梅棒『超ピカイチ!』稽古場レポート
! パワーアップした再演で年末年始
は抱腹絶倒!?

“バカを真剣にやる”———高いダンススキルで全力でふざけ、中二男子感満載のコメディーで笑わせるエンターテインメント集団「梅棒」のステージは、まるで大人による超本気の文化祭。2018年末には、前年にw-inds.の千葉涼平を迎え大反響を得た学園コメディー『ピカイチ!』を進化させた『超ピカイチ!』が控えている。
公演は2018年12月15日(土)から12月29日(土)まで東京・東京グローブ座にて全20回、その後年明けに大阪、愛知を巡演する。その半分は<全日制ver.>として前回とほぼ同じキャストのままパワーアップさせ、もう半分は<定時制ver.>として配役をシャッフルする(大阪は<全日制ver.>、愛知は<定時制ver.>のみ)。新しい『ピカイチ!』、そして新しい「梅棒」に期待が募る。その密度の高い稽古場を訪れた。
この日は<定時制ver.>の稽古。半数以上のキャストがシャッフルされるため、混乱しないよう段取りを整理する。たとえば千葉は、<全日制ver.>では学園を荒らしに来るナルシスト転校生を演じているが、<定時制ver.>では転校生に翻弄される頼りない男子学生役。同じストーリーでも立ち位置や動きだけでなく、当然ながら、役の感情や演技もまったく違う。動きを整理する際に音楽はかけず、作・総合演出の伊藤今人がマイクを持って喋り続ける。
(c)飯野高拓
梅棒のステージには台詞がなく、次々と流れる音楽とダンス&ジェスチャーが重なって、一つの物語を作り上げる。出演者は俳優でありダンサー。体と表情の動きで役の気持ちを表現する“ジャズダンスとJ-POPによる台詞のない演劇”だ。キャストは伊藤が歌うメロディに合わせて動き、振りを確認するが、その時に伊藤が口にしているのは音楽の歌詞ではなく、振りの指示や、登場人物の気持ちだ。メロディに乗せて「Ah〜上を見て〜、回って〜、もっと速く〜。顔を見合わせてゴメンナサイ〜」のように、ダメ出しと実践を両立させていく。
そこにはスピード感が溢れている。パフォーマンスをして、止めて、ダメ出しをして……と順を追うのではなくそれらが同時に行われているため、無駄がない。伊藤のリズムが、稽古場のスピードだ。その指示もおもしろい例え話などを用いて伝えることもあり、現場はとにかく明るい。
(c)飯野高拓
さらに伊藤は、メロディに乗せたまま「どうしようか〜な〜」と自分の迷いもそのまま口に出すこともある。その時も、出演者たちのダンスは止まらない。時には体で「こう動いたらどうだ!?」と応える。そこでは迷いもアイデアもほとんどが流れ出るまま、躊躇なく発信・実践され、無駄のない高度なブレインストーミングが続けられていく。
演出をつけるスピードが速いのは、再演のためベースができていることもあるだろう。しかしそれ以上に、より良くするためにも、閃いたことは次々と実現してみようという前のめりな意欲が感じられる。
(c)飯野高拓
いったん止めると、出演者たちはそれぞれすぐに復習。出番でない人は舞台奥で自分の動きを復習している。ちょっとしたスキマ時間にも、互いに冗談を言って笑いつつ、緊張は途切れない。誰もがステージの話しかしていない。
段取りを決めたら、実際の音楽をかけて通してみる。その時には、力をすべてぶつけたかのようなパワーが、こちらに届いてきた。
セットリストは20数曲。<全日制ver.>と<定時制ver.>では、演じる役者に合わせて少しずつ違っている。有名アイドルグループのヒット曲から、ロック、ミュージカルなど(何の曲かはお楽しみに!)、怒涛の音楽とめまぐるしいパフォーマンスが続く。また、曲ごとに振付担当が異なるのも、様々な味がごった煮に凝縮されたこの舞台の魅力のひとつだ。
(c)飯野高拓
スピード感と明るさに溢れた稽古場は、梅棒のステージそのもののようだった。観客を巻き込むパワー溢れる梅棒のパフォーマンス。それは伊藤の喋る軽快なリズムが出演者の体を通って何十倍にもパワーアップし、観客にまで届いているのかもしれない。
主人公の一人を演じる千葉の役は、優しいが頼りなく、雰囲気で人の後ろに隠れているシーンも多い。<全日制ver.>の「俺を見ろ!」とでも言いそうなナルシストぶりの真逆の役だ。千葉について伊藤は「まだ見たことのない姿を見て欲しい」とインタビューで言ったが、<定時制ver.>でもまた一味違った姿が見られる。
ヒロインは高見奈央(<全日制ver.>は大野愛友佳)。8月に実施された160名を超えるヒロインオーディションから選ばれた。明るく元気一杯といった動きで跳ねまわり、白い歯を見せて楽し気に笑う。
梅棒のメンバーや他のゲストはみな身体能力が高く、とにかくキレがいい。テンポのいい音楽と勢いのあるダンスは、全員揃うと迫力と安定感がある。そのうえ、一人ひとりあげたらキリがないくらい個性的だ。稽古着にもかかわらず、キャラクターの濃さがほとばしっている。
(c)飯野高拓
「怪我をしないように」と、伊藤は何度も声をかける。大人数が激しく動くだけでなく、美術も大きな移動を見せるからだ。また伊藤は「こういう動きをしたら体が楽なんじゃない?」とも提案する。つねに気にしているのは安全だ。
もう一つ伊藤が気を配っていることが、俳優の動きがお客さんから見て理解できるかどうか。一つひとつの動きは「ダンス」であり「演技」なので、肝心な部分が伝わらないと、観客はその役が何をしている、どんな役なのかがわからなくなってしまう。伊藤は「そこはお客さんが理解しなきゃいけないところだから急がなくていい」と、伝わるべきところを整理していく。
また滞るシーンがあると「あっちのチームではどうしてたっけ?」と<全日制ver.>の配役の出演者に確認。両チームの良いところを取り入れながら、それぞれの個性を出していく。
(c)飯野高拓
時間も空気も、凝縮されている、集中力が必要な現場。後半、メモを取るのも忘れて稽古に見入ってしまった。鳴り響く音楽に掻き消され、自分が声を出して笑っているのも気づかなかったほどだ。衣装やメイクが加わればどれほど賑やかな舞台になるだろう。期待が高まる。
取材・文=河野桃子

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