生涯アメリカで踊り続けた創作舞踊家
・新村英一の生誕120周年を記念し、
その振付作品を日本で初リメイク

サムライ・ダンサー”の異名を持ち、ニューヨークを中心に欧米各地で活躍した新村英一。生誕120周年を記念し、その生地である長野県諏訪市(7年に1度の御柱祭で有名)で記念公演が開催される。バレエ、モダンダンス、コンテンポラリーダンスの舞踊家、振付家など、日本国内の舞踊芸術発展に功績のあったアーティストに毎年贈られる「ニムラ舞踊賞」の第38回受賞者、Noism副芸術監督でもあるダンサー・井関佐和子への受賞式も同時に行われる。
一度も日本に帰国することがなかった幻のサムライ・ダンサー
 まず、新村英一(ニムラエイイチ)を紹介しなければならないだろう。本名は三木富蔵。ニムラは1897年、現在の長野県諏訪市に生まれた。15歳で上京し、さまざまな職業を体験した後、生家が途絶えたことから知人が成功していたアメリカへ渡る。1918年のことだ。さまざまなアルバイトをしながら、ダンスホールに日々通っていたニムラは、ほかのダンサーたちから賞賛されるうちに本格的な舞踊家を目指す。午前中にレッスン、昼はレストランで働き、午後もレッスン、その後また深夜までレストランで働くという生活を経て、1925年にカーネギーホールでのデニショーン舞踊団公演で初舞台を踏む。その後も大舞台を踏み、専門誌ダンス・マガジンに「サムライ・ダンサー、ニムラ」と題した評伝が載り、イギリスやドイツの雑誌でも紹介される。その中には「ニジンスキーの再来」と評する声もあったとか。また1930年には、ブロードウェイのニューヨーカー劇場でつくりためた自身の振付による作品を発表する。翌年にはブロードウェイに「エイイチ・ニムラ・スタジオ」を開き、若き舞踊家の育成にも力を注いだ。同時にヨーロッパ20カ国、アメリカなどを巡演し、世界各地で高い評価を得る。ヨーロッパでは王立や国立オペラハウスなどで公演を行い、多くの芸術家たちとも交流した。ニムラ振付で大ヒットした『琵琶記』に出演したユル・ブリンナーが『王様と私』で大成功したとき、「それは、あのときニムラから受けたインスピレーションによる」と語ったと言う。
復刻された自伝と外伝(定価2000円/限定300部) 右の写真はストラビンスキーとの2ショットだ。
 1940年(昭和15年)、ニムラはカーネギーホール・スタジオ61に「バレエ・アート・ニムラ・スタジオ」を開き、後進の育成に情熱を傾ける。各国からのオファーも続いたが、盧溝橋事件や第二次世界大戦の影響で公演は相次いで中止になっていく。ダンサーとして絶頂期を迎えていたニムラだったが……。
 1940年10月、ニムラはダンサーとしての最後の公演を行う。「舞踊家はその盛りにおいてこそ引退すべき」と考えていたようだ。しかしその後も、世界博覧会に出演する宝塚少女歌劇団、歌舞伎のアメリカ公演などへの支援も行った。1969年、日本から勲六等瑞宝賞を受けたニムラは、1979年にその人生の幕を閉じる。ニムラは結局一度も日本に帰国することはなかった。(参考:諏訪市ホームページ)
自伝抜粋版
 諏訪市では、ニムラエイイチ 生誕120周年にあたる本年度を「ニムラ・イヤー」と位置づけ、記念事業を展開している。その一環として、1971年に市内の有志によって、新村自身がつづっていた回想録をまとめた『自傳 新村英一』を刊行したが、その自伝が50年ぶりに復刻された(2000円で販売)。さらに、ダイジェスト版の記念冊子もつくり配布を行っている。そして12月22日に行われる記念公演『舞踊の祭典』では、新村が手がけた『ネコの踊り』(1930)、『大地の像』(1938)、『トッカータとフーガ』(1940)年が日本で初めてリメイクされる。
Noismのダンサー・井関佐和子が本年度のニムラ舞踊賞に
 また今夏に発表されたニムラ舞踊賞は、Noism副芸術監督でもあるダンサー・井関佐和子が受賞した。受賞理由は「Noism1の2017年6月公演において金森穣振付『Liebestod-愛の死』を、優れた身体能力を生かした大胆かつ繊細な演技を駆使して成功に導いた。また近年においては、副芸術監督としてNoismの活動の中枢に参画し、諸作品の再演をはじめ、カンパニーの活性化に大きく貢献した」というもの。井関は次のようにコメントしている。
 「この度は、このような素晴らしい賞を頂き、心から感謝いたします。正直、受賞の知らせを聞いた時には、まず驚きの方が大きかったのですが、一番間近で私の成長と舞踊を見続けてくれている演出振付家の金森が一番喜んでくれたことが、何よりも嬉しかったです。Noismがこの日本に誕生して15年が経ちますが、今まで一心不乱に過ごして参りました。舞踊を通して自らの生き様を魅せる以外何も能力のない私に、この賞は勇気を与えてくださり、大きなご褒美だと思っております。ニムラさんが仰っている“過去のものを慈しみ、現在の信念を大切に、未来への希望を育てる。”この言葉がこの国の芸術の未来、舞台芸術の未来へ続くものだと信じ、これからも精進して参ります」
井関佐和子
文・構成:いまいこういち

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