新国立劇場2019/2020シーズンライン
アップ説明会~<小川絵梨子・演劇芸
術監督編>

新国立劇場の2019/2020シーズンラインアップ説明会が2019年1月17日(木)に開催され、オペラ、バレエ&ダンス、演劇部門の各芸術監督が登壇した。演劇ラインアップについては、演劇芸術監督の小川絵梨子氏より説明があった。
新国立劇場シーズンラインアップ説明会 小川絵梨子演劇芸術監督
シーズン最初の3作品は「前年度ではできなかったシリーズ企画」ということで、シリーズのタイトルは「ことぜん」。「ひらがなになっているが、これは『個人と全体』『個人と国』といった、個人と一つのイデオロギーを持った集団との関わり、そこに起きる軋轢や葛藤などを切り口にしたシリーズとなります」と小川氏はその意図を語った。シリーズ第一弾は2019年10月、ゴーリキーの名作『どん底』を、新国立劇場では初演出となる五戸真理枝が演出する。第二弾は11月、こちらも新国立劇場では初演出となる瀬戸山美咲の演出作品を上演(作品は後日発表)。第三弾は12月に小川自らがラジヴ・ジョセフ作、小田島創志翻訳『タージ・マハルの帝国警備隊(仮題)』を演出する。ラジヴ・ジョセフはアメリカの劇作家で、新国立劇場では2015年12月に『バグダッド動物園のベンガルタイガー』(中津留章仁演出)を上演している。
2020年4月上演の『反応工程』は宮本研の戯曲で、今年4月に上演される『かもめ』(チェーホフ作、トム・ストッパード英語台本、小川絵梨子翻訳、鈴木裕美演出)に続くフルオーディション企画の第二弾。全キャストをオーディションにより選出し、千葉哲也が演出する。オーディションは既に終了し、先日キャスト発表も行われたばかりだ。
この日配布されたラインアップ一覧には記載がなかったが、5月にも作品上演を予定しており「現在、作品選定の最終段階に入っている。早々に発表できると思う」と小川氏より説明があった。
7月、8月には「大人も子どもも楽しめる舞台」というシリーズとして、それぞれ小山ゆうなと長塚圭史を演出に迎えて作品を上演する。「子ども向け作品というわけではなく、この時期ちょうど東京オリンピックがあるので、ご家族や、小さなお子様からご年配の方まで、オリンピックを楽しむように舞台も一緒に楽しんでもらいたい、という思いを込めた」のだという。小山ゆうな演出作品は後日発表、長塚圭史は『音のいない世界で』『かがみのかなたはたなかのなかに』に続く作品として、コンドルズの近藤良平、松たか子、首藤康之の他、さらにキャストを加えて新作を上演する。
以上がラインアップとなるがそれ以外にも、今年3月にリーディング公演を行う「こつこつプロジェクトーディベロップメントー」も引き続き進められ、2年目のシーズンに入る。試演会が予定されているがそれは非公開で行われ、一般への公開は本公演の場となる予定だ。また、小川氏自ら「やっと実現することになり嬉しい」という企画「ロイヤルコート劇場✕新国立劇場 劇作家ワークショップ」が行われる。「明日、正式な応募要項などを発表するが、ロンドンのロイヤルコート劇場の現役で活躍している劇作家が1年間で3回来日し、15~20名程の参加者とそれぞれの作品を一緒に育てていく。ロイヤルコートから“先生”として来てもらうのではなく、コラボレーションという形で、一緒にブレインストーミングしたり話しながらやっていくワークショップになる。日本全国の劇作家にぜひ参加してもらいたい。最終的にはリーディング公演として、日本とイギリスと両方で上演できたらいいな、と思っている」と小川氏がその企画意図を説明した。
昨年よりスタートした視覚障害者向け観劇サポートやギャラリープロジェクト(演劇のおしごとシリーズ、演劇噺、公演ガイドツアー)も継続することを表明。「劇場というのは作品を発表するのは当然のこととして、作品を創る場所としての機能を大事にしていきたい。僭越だが自分の任期の間に、そういった劇場の形を若い世代に渡せるように作っていきたい」と思いを語った。
新国立劇場シーズンラインアップ説明会 左から、小川絵梨子演劇芸術監督、大原永子舞踊芸術監督、大野和士オペラ芸術監督
また、オペラ芸術監督の大野和士氏より、2020年8月に渋谷慶一郎作曲、島田雅彦台本の「子供オペラ」を新制作することが発表され、小川が演出、大野が指揮、舞踊芸術監督の大原永子氏の協力の下、新国立劇場バレエ団のダンサーも出演するという、新国立劇場始まって以来初の三部門による合作が行われることが明らかとなった。この公演については、後日改めて記者発表の場を設けるとのことなので、続報を楽しみに待ちたい。

説明会終了後、小川氏を囲んでの記者懇談会が行われた。
小川氏の第一声は「ぜひ、ロイヤルコート劇場との劇作家ワークショップの件、周知にご協力お願いします」と、この企画にかける強い思いがにじむものだった。劇作家の育成に対する思いを聞かれると「場所があることや、実験的なことができるという公共の強みを生かしてそういうことをやっていくべきだ、というのが私の考え方です」と力強く答えた。このワークショップ自体は、ロイヤルコート劇場が文化交流に重きをおいて世界中で実施しているもので、日本で行われるのはこれが初となる。ロイヤルコート側としては、あくまで“教える”のではなく、新しい文化、新しい劇作の形を知り、自分たちの世界をより広げたい、相互に影響し合いたい、という目的を持って日本で行うのだという。
新国立劇場記者懇談会 小川絵梨子演劇芸術監督
シリーズ「ことぜん」について問われると、「個人と国との関係について、例えば『自己責任』とよく言われるが、じゃあ『自己』と『全体』との関係とは何だろう、といったことを考えるきっかけにしたい、様々な考え方を知りたい、という思いからこのテーマにした」と答えた。また、このシリーズの演出家に五戸真理枝と瀬戸山美咲を起用した理由については「そこばかり注目されるのは本意ではないのであえて言っていないが、3人とも同世代で女性演出家。その3人がこの切り口でそれぞれ上演する面白さ、というのはあると思う」と、“女性演出家”と特別扱いをされることへの複雑な思いをのぞかせながらも、このメンバーでのシリーズに意欲を見せた。
小川氏が演劇芸術監督になってからチラシの雰囲気が変わった、という記者の感想には、思わず「やった、うれしい!」と笑顔を見せる場面も。「若い世代の観客を開拓するという使命を感じており、宣伝広報でビジュアルをキャッチ―にしたり、若年層の感覚向けにしていくことも方法の一つだと思う。作り手としては、個人が芸術監督を担っているという意味を考えたとき、自分の好みでないものをやるのは意味がないと思うので、あくまで私が好きなテイストを守りつつ、作品の力で幅広い観客層が来てくれるように意識していきたい」と、様々な創意工夫の様子を語った。
演劇芸術監督任期2年目となる小川氏の「新国立劇場としてのあるべき姿勢」を追求する強い意志がさらに色濃く感じられる次シーズンとなりそうだ。東京オリンピックイヤーとなる来年は、劇場や演劇の社会性が鍵を握る局面も多いだろう。自身に課せられた使命を見つめ、果敢に取り組む小川氏にますます期待したいと思わせてくれる説明会と懇談会だった。
取材・文・撮影=久田絢子

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