及川浩治が語る、ピアノ・リサイタル
『名曲の花束』~「花束はいろいろな
花の組み合わせ」

及川浩治が、好評を博した2018年に引き続き、2019年もピアノ・リサイタル『名曲の花束』を開催する。来年2月23日のサントリーホールでのリサイタルを控えた及川に話をきいた。
ーー「名曲の花束」というタイトルの意味するところを教えていただけますか?
僕が素敵だと思う名曲、いろいろなメディアから耳に入って来る名曲、そういうものを聴いてもらいたいと思っています。愛好家は自分で曲を選んでCDやコンサートで聴くことができますが、そういう人だけではなく、いろんな人に名曲を知ってもらいたいと思うし、知ってもらうことが僕の喜びでもあります。“花束”は、花、花、花ではなく、いろいろな花の組み合わせです。一輪の花が束になって全体になると一層素晴らしくなる。1曲1曲でも素晴らしいが全体としてひとつのものに聴こえる、そういうコンサートにしたいと思い、『名曲の花束』と名付けました。リストが始めたリサイタルの原点でもある、ピアノだけのガラ・コンサートのようなイメージです。
及川浩治
ーープログラムについて説明していただけますか?
僕は、子供の頃からクラシック音楽が大好きで、ピアニストだけでなく、声楽家や指揮者にもなりたかった。今回は、バッハの『幻想曲とフーガ』はオルガン曲で、エルガーの『愛のあいさつ』はピアノがオリジナルですが、ヴァイオリンとピアノの方が有名、リストの『愛の夢』は歌曲、ストラヴィンスキーの『ペトルーシュカ』はオーケストラ曲、というように、ピアノのオリジナル曲だけでなく、いろんなジャンルの曲を知ってもらいたいと思い、こういう選曲になりました。
僕は小さい頃からオーケストラ曲が好きで、指揮の真似をする子供でした。今も、ピアノを片手で弾くときに、空いている手を指揮しているかのように動かしてしまうのは、子供の頃の遊びからきているのかもしれませんね(笑)。
大阪のザ・シンフォニーホールでのリサイタルで、トークを交えたら、お客様から好評をいただきました。『ショパンの旅』というコンサート・ツアーをしている頃(1999年)は台本がありましたが、今では自由にお客様にしゃべりかけています。そうすると自分でもリラックスできます。
及川浩治
例えば、ベートーヴェンの作品を弾く前には、ベートーヴェンの何がこんなに凄いかをお話しします。ピアノ協奏曲第5番で『皇帝』では、音楽を習う人が最初に学ぶ4つの和音を使うだけでベートーヴェンはこんなにすごい曲を書いた、というような話です。ラフマニノフでしたら、ピアノ協奏曲第2番でピアノ・パートを弾きながら、オーケストラのパートを歌ってみせたり(笑)。
歌も入れながら、トークをします。子供の頃から歌が好きでした。今も僕のレッスンではほとんど歌ってますね(笑)。ピアニストなんですけど、音楽全体が好きなのです。ピアノ作品でもメロディと伴奏があり、自分のなかで気持ちよくメロディを歌えるように伴奏することが大切なのです。音楽全体を自分が楽しみ、聴きに来てくださった人も楽しんでいただければと思います。
ーー今回のリサイタルの聴きどころを教えてください。
バッハの『目覚めよ、と呼ぶ声あり』はたぶん誰もが聴いたことのあるメロディだと思います。『幻想曲とフーガ』はバッハのオルガン作品で有名な曲。今、教えている大学(注:及川は宮城学院女子大学で特任教授を務めている)がキリスト教系の学校で、礼拝堂やパイプオルガンがあり、ラッキーなことにピアノ科の学生もパイプオルガンに触れることもできるので、パイプオルガンの曲を取り上げることにしました。
エルガーの『愛のあいさつ』は、“世界の”五嶋みどりさんと約8年間、レクチャーコンサートをご一緒して、毎年のようにツアーで弾いていた曲です。小学校から養護学校まで、超一流の人が本気で演奏しているのには感動しました。
『愛のあいさつ』は愛情溢れる音楽ですが、『月光ソナタ』では、第1楽章が精神世界を表現し、終楽章がアグレッシヴなベートーヴェンを表しているわけです。そういうキャラクターの違いを全部表現して、音楽のキャラクターの面白さを皆さんと分かち合えればと思っています。
及川浩治
モーツァルトの『トルコ行進曲』では、何がトルコ風なのか説明したいと思います。メロディだけを追いかけても聞こえてきませんが、『ザン・ザン・ザンザンザン』というリズムが当時流行っていたトルコの軍楽隊のリズムなのですと言うと、みなさん、下のリズムも聴くようになります。そうすると、ベースも聞こえてきて、モーツァルトの音楽の面白さが増すわけです。
ストラヴィンスキーの『ペトルーシュカ』では、ペトルーシュカ和音というのがあって、2つの調(ハ長調と嬰へ長調)の組み合わせで、ハーモニーがぶつかり合い、新しい響きが生まれます。ピアノをやっている人は気が付きますが、白鍵と黒鍵なんですね。不協和音なのですが、単なる不協和音ではなく、その瞬間、和音がぶつかり合っているのがわかることによって、聴くときの手助けになればいいなと思っています。
100年、200年前に書かれて、淘汰を経て、残ってきた名曲、それらはそういう力を持った作品であるわけです。そういうところまで到達した作曲家たちの世界を伝えるのが演奏家の役割だと思っています。
ーー最後にメッセージをお願いします。
みなさんがどこかで聴いたことのあるメロディだったり、タイトルは知らないかもしれないけれど耳にしたことのある曲、あるいは、初めて聴く曲もあるかもしれません。このコンサートでは、それぞれが美しい素敵な花なので、みなさんと一緒に感動したり、一緒に悲しくなったり、いろいろな感情を共有できればと思います。
サントリーホールでも、トークを交えながらのコンサートにしようと思っています。僕のトークと歌と素晴らしい名曲で、みなさんと過ごす時間を楽しむことができたらうれしいですね。
及川浩治
取材・文=山田治生 撮影=鈴木久美子

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