ユアネスの渋谷WWWワンマンレポート
――進境著しいバンドが今、何を鳴ら
すのか

Shift Tour 2019 2019.1.13 渋谷WWW
1月13日、ユアネスが渋谷WWWにてワンマンライブを開催した。ユアネスが東京でワンマンライブをするのはこれが2度目。今回は1stEP『Shift』のリリースを記念して開催した、福岡・東京・名古屋・大阪をまわる全国ツアーの一環であった。最初のMCで「窮屈な思いをさせてすみません」と黒川侑司(Vo/Gt)が申し訳なさそうに挨拶するほど会場は超満員。ツアーは全箇所ソールドアウト、それに伴い3月23日には北海道で追加公演を行うことが決定――というトピックからもこのバンドの勢いは伝わってくる。
ユアネス 撮影=Yoshiaki Miura
ユアネス 撮影=Daisuke Miyashita
定刻になるとメンバーが登場。4人がそれぞれ定位置についたタイミングで、男女の会話から成るポエトリーリーディング「変化に気づかない」が始まり、続く「凩」からバンドは演奏をスタートさせた。オープニングは『Shift』の冒頭を踏襲した流れだが、それ以降には1stミニアルバム『Ctrl+Z』の収録曲や、ユアネスが広く知られるきっかけとなった楽曲「色の見えない少女」、さらに本ツアーでライブ初披露となる新曲も登場。同期によるピアノの音色をが取り入れる、場合によっては曲間をSEで繋ぐなど、“4ピースバンド”という編成的な制限に捉われないやり方で彼らは各楽曲を表現していった。音源などからも分かるように、ひとつの作品に宿る物語性を大切にしているバンドであるユアネス。“作品至上主義”的なこのバンドの性格は、長尺で、自分たちだけの空間を高密度で創ることのできるワンマンライブという場において、大いに発揮されたのだった。
ユアネス 撮影=Daisuke Miyashita
ユアネス 撮影=Daisuke Miyashita
緊張からか、序盤の数曲は演奏が若干固かったが、MC明けの「日々、月を見る」から徐々に和らいでいく。「100㎡の中で」ではカラフルな照明のなか、バンドがいきいきとスウィングし、演奏が一層立体的になっていった。「あの子が横に座る」「cinema」「少年少女をやめてから」を連続で演奏した場面にはこのバンドの持ち味がよく表れていた印象。複雑な形をした旋律同士が噛み合うことにより、アンサンブルが形成されていく様子はパズルが組み立てられていく様子に近い。しかしどれだけ緻密なことをやっていようとも、黒川のボーカルが、そこで歌われている言葉が一番はっきりと聴こえてくるようなバランスが、どの瞬間でも守られているのがすごい。黒川は、オーディエンス一人ひとりの浮かべる表情を確かめるように、フロアをじっと見つめながら唄っていた。
ユアネス 撮影=Daisuke Miyashita
ユアネス 撮影=Daisuke Miyashita
歌詞を口ずさんだり身を揺らしたりしながら、楽曲に入り込むようにしてギターを鳴らしているのが、バンドのメインソングライターである古閑翔平(Gt)。対して、口をぎゅっと結びながら演奏し、縁の下の力持ち的なポジションを担うのが田中雄大(Ba)。大きく振りかぶって楽器を叩く小野貴寛(Dr)は、鳴らす音自体にもその動作自体にも華やかさがあって良い。ユアネスが自身の音楽に対して傾ける愛情は慈愛に近く、プレイヤーとしてのエゴより、楽曲それ自体の美しさを優先する傾向にある。一方、ライブでは、個々のキャラクターが構築美をはみ出していくような場面もあり、本人たちもそれも面白がっているというか、それこそがバンドを組む醍醐味なのだという感じているんじゃないか、そういうふうに見えた。
ユアネス 撮影=Daisuke Miyashita
ユアネス 撮影=Daisuke Miyashita
印象的だった場面は演奏面以外でもいくつかある。例えば、MCにて、不器用ながら時間をかけて自分の想いを話す黒川を、横から止めたりからかったりするようなメンバーがいなかったこと。バンドを引っ張るようなポジションである古閑がときどき、他3人が今どういう表情をしているのかを確認するように覗き込んでいたこと。また、新曲「私の最後の日」の存在も象徴的だった。「私の最後の日」は、ピアノの同期をバックに黒川が唄う、つまり古閑・田中・小野による演奏はなしの状態で披露された。ギタリストである古閑がそのような曲を作ってきたことに対し、黒川が、「本当に型破りな人なんですよ」と言いながら嬉しそうに笑っていたのも印象に残っている。「私の最後の日」は今後さらなるアレンジが施される可能性があり、最終的にどのような仕上がりになるのかは、現時点では彼ら自身にも分からないとのこと。新曲の変化する過程をファンとも共有し、一緒に楽しんでいくことを目的としたような試みだ。
ユアネス 撮影=Daisuke Miyashita
ユアネス 撮影=Daisuke Miyashita
アンコールなしで計1時間半。「みんなが歌うこの曲が好き」というふうに黒川が語っていた「pop」を、オーディエンスと共に唄い鳴らすシーンを経てライブは終了した。今回のライブを通して改めて感じたのは、ユアネスが極めて不思議なバランスで成り立っているバンドなのだということ。今後変化を重ねることにより、理想へと近づいていくであろうこのバンドの、黎明の時に立ち会うことができたのは貴重な経験だったように思う。
ユアネス 撮影=Daisuke Miyashita
ユアネス 撮影=Yoshiaki Miura
そういう意味では、追加公演となる北海道ワンマンが約2ヶ月後に設定されているのも非常に興味深いことだ。引き続き、彼らの活動に注目していきたいと思う。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=Daisuke Miyashita、Yoshiaki Miura
ユアネス 撮影=Daisuke Miyashita

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