Best Tracks Of 2018 / Takato Ishi
kawa キュレーター、Takato Ishikaw
aの2018年ベスト・トラック!

今年もブラック・ミュージックを中心とするメインストリームの作品を、数多く追いかけていた一年でした。年々増加していくリリース・ペースに大分挫けそうになりつつ、普段の生活の中で流れてきた印象的な作品たちをピックアップしてみました。


5. Young Gun Silver Fox / Kingston Boogie
2015年発表の前作『West End Coast』から引き続き、彼らは現代における最高峰のAORグループだと改めて思いました。Mamas Gunのフロントマン・Andy Plattsと、数々のソングライティングを手がけるShawn Leeの相性のよさは、まるでSteely Danのよう。昨年のCalvin Harrisの如く、彼らの最新作『AM Waves』のポイントは、80’s前後のAMラジオから流れてくる、日常のサウンド・トラック的な作品であるということ。中でも優れているところは、出自や性別などの様々なドグマを解放するような気持ちよさ、ただ身を委ねるだけでOKという間口の広さ、そして抜群のグッド・メロディにあると思いました。

4. Brandon Coleman / Giant Feelings (ft. Patrice Quinn & Techdizzle)
今年LAでAnderson .Paakが快楽的なファンクを打ち立てたそのすぐ近くで、新世代ジャズ・シーンのキーパーソンも壮大なファンク・オデッセイを描いていました。Kendrick LamarChildish Gambinoなどにも重用され、彼が所属している〈Brainfeeder〉周辺コミュニティには欠かせない鍵盤奏者、Brandon Coleman。前作から大きくスケールアップさせた最新作『Resistance』で果たしているのは、まさにファンクの「新興」。レイドバックさせたリズム・エッセンスから「We Will Rock You」のあのリズムを彷彿させ、屈指のジャズ集団・WCGD(ウェスト・コースト・ゲット・ダウン)とともに、LAシーンを称える荘厳なトライバル・ミュージックのような印象を抱きました。

3. Sen Morimoto / People Watching
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今年の文化的インパクトという意味で、オリジナリティのあるクロスオーバー・ジャズを体現してると思ったのが、Sen Morimotoでした。マサチューセッツ州で、Charles Neville(The Neville Brothers)からレッスンを受け、シカゴのコミュニティで切磋琢磨しているアジア人という特異な立ち位置にいる彼。決してサウンドを過圧縮させることなく、絶妙な音数によるスキマの気持ちよさを突き詰めた今作は、ジャズとラップの新たな中間地点を生み出していると思いました。そして、今年のベストのなかで唯一ライブを観ることができた体験から、コンポーザーもしくはプロデューサーとして、2019年以降の様々なコラボ・ワークにも勝手に期待してしまうミュージシャンでもあります。

2. PJ Morton feat. Yebba / How Deep Is Your Love
■ 関連記事:PJ Morton feat. Yebba / How Deep Is Your Love (Bee Gees cover)(https://spincoaster.com/pj-morton-feat-yebba-how-deep-is-your-love-bee-gees-cover)

NYにある名門レコーディング・スタジオ「Power Station」で一発録りされた、今年ナンバー・ワンのライブ・アルバム。今作はD’Angelo And The Vanguard『Black Messiah』でもエンジニアを務めたBen Kaneがレコーディングを担当したせいか、とにかく音がいい。なかでこのBee Geesカバーは、エレクトロニックなサウンドひしめくメインストリームとは反する、徹底したアンプラグド・サウンドが個人的にとても響いた作品でもありました。加えて、前作に引き続き今回のライブ盤でもグラミー賞にノミネートされていることから、R&B/ソウルなどを中心とするオーセンティック回帰の兆しが、ここでも見え隠れしているのではと思いました。

1. Joey Dosik / Inside Voice
■ 関連記事:Joey Dosik / Inside Voice(https://spincoaster.com/joey-dosik-inside-voice)

Joey Dosikの記念すべきデビュー・アルバムという側面もありながら、Mockyを中心とするLAコミュニティがいかに気持ちいい音を鳴らしているのかを実感した一枚でもありました。今作に参加しているMocky、Moses Sumney、Miguel Atwood-Fergusonといったシーンのキー・パーソンたちは、Mockyが主催するダウンタウンのホテル最上階で行われるというセッション・イベント“ACE JAM”に参加している仲間たち。そのコミュニティで鳴らされているレトロ・ソウルの最も優れた果実こそ、この楽曲なのではないかと。尊敬するCarole Kingのように、本来ならピアノ一本でもしっかり成立できるほどのメロディの純度。それでいて、70’sモータウン時代の金脈を新しい音で遺したマイルストーンは、後のクラシックになり得るのでは、と思いました。

Comment
今年のシーンを振り返ると、「Drake無双」「女性アーティストの席巻」「ラップ・ミュージックの隆盛」「商業的評価と批評的評価の不一致」「多くのスターたちの死」などといったコメントで総括されている中、それらをあまり実感できない今回のラインナップに我ながら震えました。どこか現実逃避をさせてくれる作品が好きなのかもしれません。来年もこのまま好きなものを追いつつ、東南アジアのシーンや、さらなるインパクトの大きいリリースを期待していきたいです。

番外編マイ・ベスト

「ベスト・アトロク特集」

『世界のレコードの探し方~ちょっぴりディープなタイのレコード掘り事情~(10月24日放送回)』(https://www.tbsradio.jp/306852)

もはや曲を聴いてるよりラジオが生活の中心という1年だったんですが、今年始まった『アフター6ジャンクション』もそんな毎日の楽しみのひとつでした。中でも、タイ・イサーン地方の足をつかった調査報告が、現地の詳しい音楽事情も含めて、わらしべ長者のようなエピソードばかりでとてもおもしろかったです。最先端の音源を掘り続けた末、ラッパーの自宅に上がってハードディスクをディグるという斜め上の姿勢は、いちキュレーターとしてどこか見習いたいところでもありました。

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