「溢れた音」を受け止めた夜——緑黄
色社会のツアーファイナルレポート
Photography_Miyu Ando
Text_Osamu Onuma
過去最大規模の会場でも「狭い」と感じ
た、楽曲のスケールの大きさ
この日の会場となったマイナビBLITZ赤坂は、バンド史上最大規模の会場だ。しかし、たった3曲を見ただけで、すでにこのステージは彼らにとって狭いと感じてしまった。それはこのツアーで、彼らがいかに多くのことを吸収してきたかを証明するかのようだ。
「今回はみんなと感情を共有できるツアーにしたいと思ってきました。楽しい気持ちも、それ以外も、私がいろんな曲をいろんな気持ちで歌うから、その時の気持ちを大事にして素直に聞いてくれたらうれしい。みんなでいい夜にしようね」
そんな長屋のMCのあとで歌われたのは、新作『溢れた水の行方』に収録の『視線』。ピアノとヴォーカルを中心とした歌い出しにサポートドラマー・比田井修の力強い音が加わると、エモーショナルなサウンドがさらに熱を帯びていく。緑黄色社会の音楽はレコーディングされた音源だとそれぞれのパートの音が独立しながら絡み合う印象だが、ライブで聴くとすべての音が一丸となって飛び込んできて、こちらの感情に強く訴えかけてくる。
さらに、新作から『サボテン』を演奏。「ごめんね/私はサボテンさえ上手く育てられずに/やりすぎた水が溢れていったよ」という歌詞が『溢れた水の行方』というタイトルともリンクする、新作のキーとなる一曲だ。長屋はこの曲で溢れた水を愛にたとえ、咲くことのなかった花への悔恨を歌い上げる。では、溢れた「音」は? 緑黄色社会の溢れた音は、この日の会場がすべて受け止めていたと思う。楽曲の物語の悲しさを超えて、そうして音楽が鳴り響く幸福にただ胸を打たれる、美しい時間がそこにはあった。
「もっと広い世界を見たい」決意ととも
に届けられた歌
「ここからはより自分自身と向き合った歌を歌います」というMCのあとは、『regret』『Re』『大人ごっこ』を立て続けに披露。これまではステージを縦横に動き回るなどして盛り上げていたメンバーも、今は音に向き合うことに集中しているような面持ちだ。ステージの上空にだけ光があって、まるでバンドが海底で演奏しているかのように見える『Re』、ギターソロの激情と連動するように真っ赤な光が会場に満ちた『大人ごっこ」など演出も美しく、ステージに釘付けになってしまった。
ここから、いよいよライブもラストスパートへ。メンバーの力強いコーラスとともに肯定のメッセージが響く『君が望む世界』、穴見のベースがヘヴィなグルーヴを打ち鳴らした『Never Come Back』、イントロで歓声が沸き起こった『アウトサイダー』。サビでは観客が揃って手を掲げ、長屋の喉が枯れんばかりの絶唱が空間を切り裂いた。
穴見が「東京のみんなの『溢れた音』、聞いてないなと思って。今から大きな声出せますか?」と煽ると、オーディエンスの歓声がフロアを震わせる。『リトルシンガー』『真夜中ドライブ』という疾走感ある楽曲で、クライマックスへと加速していく。
ファンと一緒に、バンドのさらなる飛躍を誓うような言葉を語ったあと、最後に披露されたのは『あのころ見た光』。この曲を歌っている時、伸びやかで安定感のある長屋の歌声が、時おり少し震えた。加速する自分の感情にブレーキを踏まず、すべてを解放するようなその歌声が、力強いバンドの演奏に乗せて響き渡る。観客もステージに声を届けるように全身全霊で歌い、満員の会場がひとつになった瞬間だった。
終わりを新たな始まりに変えて
アンコール1曲目に演奏されたのは『want』。本編では自分の持ち場を離れなかったpeppeがステージ前方に走っていき、「私も行きたかったんだよねー!」と笑顔で会場を盛り上げた。
すべての演奏を終えたあとは、このツアーの恒例だという写真撮影。その時、長屋が「本当に終わっちゃう」と誰に言うともなく呟いた。その声には寂しさが満ちていたが、それは同時にツアーの充足を物語るものでもあった。
それに、こんな素晴らしいステージを見せてくれた彼らなら、この先も今日のような、あるいはもっと素晴らしい瞬間が、この先何度も訪れるだろう。緑黄色社会の「溢れた音」が、残さずファンに受け止められた今夜。その音は、これからますます大きくなっていくに違いない。そんな予感に満ちた夜だった。
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「溢れた音」を受け止めた夜——緑黄色社会のツアーファイナルレポートはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。
ミーティア
「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。