クイーン映画の大ヒット、名曲から生
まれる映画…音楽の新たなポテンシャ

 英ロックバンド・クイーンのフロントマンであるフレディ・マーキュリーを描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』(公開中、配給=20世紀フォックス映画)が先日、日本での興行収入100億円を突破、その勢いが留まるところを知らない。この大ヒットを受け、今後ミュージシャンの伝記映画は増えていきそうだ。日本でも中島美嘉の同名曲から生まれた映画『雪の華』(2月1日公開)など楽曲の映画化が話題となっている。以前から映画と音楽は切っても切れない関係ではあったが、『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットは音楽の持つ新たなポテンシャルを示しているのではないか。

ミュージシャンと映画の関係

 『ボヘミアン・ラプソディ』は『第76回ゴールデン・グローブ賞』で「最優秀作品賞」(ドラマ部門)を獲得し、フレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレックが最優秀主演男優賞(ミュージカル/コメディ部門)受賞。日本でも昨年11月に公開され興行収入も100億円を突破し、昨年公開された映画で興行収入1位を記録している。

 また、レディー・ガガが主演を務めた『アリー/スター誕生』は放送映画批評家協会(BFCA)主催の『第25回クリティック・チョイス・アワード』で『天才作家の妻 40年目の真実』のグレン・クローズと同票で主演女優賞を受賞した。受賞会見でガガは「今後も演技を絶対に続けていく」と語っている。

 近年は特にミュージシャンが映画に関わる事例が増えているようだ。ケンドリック・ラマーは昨年1月に公開された『ブラックパンサー』のサウンドトラック『ブラックパンサー:ザ・アルバム』を手掛けた。レディオヘッドのフロントマンであるトム・ヨークは、昨年11月に公開、日本では1月25日に公開された『サスペリア』で初のサウンドトラックを手掛けている。

 このこと自体は特に珍しいことではない。過去を振り返れば、デヴィッド・ボウイも『地球に落ちて来た男』など多数の映画に出演しているし、ザ・ビートルズもミック・ジャガーも多数の映画に出演している。それはミュージシャンが役者として、またはサントラを担当して映画と関わるというものだった。

 または、マーティン・スコセッシ監督が、1976年の米バンドのザ・バンドがサンフランシスコで開催した解散のコンサートの模様を収録したライヴ・フィルム『ラスト・ワルツ』のようなドキュメンタリーとして鑑賞されてきた。

 しかし、その関係性は変化している。ミュージシャンが映画作品に参加するということより、音楽自体がエンターテインメントとして新たな側面を見せているのだ。

音楽自体がエンターテインメントに

 これまでにもレイ・チャールズの伝記映画『レイ』やジョニー・キャッシュの伝記映画『ウォーク・ザ・ライン』などミュージシャンの伝記的映画はこれまでにも高い評価を受けてきたが、『ボヘミアン・ラプソディ』がこれまでの伝記映画と大きく違うのはやはり、クライマックスを飾るクイーンが1985年に出演した20世紀最大のチャリティー音楽イベント『ライブ・エイド』の“完コピ”シーンだろう。

 約7万5000人の観客で埋め尽くされたロンドンのウェンブリースタジアムでの彼らのパフォーマンスとその熱狂を再現するということはラミらの絶え間ない努力と才能はもちろん、CGなど現代の最先端技術が可能にした賜物である。本作でメガホンを取った、ブライアン・シンガー監督はインスタグラムにその撮影シーンを公開している。クイーンのメンバー視点で映し出されるその映像と音像に観客が興奮を覚えるのも頷ける。

 今までの伝記映画はどちらかと言うと、ミュージシャンの破天荒な生活や恋愛などステージや音楽以外の場所にスポットライトを当てている作品が多かった。『ボヘミアン・ラプソディ』は、クイーンの音楽制作やステージパフォーマンスをメインにストーリーを進めている所が新しさであり最大の魅力であると思う。つまり、彼らの音楽活動自体が映画のメインストーリーとして確立されているのである。

 日本でも音楽と映画の関係は変容している。2016年11月にAcid Black Cherryのコンセプトアルバム『L―エル―』を広瀬アリス主演で映画化した同名作品が公開された。今年1月にはGReeeeNの大ヒット曲「愛唄」が映画化された『愛唄―約束ノナクヒト―』が公開され、2月1日には中島美嘉のヒット曲を元に制作された映画『雪の華』が公開される。同作では三代目J SOUL BROTHERSの登坂広臣と中条あやみが主演を務めることで早くも話題だ。

 日本ではアーティストやサウンドというよりも、作品の特に歌詞という部分から物語が派生しているというところは印象的だ。まるで日本の音楽の歌詞に対する価値観の大きさを物語っているようだ。

音楽セールスとも相乗効果

 日本の伝記映画としては、GReeeeNの楽曲「キセキ」誕生までの実話を元にした映画『キセキ ―あの日のソビト―』(2017年1月公開)でGReeeeNのメンバーを演じた松坂桃李、菅田将暉、成田凌、横浜流星が「グリーンボーイズ」としてテレビ朝日系『ミュージックステーション』に出演して話題にもなった。菅田はこの後、2017年3月に「見たこともない景色」でソロ歌手デビューし、昨年3月に1stアルバム『PLAY』をリリースしている。

 また昨年、『第71回カンヌ国際映画祭』で最高賞のパルム・ドールを獲得した『万引き家族』の音楽は細野晴臣が担当している。同作は『第91回アカデミー賞』でも外国語映画賞にノミネートしている。カンヌ映画祭でコンペティション部門正式出品された、映画『寝ても覚めても』では気鋭のビートメイカーでミュージシャンであるtofubeatsが音楽を手掛けて話題となったことも記憶に新しい。

 今後『ボヘミアン・ラプソディ』の大ヒットを受け、伝説的ミュージシャンの伝記映画は数多く制作されるだろう。すでに今年5月には英ミュージシャンのエルトン・ジョンの伝記ミュージカル映画『ロケットマン』が全米公開される予定。エルトン・ジョン自らがプロデュースを務め、『キングスマン』に出演する英俳優のタロン・エガートンがエルトン役を演じる。

 もちろん、音楽セールスへの影響も大きい。『ボヘミアン・ラプソディ』のサウンドトラック・アルバム『Bohemian Rhapsody(The Original Soundtrack)』は、昨年12月3日付のBillboard JAPANダウンロード・アルバム・チャート“Billboard JAPAN Download Albums”で1位を獲得。2位に『クイーン・ジュエルズ』、7位に『グレイテスト・ヒッツ』とTOP10に3作品がランクイン。クイーン関連8作品が100位圏内にランクインするなど、音楽セールスにも大きな効果をもたらしている。今年2月9日には2枚組LPとして『Bohemian Rhapsody(The Original Soundtrack)』が発売される。

 YouTubeやストリーミングサービスの普及によって音楽の消費形態が変わる中、今後コンテンツとしても音楽の在り方がどんどん変わっていくのかもしれない。しかし、人々が音楽を求める欲望そのものが変容することはないだろう。レコードからCD、そしてストリーミングと形を変えながらも私たちは音楽を求め続けるのだ。【松尾模糊】

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