GOING UNDER GROUND 20周年を終えて
「自分たち自身が自分たちのバンドに
期待できるようになった」

最近ずっと20代のインタビューが続いている。そんな中での同世代GOING UNDER GROUNDのインタビュー。彼らだってデビューした時は20歳だった。あっ、松本素生はギリ19歳だったはず。それから20年……。何も知らなくて、毎日を夏休みの様に楽しんでいた少年たち。メジャーデビュー、CMタイアップ、日本武道館ライブなど、たくさんの良い事も経験した。そして、メンバー脱退、レコード会社移籍、事務所移籍なども経験した。最近では、普段は飲食店で働き出したりもしている。だからこその見える景色も、たくさんあるだろう。とにかく、今やりたい事しかやっていなくて、今が楽しいという。確かに肩の力も抜けて、リラックスしている。だからと言って、別に世捨て人な訳でも無い。しっかりと歌いたい事はあって、しっかりと届けて伝えて広げていこうとしている。もしかしたら、変に他人に期待しなくなったのかも知れない。でも、間違いなく今までで一番彼ら自身がGOING UNDER GROUND期待している。これから、もっともっとシンプルな言葉で、もっともっとシンプルなメロディーで、もっともっと普遍的な歌が生まれると、僕は期待している。
GOING UNDER GROUND
――最近、20代のミュージシャンのインタビューがずっと続いていて、久しぶりの同世代のインタビューなんですよ。
石原:もう、この歳にもなると楽屋でも健康の話しかしませんよ(笑)。
松本:ほんとそうだよね。厄年とか、厄払いとかね(笑)。後ね、自分もそうでしたけど、20代のインタビューって、色々な事をわかってそうで、わかってないんです。色々わかってくるのは、バンドを辞めようと思ったりしてからなんですよ。
中澤:でもさ、20代って、何かわかってる事を言いたいじゃない。まぁ、僕ら世代が、そういう雑誌で育ってきてるというのもありますけど。
――10代の頃にrockin'onのカッコいいインタビューを読んで、育ってきてますからね(笑)。そして、GOINGも40歳になり結成20周年です。
松本:この前、ライブのMCでも言ったんですけど、20年もやって、今更、活動休止とか解散の意味ってわからないんですよ。10年ならわかるんです。ウチのキーボードが辞めたのも、それくらいでしたし。
石原:2009年とかか。
中澤:30歳とかだったもんね。
松本:楽しいからバンドをやってるんですよ。だから、20年も経って、辞める理由がないですよ。ずっと続いていくもんだもん。20年もやってると、全部平和になるんですよ。昔はね、「音楽が無いと生きていけない」とか、「音楽が日常っす」とか言ってたけど、別にそうでもなくて。もう難しく考えてないよね。
中澤:それこそ健康も絡んでくるから、20年もやっていると。
松本:そうそう。で、別に意地でも無くて、やりたいからやってるんだよね。そこにビジネスを紐づける方が、逆に難しい。やりたく無い事はやらないとか、どんどんシンプルになってきている。
GOING UNDER GROUND
――GOINGはデビューも早かったですし、まだ音楽業界も良い時代だったから、そんなに最初は苦労も無かったですよね。
松本:そうですね。何も知らなかったですし、知ろうともしてなかったですね。ずっと夏休みというか。それが10年単位で終わっていくんですよ。
石原:ひとりいなくなってね。
松本:映画の『スタンドバイミー』の最後のシーンで、十字路で少年がひとりづつ、それぞれの方向に歩いて行くのと一緒ですよ。
石原:俺、今年入院したんですけど、やっぱり健康が大事ですよ。何気ない時間が大事なんですよね。
松本:気付いたか! 毎日がスペシャルだから!
――ハハハ(笑)。メンバー脱退やレコード会社移籍や事務所移籍など色々ありましたけど、今が一番良さそうなのが嬉しいんですよ。
松本:ストレスが少ないんですよ。さっきも言いましたけど、今は、やりたい事しかやってないので。
中澤:若い人の方がストレスはあると思いますよ。
松本:楽しそうにしてる人って、どこか諦めてる人なんですよ。多くを得ようとしてないというか。若い時は荷物持ち過ぎなんですよ。捨て去ったものは相当ありますけど。でも今、軽やかですから。
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――こないだのアルバム『FILMS』(2018年9月発表)が、それこそ軽やかで凄く良かったんですよ。
中澤:「こういう曲、好きなんだよな~!」と言いながら、作ってますから(笑)。
石原:素生が言ってたんですけど、「お客さんの為とかじゃなくて、“これ良い!”というのを作って良かった」って。ほんと、そうだなって。
松本;リスナー前提で作るというのが『FILMS』には一切無くて、例え聴く人がいなくても、俺たちが「これやりたい!」というのを作ったんですよね。だから、メッセージソングでも無いし、応援歌でも無いし、ただ出てきたんですよ。この年になるとクセついて、そういうのは中々出せないんですけど、3人なって初めて出来ましたね。
石原:シングルの「スウィートテンプテーション」(2018年6月発表)に20年前のライブDVDが付いているんですけど、最初は恥ずかしくて観れないと思っていたんです。でも、全部観れたんですよ。下手くそなんですけど、あの頃って誰に頼まれた訳でもなくやってるんですよね。だからこその良さがあるんですよ。
松本:人のバンドを観る時も、自分の為にしかやってない音楽が好きなんですよ。素直なままにやってるというか。サニーデイ(・サービス)とか、そうじゃないですか。そういう意味で『FILMS』は、3人で初めて作ったゼロ地点ですね。前はデモテープの段階の時に、こっちで選択したものしかメンバーに聴かせてなかったんですよ。これは普通だなと思った曲は聴かせてなかったんですけど、中澤に「何で勝手にボツにするの?」と言われて。
中澤:「他にもあるんだったら聴かせてよ」と言ったんですよ。素生が普通と思っても、俺らが聴いて、そこからワンアイデア入れたりとかも出来ますから。だから、今はメンバー同士で驚かせたいと思えてるんですよね。
松本:前は普通じゃいけないとか、こういうのを作ろうとかがあったんですよ。でも、今は「何で、これを作ったかわからない」とか「よくわかんないんですけど」というようなテンションが、ちょうどいいんです。それは成長でもあり、等身大っちゃ、等身大だし。
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――唸りながら作ったというより、“チュルン”と作れたっていう感じがしたんです、今回のアルバムは。
松本:そうそう、今回はチュルン系です(笑)。あっ、こないだ、むちゃくちゃ良い曲が出来て泣きそうになってる夢を見たんですよ。起きて、その夢で出来たむちゃくちゃ良い曲を歌ってみたら、エレカシの「四月の風」だったんです! シンプルなメロディーとシンプルな言葉で、むちゃくちゃ良い曲が出来たと夢の中で俺は喜んでいたんですけど(笑)。まぁ、それで自分の考えてる事も理解できたんですね。要は昔って、なるべく人が言わない言葉がテーマで、シンプルな言葉を避けがちだったんですけど、今は普遍的でシンプルな言葉で歌いたいと思えるようになったんです。《明日もがんばろう 愛する人に捧げよう》って中々言えないんですよ、色々と考え過ぎていたら。でも、シンプルな言葉でむちゃくちゃ良いじゃないですか。
――凄くわかりますね。それで言うと、今回のアルバムだと「ペパーミントムーン」が物凄くシンプルなメロディーとシンプルな言葉で良いなと思ったんです。
松本:あ~、秒で出来た曲ですね(笑)。それこそ、何で出来たのかよくわからない曲です。でも、やってて楽しいからいいじゃんって。何かに寄せていく作業さえしなかったら、今より良い世界が見えると思うんです。昔みたいに今すぐ1位になりたいというのも無くなりましたし、それは別に諦めたとかでもなく、音楽やってるだけで最高に楽しい事に気付いたんですよね。昔は日本武道館ライブとか、そういう人参をぶら下げて、それに向かってやってましたけど、ただ良い曲を書けたという事でしか更新できない事もあるんだなって。
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――若くして日本武道館というキャリアでも、何十年やって日本武道館というキャリアでも無いじゃないですか。GOINGは中間管理職キャリアというか。
松本:一番キツイ時期ですよね、ある意味(笑)。
石原:中間管理職は長いですしね(笑)。
――言葉にすると、やりたい事しかやらないとか、楽しい事しかやらないとなりますけど、ちゃんと今のキャリアのキツさも理解してるし、GOINGは単なる楽観主義の世捨て人では無いじゃないですか。だからこそ、信用して信頼しているんですけど。
松本:そうですね。別に今も武道館を狙ってないわけでは無いですからね。ただ、万全の状態で行きたいというのはありますよ。後、未来に変に目的を置くと、そこを目指すだけになるんです。そんな事をするより、次のアルバムをどうしていくかが重要なんで。興味はそっちですね。
石原:アルバムが良かったら売れるだろうし、そういうシンプルな世界だからやりやすいですよね。
松本:昔話や未来より今が大事と俺らが思えるのは、ほぼメンバーだった橋口(靖正)君が2年前に亡くなったというのもありますね。20年の中で良い事も悪い事もあったんですけど、そんな事より人って突然死ぬんだなって……。だから、やっぱり健康が一番なんですよ。でも、その為に鍛え出すのも、俺個人的には、また違う様な気がしていて。生きる為に必死に鍛えてる奴の歌なんて聴きたくないなって。
――変に特別な事をせずに自然に普通に生きていく中での歌が良いという事ですよね。
松本:そうですね。雑誌で(甲本)ヒロトさんも、そのような事を言っていて、そしたらインタビュアーに「ハゲでデブの奴が歌ってるのもかっこいい?」と聴かれ、「当たり前じゃん!」と答えていたんです! 何か、俺嬉しかったですね(笑)。やっちゃいけない事をやる人が好きだし、それが業だし、人間ぽくっていいなと思うんです。今の世の中は、そういう風潮じゃないのもわかるんですけど。
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――さぁ、そして、2019年は20周年の締めくくりとしてのツアーも始まりますね。
松本:20年もやっているので、音楽を好きな人は、俺らの名前ぐらいは聞いた事あると思うんですよ。そんなバンドが今こうなっているというのを観て欲しいですね。今が一番良いと思うので。「今を観ないと、もったいないぞ!」と思いますよ。って言っても、中々俺たちも2時間のライブを観るのは苦行の年になってきたので、大変な気持ちもわかるんですけど(笑)
――20周年を終えて、これからGOINGがどうなっていくか本当に楽しみなんですよ。
中澤:自分たちも自分たちに期待してるんですよ。
松本:ようやく、自分たち自身が自分たちのバンドに期待できるようになったんだよね。
――僕も期待しています。今日はゆっくりインタビューできて嬉しかったです。ありがとうございました。
GOING UNDER GROUND
取材・文=鈴木淳史 撮影=森好弘

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