観月ありさ主演、手塚治虫の幻の名作
を舞台化した『悪魔と天使』稽古場レ
ポート&白石隼也・中島早貴インタビ
ュー

手塚治虫生誕90周年を記念して、幻の名作と言われている「ダスト8」を原作とした舞台『悪魔と天使』が、2019年1月19日にKAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉で幕を開け、大阪、名古屋でも上演される。
主演の観月ありさをはじめ、実力派、若手、ベテランと幅広い出演者でこの作品の舞台化に挑んでいる稽古場を取材した。
稽古に先立ち、出演者の白石隼也と中島早貴にインタビューを行い、公演にかける思いを聞いた。
ーーまずは、この脚本を読んだ感想を教えてください。
中島:事故に遭って死ぬ運命だった人たちが“生命(いのち)の石”を手に入れて生き残り、それぞれがどう行動するか、というストーリーなんですが、一人ひとりそれまでの生き方が違うだけあって考えることが全然違って、人間っていろいろなんだな、と思いました。私だったらどうするんだろう、と考えましたね。
白石:先に原作を読んでから、脚本を読みました。人間の欲望の恐ろしさと、それとはまた逆の人間の良心の部分が描かれていて、死生観についても考えさせられましたし、見てくださる人にも何かを感じ取ってもらえる舞台になるのかな、と思いました。
舞台『悪魔と天使』インタビュー 白石隼也
ーーこれまで手塚作品は何か読んだことがありますか?
白石:「ブラック・ジャック」は学校の図書館で読みましたね。一番最近読んだのは「七色いんこ」です。
中島:TVアニメで「ブラック・ジャック」を見ていました。「ダスト8」は今回出演が決まったことを機に読みました。私は先に脚本を読んだのですが、最初に起こる事故の内容が違っていたり、自分の演じる役のキャラクターなど、様々な違いを楽しみながら読むことができました。
ーーこの作品は「生と死」という人間にとって重たく、切り離すことのできないテーマを取り扱っています。普段生活している中で「生と死」について意識させられる瞬間はどんなときでしょう?
白石:僕は車を運転しているので、もちろん安全運転を心がけていますが、どういう事故が起こるかわからないという気持ちはありますね。あとは自然災害も多いので、意外と死の危機を感じる瞬間は多いのかな、という気はします。
中島:ステージに立っていたり、舞台に出演しているときに「ああ、生きてるな」と実感します。以前アイドルグループ「℃-ute」のメンバーとして活動していたときに、抱いていた夢がかなった瞬間は「もう死んでもいいくらい幸せ!」って思いました。
ーー中島さんは、昨年12月に舞台にご出演され、それが終わってすぐにこの作品のお稽古が始まり、舞台続きの忙しい日々ですね。
中島:でも楽しいです。毎回新しい人に出会えて、いろんなお話しが聞けて、どの現場もそれぞれに違うので面白いな、と楽しみながらやらせてもらっています。これまでの出演舞台はコメディー作品が多くて、客席から笑いが生まれる瞬間は、会場全体がひとつになれているな、と舞台上で感じられてすごく幸せでした。今回はメッセージ性の強い作品ですし、劇場も大きいですし、また違う感じになるんでしょうね。
舞台『悪魔と天使』インタビュー 中島早貴
ーー白石さんは映像でのご活躍がめざましくて、舞台の印象があまりありませんでしたが、これまで3本ご出演されています。
白石:3本だけですし、しかも前回の出演は4年近く前なので、4年も開いちゃえば今回が初舞台みたいな感じです。今回は会話劇なんですが、大きい劇場で広くステージを使わなければならなくて、その難しさを感じています。まだ舞台の空間として、このお芝居を見ることができていないんですよね。映像だと見る人のことを気にせずに演じて、カメラが上手く切り取ってくれるんですけど、そこの違いを痛感しています。
ーー今回の共演者は、観月さんをはじめ、高島礼子さん、佐藤B作さんら舞台経験豊富な方がたくさんいらっしゃいます。
中島:みなさん、やっぱり発声の仕方が違いますね。声の抜け方が稽古場から既に違うんです。本番はマイクがあるとはいえ、もっとがんばらないと、と思わされます。
白石:舞台って、声を大きく出した者勝ち、といった面もあると思っていて。ベテランの方々は普段の会話でもよく通る声を出すから、そこは同じボリュームを僕らも出していかなきゃ、と勉強になります。今回の舞台はベテランチームと若手チームに分かれている部分があって、どうしてもベテランチームの人たちの方が存在感があるので、若者チームも負けてられないな、と思っています。って、若者チームの決意表明みたいになっちゃった(笑)
舞台『悪魔と天使』インタビュー 白石隼也
ーーお二人の役柄を、それぞれ教えていただけますか。
中島:私の役はラジオDJで、実は裏設定でアイドル上がり、っていうのがあるんです。私も元々アイドルで、ラジオもやっているので、共通する部分があるなと思っています。これから役作りを深めていこうと思っていて、お芝居全体の雰囲気から、少し落ち着いたキャラクターをイメージしていたんですけど、衣装合わせをしてみたら想像以上にイケイケな服で(笑) もしかしたらイメージ違うかも? と迷っています(笑)
白石:列車事故で生き残った11人の生還者がいて、みんな“生命の石”と呼ばれるものを手にしているのですが、その中で僕と観月さんが演じるキャラクターは、本来死ぬ運命だった他の人たちの命の石を取り返したら、自分たちの命は助けてもらえる、という設定です。観月さんは生き残りたいがために他の人たちの石を取り上げに行くんですけど、僕はそれは人の命を奪うことになるからやりたくない、と思う天使的な役割を担った役です。でも次第に、個人の正義というのは他の人からみれば悪になるかもしれないし、自分のやっていることは果たして正しいのか、と心が揺れていくんです。
舞台『悪魔と天使』インタビュー 中島早貴
ーー最後に、皆さんへのメッセージをお願いします。
中島:自分だったらどうしたいかな、誰と会いたくて、どう過ごしたくて、どういう将来を作っていきたいかな、と考えさせられる作品なので、見に来てくださる方たちにも、今生きているということをあらためて実感してもらえるような舞台になったらな、と思っています。ぜひ遊びに来てください。
白石:自然災害とか命の危機を感じることが多い世の中ですが、そういったことと直面しないと感じられない思い、というものがあると思います。この作品のキャラクターたちが命の危機に直面したときにどう行動していくのか、この舞台でそれを追体験してもらって、見終えて日常に戻ったときに、これまでと何か違う感覚みたいなものを持ってもらえるように頑張って作っています。「2019年の初笑いは『悪魔と天使』で、すごい笑える舞台です」って書いといてください。
ーー本当にそう書いちゃって大丈夫ですか?
白石:はい、いっぱい笑いをぶち込みますんで!
中島:やめてくださいよ、全然ぶち込むところないですから(笑)

インタビュー後、稽古場を見学させてもらった。
この日の稽古はまず、実業家の大前田(ぼんちおさむ)のオフィスに旧友で画家の渋井(佐藤B作)と秘書の田畑(まいど豊)がいて、そこに記者の渡辺(松澤一之)と判事の海江田(観月ありさ)がやってくるシーンから始まった。
舞台『悪魔と天使』稽古場写真
佐藤とぼんちが中心となり、アドリブを入れたり、毎回違う動きをしてみたりと、とにかく積極的に様々な試みをしながら稽古を進めている様子が伝わってきた。先のインタビューで、白石と中島の二人が言っていた「ベテラン勢の存在感」をまざまざと見せつけられた。
舞台『悪魔と天使』稽古場写真
ベテラン勢の自由奔放な演技にも動じることなく、冷静に受けて立つ観月の芝居の強さに感心した。この作品を座長として引っ張る実力があるからこそだ。そのたたずまいの凛とした美しさも、この舞台全体の大きな華となるだろう。
舞台『悪魔と天使』稽古場写真
佐藤、ぼんち、松澤の掛け合いを見ていると、インタビューで白石が言っていた「笑える舞台です」というのも冗談ではなかったのか、と思えてくる。しかし、締めるべきところはしっかり締める、そのメリハリのつけ方がさすがだ。稽古場の空気を和ませながらも、真摯に作品作りに向かう姿はきっと若手チームの面々も学ぶところを感じているはずだろう。
舞台『悪魔と天使』稽古場写真
続いて、医者の柏木(野村宏伸)の元を、女優の九條(高島礼子)が訪ねてくるシーンの稽古に移った。高島と野村の落ち着いた芝居には安定感がある。柏木と九條が、それぞれの生死、そしてそれぞれの職業と向き合う心の動きが繊細に伝わってきた。
舞台『悪魔と天使』稽古場写真
生きるということ、そして死ぬということ。人間は常にその命題を抱えて生きている。死ぬ運命だった人間が不思議な力で生き残ったことから始まるこの物語は、観客にどんな感情を呼び起こさせるのだろうか。本番の舞台を楽しみに待ちたい。
取材・文・撮影=久田絢子

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