Saucy Dog『ワンダフルツアー2018』
ファイナルにみた、変わり続け進み続
けるバンドの現在地

ワンダフルツアー2018 2018.12.14 マイナビBLITZ赤坂
「『救われました』っていう言葉にまた僕も救われてて。俺たち3人だけだったら、赤坂BLITZソールドまで辿り着けなかったと思う。改めて言わせてください。ありがとう」
対バン編15公演+ワンマン編10公演から成るSaucy Dogの全国ツアー『ワンダフルツアー2018』。そのツアーファイナル、マイナビBLITZ赤坂のステージ上で、石原慎也(Vo/Gt)はオーディエンスやスタッフへ繰り返し感謝を伝え、音楽で恩返しをしたいと語っていた。その恩返しとは、いったいどのようなものなのだろうか? 以下のテキストでは、先日お伝えしたワンマン編初日公演の模様との比較を交えながら、この1ヶ月強でバンドがどう変わっていったのか、という話をしていこうと思う。
Saucy Dog 撮影=白石達也
定刻になると、石原、秋澤和貴(Ba)、せとゆいか(Dr/Cho)がステージに登場。ドラムセット周辺に集まり拳を合わせてからそれぞれの定位置にスタンバイ。「Saucy Dog、始めます!ツアーファイナル、赤坂、よろしくねー!」という石原の挨拶とともに始まったのは、最新作『サラダデイズ』の1曲目でもある「真昼の月」だ。初日に比べて三位一体感が増し、転がる塊のようになっているバンドサウンド。月さながらに自転するミラーボールの下、メンバーがカウントを取る生の声が時々こちらにまで聞こえてくる。大きく足を開いて重心低めの姿勢で弾く秋澤と、彼と呼吸を合わせつつ満面の笑顔をフロアに向けるせと。「ジオラマ!」「ナイトクロージング!」と勢いよくタイトルコールしていく石原の声には気合いが滲んでいた。
Saucy Dog 撮影=白石達也
冒頭3曲を終えると、ジャーンと音を合わせ、「Saucy Dogワンマンライブ、始めます!」(石原)と改めて宣言。走り出しには初日を上回る爽快さがあるが、せと曰く、「めっちゃ緊張しとるやんけって思ってるやろ? まさにっていう感じなんですけど」「緊張しないような強いバンドにはなれませんでしたが、緊張も含めて全部楽しもうと思えるふうに成長して帰ってきました」とのことだ。そういうふうに良い意味での開き直りに成功したこと、精神的なゆとりが生まれたことが、バンドの演奏にも影響を及ぼしていたよう。
Saucy Dog 撮影=白石達也
「あとの話」は場面ごとに色の変わるようなアンサンブルがとても鮮やか。リタルダンド(※テンポを次第に落としていく奏法)多数の「曇りのち」は、“演奏が再開するかと思いきやなかなか再開しない”という初日にはなかった遊びの演出を取り入れた構成に。石原の弾き語りで始まる「マザーロード」「コンタクトケース」では、オーディエンスが息を呑んでステージを見つめていた。さらにアコースティックセットにも挑戦。石原=ボーカル&アコースティックギター、秋澤=エレキギター、せと=キーボードという編成で「へっぽこまん」「世界の果て」を演奏した。『サラダデイズ』のシークレットトラック(※CDのみに収録)である「へっぽこまん」は、作詞作曲をしたせと自身がボーカルを担当。彼女の繊細な歌声は歌詞の切なさを助長させるようで味わい深かったし、続く「世界の果て」での石原ボーカル、地声と裏声を切り替えながら抑揚を生む表現にも引き込まれた。
Saucy Dog 撮影=白石達也
通常のバンドセットに戻り、セットリストは後半へ。刻みつけるようなイントロのなか、「俺たちバンドマンの歌を!」と石原が叫んでから始まった「メトロノウム」はかつてなく情熱が剥き出しになっていた。<僕らは/旅をする 迷いながら/戸惑いながらも進む>。ツアーという旅を経て彼らは、自身の書いたこのフレーズの意味を深く噛み締めることになったのではないだろうか。その“マイナスをプラスに変えていく力”みたいなものが今回のツアーのテーマになっていたように思う。そういう意味で、MCで今年一番の思い出に“リハーサル中、石原と秋澤がケンカをしたこと”を挙げていたのも象徴的だったし、終盤に披露された新曲もかなり興味深かった。
Saucy Dog 撮影=白石達也
振り返れば、初日公演は全体的にアットホームなテンションだった。バンドは“ここにいる誰もが緊張しない空間”作りを目指していて、その”誰もが”にはメンバー自身のことも含まれていた。ライブハウスの外ではつらいことがあったとしても何とか踏ん張らなければならないのだから、今ここでは、温かな空気の中で笑い合えたらいい。そういう想いがあったんじゃないかと私は受け取った。
Saucy Dog 撮影=白石達也
一方、ツアーファイナルは少し違っていた。初日と似た種類の穏やかさもありつつ、どこか腹を括ったような感じもあったのだ。それは本編ラストに「グッバイ」を演奏する前、石原がオーディエンスへ伝えた「みんなの明日が今日よりもいい日になりますように。最後にそう歌って帰ります」という言葉にも表れていたように思う。ツアーは楽しいだけじゃない。バンドは喜びだけじゃない。人生は上り坂だけじゃない。そんななか、自分たちは何を背負い、聴き手にどんな明日を見せるべきなのか。その先にあるものが彼らの言う“恩返し”なのかもしれない。
Saucy Dog 撮影=白石達也
地面を強く踏み鳴らし、3人がこの日最後に届けたのは、Saucy Dogのはじまりの曲「いつか」だった。今回、ツアーの初日とファイナルを観て一番驚いたのは、わずかな期間でバンドはこんなに変わることができるのか、ということ。そしてだからこそ、ツアーってとっても面白いのだ。きっと3人は全国を巡りながら、自分たちの核になるべきものを探し続けていたのだろう。だから、初日のあれが正解だとか、ファイナルのこれが正解だとか、そういうことを言うつもりはない。今回3人が全国を巡りながら一つひとつを確かめていったのと同じように、これからの彼らの答えは、これからの彼らが見つけ出すものであるはずだ。
Saucy Dog 撮影=白石達也
『カントリーロード』で全国デビューしてからまだ1年半。常に過渡期、まさに成長期な彼らはこれからも変化を重ねていくはず。来る4月、自身最大キャパの会場=大阪城野外音楽堂のステージに立ったそのとき、彼らはいったいどんな姿を見せてくれるのだろうか。それを楽しみにしていたい。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=白石達也
Saucy Dog 撮影=白石達也

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