【連載レポート】NAOKI SERIZAWAと行
く、世界を巡るDJ奮闘記|タイ『Won
derfruit』編

皆さん、初めまして。東京を拠点に活動するDJ/音楽プロデューサーの芹澤直樹です。今回より、僕の海外でのDJツアーの奮闘記をBARKSさんにて連載で取り扱っていただくことになりました。よろしくお願い致します。

その第一回目は、来週末からタイで開催される<Wonderfruit>。いまアジアを中心に話題になっている本フェスに昨年出演したので、一足先にその体験レポートをお届けします。

■コンセプチュアルな思想を持つギャザリング
■タイの人気フェス<Wonderfruit>に潜入

近年、<Burning Man>のように音楽性以上にその精神性やコンセプチュアルな思想を持つギャザリングを好むフェストラベラーが世界中で増えつつある。そして、そんな人たちの間で注目を集めているフェスティバルのひとつがこの<Wonderfruit>。このフェスティバルは、タイの首都バンコクから車で2時間程度の場所に位置するパタヤ郊外のゴルフ場Siam Country Clubにて、毎年12月に4日間に渡って開催されている音楽とアートとライフスタイルの祭典だ。
僕は、アメリカ・ブルックリンのハウスユニット“SOUL CLAP”とWOLF+LAMBによるレーベル“CREW LOVE”が、ショーケースを行なうということでそのメンバーとして日本から参加した。
フェスティバル当日、会場に到着するとオーガナイザーがゴルフカートで迎えに来てくれた。カートに揺られながら会場を眺めていると、青空の下で心地よい風を浴びながら、多くの人たちがヨガをしていた。そして、その隣では子供たちがカヤックで池を渡っていたり、自由にキャンパスに絵を描いたり、粘土に色を塗ったりとワークショップに勤しんでいる。穏やかで時間がゆっくり過ぎているファミリーフレンドリーな雰囲気を感じた。実際に僕は、当時1歳4ヶ月の愛娘JOYを連れて家族で参加したが、彼女もハチャメチャ楽しんでいた。
芝生が広がる広大な敷地の至るところには、ユーモラスで巨大なアート作品が展示されている。なかには、高さがゆうに5mを超える木製の人形が抱き合っていたり、巨大な象や鳥のモニュメントがあって子供達がそれに乗って遊んでいたり、ストリートで見かけるようなペインティングなど、そこはまるでオープンエア・ミュージアムさながら。それらの作品は、日が暮れるとライティングで照らされ、ときに美しく、ときに妖しさを増し、様々な表情を見せてくれる。会場内にはアート作品以外にも、これまでに見たことのないDIY精神溢れる手作り感覚満載のユニークなステージやDJブースのあるバーが数多くある。
その中で、僕が体験し興味深かった、面白かったものを挙げると、まずは僕が出演したステージ“Solar Stage”。ここは<Burning Man>でもステージを手掛けているGregg Fleishmanのデザインによるもので、燃え盛る炎をイメージしたかのような立体的な木製の建造物。円錐の小部屋を何層にも重ねた(炎の形の)巨大なジャングルジムと言えば分かりやすいだろうか(全然わかんないですよね。写真をどうぞ)。その上に乗って踊ったり、小部屋のなかに入ってチルアウトすることもできる。しかも、上部にはトランポリンのような場所もあり、そこから見たサンセットは格別だった。

ここでは僕たちCREW LOVE TAKE OVER=WOLF+LAMBとNick Monaco、そして私NAOKI SERIZAWAがファンキーなハウスを中心にアフロビートやディスコでガッツリ盛り上げた。その他にもエクアドルの電子音楽家のNicola Cruzが奏でる、オーガニックなサウンドがロケーションやフェスのもつ空気感とマッチしていたのが印象的だった。DJ観点で言うと、日中はビートを主体で構成されたストイックなダンストラックより、パーカッシヴで土着的な音色を多用したアフロやファンクなどがロケーションにはまり、お客さんのテンションとしてはファンキーなヴァイヴの方が好まれていた気がする。ステージマネージャーに君たちもベストアクトのひとつだよと言ってもらえたのが嬉しかった。

■地球環境に配慮し、なおかつ
■サスティナビリティにこだわるフェス

続いては、<Wonderfruit Festival>の名物のひとつでもある銀色に輝くアンティークなバス“Molam Bus”。これは元来、タイの工芸品であるタイシルクの名店JIM THOMPSONの工場で使われていた古いバスをギャラリーに改造したもの。車内には、タイ東北部イーサーンやラオスの伝統音楽であるモーラムの歴史を振り返る写真やコラムが展示され、夜になればバス全体がカラフルなネオンで輝き、併設されたステージで実際にモーラムが演奏され、楽しむことができる。
そして、もうひとつは“Forbidden Fruit”なるステージ。Forbidden Fruit=禁断の果実と名付けられたその空間は、暗がりの中に無数の赤い木の実が光る、なんとも妖しげな雰囲気。まわりは背の低い植物で覆われ、まるで森の中にいるような感覚を思わせる。そこでは、日本から参加したもうひとりのアーティスト、<Rainbow Disco Club>のレジデントDJでもあるSisiがプレイしていた。こうして、海外のフェスティバルで同じ日本人と共演できることはとても喜ばしいことだ。
また、“Wonder Salon”と銘打たれたエリアには、ヘアサロンやコスチュームショップ、ボディペインティングなど、会場内でフェス仕様にドレスアップできる施設もあった。その他にもタイ式マッサージやタロット占いができる場所もあったが、印象的だったのが100年以上前のフィルムを使って撮影できるフォトブース。そこで記念に家族写真を撮ったのだが、セピア色に現像された写真は歴史を感じる風合いで家族の素敵な思い出となった。

<Wonderfruit Festival>は、フェスティバルの醍醐味のひとつであるグルメも本当に充実していた。ローカルで人気の本格的なタイ料理を提供するTep Barやイタリアンの名店Peppina。さらには、メディアでも幾度となく紹介されているMorimotoなど、有名店も数多く揃えている。一方で、“Thailand Young Farmars”では、タイの薬用酒ヤードンやB級グルメともいうべき昆虫のスナックなど、タイならではの珍味に挑戦することもできた。ただ、昆虫スナックはさすがに見た目が強烈で、僕は食べることはできなかったです……。
また、僕は体験することができなかったのですが、日替わりでアジアを代表するトップシェフがコース料理を提供する“Theater of Feasts”なるものもあり、これは限定250食で事前予約が必要とのこと。数多くのフードが用意された中で、僕が最も心を惹かれたのは、フレッシュココナッツとラズベリーやブルーベリー、シナモン、オレンジなどの果実がバケツいっぱいに入ったDEAN&DELUCAのサングリアだった。

あらゆるものが楽しめる会場内では、ID情報を埋め込んだタグから情報がやりとりできるRFIDを内蔵した決済機能付きのリストバンドを使用することで、完全にキャッシュレスで遊ぶことができる。事前に専用ブースで換金しておけば、全ての支払いはお店のスタッフがスマホをリストバンドにかざすだけ。なんとも快適なシステムが導入されていた。
さらに驚くべきは<Wonderfruit>のステージやアート、そして屋台、当然のことながら食器やゴミ箱に至るまで、あらゆるものが全てプラスチックを排除した再利用できる自然素材で作られていることだった。それは、地球環境に配慮し、なおかつサスティナビリティ(持続可能性)にこだわっているからだとオーガナイザーは言う。
近年、ゴミや参加者のマナーなど問題視されている音楽フェスティバルの課題を、<Wonderfruit>は“フェスティバルの在り方”を4日間の体験を通して来場者に伝えようとしている。そう考えると、ラフだけどDIY精神全開のハンドメイドなステージや遊び心満点のアート作品、ファミリーフレンドリーで穏やかな空気感とハッピーとおばかが共存しているパーティ感、それら全て納得のいくものだった。

文:NAOKI SERIZAWA

BARKS

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