【インタビュー】岸田教団&THE明星
ロケッツ、“尖り”や“はみ出し感”
を継承し新たな魅力が散りばめられた
4thアルバム『REBOOT』

岸田教団&THE明星ロケッツが、4thアルバム『REBOOT』を完成させた。“REBOOT=再起動”というタイトルにふさわしく、同作は彼らならではの“尖り”や“はみ出し感”を継承したうえで、新たな魅力が随所に散りばめられていることが印象的。楽曲やアレンジ、メンバーそれぞれのプレイ、サウンドといったあらゆる面がより洗練されることで、非常にクオリティーの高い一作に仕上がっている。始動から10年を超えて今なお進化し続ける岸田教団&THE明星ロケッツの意欲には圧倒されずにいられない。

■『バットマン』みたいに全く違うモダンなストーリーを作るのが正しい
■今回のアルバムは本当の意味でのREBOOTができたんじゃないかな

――新しいアルバムを作るにあたって、テーマやコンセプトなどはありましたか?

岸田:今回のコンセプトはほぼ全部僕が考えたんですけど、最初に“REBOOTしよう”という気持ちになって、アルバムのタイトルも“REBOOT”にしようと決めました。それが、今年の7月くらいだったかな。夏は仕事をしないで遊ぼうと思ってフワフワしていたんですけど、そういう中でも音楽のことを忘れることはないので、ついつい思いついてしまった、悲しいことに(笑)。それで、フワフワするのはやめて、曲作りに取りかかりました。

――ミュージシャンの悲しい性といえますね(笑)。バンドをREBOOTしようと思ったのは、思うところがあったのでしょうか?

岸田:世の中の流れを見ていて、岸田教団&THE明星ロケッツをその流れに合わせるには、もはやREBOOTするしかないと思ったんです。『スパイダーマン』や『バットマン』もREBOOTしているし、『スパイダーマン』に至っては2回もREBOOTしていますよね。なんでもかんでもREBOOTしてしまえば、なんとかなるんだなと思って(笑)。ただ、映画に限らず、アーティストでもREBOOTを謳う人は多いけど、REBOOTという言葉そのものに対して本当に真摯に向き合っている人は意外といないんですよね。目先を変えるだけだったり、全く違うものになっていたりすることが多い。REBOOTをいかに本当に実行するかを考えたら、『バットマン』みたいに登場人物は同じままで、今までとは全く違うモダンなストーリーを作るというのが正しいと思うんです。今回のアルバムはそういうイメージで作ったので、本当の意味でのREBOOTができたんじゃないかなと思います。

――ichigoさんは、アルバムのコンセプトを聞いて、どんなことを思われましたか?

ichigo:最初に聞いたときは……タイトル通りのアルバムになりつつあるなと思いました。私は制作の途中くらいまで、そういうコンセプトだと知らなかったんです。

――えっ、そうなんですか?

ichigo:はい(笑)。

岸田:みんなにタイトルを教えたのは、たぶんコンセプトどおりに行けると思ってからだったんです(笑)。制作に入る前に、今回のアルバムはハリウッド映画のREBOOT感というイメージを持っているということは伝えていたけど、曲を作り始めて、レコーディングが始まって、REBOOTというタイトルで説得力のあるアルバムにできるだろうと思った瞬間に「今回のアルバムは『REBOOT』にします」と言いました(笑)。

ichigo:だから、制作が結構進んでから聞いたんです。でも、聞いて“なるほど、REBOOTね”と思いました。前作の『LIVE YOUR LIFE』は“この世界を生き抜いていく”というアルバムで、特に打ち合わせはしなかったけど、そういう歌詞が自然と集まったんですよ。今回もREBOOTというタイトルを踏まえて、だったらこういうことを書こうと考えたわけじゃなかったのに、そこに沿うようなものを不思議と書いていたんです。だから、コンセプトを聞いたときに違和感はなかったですね。あとは、『REBOOT』というアルバムにするならヴィジュアルも『hack/SLASH』(2014.12.24)のキャラクターを使おうという提案を私がして、それが採用になりました。
――バンド全体として、また新しいところに行きたい、もう一つ上に行きたいという空気に自然となっていたことがわかります。では、アルバムに向けて曲を作っていく中で、指針になった曲などはありましたか?

岸田:今回のアルバムの曲順はほぼ時系列に沿っていて、1曲目の「Decide the essence」が一番最初にできたんです。正確にいえば、「Blood and Emotions」(アニメ『ストライク・ザ・ブラッドIII』の主題歌)はアニメに合わせて作ったから先でしたけど、REBOOTということを意識して最初に作ったのは「Decide the essence」だった。この曲は新しいものにするために、今までとは全く違ったアレンジにしようとを考えていました。今の世の中はロックバンドですらダンス・ミュージックの流れを、ある程度踏まえたうえでのロックンロールという方向にシフトしてきていますよね。その辺を採り入れつつも自分達らしさを失わないためにはどうするかというのがあって。全く違うものに変わってしまったら、それは自分達の本質がブレているということ。変えてしまうのはREBOOTではないんですよね。変えないからREBOOTなんです。だから、今までにないものであると同時に、今までどおりでもあるという音楽を創りたかった。「Decide the essence」は、そのバランスを考えながら作りました。

ichigo:実際「Decide the essence」は、イントロの1音目から“あれっ?”と思うものになっていますよね。この曲はできたのが早かったし、歌を録ったのも制作の早い時期だったんです。確かそうだったよね?

岸田:うん、2曲目くらいだったと思う。

ichigo:だから、私の中で実質的にアルバム作りに入る導入の曲だったんですよ。今回はhayapi(G)に歌のディレクションをしてもらったので、hayapiと歌詞のことなどをしっかり話しあって、プリプロも結構してから録りに臨んだんです。1回歌って、hayapiとこうだねと決めてから本番だったので、テイク自体はそんなに重ねずに済みました。あとは、この曲は英語が多いんですよね。もちろん私はネイティブみたいに喋ったり、歌ったりすることはできないけど、ジャパニーズ英語の嫌な部分はなるべく出したくないと思って。だから、わざとらしくなく、なるべく自然に歌えるように、英語の発音とかは結構気にしたし、アクセントもなるべく正しくすることを意識しました。それが難しかったです。

――歌のディレクションなどでも新しいやり方を導入されたんですね。「Decide the essence」はアティチュード的には力強くないのに、“今この瞬間に立ち上がれ。大事なことだけ守り通せばいい”という強いメッセージを込めている歌詞も印象的です。

岸田:そう、“芯だけはしっかりしろ”といっている歌詞だと言っても過言ではない内容です(笑)。芯以外はいいけど、芯だけはちゃんとしろと。この曲ができたときに、僕はこれがアルバムの本質を決める曲だと思って、そのイメージをそのまま書いたのが「Decide the essence」の歌詞です。

――タイアップ曲のときとは一味違って、内面にあるメッセージをダイレクトに書いた曲が聴けることもアルバムの魅力といえます。今作で岸田さんが書かれた歌詞を読んで、あらためてシャイボーイなんだなと感じましたよ。

岸田:そうですか?

――内面は熱いのに、それをオブラートに包もうとしたり、クールさを装ったりしている歌詞が多いですよね。

岸田:僕は、中2病患者なので(笑)。中2病患者は、そういうのを表に出さないのがカッコいいと思っているんですよ。だから普段は表に出さなくて、歌詞を書くときだけ出てくる。それに、自分が思っていることを押しつけるような歌詞にはしたくないというのはありますね。今回、歌詞は結構いい感じで書けたと思います。

――人柄がうかがえて楽しめました。アルバムの指針になった「Decide the essence」がありつつ、それぞれ特に思い入れの深い曲などもあげていただけますか。

岸田:僕はアルバムの最後に入っている「Code:Thinker」です。これは作詞/作曲ともに、かなりがんばりました。今回の新曲の中では一番最後くらいに作った曲で、今回の制作を総括した曲ともいえますね。まず最初に、シャッフルの曲が作りたいと思ったんです。自分達のバンドでシャッフルの曲はやったことがなくて、今までにないものというところでリズムの感じから思いついた。で、最初はもっと明るいメロディーだったけど、アレンジに合わせるなら、このメロディーじゃダメだなと思って何度も書き直して、最終的に降ってきたのが今のメロディーでした。この曲は今までの自分が全く書かなかった、マイナー調のメロディーが中心になっています。

――「Code:Thinker」の冷たい世界観は今までの岸田教団&THE明星ロケッツにはなかったもので、完全に新境地ですね。

岸田:そう。深海のイメージというか、“燃える氷”という感じですね。歌詞も“リア充にはわからない、こういう暗い世界もあるんだよ”ということを描いています。

――とはいえ、大きなテーマとしては“無数の人の人生が折り重なることで、人類は進化していく”ということを歌っています。

岸田:哲学的な歌詞ですよね。僕的には哲学にしても科学にしても、なんでもそうですけど、人の社会というものに対して自分が感じている愛情というものが全部そこに入っています。だから、全肯定です。人類肯定ソング。

――その結果、冷たい世界観でいながら陰鬱なものではないという独自のものになっています。

岸田:それは、アレンジでも活かしました。歌だけを熱くすることで、その対比でより響くものになると思って。この曲は静かな世界から始まるけど、そこでも歌だけは熱くて、だんだん周りがそれに着いてくるという形になっている。そういうある種の“ジャンヌ・ダルク感”というか、物事を誰かが先導して、みんなが着いてくる、それを誰かが次いで…ということを繰り返して、ずっとつながっていくということを表現したかったんです。同じように、僕が死んだ後も誰かが次いでくれるというイメージもありましたね。自分は最後に音を残して終わるという。そういう曲です。

ichigo:この曲は絶望もあって、希望もあって、情熱的だけど、自愛もあるような曲だという印象を受けたんです。自愛みたいなものは私の中にはあまりないですけど、母性に近いものはあると思って(笑)。この曲で表現すべきは母性といっても優しいだけの母性ではなくて、強い感じも必要なんですよね。メス・ライオン的というか。

岸田:我が子を崖から突き落とすヤツ?(笑)

ichigo:そうそう(笑)。

岸田:崖から這い上がってきたヤツだけを、お前は育てる価値があるといって育てるという。それって母性かな?(笑)

ichigo:わかんない(笑)。わからないけど、「Code:Thinker」はそういう厳しさと、愛みたいなものと全部を表現しないといけなくて。とはいえ自分の中に湧いてくるものでしか歌えないから、歌えて良かったなという印象です。今のところ、私の中に母性が本当にあるのかどうかはまだわからないけど、この曲を歌って、もしかしたらあるかもしれないなと思いました(笑)。

岸田:ある……んじゃないですか(笑)。とにかく、この曲の歌は、本当に難しかったと思いますね。

ichigo:難しかった。でも、何回も歌えないことはわかっていたんですよ、サビの強さとかを考えると。なので、珍しくこの曲を歌う前は緊張しましたね。3テイクくらいで決めなきゃいけないと思っていたので。それに、この曲を歌うにあたって、リズムの解釈の練習もすごくしました。私はシャッフルがよくわからなかったんです。“3連でもなく、シャッフル?”ってずっと考えていて。そうしたら、hayapiがシャッフルの成り立ちの話をしてくれたんです。黒人の歩くリズムが元になっているんだよと。それを聞いて、なるほどとわかった。誰が教えてくれてもわからなかったけど、ルーツの話をきいたら“わかった!”ってなったという(笑)。

――「Code:Thinker」のブラック・ミュージックに通じるエモーションを纏ったボーカルは、本当に聴き応えがあります。ichigoさんの中で特に印象の強い曲もあげていただけますか。

ichigo:どれも好きですけど、印象が強いということでは自分で書いた「3 seconds rule」かな。この曲はアップテンポで、アッパー。でも、元々はバラードをイメージして作ったんです。

岸田:ichigoさんが持ってきたデモはピアノとボーカルだけで、結婚式で流れそうなバラードでした。“ええ曲やなぁ”という感じだったけど、残念なことに僕が目指していたアルバムの方向性には完全にそぐわなかった。なので、なんとかフィットする方法はないかと考えたんです。

ichigo:それでテンポが速くなったんですよ。そうなるとメロディーも変えようということになって、Aメロ、Bメロはそのままだけど、サビはバックが“ダッダッダッダン!”になったので、それにアクセントを合わせたメロディーに変えました。結果、LA感のあるサビになったなと思います。歌詞も最初はもうちょっと大人っぽい女の子の歌詞だったんですけど、テンポが速くなったので子供っぽくなって。さらに男の子になって、最終的には“3秒ルールで取り消そう”と言っちゃうという(笑)。「やっぱ、なし! 今の話なかったことにしましょう!」みたいな(笑)。

岸田:こいつ相当ヘタレだよね(笑)。

ichigo:めっちゃヘタレでしょう(笑)。でもね、折れないために自分の中でなかったことにするのは大事かなと思って。フラれても、それはなかったことにして、“いいや、次にいこう”と思えるメンタルであってほしいなと。ここまで明るくて、あっけらかんとしている歌詞というのは、人は書かないと思うんですよ。なので、そういう方向で行くことにしました。それに、ライブのときにみんなと一緒に歌いたくて、合唱も入れました。歌詞の内容が内容だから、あまり感動的な合唱にはならないと思いますけど(笑)。この曲はライブでも楽しくやれるんじゃないかなと思います。
■いつも以上に曲作りをがんばれたしベースを考えるときも余裕があった
■“まだいけるぞ”という感じだったので今回はがんばれたんです

――岸田さんとhayapiさんの共作名義になっている「Never say Never」や、hayapiさんが書いた「キミノミカタ」についても話していただけますか。

岸田:「Never say Never」はほぼ僕が作って、若干hayapiさんも手伝ってくれたという感じです。メロディーを作るときに、一部のメロディーをhayapiさんが考えたんですよ。だから、共作名義ではあるけど、僕の色が強く出ていますね。「キミノミカタ」はhayapiさんがコードとピアノだけの状態のデモを持ってきて、とりあえずこれにドラムをつけようという話になって。メロディー自体が僕のメロディーと全然違っていて、明確に暗いんですよ(笑)。

ichigo:暗いというか、ナイーブな感じだよね。

岸田:そう。それを踏まえて、ドラムを、ちょっと凝ったものにしました。

――「キミノミカタ」もそうですが、今作のドラムは凝ったものが多いですね。

岸田:今回は僕のために、みんなががんばって仕事を分担することで、僕は曲を作ったり、アレンジを考えたりする時間がいっぱいあったんです。やっぱりね、10年間なにも変えずに続けるというのは不可能なんですよ。10年もすれば、向き/不向きがわかってくるし、10年やってできないことは本当に才能がないわけだし。才能があるものに関しては必ず覚醒するけど、10年やって覚醒しなかったものは20年経っても無理。なので、今回の制作では、それまで流れで仕事をしていた部分でも10年やってうまくならなかったことは手を引いて、それは他の人に振るようにしたんです。逆に、自分が得意なことは、絶対に人に譲らないとか。そうやって仕事の分担を変えたことで今までよりも時間ができたので、凝ったドラムもがんばって作りました。

――考える岸田さんも、それを実際に叩くみっちゃんさんもさすがです。

岸田:普通は、叩けないと思う。ある程度叩けなくてもしょうがないと思ってドラムを考えても、みっちゃんはそのまま叩いてくれるので、調子にのってどんどん難易度が高くなるという(笑)。みっちゃんに、「これ間違ってない? 本当にこれ?」と聞かれて、「そうです」みたいな(笑)。「できなかったら変えていいスよ」と言っても、大体できるという。
――その辺りもさすがです。話を「キミノミカタ」に戻しますが、この曲はichigoさんが歌詞を書かれていますね。

ichigo:hayapiから、最初にご指名がきたんです。hayapiには、贖罪的だったり、後悔しているようなイメージだと言われたんですよ。でも、曲を聴いてみたらもうちょっと優しさがあったというか愛を感じたので、これは多分ラブソングだよという話をしました。「ラブソングを書いてもいい?」と聞いたら「いいよ」と言ってくれたのでラブソングを書くことにしたんですけど、hayapiが持っている世界観みたいなものが自己犠牲をイメージさせたんですよね。彼は自己犠牲に溢れた人だなということが、今回のアルバムの制作でもすごくわかったので。その自己犠牲のイメージから、好きな女の子を直接的に幸せにできないなら自分が地球を守って、間接的に幸せにしようという思いを抱いた男の子が浮かんできたんです。だから、“正義の味方”ではなくて、“キミノミカタ”。多分世間からは正義の味方、ヒーローとして扱われているんだろうけど、すべてそのモチベーションは一人の女の子のために…という世界観を描きました。

――いい歌詞ですね。

ichigo:泣けるでしょう?(笑)

――泣けます。それに、Aメロの儚げで、でも温かみのある歌も、そういう男子の心理を見事に表現しています。

ichigo:本当ですか? 嬉しいです(笑)。

――今作は、今まで以上に歌のハッとする場所が多くなっていますね。

ichigo:全体を通して思いきって歌ったというのもあるんですけど、今回は偶然の産物だったり、これは失敗に近いなと自分が思う部分も、hayapiが「いい! カッコいい!」と言ったら全部活かすことにしたんです。そういう奇蹟みたいな瞬間がどの曲にもあって、それがハッとするという印象につながっている気がしますね。本来は自分の歌は自分でコントロールしたいところなんですが、今回はhayapiを信じる、hayapiの向こう側にいる岸田を信じると決めたんです。それに、そういうテイクを活かすことで、自分の歌について改めて感じたことがあったし、今回できるようになったこともいくつかあって。今回の制作でエンジニアの敏さん(渡辺敏広氏)が一番喜んでくれたことでもあったんですけど、静かな低いところの声に高い成分を混ぜて歌えるようになったんです。今までは偶然できたりしていたんですけど、意図して使えるようになったので、表現だったり、ダイナミクスの幅が広がった。その結果、私の声の音量を下げてもちゃんと抜けてくるからミックスが一層やりやすくなったと言われました。

――より進化されたんですね。それに、hayapiさんは自己犠牲に溢れているという言葉がありましたが、たしかに今作の彼のギターはより楽曲にフィットしたものになっていることが印象的です。

岸田:そう。hayapiさんはすごく尖っていて、我が道をいくタイプのギタリストというイメージを持っている人が多い気がするけど、実は楽曲に寄り添ったアプローチもめちゃくちゃ上手いんですよ。今回のアルバムは、hayapiさんならではのトリッキーな部分は継承しつつ、オシャレなフレーズとか。キャッチーなフレーズを弾いている曲もあるんですよね。それは、すごくいいなと思います。

――岸田さんのベースも今までとテイストが変わっていますね。以前ベースはボトムを支えていればいいとおっしゃっていましたが、今回は動きのあるベースが多くなっています。

岸田:がんばりました(笑)。さっきも話したように、今まではありとあらゆることを自分でやっていたんですけど、こいつは自分よりもうまいんじゃないかと思うことを積極的に振っていったというのがあって。僕は、本当にものを創ることだけに集中していたんですね。それで、いつも以上に曲作りをがんばれたし、ベースを考えるときも余裕があって、“まだいけるぞ”という感じだった。それで、今回はがんばれたんです。僕は、やればできる子なんです(笑)。ベースのフレーズに関しては、基本的に曲を作るときに併せて考えました。1音1音、他の楽器のコードワークとかを見ながら、ここはいっても大丈夫だろうというところを探していったんです。アレンジの方向として、ここはギターがそんなに厚くならないし、ドラムのリズムがこうで、メロディーがこうだから、メロディーに当たらない範囲でこう動こう…みたいな感じでした。

――緻密に構築されたんですね。それに、ハイ・ポジションにいったときのしなやかさや、ウネリ感なども絶妙です。

岸田:その辺りは、狙ってやっています。スライドのタイム感は気にしています、ちゃんと。僕はベースの弦を揺らすのが苦手なんですよ。スライドは元々得意なので、自分が得意なところを基盤にして、苦手なところはなるべくバレないように組み立てる。今回は、そういうテクニックが光るベースになっています(笑)。

ichigo:光ったね(笑)。

――とはいえ、タイトなドラムとしなやかなベースのコンビネーションは魅力的です。

岸田:今回のドラムは本当にタイトで、その結果サウンドに余裕ができたというのがあって。今までのみっちゃんは力いっぱい叩いていたので、1音1音が長かったんですよ。それが短くなることで、隙間が空くんですよね。そうなると、そこの隙間に別の情報を入れられる。今回は、そこを活かすアプローチが採れたんです。

――サウンド面でより洗練された印象を受けるのは、ドラムの音が短くなったことも要因になっているんですね。もうひとつ、今作ではカヨコさんが「Reboot:RAVEN」を書かれています。

岸田:カヨコさんはLiSAさんなど数多くのアーティストへ提供している作曲家であり、友達でもあります。今回外部の作曲家を起用して、しかもそれをタイトル・トラックに使うという勇敢さ(笑)。ただ、そこに深い意味があるわけではなくて、元々仲がいいので、今回のアルバムで1曲コライトしようという話になっていたんです。作曲はカヨコさんになっていますけど、実際の曲の土台は僕が先に全部作って、そこにメロディーをつけてもらったんです。

ichigo:そういう作り方だったけど、メロディーがカヨコさんなので、やっぱりいつもとはテイストが違っていますよね。でも、すごく歌いやすかったです。カヨコさんとは遊びでユニットを組んでいて、彼女が作ったメロディーを歌っているというのがあるし、彼女もシンガーソングライターなので、メロディーを歌いながら作っていると思うんですよ。だから、歌いやすいんですよね。それに、岸田のサウンドで女性らしいメロディーが乗っているというのが新鮮で、歌うのが楽しかったです。

岸田:僕も、“自分の曲に女性らしいメロディー”ということをやりたかったんです。それで作ってみたら予想以上に良くて、良かったのでタイトル・トラックにしちゃうという(笑)。良かったんだから仕方ない。

――タイトル・トラックが外部の作曲者ということで、結構大きな決断だったのかなと思いましたが、そうではないんですね。

岸田:純粋にいい曲だから、タイトル・トラックにしたんです。この曲は、間奏もいいんですよね。hayapiさんはトリッキーなギター・ソロを弾いているけど、ピアノの和音が合わさることで、メロディー感はピアノが受け持っていて、表現力はギターというふうにパキッと別れていて、僕は間奏もすごく気に入っています。

――「Reboot:RAVEN」に限らず、今作は“カッコいい!”と思うシーンが満載で、それも大きな魅力になっています。

岸田:僕がREBOOTするにあたって一番最初に思ったのが、情報量を増やすということだったんです。今までの自分達の楽曲の情報量が、自分が思っているレベルまで達していなかったから。僕は多い情報量を持っている音楽というのが好きで、時間単位でどれくらいのイベントが起こるかみたいなことをすごく計算している。それがちゃんと結果として残っていないことがすごく多くて、今回はちゃんと残したかったんです。そこにこだわって作っていくと、とんでもないことになるんですよ。曲は短くなるし、一瞬一瞬が込み入ったものになるので、いかに1音1音を短くするかが大事になる。音が短いことで、情報が入れ替わっても大丈夫になるから。それに、なるべく音が重ならないようにしました。分厚い音を作るんじゃなくて、楽器が切り替わったときに、裏の音がなくなるようにしたんです。楽器が増えるんじゃなくて、切り替わるようなイメージで、楽曲の頭から最後まで音楽のカラーレーションが変わり続けるという。今回は、そういう形になっています。

ichigo:そういう手法を採ることで、『REBOOT』はスッキリしたイメージだけど密度が濃いアルバムになったと思います。それに、私は『REBOOT』を完成させて、ツアーがすごく楽しみになりました。このアルバムでできるようになったことやわかるようになったことが沢山あるので、歌は変わると思うんです。ツアーでは今までの曲も当然やるだろうから、そこでの変化も楽しんでもらえるだろうし。それに、今回は今まで以上に歌詞を深く読み込むようにしたというのがあって。hayapiと歌詞について話している中で、そういうふうに考えるんだというメソッドをいろいろ教えてもらった感覚があったんです。私は芸術的な感覚で見るということが苦手だと思っていたけど、食わず嫌いだったんですよね。リズムに関しても、リズムを取ろうと思っていなかったから、できなかったんだなとわかったし。やってみたら、できたという(笑)。なので、今までの曲もあらためて歌詞を読み込んだり、リズムを理解しようと思っているんです。そういうところで、歌の聴こえが大分変わると思うんですよね。

――今後のライブも楽しみです。ichigoさんから話が出ましたが、『REBOOT』のリリースに合わせてライブハウス・ツアーを行うんですよね。

岸田:今度のツアーは、今までのライブとは違ったものになります。みんなが僕のためにリソースを空けてくれるので、考える時間がいっぱいあって、考えれば考えるほどできることは沢山あるし、しっかり物事を考えて創るならこうだというイメージもちゃんとある。今回のライブはツアーを通してのクオリティーの高さというか、顧客満足度をすごく上げたいんですよ。『REBOOT』というアルバムをちゃんと表現したくて、そのための覚悟を決めています。

取材・文●村上孝之
リリース情報

4th Album『REBOOT』
2018.12.05 on sale
<アーティスト盤>CD+特典BD
品番:1000735130 価格:5,000円+税
<通常盤>CD(1枚組)
品番:1000735131 価格:2,800円+税
<収録曲>
1.Decide the essence
2.our stream
3.Never say Never
4.Blood and Emotions
5.ストレイ
6.3 seconds rule
7.Reboot:RAVEN
8.Love prescribe
9.シリウス
10.キミノミカタ
11.stratus rain
12.Code :Thinker

ライブ・イベント情報

<岸田教団&THE明星ロケッツ REBOOT TOUR 2019 >
■弾幕祭/再起動 ~Re:boot and Carnival Bullet Time.
2019/2/28(木) CLUB CITTA'(川崎)
問い合わせ:DISK GARAGE 050-5533-0888 (平日12:00~19:00)
■大阪公演
2019/3/08(金) バナナホール
問い合わせ:夢番地(大阪)06-6341-3525 (平日11:00~19:00/土日祝 休)
■福岡公演
2019/3/10(日) DRUM Be-1
問い合わせ:キョードー西日本 0570-09-2424 (11:00~17:00/日祝 休)
■仙台公演
2019/3/17(日) LIVE HOUSE enn 2nd
問い合わせ:キョードー東北 022-217-7788 (平日11:00~18:00/土曜10:00-17:00)
■東京公演
2019/3/23(土) EX THEATER ROPPONGI
問い合わせ:DISK GARAGE 050-5533-0888 (平日12:00~19:00)

関連リンク

BARKS

BARKSは2001年から15年以上にわたり旬の音楽情報を届けてきた日本最大級の音楽情報サイトです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着