在日ファンク・浜野謙太がレーベル移
籍&アルバム制作過程で見つけた新テ
ーマ「ずっと演奏できるビート」につ
いて

在日ファンクが、変わった。音とリズムを楽しむ音楽から、音とリズムを楽しみつつ、じっくりと音や言葉を“味わえる”(個人的には“奥歯でじっくり噛みしめて味わえる”と言いたい)新次元のファンクミュージックへ―――。2018年11月、約2年半の焦れるような月日の果てにリリースされた5枚目となるニューアルバム『再会』を聞いた人なら、同じように感じた人もいるのではないだろうか。2017年、バンド結成から10周年を迎えた節目の年にはSaxの後関好宏が脱退し、新メンバーとして橋本剛秀が加入。さらにフロントマンの浜野謙太が以前SAKEROCKでの活動時に在籍していたレーベル「カクバリズム」への移籍というさまざまな変化は、バンドにどのような影響をもたらしたのだろうか。アルバム制作に着手してから完成までの約2年半の長い道のりのこと、バンドに起こった新しい化学反応、それらを経て見出したバンドの新しいテーマについて。バンドのカギを握力強めにギュギュギューーーーーっと握りしめているハマケンに、話を聞いてみた。

――アルバムの発売は2年半ぶりで、その間にはメンバーの脱退、新メンバーの加入、レーベル移籍があって、昨年の1年に関していろいろなところで“在日ファンク激動の1年!”と言われていましたよね。当人としてはどう捉えていたんですか?

そうですね……人がひとり変わるというのは本当にバンドにとって大変なことなんですね。こういうグルーヴ重視のバンドならなおさら、ひとり変わるだけでもサウンドの変化が大きいんです。それもすごく変わったことのひとつだったけど、僕らが思っていた以上に変わったなというのは、音楽をやる環境の変化でした。移籍の時にカクバリズムのオーナーから「じっくりやって、納得のいくものを出してください」っていうニュアンスの話をされたんです。意外にもそれに対して自信がない自分がいたんですよね。
――へー! ちなみに今まではどんなやり方で進んできたんですか?
例えばアルバムの発売日が決まっていて、そこに向かって作っていくっていう感じですかね。そうじゃなきゃだめって言われたことはなかったんですけど、レーベルと話し合って発売日を決めて、そこまでにこういう感じのこういうニュアンスのものを作ろうみたいな目標をなんとなく立てて進めてました。そういうやり方が当たり前だと思っていたというか、そういうもんだ、みたいな感じではありましたね。
――良くも悪くもちゃんと期限がある、というやり方。
その締め切りをとっばらって、自分たちが納得いくものを出すっていうのは……それだけの音楽性の地平が、在日ファンクに広がっているのだろうかという不安があったんです。でも実際やってみたら、やればやるほど広がっていたという感覚がありました。
在日ファンク
――それもまずは新メンバーが加入した新・在日ファンクとして、メンバー全員が納得のいく基準を作っていくところからのスタートということですよね。
そうです。そこの基準を探るためにいろいろやっていて、最初の1年ぐらいは今聞いても恥ずかしくなるような曲をドヤ顔で出してましたね。その頃は在日ファンクの既存の曲は全然練習しないで、「新曲作ろう!」と言ってたんです。とにかく僕が新曲作りたかったんで。後から考えたら、それって新メンバーに失礼だなと思ってたんだけど、後々みんなと話していると、むしろそれがよかったんじゃないかと。彼と新しいものを、新しい7人で作るっていうことを2年ぐらいかけてできたのが結果的には良かったんじゃないかと今は話してます。
――新しい曲をやり重ねていくうちに、バンドとしての新基準がはっきりと見えてきた時のことって覚えてますか?
んー、もう記憶力があれなんで(笑)。でもみんなの話では、「ハートレス」ができた時かなと思いますね。一番置き所が難しい曲なんですけど、これが最初に仕上がったんです。同時期に一緒に作ってたのが「飽和」で、愛が飽和してるみたいな……情熱的なんだけど理科で使う言葉を入れ込んで、今までの在日ファンクらしい曲を作っていたんです。でもその頃「飽和」をライブでやってみた後に、なんか違うな〜ってちゃぶ台返し的な感じになって。そういう経緯もあって、最初にしっくりきたのが「ハートレス」だったんです。
――タイトルも歌詞や歌詞が少し物悲しい感じでした。
悲しいしちょっと怖いしって感じですよね。「ハートレス」って検索すると悪魔みたいな画像とか結構出てくるんです。メロディーがキャッチーなわけでもないし、なんか捉えどころがないかぁって思ってたけど、やってみたらこの曲に対する演奏の熱がしっかりあって、みんなが納得するポイントがなにかどこかにあったんですよね。
――「これ、キタ!」とか「あ、なんか見えた!」っていう感じではなかった?
全然そんな明確な感覚はなかったですね。でもそれが象徴的だったんじゃないかなと思います。どっちかっていうと、なんとなく痒いところに手が届いたっていう感覚……あぁ、ここ、ここ、ここ!みたいな。で最終的に、「ここだね!」というぐらいの感じですかね。
――そういうバンドの方向性を感覚に探っていく2年を経て、バンド内でできるようになったことってありましたか?
それこそ「アーティスト的な会話」かな。メンバーに会社員もいるので、比較的時間的なものがないんです。だから「なんか違うんだよなあ」というやり方ってやってこなかった。その何が違うんだっていうのを、じゃあ次までにハマケンはここをこうしてこうして仕上げてきてという感じでした。違う点を突き詰めることはできてましたけど、なんとなっくフワフワさせることができないっていうか、焦れったいやり方は、時間の制限上できないのが当たり前。曲を仕上げていって、ライブでやっていくうちに形になっていくのが普通でした。アルバムに収録する前になんとなくみんなの中で「肉化」―――バンドの中で「肉化」って言葉を使ってるんですけど、曲を「肉化」できることはやりたかったけどやってなかったんです。
――曲の骨があって、ニュアンスで肉をつけて行く作業で「肉化」!
そう(笑)。そういうことがメンバー内でできるようになってきましたね。
――それができるようになったのは、レーベルの移籍も理由にありますか?
それはありますね。すごく素晴らしいレーベルだと思いますし、今言えるのは単純に時間をもらえて、「とことん突き詰めて音楽を楽しめるまでになってください」と言われて、その言葉が響いちゃうポイントが確かにあったんですよね。それと新しい試みとしては、カクバリズムに移籍したことで接点が増えて、サイトウ“JxJx”ジュンさん(YOUR SONG IS GOOD)に入ってもらって共作で1曲作ったんです。その「なみ」がめちゃくちゃスローな曲で、今までの在日ファンクにはそういう曲がなかったんですよ。今までは僕の司令として「スピード感重視!」みたいなことを言っていたので、レコーディングでみんなの熱がこもっているテイクをすくい上げると、スピード感とか疾走感のあるものが多くなってたんです。でも「なみ」はスローテンポで、バンドとしてそういう曲もできるようにしたんです。
――それこそ「新しい在日ファンク」ですよね。
うん。最近流行ってると言われているファンクとかジャズファンクとかは、みんなかなりちゃんとその要素をすくい取って粘っこくやってるんですよね。それも若い人たちが。そこは俺たちもしっかりとやらないとさすがに……バレるなって思いもありましたし。
――でもこれまでスピード感重視の曲をよしとしてきたのは、ファンクをやってきたアーティストとしては真っ当とも言えると思うんですけど……。
うー……あー、そうですねえ……。でもたまに僕らのことを「高速ファンク」って書かれたりすることがあって、それを見ると寒々しい気持ちになるんですよね。なんかこう、それぞれの拍の間に感情だったり人生観みたいなものが詰まってるはずだし、詰められるはずだし!みんな音楽愛してるし、ブラックミュージック好きだし!と。ジェームス・ブラウンは、そういうのが滲みてている上で、どんどん詰まって詰まって、結果的にそれがスピード感になってると思うんです。心臓の鼓動だけがどんどん早くなっていくんじゃなくて、こう、ゆったり始まってこれも詰め込めるこれも詰め込める詰め込める詰め込めるギュギュギューとなっていって、ものすごい細かいことになっているというのが、JBのビート感。もうそろそろ俺らの研究としてもそっち行った方がいいんじゃないかというメールを、メンバーに送ったんです。
――それはアルバム制作に取り掛かる前に?
いや、中盤に差し掛かった頃ですかね。
――それこそアルバムはどんな風に制作が始まったんですか?
何も話し合いはしないで、角張さん(カクバリズムオーナー)の言ってくれた言葉から始まったっていう感じですね。僕らが音楽を楽しむというのは、今敢えてどういうことなんだろうということをずっと考えて、作り始めて中盤で「こういうことかあ!」とわかった時に、長文のメールをメンバー全員に送りました。
――ちなみにどんなことを書いたか覚えてますか?
リスナーの部分というか、演奏している自分ではなく演奏を聞いている自分をもっと研ぎ澄まさないと……みたいな。つまり、セックスが能動的なのが男性で受動的なのが女性ってちょっと乱暴に分けるとしたら、在日ファンクにはちょっと女性の部分が足りないんじゃないかっていう。今は「オス」って感じ?どうだ!どうですか?どうですか?みたいなのばっかりで、早漏っぽいっていうかね(笑)。
――女性性が足りないぞ!と。
そうそう! もっと受動的な部分を研ぎ澄まさないと、セックスマシーンできないよと。セックスマシーンをすることでグルーヴとか動きがループして、ピストン運動がループして、で、「あ、この曲はずっとやってられるなという感覚に陥るというか、その感覚にさいなまれるべきだ」と書きました。ずっと演奏していられるビートっていうのがテーマだと思ったんです。それがテーマだとしたら、やっぱり受けの部分を研ぎ澄ませて、自分たちが作ったビートを感じて、それをまた戻して……ってしないと、永遠のグルーヴが成り立たないんじゃないかっていうことにアルバムを作っている中盤あたりで気がついたんですよね。
――メンバーへのメール以降、何か変わりました?
なんか、変わったかなあ?(笑)。「なみ」とかが出来上がったのはその後かな? ゆったり進むようなミドルテンポやスローテンポの曲はそのメールのあとにできるようになったし、やる意義が出てきたというか。それが自分たちにバチっとハマったのかな。一番早い曲で「葛藤&ファンク」って曲があるんですけど、これも必要以上に前のめりになっちゃうと疾走感がなくなるんです。グルーヴ感がなくなっちゃう。だから、どう永遠の……どうやって「ずっとな感じ」のグルーヴをやるかという観点になってる感じですね。多分永遠にできないっていうのはどこかで冷めちゃってるし、「いつ終わんのかな」と思って走ってるってこともあると思うんですよね。
――受けの部分を作ろうっていうのは、ひとつのバンドを10年やってきたからこそ見えたものかもしれないですよね。
そうですね。でも10年っていうのは、ちょっと時間かかりすぎだなあって思いますけど。もっと早く気づいてもよかったんじゃないかなあ。でも自分たちのペースがありますから。その気づきがあっても、「飽和」は仕上がるまで苦労しましたね。最初この曲が降りてきた時は「勝った! 俺らもSuchmosぐらいになれる!」みたいな感じになったんですよ。でもやってるうちに、なんか今までにあったよねという在日ファンクの感じになってきちゃって。長くやってきたからこそ勝手に基本の部分に引き戻されちゃうんですよね。だから曲ができた時の初期衝動みたいなものをメンバーには説明して、ニュアンスも覚えてもらったけど、どこか難しくて。どうしてももう一歩向こう側に行きたい!と考えた時に、その結果がゲストボーカルを入れることでした。
――そういう経緯だったんですね!
そうそう、すがるような思いでマコイチ(高橋マコイチ・思い出野郎Aチーム)くんにお願いしたんです。僕らだけでやると素が出てるのかもしれないんだけど、なんか根暗な感じなんですよね。だからこそパーティーピーポーな感じのゲストボーカルがいいなと思ったんです。スコーンとダンスホールに連れてってくれる人で、いい意味で遊び人がいいなと。そこでマコイチくんがいいなと。
――いい意味の遊び人(笑)。高橋さんには何かリクエストは伝えたんですか?
思い出野郎Aチームをおすそ分けしてもらいたいという感じだけ伝えました。ゲストボーカルを迎えたことで、なんとなくメンバーが解放されてる感はありましたね。普段、僕が弾圧している節があったみたいなんですよね、これダメあれダメって(笑)。ゲストを呼ぶと僕は接待に回るので、少なからずみんな解放感があるっていう。本来のメンバーを垣間見たのかな。今回のおかげで、軽やかにゲストを迎え入れる土壌はできた感じがしますね。
――そもそも先に「足元」が7インチとしてリリースされて、すごく決意表明的な曲だったので、これが収録されるならアルバムタイトルは「足元」になるのかと思っていました。
アルバムの制作に2年ちょっとかけたということもあって、他の新曲も完成してからかなり時間が経っていて、「足元」よりももっと進んだ結論を出せた方がいいのかなと思ったんです。今の在日ファンクを示すような。個人的にはこのレーベル移籍で、なんとなく「やっと再会できたな」という気持ちはあるし。でも実はカクバリズムに戻ってきた(SAKEROCK活動時に在籍)というのは僕だけなんですよね。でも実はメンバーもそういう感覚を共有してくれていたんです。ありがたいことに。「それはお前の事情だろ」という感覚でもなくて、再会という感覚をわかってくれていました。でもアルバムタイトルに関しては、最後まで「もうちょい別がいいかなあ」とかなってたんですけど、メンバー全員納得したタイトルが「再会」だったんですよね。どこまで個人的な流れ的なものをバンド全体の物語に置くかっていうのは難しい塩梅なんですけど、みんなが思いを共有してくれていたので、「再会」が満場一致だったのかな。それはやっぱり長い時間をかけていろんなものを共有したことの賜物だったりするのかなと思いますね。
――1曲目の「サチタイム」では、ネットでの検索について歌われていますけど、発売後はアルバムの評判とかエゴサーチしてますか?
いやー、思いっきりしてますねえ!バンド名で検索してます。
――目にする反応はどんな感じですか?
でも目にする感想は、みんな味わって聞いてくれてるという感じで嬉しいです。今までで一番いいって言ってくれている人が結構いるんです。それはずっと望んでいたことで、浅くいろんな人の耳に入るのもすごくいいことだけど、変に浅く入るよりは買ってくれたり耳にしてくれた人が、広がりを持って聞いてくれていたり、いろんな解釈をして聞いてくれていたり、濃く深く聞いてくれているという感じがするんですよ。今回はブックレットもちょっと凝ったことをしたんです。今までブックレットってなんであるのかなぐらいに思ってたけど、「今回はこうしたい!」というのがあって。
――「こうしたい」というと?
絵本じゃないですけど、詩集みたいにしたいっていう思いがあって、だから歌詞を縦書きにしたりとかですかね。
――そもそもCDのブックレットって左開きがスタンダードですよね。
そうですそうです。歌詞を縦書きにしたんで、右開きのブックレットにしたんですよ。それに反応してくれる人がいると単純に嬉しいです。最近は歌詞見ない人も多いじゃないですか。実は前にブックレットに載ってる歌詞が途中で切れちゃってて、歌詞の後半がほぼ載ってないみたいな曲があったんです。ちゃんと歌詞のWordのデータが届いていなくて、印刷できなかったというミスだったんですよ。それに気づけばよかったんですけど、そのまま発売しちゃったんです。でもその時、お客さんも誰も気づかなかったんですよね……。それがすごく悲しくて。たとえ誰も見てくれてなくても、こっちがちゃんと愛でる気持ちで作らないと! 作品の一部だし! という風に思いまして。それならちゃんと読み物にしたいなと思ったんです。
――個人的には「或いは」の歌詞をじっくりと読んで、涙出そうになりました。
ホントですか? 嬉しいなあ。
――歌詞を耳で聞いてハッとして歌詞をじっくり読んでみてジワーッと、わぁ、夫婦ってこういうことかも!みたいな感じで、思わず。ブックレット、すごく効果的でした。
わはははは! いいですねぇ。
――最後に質問させてください。今回のアルバムタイトルになぞらえて、今再会したい人やモノ、コトはありますか?
僕、すごい薄情で、今仕事してる人とか今やりとりしてる人とばっかりになっちゃうところがあるんです。昔のクラスメートとかは「あいつ忙しいんだろ」と甘やかしてくれるから、そこに逃げちゃったりとか。実はすごくお世話になった奄美大島の人がいるんですけど、なかなか自分から連絡することをしないまま、僕は甘えてたんだなということに最近気づかされまして。在日ファンクを奄美に呼んでくれたりした大切な人なので、近々会いに行こうと思ってます。再会しに。このアルバムを届けに。

取材・文=桃井麻依子

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