SPICE音楽担当が選ぶ「2018年のうち
に聴いておきたい、今年世に出た名曲
」7選

RADWIMPSの新アルバム『ANTI ANTI GENERATION』に収録されている「PAPARAZZI~*この物語はフィクションです~」という曲に、<『君の名は。』の大ヒットが起こるとすかさず出てくるゲスなやつ/ポッと出で出てきたわけじゃねえ>という痛烈な一節がある。言うまでもなく、社会現象となった同映画をきっかけに世間の注目や評価が一変したことを受け、そこに嬉々として飛びついて面白おかしく書き立てようとする輩を揶揄する内容なのだが、たしかにあのときは違和感を感じた。「え、RADWIMPSって元から人気じゃん」と。
前述の歌詞の続きにもあるように、RADWIMPSはツアーをすればアリーナ会場が当たり前だから、動員面はバンド・シーンではかなり上の方。盤も売れるし、MVの再生回数だって軒並み伸びている。なのに“世間”では「苦節10年のバンドが『君の名は。』でブレイク」となる。何故か。
それは、そもそも“世間”という定義とその物差しがとにかく不明瞭になっている所為だと思う。趣味も興味もどんどん細分化され、音楽リスナーの中でさえも聴くジャンルが細分化されている昨今においては、音楽好きじゃなくても認知されるような曲、要するにブームの枠を超えて社会現象級になる楽曲は、どんどん生まれづらくなっている。ここ数年でいってもそれこそ『君の名は。』の「前前前世」とか、星野源「恋」とか、数えるほどだろう。
そもそも“世間”とは何処なのか。何処まで知られれば“世間に浸透”なのか。もっといえば“世間”なんてものは本当に存在するのか。
少なくとも、“世間”まで届いたら名曲!という時代ではもはやない。総アングラ化だ。好みを共有する仲間内やもっといえば個人の中といった、とてもドメスティックな環境下でそれぞれの名曲を見出していく、そういう流れがどんどん加速していっている。RADWIMPSの例に漏れず、アリーナ級の会場を即完売させているアーティストでさえ、ちょっとでも好むジャンルが違うだけで全く認知されていないというケースも多々ある。
それは同時にコアな層以外への届け方が難しい時代になっているということでもあって、優れた楽曲自体は毎週のように世に出ているのに、能動的に掘っていかない限りは新たな好みに出会えない。今の時代はCDが何百万枚も売れるわけではなく、TVのドラマや音楽番組が絶大な影響力を持つわけでもないから、ライブの動員は堅調だが、そもそもよほどハマらないとライブなんて行かないだろう。比較的いろんな層が訪れやすいフェスだって、行く人と行かない人がはっきり分かれる。
出会えば好きになるかもしれない人と出会いづらい環境、それは音楽家にとってもリスナーにとっても、もったいないことだよなぁということを、常々感じながらメディアに携わっているし、それは業界全体の課題でもあるだろう。
ということで。前置きが長くなってしまったが、今回はあえて“そこまでドップリ浸かっていない”音楽リスナーへ向けて「2018年のうちに聴いておきたい、今年世に出た名曲」を集めてみた。どっぷりいってしまっている方は既にチェック済みの曲も多いはずなので、その点はご容赦いただきたい。
で、個人が書いている以上、どうやっても評価基準が曖昧になるため、思い切って「個人的に再生プレイヤーで聴いた回数÷リリースされてからの月数」で指数を出し、それが高い曲がすなわち「ヘビロテした曲」であり「個人的名曲」である、という算出方法で選んでみた(記事形態上、MVの無い曲は除外)。……我ながら雑極まりないが、そのぶんめちゃめちゃ趣味が反映されている。あくまで「SPICEの人はこういう曲が好みなんだな」くらいで見てもらえたら。そしてもし、その中に見落としていた“あなたの名曲”があれば幸いだ。

あいみょん「マリーゴールド」

これはダントツでよく聴いていた。一聴して「今っぽいな」とわかりやすく感じさせるイントロかと思いきや、90’ sエッセンスだだ漏れの音色のギターが入ってきて、そこでもうヤられる。ポップな名前と裏腹に落ち着いてメロウな歌声もいい。シーン全体を見渡しても、去年から今年にかけての飛躍度合いでいえば出色の存在だろう。

米津玄師「TEENAGE RIOT」

冒頭の文で触れた“世間”というやつに、今年最も肉薄したのはこの人かもしれない。「Lemon」のYouTube再生回数は驚異の2億回超え。といっても、筆者がもっと聴き倒したのは、その後リリースされた両A面シングルに入っているこの曲だった。学生時代に作った曲が下敷きとなっているだけあって、ボカロP・ハチ時代や現名義初期に顕著な捻れたメロディセンスに加え、ひたすらクールな音像で疾走するロック・ナンバー。

きのこ帝国「夢みる頃を過ぎても」

当初は轟音やストイックな姿勢の向こう側にチラリと見えていたメロディセンスの高さが前面に出てきたこと、ボーカル・佐藤千亜妃の歌唱表現の深化ぶりに目を見張った最新アルバム『タイム・ラプス』のラストを曲。歌から始まる冒頭のサビで引き込み、Aメロでは青春期と大人の狭間を的確に描く。まるで短編映画のような、メンバーの一切登場しないMVも素晴らしい。

ストレイテナー「タイムリープ」

両A面でリリースされたシングルの2曲目という位置付けだが、個人的にはこちらを推したい。デッドな質感や少ない音数で隙間を生かしたグルーヴ感といった昨今のトレンドを、ストレイテナー流に消化するとこうなるよな、という納得感。同時にそれをきちんと適度なオルタナ感とともにポップソングとして成立できるセンスの良さ。ちなみに、本稿のテーマとは若干ずれるが、この曲はライブでさらに輝く。

ぶっ飛んだ。「ファイティングマン」や「ガストロンジャー」のようにパンキッシュな爆発力を持つ曲はこれまでもたくさん生んできた。が、齢50を超えてなお、というか過去最大級のビッグバン的ナンバーを世に出してくれるとは。息継ぎすら惜しむように<転んだらそのままで胸を張れ><グッドデイゆくぜ><俺は何度でも立ち上がるぜ>と矢継ぎ早に投げかける宮本節には、正直ガッツポーズを禁じ得ない。
PELICAN FANCLUB「ハイネ」

若手とされるアーティストの中ではこの曲が筆頭だった。今年メジャーデビューを果たしたシンプルな3ピース編成のバンドで、2000年以降のギターロックの旨味を凝縮したような音を鳴らすが、MVからもわかるようにとにかく歪。歪なものに美と粋を見出すセンスを持ち、それを真っ向から音にしてくれる。2018年のメジャー・シーンにおいて独自ともいえる立ち位置で、確かな存在感を放っている。
GRAPEVINE「Alright」

これ、今回の趣旨とはちょっとズレている。何しろまだリリースされていないのだ(2019年2月リリースのアルバムに収録)。ただ、先行公開されたMVの公開日からの日数と、それ以降リピートで聴き続けているため、指数はめちゃくちゃ高い。よって番外編的にセレクトした。渋いけど決して枯れないロックンロール、漂うファンクネス。これぞGRAPEVINE、とにかくかっこいい。

いかがだっただろうか。繰り返しになるが、あくまで私的なセレクトと理由で選んだ7曲。これを書きながらいずれもリピート再生してみたが、「やっぱりいいなぁ」という感慨とともに、観たライブやおこなった取材、出向いた場所などなど、今年をプレイバックする感覚も味わえた。間違いなく、思い出と音楽はリンクする。
それでは、2019年もたくさんの名曲と出会えることを願いつつ。

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