は「個人的にファンの柴田勝頼は別枠として……」と前置きした上で、中邑真輔vs.桜庭和志(13年1月4日東京D)、中邑真輔vs.オカダ・カズチカ(14年8月10日西武D)、AJスタイルズvs.飯伏幸太(15年4月5日両国)を挙げた。ちなみに最近のジェイ・ホワイト推しの流れにいまいち乗れないと嘆く同席の友人は、ぶっちぎりで中邑真輔vs.飯伏幸太(15年1月4日東京D)だと言う。
それだけ、中邑とAJという二人のレスラーはあの頃の団体にとって重要なスーパースターだったのである。だが、ちょうど3年前の2016年1月30日に後楽園ホールで中邑真輔の新日本プロレス壮行試合が行われ、この日を最後に中邑はアメリカのWWEへと移籍していった。さらにほぼ同時期にAJ、カール・アンダーソン、ドグ・ギャローズといった主力レスラーも続々と同ルートで離脱。誰もが「さすがに新日もヤバイんじゃ……」と思った時期に会社を救ったのは、目の前のピンチを自身が成り上がるチャンスだと捉えた内藤哲也であり、柴田勝頼であり、そして新たな外国人エースとなったケニー・オメガである。

特にのちに“ベストバウトマシーン”と呼ばれるケニーの快進撃は凄まじかった。AJの後釜としてヒールユニットBULLET CLUBの新リーダーを務め、16年夏のG1 CLIMAXで外国人選手として初のG1制覇、18年には絶対王者のオカダ・カズチカを破り第66代IWGPヘビー級王座となった。このオカダとの対戦はまさに“平成最後の名勝負数え唄”で、プロレス大賞において17年と18年の2年連続で年間ベストバウトを受賞している。
大会場のメインイベンターを務め、アスリートプロレスと称される高い身体能力を生かした激しい攻防のプロレスはリング上の風景を変えた。派手な技の見栄えの良さはSNSで一瞬を切り取っても凄さが分かりやすい。もちろん新日本プロレスワールドで動画を見る海外ユーザーにも魅力が伝わりやすいだろう。ちなみにプロレスビギナーの友人を会場に連れて行くと、多くが印象に残った選手として「ケニー・オメガ」の名を挙げるリアル。さらに盟友・飯伏との大河ドラマを展開し、ゲームやアニメのジャパンカルチャーも好きで、日本語も喋るニュータイプの外国人レスラー像はファンから愛された。
プロレスファンが注目するケニーの行き先は?
だが、そんな大功労者が姿を消した。今年1月4日の東京ドームで棚橋弘至に敗れ、王座陥落して以来、リングには上がっていないのである。例えば、AJスタイルズはドームで中邑と戦った翌1月5日の後楽園ホール興行でBCメンバーに襲撃されユニット追放というストーリーがあった。ベタだけどひとつの区切り、それはいわばレスラーとファンの送別の儀式みたいなものだ。プロレスもおネエちゃんも別れの理由をハッキリ言ってもらえないと、残された人間は過去を引きずるハメになる。
1月7日付の東スポで報じられたのは「ケニー・オメガ 新日プロ離脱 新天地は米国の新団体AEW(オール・エリート・レスリング)かWWE」のニュース。なおAEWオーナーのトニー・カーン氏は大富豪の父親シャヒド氏から資金的バックアップを受け、新団体を設立。Cody、ヤングバックス(マット・ジャクソン&ニック・ジャクソン)、クリス・ジェリコといった日本のファンにもお馴染みの人気選手と契約したことが話題に。となると、当然つい先日までヤングバックスと“The ELITE”で行動をともにしていたケニー・オメガもAEW参戦か? なんて多くのファンは予想するわけだ(ついでにこの揉めてる感じすら次のアングルの前振りじゃないの? なんて疑うのもオールドプロレスファンの悪いクセだ)。
『週刊プロレス』No.1995には、プロレス大賞授賞式で1.4東京ドーム後、初めて公の場に姿を見せたケニーの貴重なインタビューが掲載されている。「東京ドームの前は、日本のプロレス対ケニー・オメガのような感じで、つらかった」と本音を吐露する一方で、「東京ドームはケニー・オメガにとって最後の日本の試合ではない。必ず(棚橋との)リマッチがあるとは言えないし、必ず今年また日本で試合をするとは言えない。だけど必ずいつかは日本で試合する」と完全なグッドバイじゃないことを強調。今後については「友だちの団体だから、AEWに興味はあるよ」なんて興味深い言葉も残している。
さらに1月30日付で更新された新日本プロレス公式ホームページのメイ社長コラム『ハロルドの部屋』には、こんな一文があった。「選手によって契約形態や期間は様々ですし、完全にお別れを言う状況でなければ、言うべきではないし言いたくありません。未来がどうなるのかなんて我々にもわからないのです。(中略)いつでも戻ってこられるように、あえて「さようなら」を言わない時もあるのです」と。
リングだけじゃなく、活字プロレスも新時代へ
俺もG党として長野や内海にサヨナラを言うのはよそう……じゃなくて、あらゆる点が一本の線となり繋がるプロレスの面白さ。これらの情報を追いながら実感したのが、リング上だけではなく、いわゆる“活字プロレス”も新たな時代に突入したという事実だ。
今のユーザーは確実に情報処理スピードが上がった。同時に媒体や記者名は気にせず、あらゆる情報をフラットに反射的に見る傾向が強い。Twitterの自分のタイムラインに上がってきた短文や動画をスクロールする数秒で判断してリアクションを取るわけだ。下手したら、記事の中身をよく読まずにタイトルだけで判断する。そうなると、一昔前の活字プロレスの熟読して裏の裏の「行間を読む」みたいな阿吽の呼吸は機能しなくなる。
深読みじゃなく、浅く広く読む。だから、あらゆる情報をフレキシブルに追える反面、デマに騙されやすい。ちなみにこのコラムだって信じるか信じないかもあなた次第……というのは置いといて、1月末で新日本を退団するKUSHIDAは紙媒体の『週刊プロレス』最新号で自身の移籍に関するある噂を否定していたが、出所不明な海外プロレスサイトの英字ニュースの翻訳版を誰かがツイートしたものが、事実として拡散されてしまうことも多々ある。だからこそ、今のファンは経験と勘を頼りに国内のみならず海外も含め情報の洪水から、パズルのように断片を組み合わせ、各々事実に迫るしかないのだ。
恐らく、ケニー・オメガはしばらく海外のリングに上がるのだろう。だが、プロレスファンはめげずにそれぞれの方法でケニーの戦いぶりを追い続けると思う。
そして、今後の展開を水道橋でラーメンでも啜りながら好きに予想し合い、その答え合わせを数年後に“ベストバウトマシーン”が日本のリングに戻ってきた時にするのである。

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