『FUJIROCK FESTIVAL '18』を振り返
る(2):格段に向上したマナーの向
上と、さらなる願い

まもなく正月を迎えようとしている師走の某日、すでに終演から5ヵ月近くが経過しているが、今年もまたフジロックが無事に終了し、その場内では来年の開催日程が発表されたことにほっとしている。この感情は一体何目線で、どこから生まれてくるものなのだろうかと振り返ってみても、あまりよくは分からない。他のフェスでは感じ得ない情であることだけはクリアに分かる。要するに、フジロックは自分が大切に想う、無くなってもらっては困る、替えの利かない特別な空間なのだろう。
まず、今年のフジロックを振り返って真っ先に思うのは、来場者のマナーが格段に良くなったことだ。
■格段に向上された来場者のマナー
昨年は来場者のマナーの低下が大いに嘆かれるという残念な年となったが、今年は開催前から早々に、再び世界一クリーンなフェスを目指すというフジロックからの強いメッセージが放たれ、動画『OSAHO(お作法)』を使ったマナー向上キャンペーンが展開された。
その結果、ゴミのポイ捨て、シートやチェアの放置、歩きタバコなどは激減し、特に昨年は、ヘリノックスタイプの椅子を折りたたまずに持ち歩く人が多く目立っていたのもほとんどなくなっていた。混雑した中では「危ないからたたんで」と来場者同士で声を掛け合う場面にも遭遇し、甚く感動したりもしたのだが、他人を思いやれずに危険な行為をしていた人もまだ存在していたので、そうした人たちが良い方へ向いてくれることを願うばかりだ。
続いては、音楽について振り返ろう。
筆者は音楽ライターとしての活動もしているが、フジロックに関しては、フジロックが開催20周年を迎えた2016年にスタートした【こどもフジロック】という、フジロックに参加する子連れの大人と、連れてこられる子どもたちを応援するプロジェクトのメンバーでもある。よって今年も3歳の息子と還暦超えの実母と3世代で参加した。そのため、独身時代のようなライブを中心とした楽しみ方ではなく、フジロック空間そのものを家族で楽しむスタイルへと変換していることを前置きしつつ、独自のランキングを記そう。
■子連れ参加者的『フジロック’ 18』ベストアクト
1位 ケロポンズ
2位 森の音楽会フィナーレ
  (ケロポンズ/ふーちん(チャラン・ポ・ランタン)/なにぬの屋やこ他)
3位 エリック(森の音楽会)
ケロポンズは、日本全国の保育界のアイドルであり、スーパーヒーローであり、フジロックにおける前人未踏の6年連続出演という記録を静かに打ち立てているスーパーデュオである。この事実は親になって初めて知ったわけだが、その音楽的才能、パッション、センス、どれをとってもぶっちぎりでナンバー1なのである。その理由は、子どもだけではなく大人の自分も楽しめるからだ。そしてロックをひしひしと感じるショーでもある。

子連れでフジロックに参加するようになってから、筆者は真にケロポンズのライブを楽しみにしているし、実際今年も大いに楽しんだ。フジロック以外でのステージも観ているが、フジロックに集まる子どもと大人の熱量に触発された苗場でのケロポンズのステージは今年も格別だった。息子はと言うと、たまにトンボや毛虫に目移りしながらも「エビカニクス」をはじめ、自分の愛する楽曲になると一心不乱に歌い踊り、親元をあっさり離れて最前列まで走って行き、多くの子どもたちと共に拳を突き上げて跳んでいた。その小さな後ろ姿を見守りながら、フジロックへ子連れで参加することの意義を噛みしめることができた。
そして、例年行われるキッズの森での「森の音楽会」フィナーレでは、来場した子どもたちがステージに登り、全員でキッズランドのテーマソングでもある名曲「にじ」を合唱した。今年ケンドリック・ラマ−を観て涙した10代のオーディエンスのあなたも今は想像できないだろうけど、いつか森で子どもたちの歌を聴いて共に泣く日が来るかもしれない。それから、Eテレ『えいごであそぼ』でおなじみだったエリックのステージもとても良かった。
ヴァンパイア・ウィークエンド
N.E.R.D 撮影=風間大洋
ケンドリック・ラマー
それ以外に、四十路的ちょい観の感動アクトとしては、今年のグリーンの開幕を軽快に鳴らしたMONGOL800や、夕映えの苗場にその誠実な男気が輝いていたエレファントカシマシ、そして久々に観たヴァンパイア・ウィークエンドの「Cousins」から「A-Punk」の流れで時代が一気に10年巻き戻ったのもまた心地よかった。N.E.R.Dでは言葉の壁を感じつつも心熱くさせられた見事な復活ライブであったし、台風の影響も吹き飛ばすほどのケンドリック・ラマ−のステージは現代の王者の風格ある圧巻のショーだった。
子連れ故、あまりライブを集中して観ていないものの、総括して言えるのは今年も心が満たされて帰宅できたということだ。冒頭にも書いたとおり、昨年と比べてマナーも大きく向上したこともあって、気分良く場内を歩いていられたし、子連れでも安心して滞在できたことは有り難かった。
一方で、残念なこともあった。フジロックに参加するほとんどの子連れの大人は準備も装備も万全に、子どもを優先しつつ、フジロックを上手に楽しんでいるように見受けられる。我が家の場合、朝一から活動するので孫&祖母組は毎晩早々に切り上げていたりもする。しかし、今年は台風の影響のせいで寒暖の激しさに左右され、通常でも読めない山の天気がより荒れるという難しさがあった。そんな悪天候の中、ゴミ袋をレインスーツ代わりに着させられていた子どもと、1歳にも満たなそうな赤ちゃんを夜更けにあやす女性を見かけた。
フジロックは、『「自分のことは自分で」「助け合い・譲り合い」「自然を敬う」その上で、音楽と自然を自由に楽しみ、出演者、来場者、スタッフの全員で創り上げていく。それがフジロック・フェスティバルです』と名言している。また、近年、フジロックへ連れて来られている子どもは3000人にも及ぶという。来年こそは、そうした光景がなくなるように、そして、フジロックが孫の代まで継続されるように、自分にできることを考え行動することが重要なのだと感じている。
ここ数年は仕事として関わっているものの、22年のフジロックの大半を遊びながら体験してこられたのはまったくの幸運だった。伝説と化した嵐の初回開催時も好奇心旺盛な10代後半という年齢であったことも、その後に仕事を通じてフジロックを造る人たちと知り合えたことも、共に遊んだ友人との出会いも、フジロックを通して世界の音楽フェスティバルに興味が湧き、英国のグラストンベリーなどへ足を運んだことも、すべてが今へと繋がり、親になっても楽しませてもらえている。なんというか、筆者にとってフジロックとはそれほどまでに大きな存在である。だからこそ、継続して欲しいという想いでいるのだが、きっとそれは、12万人以上の来場者、主催者、スタッフの一人一人にも言えることだろう。
これまで200万人以上を不便な山の中へ引っ張り込んできた日本最大級の音楽フェスティバル、フジロック。まだ未経験という人は、一度参加されてみてはいかがだろうか。
文=早乙女‘dorami’ ゆうこ

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着