Helsinki Lambda Clubが『Tourist』
リリースパーティでみせた“あるがま
まの姿”

『Tourist』発売記念スペシャルパーティー“物見遊山” 2019.12.9 青山月見ル君想フ
結成5周年を迎えたHelsinki Lambda Clubが“セカンド”ミニアルバム『Tourist』を発売。新作リリースツアーは年明けからスタートするのだけれど、そんなの待ってらんないとばかりに12月9日、青山月見ル君想フでリリースパーティ『物見遊山』を開催した。
DSPS 撮影=マスダレンゾ
最初に登場したのはDSPS。新作タイトル“Tourist=ツーリスト=旅行者”にちなみ、“旅行=異国感=ボーダーレス”なパーティにしたくてゲストに迎えたという、台湾の4人組インディポップバンドだ。浮遊するメロディはまるで時間という概念を吸い込んでいくかのよう。透明感のある女性ヴォーカルと柔らかなフォークギターの音色が、繊細で力強いリズムと合わさり、フロアを非現実的な世界へと変えていく。終わってほしくない夢を見ていた感覚だった。事前に用意したメモを手に日本語のメッセージを一生懸命読む姿も含めて、とてもチャーミングなメンバー。観衆に温かく見守られながら、デビューアルバム『時間の産物』収録曲を中心にした7曲を披露。最後は疾走感のあるドリームポップソング「Unconscious」で爽快に締めくくった。
DSPS 撮影=マスダレンゾ
Galaxie 500のBGMがGIRLの「Lust for Life」に切り替わると、主役のHelsinki Lambda Clubが姿を見せる。1曲目が「しゃれこうべ しゃれこうべ」なのは少し意外だったけれど、この曲の奇妙なしっとり感と舞台背面に映る幻想的な満月がこれほど絶妙にマッチするとは。会場全体が異空間に包まれ、早くもフロアを興奮させた。
Helsinki Lambda Club 撮影=マスダレンゾ
2曲目の「lipstick」から新作収録曲の「マリーのドレス」へ。シンセの音から始まるこの曲は、ニューウェイヴへ接近したサウンドや言葉と音あそびの妙が光る、Helsinki Lambda Clubの最新形ポップナンバー。初めて耳にした時には別バンドと間違えてしまったくらいなのに、瞬く間に違和感なく聴かせてしまうのがこのバンドの凄さだ。「死ね死ね死ね!」のシンガロングで一気に拳があがった「ユアンと踊れ」「King Of The White Chip」へと続き、新作の軸になったという「引っ越し」が披露される。ケセラセラと生きようとする歌がゆったり場内に広がっていく。橋本薫(Vo/Gt)と熊谷太起(Gt/Cho)が向かい合い、ユニゾンでギターソロを奏でる。それだけでとてもドラマチックだった。
Helsinki Lambda Club 撮影=マスダレンゾ
序盤6曲だけでこのめくるめく展開。だけど、彼らの万華鏡のようにくるくる変化していくセットはここから深みを増す。「オンヴォーカル稲葉航大っ!」の紹介で始まったのは、曲として「引っ越し」とリンクする「ロックンロール・ブランクスター」。新作の中でひと際インパクトの強かった低音ヴォーカル。橋本と掛け合いをしていた声の主が稲葉航大(Ba/Vo)だったことを、この時初めて知って驚いた。彼の歌う“ハイディハイディホー”が何を意味するのかはわからないけれど、「これでいいのだ」の哲学と世間に対するアンチを、おどけながらもぶっきらぼうに歌う。<俺は自由なゴミ>と荒ぶる一方で、<Baby,do it,go>と繰り返すところに胸が熱くなる。新作の中でも異彩を放っていた、ファンキーなパーティソング「PIZZASHAKE」になると、場内の空気がパッと解放されていく。続けざまに演奏された「Lost in the Supermarket」「Boys Will Be Boys」では “やりたいようにやってやる”というパンクなパワーに満ち満ちていて、改めて心の中で拳を握ったのだった。
Helsinki Lambda Club 撮影=マスダレンゾ
Helsinki Lambda Club版ブルース「シンセミア」、ステージに輝くあの満月のせいか、この夜は不思議と清志郎の「多摩蘭坂」と重なり余計に泣いた「目と目」。終盤はそんな流れからの「NEON SISITER」で、緩やかに終了した。寄せては返す波のような緩急が心地よかった本編。ミドルナンバー中心のライブ展開でつかんだ手応えは、“あるがままの姿”で作り上げた『Tourist』リリースあとなら、なおさらバンドとしての自信に繋がったに違いない。
Helsinki Lambda Club 撮影=マスダレンゾ
4人はその確かな自信をエネルギーに替え、アンコールでぶちまけた。新曲「何とかしなくちゃ」を挟む形で、タテノリのナンバー3曲を猛連打。フロアからはここぞとばかりに力の入った拳が上がり、あちこちから歓声が沸き起こった。この夜フィーリングありきで歌っていた橋本のシャウトもエッジが一層効いている。ロックのダイナミズムと楽しさを最大限に発揮し、全18曲をやりきった。スカッ。
Helsinki Lambda Club 撮影=マスダレンゾ
終演後、せっかく“旅”に来たのだからとイベント特製カクテルをオーダーし、DSPSの7インチも購入。お酒を飲みながらメンバーのいないステージの方を向いたら、橋本がライブで使用していたFender Mustangが目に入って、カート・コバーンの育った町アバディーンやシアトルを訪れた時のこと、90年代に観たスマパン来日公演のことが急に蘇り懐かしくなった。私の旅は、ほとんど音楽絡みだ。やっぱりロックは人に旅をさせるのだな。
Helsinki Lambda Club 撮影=マスダレンゾ
さあ、Helsinki Lambda Clubとの次の“旅”は年明けすぐ。じゃあ、またその時に!

文=坪内アユミ(www.gogovamp.com) 撮影=マスダレンゾ
Helsinki Lambda Club 撮影=マスダレンゾ

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