Ivy to Fraudulent Game ニューシン
グル「Memento Mori」で描き出した普
遍性とポップネス

Ivy to Fraudulent Game(アイヴィー・トゥ・フロウジュレント・ゲーム)がニューシングル「Memento Mori」を1月30日にリリースした。ラテン語で“死を想え”“自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな”という意味の警句をタイトルに冠した今作。一見すると重たいテーマのようにも思えるが、抗いようのない現実と対峙し、“いつか訪れる死を自分の中で意識することで今をより良く生きられる”という生命力に溢れた楽曲へと消化させた。バンドが追求してきた普遍性とポップネスをより明確に描き出した「Memento Mori」について、フロントマン・寺口宣明(Vo,G)とメインコンポーザー・福島由也(Dr,Cho)に話を訊いた。
――アルバム『回転する』(2017年12月発売)以降、新譜が来ないなぁと思っていたら、2018年9月の1stシングル「Parallel」に続き、2019年年明け早々、2ndシングル「Memento Mori」が到着です。
寺口宣明(Vo,G):なぜかここに来てスパンが短いっていうね(笑)。
――しかも「Memento Mori」は、アルバムのインタビューで福島さんが話していた「僕らはポップネスを意識して作っているから、ちゃんと届くと思う」という言葉をわかりやすく体現したというか。生と死を描いているから巷に溢れるポップスとは違うけれど、Ivy to Fraudulent Gameのポップネスが詰まった曲だなと。
福島由也(Dr,Cho):まさにポップネス、普遍性みたいなことをテーマにしていて。僕とそれ以外の人に共通するものを探していく中で、“死”というワードが挙がってきて。それは誰も体験していないけど、誰もに必ず訪れる事実としてあるものだから。それを描くことによって、今っていう瞬間だったり、生まれて死ぬまでの間に連続する日々をどう過ごすかというところに焦点を当てられるなぁと思って書き始めましたね。
――確かに。死を意識すればするほど生が輝いて感じるし。逆に生の塊である子供と接すると、消えゆく命とか、命のバトンが繋がっていることを意識させられたりもして。
寺口:あぁ、すごくわかります。
福島:それが一番生きるってことに対する考えになるというか。死を受け入れることによって、より生きられると思ったんですよね。
――けれど題材としては“カルペディウム(Carpe diem)”ではなく“メメントモリ”なんですね。
福島:ハハハハ。そうですね。死っていうものが前提としてあるのに、そこに対して目を背けるのは誠実な生き方じゃないと僕は思うので、敢えてというか。
――では、この曲が福島さんから届けられた時の感触を教えてもらえますか?
寺口:まず、歌なしのオケをもらったんですね。で、作る前にテーマとしてずっと言っていたのが、シングルとしての役目についてで。今はいろんな音楽をやっているからこそ、1枚目の「Parallel」ではバンドの軸、ど真ん中の最も太い部分を見せたいねという話をしてて。2枚目はより普遍的で、軽くはないけど誰もが触れやすいものを作ろうってことで臨んでいたので、“あぁ、ちゃんと実現できたんだな”みたいな感想だったんです。ただ歌詞が乗った時に、やっぱあの、すべての人に共通するものだけど、扱いやすくはないじゃないですか、生と死というのは。
――歌のテーマとしてはかなり重いところだと思います。
寺口:だからそれをこの疾走感溢れるBPMとサウンドに乗せて歌った時に、何も伝わらない歌声であったら曲を殺してしまうことになる、覚悟を持って歌わなきゃいけないぞっていうのは、曲をもらった時点ですごく思いましたね。
Ivy to Fraudulent Game 寺口宣明(Vo/Gt) 撮影=大橋祐希
音楽をやれてる状況はあたり前のことではない、待っててくれる人がいることの重みを、改めてこの曲に気付かされたところがあります。
――実際の歌入れの際に、意識したことや気づいたことはありましたか?
寺口:見つめ直しましたよね、今ある環境を。人だったり、ものだったり、街だったり、音楽をやれてる状況はあたり前のことではないって、何度も何度も繰り返し自分に言い聞かせているけど、いい意味でも悪い意味でも環境には慣れていくし。自分がこれからこの曲に命を吹き込むことも含めて、すべてあたり前じゃないんだという気持ちになりましたね。ライブもそうで。ただ好きでやってる部分もあるけど、自分が生まれ育った街から離れた場所・初めて行く会場にも待っててくれる人がいることの重みを、改めてこの曲に気付かされたところがあります。
――東京の会場で見ても、恵比寿リキッドルームから赤坂ブリッツ、Zepp DiverCity、そして今春のツアーでは新木場スタジオコーストへ。積み上げてきた経験と実感がこの歌に繋がっているんだなぁと思いました。
寺口:うんうんうん。その通りだと思いますね。
――そして聴き手には福島さんとも寺口さんとも違うそれぞれの人生がある。そのことを高らかに歌っているからこそ、この曲の<僕等>っていう言葉が眩しく感じるんですよね。僕も一緒だから大丈夫みたいな曲の<僕等>って、なんだか疑わしいというか。
一同:フフフフフ。
――曲の捉え方、感じ方も委ねた上で、<僕等>と歌える強さは信用できるなぁと思う。
福島:自分とも、他者に対しても、本気で見つめ合った結果でしか、本当に同じ部分って知れないと思うから。まぁ僕も最初はどちらかと言うと、自分は他人に興味のない人間だと思ってたし。でもほんとは人が好きで、そういうものに対してとても執着している。それを知れたのもやっぱり人との出会いだったなって、この歳になって初めて気づいたりしてて。そうやって考えることでやっと<僕等>と言えるようになったのかな、みたいな。
――そこがわかっているのとわかっていないのとでは、生み出す音楽の意味や重さって絶対に変わってきますよね。
福島:うん。どうしても自分で知ろうとすることでしか辿り着けない場所があるから。だったら僕らの曲が考えるきっかけになったら嬉しいなって思うし、僕自身も出会った人にそうさせられてきた部分がめちゃくちゃあるので余計に、それを音楽でフィードバックしたいという想いは強いですね。そして僕はそれこそが幸せに一番近いんじゃないかなぁと思ってる。だって、表面上のコミュニケーションって別に取れるじゃないですか。

――最後のフレーズが<想えいつかの死>って、聴き終えた後も心に波風立てる気満々ですから。表現上の繋がりなんてさらっさら求めていない(笑)。
福島:フフフ。端的な表現を使うのも表現として面白いと思うけど、僕はそこに対して一個“思考する”っていう体験を挟んでもらいたいって気持ちがあるのかもしれないですね。
――考える余白という意味では、サウンドも俄然シンプルになってます。
福島:はい。今回は結構音を省いたりだとか、すごく意識してたっていうのはあります。それはこう、最初に曲のテーマとして挙げた普遍性にどうしたらスポットを当てられるか。聴き手が思考することでしか真の普遍性に辿り着けないならば、投げやりになっちゃいけない。“こう受け取れよな”じゃなくて、聴き手に歩み寄る姿勢も大事だと思うっていうか。
――このサウンドの変化は歌の表現にも大きく関わってきそうですが。
寺口:そうですね。昔の曲になればなるほど、歌い出しからバツバツ楽器が鳴ってたから、“どうやって歌おう?”と同時に、“どうやって歌がちゃんと前にくるようにしよう?”っていうことも考えていたんですけど。それがかっこ良かったし、間違いなくバンドの個性でもあるので。ただ最近、俺がすごく思うのが、引き算って言うとあれだけど、もともとの変化球のうまさに加えて、ストレートの強さがどんどん伸びてきてるんだろうなっていう。ここぞという時のストレートが、言葉も、メロディも、楽器のアレンジも、精度を増している気がしてて。ずっと言い続けてきた「歌がど真ん中にあって、楽器は好きなことをしてる」っていうIvyのバンドサウンドが、少しずつカタチを変えながら、さらに歌のチカラの強い曲を作れるようになった。うん。きっと届く人も増えていくだろうなって思ってますね。
――寺口さんの言われた通り、カップリングとして収録された「trot」然り、昔の曲を聴き直すと、楽器と歌が並列にあって、でも歌モノとして成立しているという、音楽マニアの心をくすぐりまくりのサウンドで。
一同:あはははは。
――けど今回は常に先導するのは歌で、かつ、バンドサウンドの面白さも詰まっている。
寺口:テーマに基づいて曲をカタチした時の体現率みたいなものが「Memento Mori」で証明できた気がしますね。にしても、やっぱり面白いですよねぇ、彼の曲は。
――本当に。よりポップに、よりシンプルになればなるほど、そもそもの骨組みが面白かったんだっていうのが明確に見えてきて。
寺口:そうそうそう。絶対考えつかないですもん、こんな曲。
――いやぁ、変態的にかっちょいい曲がきたなと思いましたよ。
福島:ハハハハハハ。良かった。
Ivy to Fraudulent Game 福島由也(Dr/Cho) 撮影=大橋祐希
自分が正しいっていう想いでやっていた時期も確かにあったんです。けど人と関わっていくことで、完全なものなんてないんだという事実に気付いた。
――あとは、「Memento Mori」、インディーズ時代からライブの定番曲「trot」、寺口さん作の「低迷」って聴き進めていくと、生まれた時期も作者も違うのに、全部が繋がって思えてくる。シングル1枚で一個の物語のように感じました。
福島:それはこう、作り始めた時から根本にある考え方は何も変わっていないというか。曲を作るにあたって、音楽に対する向き合い方においても、一貫しているものがあるんですよね。例えば、出会いや経験によって気づくこと、成長する部分っていうのがあって、それが変化だと思ってて。一方で、一貫するものというのは自分の芯で、それこそが人と共有できる部分でもあるのかなって。だから狙ったわけではなく、必然的に曲が繋がっていったんだろうなって思います。
――今の話とも重なりますが。寺口さんは前回、福島さんの曲を一度自分の中に入れて、自分の言葉として歌うって話していたじゃないですか。だから寺口さんが作った曲が加わっても、別人な感じがしないんですよね。むしろIvyの新しい一面を見つけた感じ。
寺口:そう言ってもらえると嬉しいですね。
――ご自身では自分の曲の役割みたいなことって考えたりしますか?
寺口:なんだろうなぁ。んーと、福島は普通の人間でもあるけど、やっぱ天才なんだって俺は思っていて。だから似たようなもの、福島が作ってきたIvyっぽいものを目指してしまったらダメだと思うんですよ。そこに挑む意味はなくて。天才じゃない僕だからこそ書ける言葉とメロディで素直に作ったら、福島とは違うところでIvyらしさを広げたり、深めていけるのかなっていうのがありますね。ただ、バンドとしてやった時に軸がブレてしまうようなものは作れないし、絶対にいいものじゃないとダメだから。言っても僕はまだ書き始めたばかりなので、そこは覚悟を持ってやんなきゃといけないんですけども。
――前作のカップリングとして寺口さん作の「sunday afternoon」がサラッと登場したので、これまで作っていたけどバンドでは出してなかったんだなって勝手に納得してて。新たに作り始めた感じなんですね。
寺口:あのぉ、すごく時間が掛かるんですよね、僕らの曲は完成するまでに。だから前作で、バンドでイチから作るという大きなチャレンジをしてみたという。
――福島さんのデモは綿密に構築され、完結しているから。
寺口:そうですそうです。で、そうやって完成させた時に、面白いし、新しいところへいけそうな手応えがあったので、そのカタチでもさらに書き始めていて。ただ今回の「低迷」はもともとあった曲、俺が二十歳の頃に作った曲なんですね。前回のチャレンジがあったからこそ、大切なこの曲もバンドでさらに良いものにできたらっていうふうに思って。
――作った時のことって覚えてますか?
寺口:20代前半、ものすごく閉じきっていた時がありまして。まさしく曲のまんま、ただ朝が来て、夜が来て、何もしたくないし、誰にも会いたくないっていう日々だったんですけど。それでもどうしようもなく誰かを求めていたり、希望を欲している自分がいたんですよね。孤独に浸りつつ、ずっとひとりではいられないんだと強烈に感じている。それは強さなのか弱さなのかわからないけれど、そういうことを書いた曲ですね。

――ソングライティングを担ってきた福島さんの目には、寺口さんの曲はどんなふうに映っているのでしょう?
福島:んー、僕はやっぱり人間の心を歌いたいというか、本質や芯の部分を表現したいと思っているんですけど、それには答えってないじゃないですか。あったとしてもひとつではないし。自分自身にも喜怒哀楽、そしてその間の感情も含めていろんな面があるわけで。自分が正しいっていう想いでやっていた時期も確かにあったんです。けど人と関わっていくことで、完全なものなんてないんだという事実に気付いた。そして大切なものを共有できているならば、表現は違ったとしても一貫するものが絶対にあるはずで。なのにそれを拒絶するのは間違っているし、何より純粋に曲を聴いていいと思った感情に対して素直に向き合っていくっていうのは、僕自身の成長だと思ったので。うん。だから別に僕がすべてを作り上げる必要はないなって。
――「低迷」は淡々と過ぎていく日々の中で誰かと手を繋ぐことに希望を見出していく。ギュッと握った感触や伝わる体温こそが、今を生きることであり、明日へ踏み出す一歩となる曲だなぁと思うんですよね。
寺口:うんうんうん。
――けどひとりで抱える孤独より、人と一緒にいて感じる孤独のほうが寂しくて、苦しくて、みたいなことを考えていくと、「Memento Mori」に引き戻されて、くるくるループしてしまうという。
寺口:いいシングルですね(ニッコリ)。
福島:結局その、生きるっていうことに敢えてフォーカスしたけれど、生きるとはなんなのか?って考えると、幸せになるためだし。そこにはやっぱり人がいて、共有するものがある、それだけだなっていうふうに今は思っていて。人の手の感触ももちろんそうだし。で、僕の曲は回りくどくその考えに至るまでのルートを描いていて、ノブの曲はそこにある事実であり、情景で。結局、僕が今日ずっと言ってきた普遍性ってこれなのかなって。
――なるほど。今作がリリースされるとすぐに全国ツアーが始まります。この新曲が加わったらライブの見せ方も変わりそうですね。
寺口:既に「低迷」は対バンのライブでも最後にやってるんですけど、これだけで既にちょっと違うので。今はただただワクワクしてますね、次のワンマンツアーでどういう景色が見られるのか。
――何か考えていたりするのでしょうか?
寺口:いやぁ、いろいろ練ってはいるんですけど、これからですね。セットリストを考えるのもめちゃくちゃ時間が掛かるんですよ。
――大事に丁寧に作っているだけに、曲数が増えれば増えるほどまたね。
福島:ほんとにそうで。いやぁ、もう全部やりたいくらいだけどね。
寺口:(笑)。ライブってその日の俺たちと来てくれた人で作り上げていくものだし、ツアーが始まってから演奏する曲が変わっていくことも多いしね。今回は9本しかないけど、それでも結構変わると思う。だから2回来たほうがいいですよ、前半と後半に是非!
取材・文=山本祥子 撮影=大橋祐希
Ivy to Fraudulent Game 福島由也(Dr/Cho)、寺口宣明(Vo/Gt) 撮影=大橋祐希

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