【レポート】新山詩織、活動休止前最
後のライブで「大好きな音楽は私の中
でずっと鳴り続けていきます」

アーティストデビュー6周年の記念日となる12月12日、新山詩織が2月以来となるワンマンライブ<LIVE OF PAUSE 20181212 〜my place & your place〜>を渋谷WWWで開催した。同ライブハウスは2012年6月、当時高校2年生だった彼女が<Treasure Hunt 〜ビーイングオーディション2012〜>で優勝、アーティストへの道を掴んだ会場だ。特別な日に、特別な場所で、特別な存在であるファンに囲まれながら、活動休止前最後のライブが行われた。
デビュー時の新山は“ギター女子”ブームを牽引するひとりとして注目を浴びたほか、サウンドプロデュースを務めた笹路正徳から「音楽が天職の人」と評されるなど折り紙付き。ありのままの言葉でストレートに心情を描く歌は、10代や20代を中心に多くの共感を生んだ。2018年1月には初ベスト盤『しおりごと –BEST-』をリリース、2月には東名阪でメジャーデビュー5周年を祝うワンマンを開催。大きく成長したステージングに今後の飛躍が期待されていた。

しかし、10月20日に突如音楽活動の休止を宣言。「アーティスト活動とは異なる新たな夢に向かってチャレンジしたい」という本人の想いは、未来について悩み抜いた結果だ。今回のライブは活動休止宣言と同時発表されたもので、チケットは即SOLD OUT。ライブ当日は寒空のもと、多くのファンが早い時間から会場周辺に集っていた。会場内に入ると、ステージにはFenderとTaylorのアコギ、ギブソンのES-335が並べられている。この夜は、新山による弾き語りライブだ。
定刻の19時をまわりBGMがゆっくりフェイドアウトすると、下手から真っ白なレースのロングワンピースを纏った新山が姿を現した。お馴染みのミディアムボブをバッサリとショートカットにして、パールのピアスを付けた彼女は息を呑むほど麗しく、ぐっと大人びて見えた。

盛大な拍手の中、愛用するFender製のアコースティックギターを手に取り、客席に真っすぐ視線を移すと1曲目「Looking to the sky」へ。1stアルバム『しおり』のオープニングナンバーである同曲は、FM NACK5のレギュラーラジオ番組のタイトルにもなっていた思い入れのあるナンバーだ。太く無骨なアコギの音色に乗せて、生々しい歌声がフロアに響いていく。続いては、学生生活を終えた後、喪失感に苛まれる状況から抜け出すきっかけとなった「絶対」。これまでこの曲は、自分を鼓舞するかのように感情露わに歌う様子が印象的だったが、この夜はまるで何かを悟ったかのようにとても穏やかに歌う姿に驚かされた。

「皆さんこんばんは。とてもお久しぶりになってしまいましたが、今日は集まって頂きありがとうございます。10月に活動休止を発表させて頂きましたが、今日は私にとっても皆さんにとってもきっと特別な日になるかと思います。でも、とにかく今まで通り1曲1曲大切に皆さんに届けて、最後まで楽しい時間に出来たらと思っているのでよろしくお願いします」──新山詩織

いつもと変わらない素朴な笑顔を見せた後、「良かったら手拍子しちゃってください!」と煽って、弾き語りでは久しぶりとなる「「大丈夫」だって」をTaylorのアコギによる軽快なストロークに乗せて。客席との距離をより一層近づけた後は、「たんぽぽ」「シャボン玉みたいに」「分かってるよ」と3曲続けて披露した。

「次の曲は、内にあるどうしようもない感情を誰かに伝えたい……そんな想いを初めて表に出せた曲でした。本当の気持ちを伝えたいと思っても難しくて、でも勇気を出した時に、それまで見たことのなかった世界が開けていき、そのおかげで今ここに立って歌えていると思うし、衝動的だったとしてもこの曲が私の中から生まれてきてくれて良かったと心から思っています。当時はリビングで一人ポツンと誰も居ない隙を狙って書いてたんですけど(笑)、今日は歌声だけで皆さんに届けます! じっくり耳を傾けて頂けたら嬉しいです!!」──新山詩織

そうして6年前の今日、アーティストデビューを飾った曲「だからさ」をエモーショナルにアカペラで届けた。引き続きハイチェアに座ったまま、スローナンバー「きらきら」「Hello」が静かにエレキギターをつま弾きながら披露される。ファルセットを織り交ぜた優しくノスタルジックな歌声に身を委ねていると、6年間の活動が走馬灯のように次から次へと浮かび上がってきた。また、「Hello」のエンディングでは会場一体となるシンガロングに、温かく濃密な時間が刻まれていった。
中盤はカバーを2曲。まずはデビュー前の路上の弾き語りや、初ワンマンツアーでも歌ったキャロル・キングの「I Feel The Earth Move」だ。続いて、6年前のオーディションの最終審査で「だからさ」と並んで歌った椎名林檎の「丸の内サディスティック」といった自身のルーツミュージックを堂々と歌いきった。客席のハンドクラップに後押しされながら2ndシングル「Don’t Cry」をエネルギッシュに放ち、そして初出演のドラマで、その劇中歌として福山雅治がサウンドプロデュースを手掛けたバラード「恋の中」へ。さらにポエトリーな旋律に淡い恋心を綴ったミディアムチューン「四丁目の交差点」。全編弾き語り構成の中、サウンドに緩急をつけながら、自然と観客の心を躍動させていくパフォーマンスはさすがだ。

ライブはここまで、緊張や気負いを感じさせない、ある種いつも通りの和やかな雰囲気の中進められてきたが、次の「名前のない手紙」では胸に秘めた感情が湧き上がってきたのか、途中で歌えなくなってしまう場面もみられた。同曲はファンに向けて綴られたラブレターのようなナンバーなだけに込み上げるものを抑えきれなかったのだろう。それでもしばらく後ろを向いて涙を堪えた後、再び前を向き、最後まで歌いきった新山。客席からは惜しみない拍手と「ありがとう」の声が届けられた。

「急に寒くなりだして、みんな風邪ひいてないかなって心配だったんですけど、今日無事に会えて本当に良かったです。がむしゃらに6年間やってきつつも、みんなの支えがなければ今こうしてステージに立って歌えていなかったと思うので、本当に感謝しかなくて……。来年から新しい景色、いろんな挑戦をしたいと前向きに思うようになったのもみんなのおかげです。デビューした頃は下ばかり向いていて、MCだってこんなに喋っていなかったかもしれない(笑)。歳を重ねて成長してこれたのも、みんなの温かさと笑顔があったからだと改めて強く感じています。何より、皆さんも明日から苦難もあれば喜びもあり、いろんな日々が巡っていくと思うのですが、悔いのないように過ごしていって欲しいなと思います」──新山詩織

本編最後の曲は、約2年前の誕生日にリリースした7枚目のシングルより「もう、行かなくちゃ。」。20歳になる直前、映画の主題歌用に書き下ろした作品は、“様々な葛藤がある中、殻を破って新たに進んでいきたい”という自分自身の思いも投影させながら作られた。22歳の彼女の歌声や表情からは、自分自身が選んだ未来に対して、一切の迷いのない固い決意が感じられた。

自然と湧き上がったアンコールの波。しばらくしてステージに戻ってきた新山は、冒頭アカペラで歌い出す「ありがとう」を、どこか憂いを帯びながらも真っすぐ芯の強さを宿した歌声で届け、改めて感謝の想いを表した。

「今日は真っさらな気持ちでみんなの前で歌えて、本当に良かったです。最後はもちろん、もう分かってると思いますが、この曲で締めたいと思います。みんな大合唱しちゃっていいので、一緒に歌ってください!」──新山詩織

晴れやかにそう告げると、メジャーデビュー曲「ゆれるユレル」を笑顔で歌い、およそ2時間にわたるライブは感動に包まれながら幕を閉じた。そして演奏後はアーティスト然とした佇まいで颯爽とステージを後にした新山だったが、鳴り止まない拍手に応え再び登壇。達成感に満ちた、そんな清々しさを漂わせていたが、「ずっと応援しているよ!」などの声援が飛んだり、必死に拍手を贈るファンの姿を目にして、とうとう耐えきれず背中を向けて涙を拭った。

「絶対泣かない予定だったのに、すみません(笑)。どんな形であれ、これからも大好きな音楽は私の中でずっと鳴り続けていきます。みんなもそれぞれ自分の道を悔いのないよう歩んでいってください。“一緒に、がんばろう!!”」──新山詩織

最後は彼女らしい飾らないMCで締めくくり、ハートウォームなエンディングを迎えた。自分の居るべき場所を探し続け、もがき続けてきた新山詩織。そんな彼女の音楽や存在が、今では多くのファンの心の中に住み着いていることを、改めて確信出来た。これからも彼女の音楽への情熱は何ら変わらず続いていくことを指し示す素晴らしいライブだった。

撮影◎達川範一

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