金属恵比須・高木大地の<青少年のた
めのプログレ入門> 第10回「Road t
o 武田家滅亡、Back to 1582」(『武
田家滅亡』山梨旅行記)

SPICE編集部より「金属恵比須ワンマン・ライヴのセルフ・レポ」の執筆依頼が来た。2018年9月8日に吉祥寺シルバーエレファントで行なった「『武田家滅亡』レコ発」だ。
しかし、気が進まない。
ライヴ自体は成功した。お客様からも関係者からも、最高傑作の最新アルバムを引っ提げて最高のライヴを見させてもらったと、すこぶる評判だった。メンバーもやりがいのあるライヴだった。にもかかわらず、気が進まないのだ。なぜか。
――筆者の使用した機材が、当日になって次々と不調となるというトラブルがあったからである。10年以上愛用しているマーシャルのギター・アンプ、20年愛用しているVOXワウペダルとグレコのダブルネック・ギター、エフェクターのアダプタ。4つもの機材が同時にイカれた。マーシャル・アンプにいたっては、リハーサルの時点で不調となり、急遽ライヴ・ハウスから代用品を借りるという金属恵比須始まって以来のできごとだった(耳のいいお客様にはもしかしたら見破られていたかもしれない)。
「バンドのリーダーにもかかわらず、機材不調という個人的な落ち度を気にしてレポを書きたくないのか」……なんて度胸のないことをいっているのか――と思われるかもしれない。
そうではない。筆者が怖いのは――武田勝頼、である。金属恵比須の最新アルバム『武田家滅亡』の主人公が怖いのだ。
時は戦国時代。甲斐(山梨)の名門・武田家最後の当主・武田勝頼(1546-1582)が、織田信長勢の手によって滅亡させられるドラマがテーマの当アルバム。勝頼は、かの有名な武田信玄の四男。信玄の死後、武田家を継ぐこととなり、1582年に破滅へ導いてしまった悲運の武将。齢37にして武田家を滅亡させてしまった人物である。
奇しくも筆者がこのプロジェクトを立ち上げたのも37歳。因縁深いものを感じる。
仮に、勝頼がこのプロジェクトに対してお気に召さらず、マーシャル・アンプを……と考えてしまったら気が気でならない。
2017年夏には取材を兼ねて勝頼ゆかりの地を巡りご挨拶をしてきた。もしかしたらそれだけでは足りなかったのかもしれない。そう思うと、記事にする前にまずはご挨拶に伺わねばと思ったのである。
ということで、ライヴのレポートをする前に、「みそぎ」として、勝頼へのご挨拶編を先にしていきたいと思う。
なお、文中の「●」部分では、以下の3つ著作物にて関連のある個所を明記させていただく。
●アルバム『武田家滅亡』
……金属恵比須、4枚目のフル・アルバム。伊東潤氏が作詞で参加。
●小説『武田家滅亡』
……歴史小説家・伊東潤氏のメジャーデビュー作。角川文庫。
●選書『武田氏滅亡』
……大河ドラマ『真田丸』の時代考証を担当した平山優氏の著書。角川選書。
■やっぱり行けなかった岩殿城
●アルバム『武田家滅亡』……2「武田家滅亡」
●小説『武田家滅亡』……27ページ~
東京を出発し中央高速に。まずは東京から最も近い岩殿城(山梨県大月市)に向かう。
岩殿城は、武田家の配下である小山田信茂(1539-1582)の城。小山田信茂は、『武田家二十四将』の1人にも数えられるほどの武田家にとって重要な人物だった。織田信長(1534-1582)の甲州征伐が始まり、勝頼が新府城(韮崎市)から西側に退去する先として選んだのがこの岩殿城。結局、小山田信茂は最後の最後で勝頼を裏切り、笹子峠を封鎖。勝頼は城に着くことなく自害し、武田家は滅亡する。
中央高速から見える急峻な岩肌の断崖絶壁――ここが岩殿城だ。仮に小山田氏が裏切らず、勝頼が籠城できたとしたら、武田家滅亡3か月後の大事件「本能寺の変」まで耐えることができ、歴史は変わっていたかもしない。
ということで向かったのだが、まさかの大月インターチェンジを見落とす。降りること叶わず、あっという間に笹子トンネルを抜けることに。次の20km以上先の勝沼インターチェンジまで降りられず、やむなく岩殿城行きを断念。勝頼は西から東に向かい岩殿城に辿り着けなかったが、筆者は東から西に向かったにもかかわらず辿りつけなかった。岩殿城――そういうところなのかもしれない。
■まずは勝頼公に会いに――景徳院
●アルバム『武田家滅亡』……7「天目山」、5「内膳」
●小説『武田家滅亡』……554ページ~
●選書『武田氏滅亡』……664ページ~
次なる目的地は景徳院(甲州市)。『武田家滅亡』の主人公である、武田勝頼、北条夫人(小説では「桂」)が自刃した場所だ。いわば「武田家滅亡の地」である。天正10年3月11日(1582年)、岩殿城に向かえず立ち往生していた勝頼一行約40名ほどがこの田野の地で織田軍との最終決戦を迎えた。
滅亡後、徳川家康が武田家家臣を弔い、ここに寺を建立した。それが景徳院である。そこに招かれたのが拈橋という和尚(小説でも登場)。最終決戦で奮戦してあえなく果てた小宮山内膳の弟にあたる。「内膳」は金属恵比須でもひときわ正義感が強く、非常に美しい曲に仕上げた。
なお写真の門は、江戸時代初期に作られたもの。現存している。そして自刃の地とお墓に一礼。「ありがとうございました」
前回来た時の供物は「清州城信長鬼ころし」というシャレにならないお酒であったが、今回は全く違うもので一安心。織田の名前がつくものお供えしたらマズイいだろ。とにもかくにも紅葉もきれいなお寺だった。
ここから天目山へと向かう。
【所在地】〒409-1201 山梨県甲州市大和町木賊122
https://www.koshu-kankou.jp/map/jinjya/keitokuin.html
■ちょっと温泉に寄り道――やまと天目山温泉
景徳院から山道を登り天目山栖雲寺に向かう道すがらに温泉がある。いきりなりリラックスモード。
朝10:00開店の温泉「やまと天目山温泉」。アルバムにおいて「天目山」という曲を作ってしまったのだから寄らねばなるまい。開店直後なのに大盛況。露天風呂もあり、渓谷の紅葉を楽しみながら低温のお湯にじっくりと入り疲れを癒す。まだ疲れてないけど。高アルカリの湯で、肌がスベスベに。
【所在地】〒409-1201 山梨県甲州市大和町木賊517
https://www.koshu-kankou.jp/map/higaeri/yamatotenmokusanonsen.html
■武田家は2度死ぬ――天目山栖雲寺
●アルバム『武田家滅亡』……7「天目山」、3「桂」
●小説『武田家滅亡』……32ページ~、538ページ~、
●選書『武田氏滅亡』……664ページ~
だいぶ山を登ってきた。ケータイはすでに圏外。そういえば、「武田家滅亡」製作が決定した2017年夏にここに訪れたことがある。その時は本堂も開いておらず静謐を保ちすぎた状態だったので、滞在時間5分にも満たなかった。しかし今回は、車が数十台停められている。どうしたことだ。
なんとその日は「そば祭りスタンプラリー」の日。年1回のお祭りということで、非常にタイミングのいい時に訪れることができた。僥倖。早速参加してみよう。
本堂で講談が行なわれていた。講談師・扇屋文雀氏による「天目山勝頼公記」。なんとドンピシャな。しかしちょうど終わったところで聞くことがかなわず。残念。
天目山ではなんと2度も武田家が滅亡している。1度目は13代・武田信満が1417年に自害、そして165年後の1582年、この寺を目指す途中で勝頼自害。ということで武田家にはゆかりの深い寺なのである。
境内に「蕎麦切発祥の地」という石碑がある。1348年にこの寺を開山した業海本浄が、修行のために中国を訪れた際にそば打ちを学んだということだ。そのような縁起からそば祭りスタンプラリーが催されているようで、ここでも打ちたてのそばが食べられた。天気にも恵まれ屹立する山々から富士山が頭だけを出している風景も見える。非常にぜいたくな気分。
お次は喫茶。お抹茶と落雁、そしてこんにゃくを振舞われる。
火鉢を囲み、住職とお話をさせていただく。顔だちも喋り方もどことなく大槻ケンヂを彷彿とさせ勝手に親近感。「このこんにゃくは私が作りましてね」と制作秘話を語り出す。笑いを取りつつも淡々と語る姿は、やはり大槻ケンヂにしか見えなかった。そのこんにゃく、まるでイカやタコなどの頭足類の刺身を食べているような食感で美味。味噌がチョンと乗っているのがポイントだ。山梨の古くからのお菓子なのだそうだ。それにしても落雁には、北条家の家紋「ミツウロコ」が描かれていたのだが、これは、武田勝頼の妻・北条夫人(小説内では「桂」)を気遣ってのことだったのだろうか。
満腹になったところで、栖雲寺所蔵のお宝拝見を。兜や信玄公鉄製軍配、勝頼公陣中鏡などが奉納されている。特に、武田菱が鮮やかな赤色に浮き出す武田軍旗が印象的。
【所在地】〒409-1201 山梨県甲州市大和町木賊122
午前中にして、すでに山梨を満喫。
次なる目的地は、武田の軍旗の眠る雲峰寺、「心頭滅却」で有名な恵林寺、躑躅ヶ崎館跡の武田神社、そして甲府城。
(以下次号)
文=高木大地(金属恵比須)

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